岡山県

西粟倉村

にしあわくらそん

西粟倉村で「生きるを楽しむ」ために。Nestの取り組みが、子どもたちをぐんぐん成長させ「生きる力」を育んでいる。

2020(令和2)年、西粟倉村で設立された『一般社団法人Nest(ネスト。以下Nest)』。
ローカルベンチャー事業の1つ、村役場内が“村の未来像”を探り、その実現のためにプロジェクト立案に取り組んだ「グランドデザインワーキング&テーマワーキング」から誕生した事業を運営していく組織として、設立されました。
村役場が、まるでローカルベンチャーのような動きをした象徴的な誕生だったのです。

そこから5年。主に小中学生を対象にしたNestの活動は、確実に地域へ定着しています。
2024(令和6)年には、Nestの拠点「Pocket(ポケット)」もできました。
どのような活動をして、どのようなシーンが生まれているのでしょうか。
代表の福岡要(ふくおか・かなめ)さん、スタッフの今井晴菜(いまい・はるな)さん、青木采里奈(あおき・さりな)さんに、お話をお聞きしました。

 

グランドデザインワーキング&テーマワーキング」とは

2017(平成29)年から4年間役場職員が“プロデューサー型公務員”への成長、「創発的自治体」を目指し実施されました。具体的には西粟倉村役場内で課を横断した「地方創生推進班」が組成され村の将来像を描く「グランドデザインワーキング」と、実践型の挑戦を促す「テーマワーキング」に取り組みました。「グランドデザインワーキング」では「生きるを楽しむ」というキャッチコピーが策定され、「テーマワーキング」では、職員自らが事業を企画し仮説検証を重ねながら挑戦を推進。その結果、15の事業が生まれ、そのうちNest誕生のきっかけとなる「あわくらみらいアカデミー」を含む4件が自主的に継続されるまでに至りました。

 

 

Nestが大事にしているのは「生きる力」を高めること

— 福岡さん、まず事業の内容について教えてください。

福岡:Nestは学校教育と社会教育の領域で、西粟倉村を学びのフィールドにいろいろな学習をプロデュースする“まなびのプロデューサー”として活動しています。高校のない西粟倉村において、生活の軸が大きく変わる「15の春(中学校卒業時)」に自立した「生きるを楽しむ」子どもたちに育ってもらうことを目的にしています。

大事にしているのは「生きる力」を高めることです。「生きる力」とは何かと言えば、自然に放り出されても身一つで生き抜ける「こえる力」と、社会の中で自分のやりたいことなどを考えつつ協調する「つながる力」の二つに分けられると考えています。これらの力を伸ばしてほしいなと思い、各事業に取り組んでいます。

具体的には村内の子どもを対象にした事業として、村内の小中学校の教育コーディネート、子どもたちが「やってみん!(=やってみなよ、やってみたい)」なことに挑戦し学んでいく「あわくらみらいアカデミー」、子どもの居場所や学習センターの機能をもつ「Pocket(ポケット)」での事業などがあります。「Pocket」はNestの拠点で、子どもたちがお小遣いを使えるBOOKS&CAFE「化猫堂」、実験や調理ができる「厨房棟」、川や山を遊びつくす道具などが完備された「武器庫」の3棟があります。

(Pocket)

村外の学習者を対象にした事業は、地域に暮らしながら学ぶ「さとのば大学」、視察や研修、修学旅行の受け入れなどです。また、村外の移住検討者を対象に、「教育移住の窓口」として相談の対応などをしています。

(福岡要さん)

— 教育コーディネートとは、具体的にどのようなことをしているのですか。

今井:教育委員会や学校の先生とは違う立場の「教育コーディネーター」として、授業のサポートなどをします。私と青木で小中学校に週3回入り、先生方と総合学習の組み立てをしています。村外から着任された先生に村の情報や前年度までの子どもたちの様子をお伝えしたり、授業の内容に合わせて地域の方に学校に来ていただいたり、フィールドワークを行っています。

(今井晴菜さん)

2024年度の総合学習の例として、子どもたちから「いちごの魅力を調べたい」という声が出て、村内でいちごを生産している『エーゼログループ』さんにお世話になって、1年間いろいろな作業をし、栽培のプロセスや魅力についてポスターにまとめ、いちごのハウス内に貼らせていただきました。新聞をつくって学校の中に掲示するのではなく、社会の中で発信することによって、自分たちがどういうふうに影響を与えることができたのか、子どもたち自身が知ることを大事にしています。

青木:私たちは先生ではないので、子どもには個人として認識されていると思います。私のあだ名は「ナポリタン」なんですが、ナポリタンという存在(笑)。「やりたいことを一緒にやってくれる人」だと認識してくれている子もいるようです。

(青木采里奈さん)

— 「あわくらみらいアカデミー」では、具体的にどのような挑戦が行われているのですか。

今井:対象は小中学生で、内容は3種類あります。一つ目は、『やってみんwonder』と呼んでいます。子どもたちの「やってみたい」の種をNestが拾い上げ、子どもたちの世界を広げるイベントを開催します。例えば、餅つきや寿司づくり、竹竿釣りなどを行ってきました。

二つ目が、『やってみんmission』。Nestから提供されたテーマをもとに自分で考え、手を動かします。これまでに、カフェをやったり、肝試しをしたりしました。年に3回ぐらい、そういう機会をつくれたらと考えています。

三つ目が、『やってみんproject』。持ち込み企画を随時受け付けており、自分の力で企画、実践することを伴走します。これまでに「馬で登校したい!」「料理人になりたい!」「ミュージカルをやってみたい!」「大学の先生と貝殻を拾いたい!」といった声の実現をお手伝いしました。

 

(ミュージカルをやってみたい!の公演の様子。引用:一般社団法人Nest)

(馬で登校したい!の登校の様子。引用:一般社団法人Nest)

(料理人になりたい!の提供の様子。引用:一般社団法人Nest)

 

村の未来像から生まれた「あわくらみらいアカデミー

— 学校でお互いに顔を知っているから、子どもたちは「あわくらみらいアカデミー」などで今井さんたちと話しやすいでしょうね。

福岡:学校教育と社会教育の両面に携わっているのは強みの一つだと思います。今井と青木は週に3回給食も一緒に食べていますし、基本的に小中学校の児童・生徒、約120名は顔も名前も分かる状態です。

— とてもユニークな組織ですよね。Nestという組織と、みなさんのそれぞれの経歴もお聞きしたいです。まずNestは、どのような経緯で始まったのですか。

福岡:2012(平成24)年、当時西粟倉小学校にいらした鳥越厳之(とりごえ・げんし)先生が中心になって、地域を知る総合的な学習プログラム「ふるさと元気学習」をスタートされたんです。とても盛り上がって、子どもたちにも好評だったそうですが、鳥越先生が退職された後、どのように持続するかという課題が残りました。議論のなかで、先ほどお話しした教育コーディネーターが必要ではないかという話が出て、始まったそうです。

2017(平成29)年から西粟倉村役場では、役場職員が所属課を超えて集まり、どんな村を目指すのか議論し、それを実現させる「地方創生推進班」が立ち上がり、「グランドデザインワーキング&テーマワーキング」に取り組みました。その結果、「生きるを楽しむ」というキャッチコピーや各プロジェクトが生まれたんです。そのプロジェクトの一つが「あわくらみらいアカデミー」です。

教育委員会が「教育コーディネーター」と「あわくらみらいアカデミー」を続けていく予定でしたが、委員会としての本業がありますし、職員の配置替えもあるので、専念できる団体をつくって経験を蓄積していくことになり、2020年4月、Nestが設立されました。

(あわくらみらいアカデミーの打ち合わせ風景)

— みなさんはそれぞれ、いつから着任したのですか。一番長いのは今井さんだそうですね。

今井:はい、2020年8月に着任しました。私は奈良県出身です。以前は奈良の公益社団法人で観光やまちづくりに関する仕事をしていましたが、観光は地域を経済的に潤すものの、「地域外」だけに目を向けていると「地域内」の人々の暮らしが置き去りになってしまうと感じていました。地域を活性化するという目標に対して、観光以外の方法で関われないかと考えていたときに、Nestの求人を見つけたんです。地域×教育で地域への誇りをもとに活性化することができるのではないかと感じ、移住しました。

(引用:一般社団法人Nest)

福岡:2021(令和3)年4月に着任しました。埼玉県出身です。大学院終了後のファーストキャリアは、山形県遊佐町での地域おこし協力隊です。主に情報発信を担いながら、「将来の情報発信員を育てる」意味も考えて小学校から高校までの総合学習にも入っていました。活動するなかで、「地域で教育することこそが、実は地域おこしの根本なのではないか」と教育を軸に地域おこしに携わりたいと考えました。そこで地域×教育の先進地である沖縄県の離島・久米島に行き、中学校の学習支援員として地域教育に関わりました。その後、「素敵な図書館」「熱意ある行政職員」「やってみん!の精神」に惹かれて西粟倉村へやって来ました。

(引用:一般社団法人Nest)

青木:2022(令和4)年3月に着任しました。宮城県出身です。小学生の頃、国際教育系のNPOのプログラムに参加し、貧困や紛争、経済格差といった社会問題に関心を持ちました。大学生になると運営側としてプログラムを提供する側になったのですが、「もっと日本の教育現場で働きたい」と考えるようになりました。学校教育と社会教育の両方に関わることのできるNestに魅力を感じて、福岡の「関心を大事にする」という言葉にも惹かれ、西粟倉村に移住しました。

(引用:一般社団法人Nest)

 

子どもたちが「自分にはこれがある」と思えるように

— 西粟倉村の子どもたちは保育園から中学校まで、同級生がほぼ同じメンバーで過ごすそうですね。村の子どもたちの良さについてはどんなふうに感じていますか。

福岡:無邪気ですね。疑ったり、ひねくれたりせず素直で純真な子が多いと感じています。開放的で、子どもの年齢に応じた成長をしていると感じます。

今井:地域の方たちが見守ってくれていることもあって、子どもたちが安心して生活しているんだろうなと感じます。見守るだけではなく、イベントなどを通じていろいろな大人が子どもたちの世界を広げてくれる点は、他の地域ではあまりないかもしれません。勉強したいと思う子は勉強を選択できるし、興味がない子は別のほうに進むことができます。小さい村ですけど、子どもたちにとって選択肢がたくさんあるんです。「自分はこうしたい」という思いが育ちやすいんじゃないかなと思います。

(引用:一般社団法人Nest)

福岡:同級生と家族や親戚のような関係性になりやすく、地域の人からも近い距離で見守られるなどの利点の一方で、少人数ゆえの課題もあると感じています。
「個」でいることがむずかしく、「群れ」になりがちなんです。自分の感覚や意見よりも周囲と同じであることを優先してしまう。また、人はいろいろな面を持ち合わせていて年齢と共にキャラクターが変わりうると思いますが、少人数だとキャラクターが固定されやすいです。

今井:周りの子に合わせるところはあるなと私も感じています。そういう状態でみんなが別々の高校に進学したときにどうなるのかは、気になっています。そんな中でも「私はこれが好き」と思えることがあれば、それを楽しめる力があるはずで、きっとやりたいことをやれる人になれると思うんです。
だから今こういう活動を通して、子どもたちが一つでも「これが好きだな」とか「これは苦手だ」と見つけるお手伝いができたら、と。高校生や大学生になったとき「自分にはこれがある」と言える、思えるようになったらいいんじゃないかなと思います。

(引用:一般社団法人Nest)

— 今後については、どのような思いをもっていますか。

福岡:ありがたいことに、西粟倉村に来たときに「ここまで環境をつくれたらいいな、やりたいな」と思ったことはできてきていると思います。今後何ができるといいんだろうと考えると……。

実は「Pocket」の正式名称は「学育フィロソフィー“センター”」なんですよ。Nestが指定管理を受け「Pocket」という愛称になっています。「教育」ではなく「学育」であり、「センター」がついています。学びは一生ものです。つまり、「Pocket」には「子どものためだけの場ではなく、村の人たちが学びをつくる場」という願いが込められているので、そういうセンター機能として使えたらいいなと考えています。個人的には、多様な世代が集まり、学びあう環境になり、特に保護者の方が日々の子育ての悩みなども相談できる場になったら嬉しいですね。

今井:関わる子どもたちがもっと増えたら嬉しいです。例えば、興味があることはないし疲れ気味の子が、地域のおじいちゃんおばあちゃんと畑作業をしてみたら意外と楽しかったなど、ゼロからプラスになるような機会をつくれたら、今Nestとあまり深くは関わっていない子どもとも関わるきっかけになるのではないかなと考えています。人の成長ってやっぱりすごいなと感じていて、そこに関われる仕事ってすごいことだと思います。

(引用:一般社団法人Nest)

青木:この間、今井とフィンランドへ視察研修に行ってきたんです。視察して、西粟倉村は学校教育と社会教育で学びがつながりあう場所、瞬間があることが大きな特徴だと思いました。さらに、そこで子どもたちがどういう関わり方をするか、子どもたちが選択できることは村の強みだと改めて気づきました。学校教育と社会教育の垣根のようなものをもっとなくしていけたらいいなと思っています。

(フィンランドへの視察研修の様子)

— 当面は三人で活動する予定なのですか。

福岡:今井と青木は学校にも入っていて、あとは代表の私が拠点の活動もフォローしている状況なので、拠点での活動が手薄になりがちなんです。スタッフがもう少しいると子どもたちの活動の伴走も手厚くできますし、例えば地域食堂の活動で、保護者の方が落ち着いてご飯を食べられるのではないかと。希望としてはフルタイムスタッフがもう一人いれば心強いですね。

 

— 興味がある方はぜひNestさんへご連絡をお願いします。今日はありがとうございました。

 


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特集一覧

プロローグ

vol.1 「西粟倉ローカルベンチャースクール」をきっかけに生まれた「株式会社百森」。主要メンバーは今も、森林を愛する仲間。

vol.2 「保育家具を手がける林業会社だからこそ、保育施設をつくりたい」。挑戦した「木の里工房 木薫」が困難を乗り越えてたどりついた、あたたかい保育園。

vol.3  西粟倉村で「生きるを楽しむ」ために。Nestの取り組みが、子どもたちをぐんぐん成長させ「生きる力」を育んでいる。

vol.4 こうしてチャレンジは引き継がれた。西粟倉村の人気ゲストハウス「あわくら温泉 元湯」を託した人と引き継いだ人が、今だからこそ語り合います。

 

参考記事: