岡山県

西粟倉

にしあわくら

川面に顔をつけたとき、ぼくの世界は輝いた。 西粟倉村の村長が話す、 川が育てる、生きるを楽しむ力

もしも昔ながらの自然が戻ってきたら、今の私たちにとって、どんな体験が待っていると思いますか?

岡山県にある人口約1500人の西粟倉村は、50年後の森をつくる「百年の森林構想」をはじめ、自然の豊かさを後世に残すさまざまな活動を立ち上げてきました。

そんな西粟倉村が、2018年6月に、ふるさと納税型クラウドファンディング「Makuakeガバメント」で支援者の募集を開始するのが、川を再生するプロジェクトです。このプロジェクトは、西粟倉村に流れる川を、川魚のような生き物があふれる美しい川にしていくことを目指します。

では、西粟倉の川が、もっと美しい川になっていった場合、どんな魅力があふれてくるのでしょうか。

子どもの頃から西粟倉の自然に触れてきた、青木秀樹村長に話してもらいました。

 

川の中を覗いたら、そこには別世界があった

ぼくの時代には、幼稚園っていうのがなかったんですね。でも、小学生になる前に、川デビューを果たすわけです。小川で、まずは水にひたります。すると、「冷たい!」ってびっくりします。次に興味を持つのは、一体、川ってどうなっているんだろうということ。箱水鏡で覗けば、「あ! 川底ってこうなっているんだ!」って気づくんです。

小っちゃい生き物がいて、たくさん関心が沸いてきます。

「動くやつがおる! 魚がおる!」
「ここは、地上の空気があるところとは、別世界や!」

あの頃って、西粟倉村にも子どもがたくさんいました。下は小学校入学前の子から上は中学生の子まで、数珠つなぎになって一緒に遊んでいましてね。上の子は川のことをよく知っていて、連れて行ってくれました。そうして小川から大川に出ていきます。そのときに受けた鮮烈なイメージっていうのは、今でも覚えているんですよ。

水中メガネをかけてね。川に潜ってみると、そこにはものすごい世界がありました。でっかい魚に小っちゃい魚、川を上っていく群れ、下っていく群れ、それから岩にくっついている魚達もいました。

川デビューの頃に入る浅瀬には、小っちゃい魚しかいないし、魚種も少ないんです。深い淵に行けば、魚がでっかくなり、いろんな種類も見つかります。その深い淵っていうのは、木が生い茂っている河畔林(かはんりん)のそばにありました。そこは暗くて深い、神秘的なイメージがある場所でした。

そうして、川の神秘性に惹かれていきながら、川をずっと進んでいくと、もっと面白くなるんですね。ぼくらは“野亭(やてい)”って呼んでいましたけど、魚の住処があります。「この流れなら、この石の下にいる魚はでかい」ってわかっていくんです。見つけた魚は突いて持って帰るんだけど、また次に行くと同じやつがいます。それを繰り返すうちに、「そろそろ、あそこにあれが来ている頃だ」って気づいていくんですね。

小川で、ぴゅーんと生えた草を切って、穂先をとって、細い部分にミミズをくくったら石の間にそぉ~っと差し込みます。そうしたら、大概小魚がいて、こんな方法でも簡単に釣れるんです。でも、上級者にならないと釣れない魚もいます。たとえば、アマゴやヤマメ。それらはミミズよりも、その場所にいる川虫を餌にすると釣れるとか、だんだんと成長に応じて、自分が対象にする魚も高度になっていくわけです。

小川の石垣の穴に、うなぎがいたりもしました。川に行ったら、誰が一番魚をとれるのか競うわけです。「あいつは、やっぱりうまい!」。そんなふうに闘志を燃やしながら。夏にはすごいイベントがありましたよ。夕方、川に行って、ドジョウを捕まえたら、餌にして、大川に移ります。うなぎ針にドジョウをつけたら穴に忍ばせて、翌朝、ラジオ体操の前に引き上げに行けるんです。それが、すごいドキドキしました。「おるかなぁ?」って、もうすごい楽しいし、魅力的でした。

そうしていると、川に1回行くたびに20匹ほどもとれるようになります。でも、必ずとれることで逆にだんだん悲しくなっていったんですね。魚が少なくなっているんだと気づいたら、殺生するのが可哀想になっていきました。そういう感情も、川を通じて芽生えていたんですね。

 

50年かけてつくりたい、川と森の織りなす美しい生態系

ぼくにとって生態の神秘性や命の大切さを教えてくれた川には、今も綺麗な水が流れています。ただ、魚の数や種類は大幅に減ってしまいました。西粟倉村には、川の源流があるので、川の生き物が減ってきた理由は、他所からの影響ではないんですね。そういう意味で、この西粟倉村で起こってきた変化をよく研究し、理解することで、同じように自然豊かな川に豊かな生態系を復活させたい地域にとっても、参考になる取り組みができるはずです。

では、西粟倉村にはどんな変化が生まれていたのか。2018年時点で、西粟倉村には、村の面積のうち80%以上をスギやヒノキといった人工林が占めています。ぼくは、この変化が川の変化にも関係しているような気がしています。人工林が徐々に増えていく様子と重なって、川の生き物にも変化が生まれてきたように感じてきました。

西粟倉村は、昭和30年代から植林しはじめました。とはいえ、最初の10年くらいは伐採後の土地を整地する地拵え作業をしても天然林の根っこが土の中に残っていたはず。スギやヒノキが大きくなって枝を伸ばして、土壌が変わっていくまでには20年くらいかかると思います。その間水質が変化するまでには少し余裕がありました。それから先は、時間の経過と共に川の生き物の数や種類は次第に減っていきました。

とはいえ、林業に取り組んできたことが悪いわけではないんです。西粟倉村には、貧しい時代がありました。あの頃は、とにかく山に木さえ植えれば、将来それが大きな価値を生むと思われた時代でした。だからと言って、木を育てるのには長い年月がかかります。西粟倉村の山主さんたちは、みんな自分自身のために植えていたのではなく、子や孫のために資産としての価値の高い森林を残したい気持ちで、一生懸命に植林をしていたんですね。

そのような背景も踏まえて、西粟倉村では2008年から、「百年の森林構想」に取り組んでいます。これは美しい森をつくることを目指すプロジェクトです。「美しい」というのは、生態系の美しさであり、森林の持つ多面的な機能をしっかりと果たせるということなんですね。

そこで、子孫のために植えてきた人工林を優れた経済林として育てる一方で、天然林に戻すべきエリアをつくることも出来たらと思います。

たとえば、川べり。天然林が生えていると、落葉して、葉っぱが腐食すると、プランクトンが発生します。卵から孵化した魚って、針の先みたいに細いから、虫ではなくプランクトンのような小さな微生物を食べるんです。そうして、だんだんと川虫を食べられるような大きな魚に成長して行きます。

こう話すと簡単そうに聞こえますが、美しい川に戻していくには実際には50年、もしくはそれ以上の時間がかかるんだろうなと思います。だから、なるべく早く、この取り組みをはじめて、西粟倉村に美しい川が流れるような未来を目指していきたいですよね。

 

子どもたちが自分の力で生きることについて考えられるように、これから西粟倉にさまざまな動植物であふれる川をつくっていきたい

ぼくが、なぜそんなことを思っているのかというと、いろんなことを川から学びながら育ってきたからです。自然の営みというか、魚には魚の生態があります。習性もあります。そこで、なぜ習性があるのかと気が付くようになってほしいんです。

たとえば、ウグイとヤマメはいつもいる場所が違うことや、なぜそこにいるのかっていうことなど、気づくことができるポイントはたくさんあります。

今の西粟倉村は小さい地域でしょう。一学年に十数名しか子どもがいません。以前にもいろんな考えを聞きました。たとえば、「学校が小さくなった時は統合したほうがいいんじゃないか」とか、「このままでは、子どもに競争心が育たない」とか。

でも、大きいとか、小さいとかは、関係ないと思うんです。もともと人間っていうのは、自然の中に生かされています。自然を乗り越えたことなんて一度もありません。だから、甘く見ていると、とんでもない被害に遭います。自然の力の前でその力に及ばぬことを悟るのは、生き物の特徴なんです。少し、話を飛躍しすぎてしまうかもしれませんが、そういう自然界の摂理を学ぶから、子どもは自分で自分の生き方を考えていけるようにもなっていくんだと、ぼくは思っています。

ぼく自身も川からいろんなことを歓びや驚きをもって学びました。たとえば、アユは香魚と呼ばれていて、匂いがするんです。だから、アユを引き舟という移動用の生簀に入れて水中を移動しているだけで、オオサンショウウオのような匂いに敏感な魚がそこに寄ってきます。あとは、ウナギ釣りには表面のつるんとした魚がいいとか。コメドジョウ、ムギドジョウ、アマガエルでもよく釣れる。「一番はドジョウやな!」なんてことを考えながら釣る、そういう体験を西粟倉村でもう一回できるようになったら、すごいだろうなと思います。ぼくも、またそんな体験がしたいなぁ。

意外とね、小さい川の小さい溝にも魚っているんですよ。そういうところにしか、住んでいない魚だっています。湧き水のそばでしか、見かけない魚もいますし。そういう魚の在り方をはじめ、いろんなことを学びながら大きくなってきました。川にはいろんな風情があって、たまりがあったり、瀬があったり、深みがあったりします。それを見ていると、川の風景に「美味しい!」って感じるようなときもありました。そういうことが面白かったんです。そういう体験を西粟倉村の子育てにも取り入れたいし、そういう体験をして子どもが育っていくようにしたいなって、思うんですね。

魚の川ガキもいない、そんな川はいやだ!西粟倉村が川の再生モデルになってみせる!
Makuakeガバメント(自治体向けふるさと納税型クラウドファンディング)
https://www.makuake.com/project/nishiawakura/

岡山県西粟倉村ホームページ
http://www.vill.nishiawakura.okayama.jp/