鹿児島県

錦江町

きんこうちょう

「人こそがこのまちの最大の魅力。鹿児島・錦江町での事業がおもしろい」。そう語る若手の二人の、移住・起業の物語。

2023年冬に「ローカルベンチャースクール」が始まる鹿児島県・錦江町には移住を経て起業した、若きローカルベンチャーがすでにいます。 

『株式会社燈(あかり)』の代表取締役などの顔を持ち、ゲストハウス『よろっで』やシェアハウスを運営し、移住者のキーパーソンになっている山中陽(あきら)さんと、草木染め作家で『Natural dye tuzu.』を運営し、染めものの活動が注目されている吉屋和鼓(よしやつづみ)さんです。 

お二人に、移住や起業の経緯、感じているまちの魅力などについてお聞きしました。

 

錦江町の人たちがフレンドリーで、歓迎して受け入れてくれた

— まずは錦江町に移住するまでの経歴について、それぞれ教えてください。

山中:福岡県遠賀郡遠賀町の出身で、高校卒業までを福岡で過ごし、大阪の教育系の大学に進学しました。大学卒業後、大阪で小学校教師として2年間働いたのですが、学校の外に出てみたいなと思って通信系の民間企業に転職し、2年間働きました。

会社員として働いてみて、「会社員ってこういう感じなんだ」と思ったんです。会社の方針があるので、自分がやりたいことを100%できるわけではない。そこから「やりたいことを仕事にしたい」と起業に興味を持ちました。24、25歳ぐらいのときです。

そう思いつつも、事業内容にこだわりはありませんでした。起業し、事業をつくって動いてみて、どういう感覚でどういう生活になるのかを経験した上で、自分が将来何をやって生きていきたいのか、探したかったんです。やってみた上で、自分にとって一番いい選択をしてみたいと思いました。

そんなときに高校の同級生と大阪で飲む機会があって、その話をしたんです。彼は東日本大震災が起きた後、大学を休学して東北へボランティアに行き、人が滞在できる宿や拠点がないという課題と、地域の空き家が多い課題を掛け合わせて、滞在施設をつくって起業していました。

山中:彼がたまたま錦江町で空き家活用のアドバイザーをしていて、「一度遊びにおいで」と誘ってくれたので、2019年1月、錦江町の空き家活用のワークショップに1泊2日で参加しました。九州出身ではありますが、それまで錦江町の名前を聞いたことは全くなく、鹿児島に遊びに来たことすらありませんでした。 

錦江町の人たちがとてもフレンドリーで、歓迎して受け入れてくださって、それがすごく印象的でしたね。いい意味でよそ者扱いはせずに、自分に興味をもってくれました。また、ワークショップでは地元の子どもから大人まで、多くの人がまちの未来について楽しそうに語り合っていました。これも刺激的で、「錦江町の人たちと一緒に活動してみたい」と思い、2週間後には錦江町への移住を決め、地域おこし協力隊として2019年4月に着任しました。

吉屋:私は錦江町の隣にある鹿児島県鹿屋市(かのやし)出身です。中学生の頃からものをつくるのが好きで、服飾を学べる高校に進学し、専門学校にも行きました。そのままファッションデザイナーになる道を選ぶこともできたんですが、販売のほうも勉強したいなと思い、都内でアパレルショップの販売員になって7年ほど勤めました。そのうち2年は店長をしていたんです。

でも、コロナ禍で2ヶ月間も自分が所属しているテナントが休業になりました。そのとき「私は自分以外の人でもできる仕事をやっているんだな。自分にしかできない仕事をしたい」と痛感したんです。

もともとはファッションデザイナーを目指していたので、「今がチャンスだ。行動してみよう!」と思いました。草木染めに興味があり、泥染めで知られる奄美大島に行こうと思ったのですが、残念ながらコロナ禍で島に入れない状況で、「まず東京から出よう」と。ネットで調べていて、地域おこし協力隊という仕組みを知りました。

吉屋:東京・有楽町にある『ふるさと回帰支援センター』に行って話を聞いてみたら、鹿児島県内のいろいろな自治体の地域おこし協力隊の募集情報を見せてくださったんです。そのとき見つけたのが、錦江町の地域おこし協力隊の募集の情報でした。錦江町は、昔から家族と遊びに行っていたところで。上京してからも、帰省時に神川ビーチに行ったりしていたので「ああ、あの辺ね!」という感じだったんです。

開聞岳を望む神川ビーチ。手作りの影絵アートが設置されている

吉屋:SNSの情報発信や介護など、複数の地域おこし協力隊の募集があったんですが、そのなかの一つだった空き家利活用という役割に「いいかも」とピンときました。というのも、「いつか草木染めのお店を開きたい」と思っていたので、「じゃあ、空き家を改装してお店を開こうかな」と考えてエントリーし、移住と同時に2021年4月から地域おこし協力隊になりました。

 

小さなまちだけど若者がいっぱいいる。自分も中に入りたい

— それぞれ移住して錦江町に暮らすなかで、まちの魅力は何だと感じていますか?

山中:一番の魅力はやっぱり人だなと、今も思います。これだけ受け入れてくれて、応援してくれるまちって、なかなか出会えないと思うので。自分が住みたいなと思ったきっかけも、人でした。

あとは、海もいいですね。都会に住んでいたので、近くにきれいな海があるだけで、いいなと。仕事の合間に釣りに行くこともありますよ。釣れたての新鮮なイカをその場で食べたり。昨日も佐多まで行ってアナゴを釣っていました。食べものもおいしいです。

吉屋:全く同じで、魅力は人だなと思いますね。あと、まちの規模感も私は好きです。人口は6500人ぐらいの小さなまちなんですけど、この規模だからこそ人と人の距離が近いんです。自分が困っているときにいろんな人が動いてくださったりして、助けていただいています。

実際に移住しても地域になじめずに帰るパターンってあると思うんですけど、それって、同世代など気心の知れた人との安らぐ場所が見つけられないことが原因になるのかなと思っていて。私が錦江町への移住を決められたのは、いろいろ調べているときに錦江町青年団のインスタを見つけたことが大きいんです。

吉屋:青年団は、移住者が中心になっている若い人たちのチームで、コロナ禍でもみんなが少しでも楽しめるようにと、ナイトプールやドライブインシアターなどのイベントを企画・運営していました。それを見て「小さなまちだけど、こんなに若者がいっぱいいるんだ。若者が地域のために動けるなんて、自分も中に入りたいな」と思いました。今も、若い人の移住は増えているように感じます。

— どのように起業したのでしょうか。

山中:2019年4月に着任して、同年の12月には一つ目の会社を設立したんです。もともと錦江町のほうでゲストハウスを開くことは決まっていて、運営する組織が決まっていない状態だったので、地域の人たちと一緒にゲストハウスを運営していく会社『燈』をつくりました。地域の人たちや地域おこし協力隊、外部のアドバイザーに声をかけて、31人の株主、7人の取締役、大家さんが監査役に入っている会社です。まちの第1号のゲストハウス『よろっで』が2020年6月にオープンしました。

様々な人が集まるまちの拠点にもなっている「よろっで」

山中:地域おこし協力隊の任期は3年ですが、任期が終わってからいきなり起業して、収入を得て生きていくのは怖いなとも思ったので、協力隊のうちに起業しました。たとえ会社のほうが赤字になっても、生きていけますから。

地域おこし協力隊としての役割は空き家利活用チャレンジャーといって、空き家の課題解決がミッションだったんですが、ゲストハウスとして借りた家の敷地内に、もう一つ家があったんです。そこでシェアハウスを始め、空き家を使ったビジネスを増やしていきました。

移住してきたときは、自分が最年少かそれに近い存在でした。地域おこし協力隊は今でこそOBと現役をあわせて16人ほどいますが、当時は数人だけでしたし、移住者も全然いなかったんです。ゲストハウスやシェアハウスを始めて、新しい人との出会いの機会が増えるようになってきたら、さらにおもしろくなりましたね。

吉屋:私も、地域おこし協力隊の空き家利活用チャレンジャーという枠で入りました。最初は『よろっで』で、町民さんとの交流を含めた学びとして、週に3回ほど働かせてもらっていました。一方で草木染めも独学で始め、少しずつ染めものをしていました。ネットや本を見て実践したり、その辺の植物を採ってきて煮て染めてみたり、『よろっで』で人から植物をいただいたりして。 

面接のとき、「草木染めをしたくて、最終的には空き家を使った草木染めのお店をつくりたいです」と伝えていたんです。それを現・町長で当時は政策課長だった新田さんたちが覚えていてくださって、所属してから、「そういえば、やらないの?」って言われて、「やっていいの?」と(笑)。今のように自由にさせてもらえるとは当初は思っていなかったです。

どこでやろうかなと考えていたら、旧・神川中学校という廃校をサテライトオフィスにした『地域活性化センター神川』の元・家庭科室が空いていて「使っていいよ」と言っていただき、工房にし、『Natural dye tuzu.』を始めました。徐々に道具を増やし、1年目の12月頃に『よろっで』を卒業して、本格的に草木染めの活動をさせていただいています。

吉屋さんによる、桜の枝染め。とてもきれいな桜色に染まる

人付き合いが好きな人が錦江町に向いている

— 仕事として、今手掛けていることは何ですか?

山中:自分だけがやりたいことができる、小回りの利く会社もあれば動きやすいなと思ったので、2021年に二つ目の会社をつくり、今はその会社で使われてない公園のツリーハウスづくりや遊具設置の事業などもしています。

子どもたちと一緒に公園でツリーハウスをつくるプロジェクトを実施

山中:また、二つの会社の他に、『特定地域づくり事業協同組合』の職員として、正社員を募集して地元事業者に派遣する人材派遣事業も始めました。ゲストハウスは人と人をつなげる場になっていますし、いろいろな人と出会えるのは自分も好きなので、出会いがさらに仕事にもつながったらいいなと。

そんなふうに、動いてみて、経験やスキルがだんだん増え、仕事も増えていっています。やったこともないことばかりやってきました。できるかどうか分からなくても「つくります」って言って実践する。「やります」と言ってから、「どうしよう」と考えるタイプです。ときには「やばい、つくらないとやばい」と思いながら(笑)。でも、それがおもしろいんです。

吉屋:今はバッグなどの小物やオーダー制のドレスをつくったり、古着を染めて洋服に仕立てたりしています。ネット販売の他、町内外のイベントに出店することもあります。

マルシェイベントへの出店の様子

吉屋:2023年度中に、町内にある空き家の一軒家を借りることになりました。限界集落、15世帯しかいない山の中です(笑)。そこを工房兼住居にし、町内外の方がゆっくりできるような場所をつくりたいです。

また、自分のブランドの価値を高めていきたいですね。メインでやっていきたいのは、オーダーのお仕事や、古い着物の裏地を染めて新しく生まれ変わらせる活動です。錦江町だからこそできる染めものの活動だと思うので。高齢者が多い地域ですし、空き家もどんどん出てきて、家財整理で着物系がたくさん出てきています。たくさんあって困っているという方もいらっしゃるんです。地域の人が困っていることを解決できて、さらに地域の植物で染められるのは、ここならではの活動だと思っています。

— 最後に、錦江町にどんな人が向いていると思いますか? 求めている人材などがあれば、そちらも教えてください。

山中:フットワークが軽い人、人付き合いが好きな人、お酒が好きな人(笑)。人が好きなことは大事じゃないですかね、まちの人は興味を持って話しかけてくれると思うので。まちの人たちと自然としゃべれる人や、交流する場に顔を出すのが苦じゃない人が向いているんじゃないですかね。

吉屋:同意見です(笑)。人が好き、話すのが好き、人に興味がある、とか。町長が掲げているのが「人を育てる」で、人が魅力だと錦江町自体が気づいているのは大きいと思うので、そういう場所に住みたいと思ってくれる人がいいのかな。

山中:個人的には、ゲストハウスの運営をやってくれる人を求めています。ゲストハウスが好きで、やりたい大学生や20代の方がいれば、ぜひ。

吉屋:私は切実に、縫子さんが欲しいです(笑)。今は自分で全部やっているのですが、これからは地域のおばあさんたちに「一緒につくりましょう」って声をかけていきたいと思っています。

— ご活動、応援しています。ありがとうございました。

錦江町ローカルベンチャースクール2023 公式サイト
※延長しました!
【エントリー・書類提出締切:
2023年12月30日(土)

<追加開催決定!オンライン説明会 日程>
12月13日(水)19:30〜21:00
12月16日(土)10:00〜11:30
12月18日(月)19:30〜21:00
12月26日(火)19:30〜21:00
※ご都合が合わない場合は個別対応も可能です。下記のお申し込みフォームで「個別説明会を希望」をお選びください。
オンライン説明会 お申し込みフォーム

※プログラムに関するご質問・個別相談・現地視察等のお問い合わせは事務局までお気軽にお問い合わせください。
【お問い合わせ先:lv-kinko@a-zero.co.jp(錦江町ローカルベンチャースクール2023運営事務局)】

山中 陽 さん
ゲストハウスよろっで ホームページ
ゲストハウスよろっで Instagram
note

吉屋 和鼓 さん
Natural dye tuzu. ホームページ
Instagram