岡山県
西粟倉
にしあわくら
おじいちゃんおばあちゃんたちが生き生きと働ける仕事って何?西粟倉村に入ったインターン生が見つけた、ビジネスの種と高齢者の笑顔。
Date : 2022.10.14
村の中にある願いを集め、外部のプロデューサーやプロボノ・インターンなど、地域内外の人たちと協働してビジネスへと育てていく「TAKIBIプログラム」。
2021年11月に行われた、TAKIBIプログラムにおける村の願いからビジネスアイデアを生みだすワークショップで、村の高齢者の活躍を目指す「じーばーレストラン(仮称)」というビジネスアイデアが生まれました。
2022年度は村外のプロデューサーやプロボノ、インターン生と協働して村の高齢者へのヒアリングや事例調査を通じ、具体的な事業の可能性の整理を進めています。
インターン生として村を訪れたのは、6月中旬から2ヶ月半インターン生として参加した堀内希沙乃(ほりうち・きさの)さん、田中愛咲(たなか・あみさ)さんです。二人は村内の高齢者50名以上(村内に在住している65歳以上の高齢者数:527名(2021年時点))へのヒアリングを行い、事業の可能性を模索してきました。
インターンを終える二人に、事業が生み出されるプロセスに参加する醍醐味についてお聞きしました。
「TAKIBIプログラム」への関わり方の一つの事例として紹介します。
地域の高齢者と親しくなり、好きなことをヒアリング
— まずは自己紹介と、インターンに参加した理由を教えてください。
堀内:堀内希沙乃です。埼玉県出身・在住です。東京都立大学の4年生で、社会福祉学を学んでいます。私は高齢者の社会的孤立や、ビジネスで社会課題を解決する取り組みに関心があり、卒業後の進路として社会福祉協議会を考えています。
3年生のときに社会福祉協議会で地域の活動に参加し、そうした活動には出てこない高齢者の方がいらっしゃると知りました。福祉のお世話になりたくない方がいるのかもしれない、と。高齢者の方が働く場所をつくれば出てきてくださる方が多くなるのではと思い、このプロジェクトに参加しました。就活のワンデイインターンは経験がありましたが、プロジェクト型で住み込みというインターンは初めてです。
田中:田中愛咲です。長野県出身、埼玉県在住です。東京福祉大学の3年生で教育学の勉強をしています。私の地元は小川村というところで、じいちゃんとばあちゃんがつくった野菜を食べて育ちました。小川村が大好きで、将来は村にサードプレイスをつくれないかと考えています。
春休みに村へ帰ったときにばあちゃんの友達が一人でいつもご飯を食べていると聞き、お弁当を配って一緒に食べる活動がしたいと思いましたが、自分のエゴなのでは…と感じ、その思いは砕けました。そんなときにインターン生の募集を見かけて、「ばあちゃん食堂」などを経営する『うきはの宝株式会社』の代表取締役・大熊充さんがこのプロジェクトに関わっていると知り、事業を立ち上げることや、「生きるを楽しむ」を掲げる西粟倉村の実際の暮らしにも関心があって参加しました。私はNPOでのインターン経験はありました。
— プロジェクトのメンバーには事業プロデューサーの大熊さんやプロボノなどがいらして、インターン生として二人が参加したと聞いています。具体的には何をしたのでしょうか。
堀内:まず高齢者の方の集まりや場所などの情報はいただいて、集まりや施設に許可をとってから二人でそこに足を運びました。地域のおじいちゃんおばあちゃんに直接お会いして、関わりのなかで好きなことや得意なことをヒアリングしました。
田中:本当に聞き出したいことを初対面でいきなり聞くことはできないので、まずは自己紹介をして関係をつくろうとしました。お話を聞いてはまとめ、聞いてはまとめを繰り返して、二人で合計50人以上のお話を聞きました。
堀内:最初は、当然ですが「何しに来てるの?」と聞かれましたね。でもそれをだんだん聞かれなくなって、「あなた今日休み?家に来れる?」とお誘いいただくようになりました。
田中:「うちにきていいよ」と言われて和菓子づくりや裁縫などを一緒にやったり、グランドゴルフに誘われたりするようになりました。関わるのは70代から80代のおばあちゃんたちが多く、私たちはちょうどお孫さんと同世代だったようです。
堀内:一緒におまんじゅうづくりをしたり、ふだんつくっている縫い物を見せてもらって「思い出に持って帰って」と言われたり、おばあちゃんたちのお茶会に呼んでもらってお茶を飲んだりしたことが印象深いです。
田中:形になるかがわからないため、プロジェクトの詳細までは話せなかったので、もどかしかったのですが、それがあったからこそ事業のためというスタンスは忘れ、「自分が村のことを知りたい、もっと仲良くなりたい」と切り替えることができました。
心から生きることを楽しんでいる、高齢者の姿
— 仲良くなっていくなかで発見がありましたか?
田中:初めて高齢者が集まるサロンにいったとき、ご年齢を聞いてびっくりして。とってもお元気なのに80代、90代なの!? って。でも、ご自宅に行ったらその秘訣が少しわかったような気がしました。野菜を育てていて「これは血液さらさらになるからスライスしてサラダに」とか調理法もよくご存知なんです。
田中:また、一緒にパンケーキを食べていたら「これは幸せじゃな」って(笑)。本当にそうだなと感じました。そうやって心から生きることを楽しんでいるからか、腰もしゃきっとしているし。「忙しい」とおっしゃっているのは、畑作業も料理も裁縫など、いろいろやっていらっしゃるからなんだと地域に入って分かりました。
堀内:今回接することができた方たちは自分で楽しみを見つけられていました。今回のプロジェクトでは「高齢者の方たちは働くことでより生き生きできるのでは」という仮説がありましたが、働かなくても生き生きしていらっしゃるので、どう進めていこうか、事業案をどう考えようか悩みました。
田中:「おばあちゃん、何を言っていたかな」という視点や価値観を大切にしながら、二人でおじいちゃんおばあちゃんたちの得意なことを整理して、考えていきました。8月に、村で見聞きしたものを二人で一緒に一旦出し合い、楽しめそうなことを見つけ、「これができそう」とマップに書いて案を出し、考えました。
堀内:お客さんのニーズというより、働く側のおじいちゃんおばあちゃんたちの思いを考えました。それと、工場が昔あったからその仕事について得意な人がいるとか、村の歴史も視野に入れました。
— 2022年8月にプロジェクトの中で収益性部門から3案、やる意義のあること部門から3案の事業案が選ばれたそうですが、そのうち二人が考え出したものが4案もあったそうですね。
堀内:和菓子屋、「じーばー工場(裁縫)」、オーダーメイド雑貨屋、漬物バーの4案です。和菓子屋は、和菓子をつくるのが得意な方がいらっしゃったので考えました。同様に「じーばー工場」も、村のおばあちゃんたちが缶バッジ、小銭いれ、ポーチ、コースター、巾着、かばん、ひざかけ、フェルトバッグなど幅広いものをつくっているので、考えたものです。
田中:オーダーメイド雑貨屋は、デザインなどの要望に応じておばあちゃんが縫うという事業案です。漬物バーは、漬物屋さんのアイデアから派生しました。どこの家でもたいてい蔵をもっていて、漬物をしてそこに保存していたんです。梅干しをいただいたら家庭によって味が違うのでおもしろいなと思って、漬物屋のアイデアが生まれました。
バーにしたのは、「梅干しばあばの梅干しバー」というネーミングと(笑)、カラオケが好きな人が多いからです。おじいちゃんおばあちゃんたちはサロンで毎週水曜にカラオケをしていたり、自宅にカラオケがあって歌ったりしていました。
遊びのようでもあったけれど、役割を感じられた
— 2ヶ月でヒアリングから事業案作成まで行ったんですね。当初、そこまでできると思っていましたか?
堀内:正直言って、そんなにたいそうなことをした気持ちはないんです(笑)。公私が溶け込んで混ざっていたので、「これが仕事でいいんだろうか?」と感じていたくらいです。
田中:遊びか仕事か、あいまいなところがありましたよね。でも、毎週開催されるプロジェクトの定例会で「仕事として必要とされていたんだ」と実感することができました。おじいちゃんおばあちゃんたちと一緒に買い物に行くこともあってお友達のようになっていたんですけど、定例会で「実際はどうなの」と聞いてくださるので、自分たちの役割を感じられました。
はじめは食に関するプロジェクトのつもりで進めていましたが、ヒアリングのなかで裁縫やカラオケといった好きなもの・得意なものがでてきて、村に住んでいるプロジェクトメンバーの方に報告したら「そうなの!? 新しい切り口だ」と驚かれていたんです。予想外な提案ができたのかなと思ってうれしかったです。
— 西粟倉村はどういう場所になりましたか?
堀内:自分のおじいちゃんおばあちゃんのように頻繁に会う関係性の方がいっぱいできました。スマホの電話帳にご連絡先がいっぱい入っているので、連絡をとりたいです。きっとまた来るんだろうなと思います。
田中:自分のじいちゃんばあちゃんのような暖かさを感じ、村が好きになりました。
— 最後に、今後の予定や西粟倉村で得たものを教えてください。
堀内:社会福祉協議会に入り、ソーシャルワーカーとして地域をまわる活動がしたいです。今回出会えた方のように元気な方たちと活動をつくる一方で、ひきこもりがちな方とも会って、個別に支援することも両立したいです。
私は、あきらめなければ、年齢にかかわらず、自分でできることがたくさんあるのだと学べました。7年かけて家をつくったり、小豆からあんこをつくりおはぎをつくったりしている方たちに出会い、自分も負けてられない! と(笑)。できない理由を見つけるのではなく、とりあえずやってみようと思いました。
田中:地元に貢献したい気持ちに変わりはありません。ここでおじいちゃんおばあちゃんたちと仲良くなれたことが自信になりました。おじいちゃんおばあちゃんたちからは「あなたたちが話してくれたから仲良くなれた」「ぐいぐいきてくれてよかった」と言っていただきました。自分から挨拶するよう心がけていたんですが、相手に近づきたいという心の持ちようによって展開が変わるんだと思いました。
— みなさんが再訪を待っていらっしゃると思います。今日はありがとうございました。
「TAKIBIプログラム」では、インターン生やプロボノを受け付けています。「TAKIBIキャンプ」は年に2回開催しています。興味のある方はご連絡ください。