鹿児島県

錦江町

きんこうちょう

冬でも暖かいエリアのある錦江町で、農業を始めよう!新制度「地域おこし協力隊・農業支援員」と先輩農家の話。

大隅半島の南西部に位置する、鹿児島県・錦江町(きんこうちょう)。
ここで、新たに農業を始めたい人を力強くサポートするまちの制度「地域おこし協力隊・農業支援員」が始まり、募集がスタートしました。 

今回お話をお聞きしたのは、錦江町出身の3人。
この制度を担当する、錦江町 産業振興課・生産振興チームの小川純一さん、錦江町で農業に従事しながら指導農業士として育成・指導にも携わっている、『テリーファーム』代表取締役の寺田洋人さん、約10年前に新規就農者になり、現在は認定農業者である中濱裕太さんです。

お三方に「錦江町ならではの農業」を紐解いてもらうと「あ、それならできるかもしれない」と思えるようなヒントが見えてきました。

農業にちょっと興味があるという方、必読です!

 

暖かいからどこの産地よりもちょっと早く出荷ができる

 — 今回「農業支援員」を募集することになった経緯を教えてください。

小川:錦江町では、親元就農者といった新規就農者は増えてきたんですが、現在の町内の農業経営体数は405軒で(「2020年農林業センサス」より)、全体数としては減ってきています。今農業をしているのは錦江町出身者がほとんどで、町外出身者でも夫婦のどちらかが錦江町出身という状況です。

そこで指導農業士(各都道府県知事から認定された、新規就農者などの育成に指導的役割を果たしている農業者のこと)の方と話をして、農業支援員として町外の方を町内に呼び込む形を考えました。地域おこし協力隊の制度を使って農業研修を受け、その後、認定新規就農者になっていただき、独立就農し安定的に農業で生活ができるようになることを目指します。

農業研修の様子

具体的には、1年目は指導農業士さんのところへ行き、錦江町の農業の基礎を身につけていただきます。どういう品目をしたいかが決まっていればいいんですが、最初から決まっている方は少ないと思うので、いろいろな現場を見て「錦江町ではどういうものがつくれるのか」を学んでいただきます。2年目は、自分が何をしたいのか、品種や品目を決めてもらって、そこに集中した研修をしていただきます。

— 錦江町の農業には、どういう特徴があるといえますか?

小川:錦江町は、北側にあって海に面している旧大根占町(おおねじめちょう)の「大根占地区」と、南側にあって山が多い旧田代町(たしろちょう)の「田代地区」に分かれています。そのため、地区ごとにけっこう天候や気温などが変わるんです。多品目の栽培ができ、2~3種類をつくっている農家さんが多いですね。

ピーマン、ミニトマトなどの施設園芸、ゴボウ、キャベツ、レタス、ネギ、バレイショなどの露地野菜、お茶など多様な作物を生産しています。黒毛和牛の子牛生産や養豚、ブロイラー(養鶏)など畜産もさかんです。

ピーマンの生産が盛ん

寺田:私が農業をしている大根占地区は、冬作がメインの農業地帯。冬でもほとんど雪も霜も降りないほど暖かいから、露地栽培でバレイショができるし、それで早出しもできる。

中濱:そうですね。冬作の作型で、暖かいからどこの産地よりもちょっと早く出荷ができるような産地ですね。お茶は本土で一番早い。

寺田:町内でつくられているのは、大根占地区はバレイショ、果菜類(ナス、トマト、ピーマン、インゲン豆などのこと)や豆類ですね。特にピーマンが増えてるな。田代地区はお茶が中心。

錦江町役場 産業振興課・生産振興チームの小川純一さん

 

みんなが毎日ご飯は食べる。農家は命の源を守っている人たち

 — 寺田さんと中濱さんがそれぞれどのように就農したのか、教えてください。

寺田:私はもともと専業農家の家で育ち、「将来は農業をしようかな」という気はあって、大学を卒業してすぐ、40年ほど前に錦江町へ帰ってきて、22歳で農業を始めたんですよ。当時は25歳以下で農業をしている人は多くて、町内に20~30人いたからね。

経験も技術もないから失敗して、できたものをほかしたこともあるよ。あと、台風だね。上陸したら、根こそぎ持っていくもんね。鉄骨のハウスが潰れたこともあったから(笑)。だからよく従業員に言うのは、「台風とけんかしても勝てるわけがない。普通にやれば負ける。でも、ネットで押さえたり工夫して、引き分けにはもっていけるよ」って。

今は露地で葉ねぎ、レタス、キャベツなどをつくっていて、取引先はカット工場が中心。全農産物、契約して売っているわけよ。「こんだけね」って。その代わり市場価格が高くても「上げてよ」とは言わんし、逆に安いから「ちょっと下げて」と先方が言うのもなしっていう約束で、取引している。

テリーファーム代表取締役の寺田洋人さん

中濱:僕も出身は大根占地区なんです。それこそ、実家が寺田さんちの傍で(笑)。

以前はJAで、26歳か27歳までサラリーマンをしていました。結婚して子どもを授かったとき、このままでは生活できないと感じて、ちょうどいろいろ農業分野の制度が見直されて手厚くなったので「ちょっと頑張って農業しよう」と、Uターンしました。就農したのが、2015年です。

本当に初心者で何も知らなかったので、指導農業士の鳥越秀一さんのもとで1年半ぐらいピーマンの研修をして、青年就農給付金という事業を使って独立しました。当初は、ハウスの8アールだけで就農したんですが、離農される農家さんがとても多く、そのハウスなどをさらに借りて、今はハウスが60アールぐらいまで増えています。今はピーマン、インゲン、バレイショ、オクラ、スナップえんどう、ナスをつくっています。

最初に困ったのが、農業の道具を揃えないといけないときに、実績がないので金融機関から借りられなかったんです。そうしたら地域の人が「その機械だったらうちにあるよ」と貸してくださって。持っていない機械は貸したり借りたりする文化は、この地域特有のいいところだなって思います。

認定農業者の中濱裕太さん

—お二人が感じている農業の魅力を教えてください。

寺田:種や苗が育って、だんだん野菜になっていく。例えば「ハクサイが採れました。今日はちょっとすき焼きをしようか」って言って鍋に入れる。そういう、収穫して食べる喜び。それがやっぱり一番の楽しさじゃないかな。

中濱:野菜全般、つくっていておもしろいです。自分の手入れの加減で結果が変わってくるので。子どもと一緒に収穫したりすることも楽しんでいますね。

寺田:天候相手のことだから何十年やっていても「農業は深い」と思うよ。今でも「あれ?なんでこんな、なるのよ」というときがあるけど、それが楽しい。衣食住っていうけど、毎日洋服やおもちゃを買う子はいないわけよ。でも、みんなが毎日ご飯は食べる。農家は命の源を守っている人たちだよね。食糧がないことには、人間は死んじゃうからね。そこを担っているのが農業の魅力だと思う。

 

農業をしていて、ストレスは感じたことがない

 — 錦江町ならではの農業の特徴や可能性を、どうとらえていますか?

寺田:大根占地区で、農業で成功しない人はたぶんどこに行っても成功しないと思う。それくらいに農業がやりやすいところ。

中濱:本当にそうです。何でもつくれるんですよね。

寺田:大根占地区で言えば、暖かさを最大限に生かした農業がいいと思うね。あと、朝の日当たりが早くなってくれるといいんだけどね(笑)。

小川:それはそうですね。日照時間は若干短くなりますね。

寺田:でも、一番いいところだと思うよ。何でもできる。前にバイヤーさんから「寺田さん、この作物つくれる?」って相談されたんだけど、「うーん、つくったことないけど、たぶんできますよ」と言って(笑)。できるのよ、やれば。そういう土地。

参入しやすいのは施設園芸。ハウスでピーマン、トマト、ナス、キュウリなどをつくる。安定しているし反収(一反あたりの収穫量)も上がるし、機械がそれほど要らない。トラクターと動噴(防除作業用のもの)と軽トラがありゃいいか。

中濱:そうですね。あと、夫婦でできるっていうのが一番だと思います。

寺田:うん。一方で、田代地区の場合はある程度面積を広げたほうがいいかもしれない。施設園芸をやるには燃料費がかかるから、例えばいちごなどは収量を増やす必要も考えないといけないかな。

中濱:作物の選定とかも大事になってくるんじゃないですかね。

寺田:そうそう。

中濱:ハウスをちょっと加温するとか、アイデア次第で組み替えたりできると思うんですけど、今はそういうことを実践している人がいませんね。あと、本土最南端だから物流の課題はあって、僕も研究中です。

露地栽培の様子

— 最後に、応募を検討している方へメッセージをお願いします。

寺田:ストレスのない社会を味わわないかい? 「不便だけどいい」っていう暮らしが味わえますよ。

中濱:確かに農業の仕事をしていて、ストレスは感じたことがないですね。子育てにもいいですよ。時間も自分次第でつくれます。子どもの行事などにも参加できて、おもしろいです。

寺田:有給たっぷりだもんね(笑)。

中濱:はい。冬型の作付けなので、自分の作付け次第で、子どもの夏休みに合わせてしっかり休むこともできます。

寺田:やり方によっては社長になれるわけよね。自分で経営するんだから。そこをやりがいだと感じられたらいいよね。ただし、つくる技術は自分で学んで、販売するまでをセットで考える。

中濱:自分も初心者で知識などはなかったんですけど、ここまで農業を続けられているのは、この環境と地域の人たちのご協力が大きいです。役場の人たちも親身になってくれて、気軽に相談しやすいんです。だいぶ手厚いと思います。地域の農家のほうも協力的で、例えば「今度、どっかから農業したい人が来て、会合がある」って聞いたら、(農家が)結構集まりますよね(笑)。

寺田:そうそう。新しく来てくれた人に「まぁいいが。飲もうが」って(笑)。

中濱:すっごいウェルカムな雰囲気です。鹿児島でもずっと南のまちで、遠いんですけど、来てしまえばいいところですよ、本当に

小川:錦江町としては、チャレンジしたい・夢を叶えたいという人が増えていけば、きっと「自分もやってみよう」というポジティブな考え方が周囲に波及していくので、そんな雰囲気がどんどん広がっていけばいいなと考えています。

未来づくり課が担当しているお試し移住の取り組みもあります。1週間など、期間を決めてお試し住宅に滞在できます。滞在中の農家見学などのご相談にも応じていますので、お気軽にご連絡ください。

— 良いご縁があるといいですね。それぞれのご活動、応援しています。ありがとうございました。