岡山県
西粟倉
にしあわくら
「与えられる勉強」から、「自ら体験する学び」へ。西粟倉村での教育環境、どう感じていますか? 子育て中のお母さんとお子さんたちに聞きました。
Date : 2023.10.27
ローカルベンチャーや移住者の側面で注目されている岡山県・西粟倉村。
そこには、一人ずつに「暮らし」があり、共に住まう家族の形もさまざまです。
子どもを持ち、西粟倉村で子育てをしている人たちもいます。
村での子育てって、どうなんだろう?
教育環境が気になっている人がいるかもしれません。
さまざまな人が出入りする西粟倉村では、あらゆる分野で変化が生まれていますが、それは教育環境でも同じようです。
そんな変化を体感しながら村で子育てをしているお母さんたちと、その娘さんたちに、集まっていただきました。
娘さんたちは、小学4年生の同級生。
取材は夏休みに実施したため、子どもどうしで「久しぶり!」と抱き合ったり、お母さんたちも親しげに話したりして、和やかなムードです。
みなさんの「村で育てる」、「村で育つ」というリアルな声をお届けします。
村での子育ては「この環境でこういう人たちに見守られている」と見えやすい
— まずは自己紹介からお願いします。
大島:大島奈緒子と申します。2009年8月に西粟倉村へ移住し、檜を使った家具制作や建築、コンサルや教育事業を行う『ようび』という会社を夫が経営しています。私は2011年に移住し、建築設計の仕事をしています。また、2020年に『西粟倉むらまるごと研究所』を立ち上げ、2022年まで関わりました。今年(2023年)はトランジション期(移行期)と定めて、約20年ぶりにしっかり自分と向き合って、次の準備をしています。
娘は、百森(ももり)です。
関:関真沙美といいます。西粟倉村に来たのは一人目の出産直前で、14年前です。仕事は、『エーゼログループ』で西粟倉村のふるさと納税に関する業務をしています。
娘は、あやなです。
渡部:渡部和美です。私は西粟倉村で生まれ育ち、一時期村を出ていたのですが、水が合わなかったことから(苦笑)娘の出産直前に戻り、以来10年ほどこの村で暮らしています。今は西粟倉村役場の総務企画課で会計年度任用職員という、フルタイムのパートのような形で働いています。
娘は、紗智です。
横江:横江優子と申します。2009年5月に西粟倉村へ移住しました。村が「百年の森林(もり)構想事業」を始めた頃で、その事業を7年ほど担当していました。2人目の子どもの育休から復帰したタイミングで保健福祉課に異動し、4年目です。今は、介護保険と後期高齢者医療の事務を担当しています。
娘は、晴衣(はるい)です。
— 渡部さんは水が合わずに故郷に戻ったとのことですが、ほかのみなさんは子育てを意識して、西粟倉村を選んだ部分はありましたか?
関:私は地元の人に嫁いだので、子育てについてはあまり考えずに来ました。村に来てから10年間は村外で働いていましたが、今は村内で働いていて、子どもがいつもお世話になっている人たちと仕事することも多いんです。「こういう環境でこういう人たちに見守られながら育っているんだな」と、より見えるようになって、幸せなことだなと感じています。直接「この間はお世話になりました。ありがとうございます」と言える関係性はありがたいなと思っています。
大島:私もまったく意識していなくて、やりたい仕事のことだけ考えて村へ来ました。移住者で、かつ地元の方に嫁いだのではない人のうち、出産したのはすごく早いほうだったんです。初めての育児に七転八倒でしたけど、この10年で村の各施設が整って環境が良くなったので、羨ましい気持ちと「良かったな」という気持ちがあります。
横江:私も(大島)奈緒ちゃんと一緒で、仕事をするために村へ来ました。来たのは27歳のときだったんですけど、30歳まであと3年あるから、「好きなことをしよう」と何も考えずに来たんです。たまたま村でご縁があり、正職員にもなれたタイミングだったので、そのまま村に残りました。
保育園や図書館、民間のお店などができ、村が大きく変化
— 大島さんからお話がありましたが、この10年で教育環境に変化があったのですね。それは具体的には何でしょうか?
関:一番はやっぱり、保育園がなかったことです。子どもが小さかった頃は託児所だったのですが、給食がなく離乳食をお弁当でつくっていました。大変だったよね? ストックした離乳食をちょっとずつ詰めたりして(笑)。
大島:茹でた野菜とかお粥みたいなやつとか、冷凍してたよね(笑)。
関:今は「西粟倉村立西粟倉保育園」ができて、園庭もあるし、いいなって。「西粟倉保育園」の隣には、妊婦さんや乳幼児のいる親子が使える「つどいのひろばBambi」もあって、いいなと思います。
大島:以前は、車が入らず、子どもが飛び出さない気軽に遊べる場所はなかったんですけど、今は囲みのある公園が、村の中心にあります。そこは24時間利用でき、トイレや日蔭があるところも、ありがたいです。
横江:村内にお店が増えましたよね。私が移住した頃は「何もないな」と思っていて、立ち寄れるところがほとんどなかったです。でも、みるみるうちに人が増えて、カフェやスイーツ店などいろいろな種類のお店ができ、この数年の目まぐるしい変化にはびっくりしますね。
渡部:以前は、今のように「あわくら会館(役場や図書館などが入っている新しい建物)」がなかったので。「あわくら図書館」の存在は、子どもには本当にありがたいです。
横江:先に西粟倉小学校に導入されていた、誰でも行っていい部屋が今年度(2023年度)西粟倉中学校にもできました。そこは「教室には行きづらい」、「今日は行きたくない」という子が、ちょっと避難できるスペースだそうです。
幼少期にモンテッソーリ教育を受けられたことは、誇り
— 10年間の変化の一つでは、2017年に西粟倉村へ移住し、「西粟倉ローカルベンチャースクール」に参加した岡野真由子さんが、翌年、子どものための教室「にしあわくらモンテッソーリ子どもの家」を立ち上げました。お子さんたち4人は、幼稚園に通いながらここへも通っていたそうですね。
大島:岡野先生は、「この先生に子どもを見てもらえたら幸せだな」と思うお人柄と、子どもの教育に命を使ってこられた方で、そういう方が村に来てくださって本当に嬉しかったのは覚えています。今では子どもの個性を尊重する教育が語られ、当たり前になってきましたけど、当時はそういう声や活動と公教育はまだ隔たりのある時代でした。
「にしあわくらモンテッソーリ子どもの家」を通じて、自分が必要だと思っていることを信じられたことが、私がどう娘と一緒に育ちたいかという気持ちを支えてくれましたし、多様な学び方をワガママでなく選択であると理解してくださる方が増える架け橋にもなってくださいました。そういった面でも助けていただいていると思っています。
横江:定期的に面談をしてくださり、そのたびに3つぐらいの分野に分けて立派なレポートを書いてくださって「こんな見てくださっているんだ」と驚きました。そこには決して否定や諦めがなく、どんな子にも可能性があるというスタンスでアドバイスをくださるので、本当にありがたくて。今でもことあるごとに、「岡野さんだったらこうは言わないだろう。こういうふうに言うべきだろう」と考えます。幼少期の大事なときに岡野さんのモンテッソーリ教育を受けられたことは、誇りに思っています。
関:フィードバックまでしてくださるんですよね。教室があるたびにメッセンジャーで教室での様子を毎回フィードバックするのは大変なことだと思います。主人と私と岡野さん、3人のグループにしているので、子どもの様子を夫婦間で共有できました。
あと、幼児期の発達のことって親は詳しく知らないので、「この時期はこうだから、こういう風に絵を描くことに夢中になっています」とか「手先を使って運筆を一生懸命やっている時期なんですよ」とか、子どもの様子と合わせて教えてくださることも勉強になりました。「ちょっと癇癪を起こしやすいけど、こういう時期なんですよ」とフォローしてくださったりして、子どもに対する声かけや接し方を変えていこうと意識も変わりました。
大島:私は出張がとても多くて、娘を連れまわすことが多かったんです。情報や動きが多くて忙しい状態でした。そんななか、娘がモンテッソーリの教室でどう過ごしていたかというと、「最初はひたすら泡を立てるとか、机を拭くとか、静かなものを選んで落ち着いてから、残り10分で猛烈に制作しています」と聞いたんですね。
私は、彼女のそういった穏やかなシーンはほとんど見たことがありませんでした。でもそうした時間を必要としているんだと知ることができた。彼女が疲れていれば「少し休んでから行く?」などと言うように私が変わって、それは今も続いています。彼女が「彼女自身の状態とニーズが分かる」ようになったことは、本当に素晴らしいことだと思います。
そして、何が何でも学校へ、と考えない、選択的不登校とでもいうような我が家のあり方を、学校の先生が理解してくださることもありがたいです。娘は遠方に行って数日休むことがあっても、友だちと会えることを本当に楽しみにしていますし、村内のあらゆるイベントに参加し、制作し、やり遂げるということを重ねています。私に同行せず、友人の家を頼って学校に行くことを選ぶこともあります。
大島:また、娘は年長のときに体力が余って夜寝付けなくなり、昼間にもっとエネルギーを発散できるようにと、西粟倉村の隣の鳥取県・智頭町にある「森のようちえんまるたんぼう」へ通うことを選択しました。ここでの時間は、母子ともに宝物になっています。ロケーションとして選択肢が複数あるのもありがたいことだなと思います。
渡部:面談では、子どもの話だけでなく、家庭の問題や親の悩みについても相談に乗ってもらっていました。親のあり方について「それでいいですよ!」と肯定してもらって、子どもとの関わりに自信が持てるようになりました。先生がとにかく前向きで、子どもにしても親にしても、良い部分を見つけて褒めてくれる。教室内だけにとどまらず、子育てをまるごとサポートしてもらっているような安心感がありました。
子どもたちが自主的に実施し、大人はそれをサポートする場
— 2017年に始まった、小学校4年生から中学校3年生を対象に『一般社団法人Nest』が開催している「あわくらみらいアカデミー」にも参加していると聞きました。ここは子どもたちの「やりたい」を引き出す場だそうですね。
渡部:最近、「あわくらみらいアカデミー」で企画したい人を募集していて、娘が企画をしてイベントを行うという経験をさせてもらったんです。軽い気持ちで応募してみたら、採用していただき、自分から電話をかけたことすらなかったのですが、娘自ら「サチ、かける」と言ってアポを取って、ゲストの方に来ていただきました。
とても楽しんでいましたし、何よりも「行動したら、やりたいことが実現できる」と分かって自信を持てたのかな。「またやる、やりたい!」と前向きになっていて、そういう経験ができる土台を用意していただき、ありがたいなと思いました。『Nest』のスタッフのみなさんは、娘にとって学校の先生とも親とも違う、わりと歳の近い大人(20~30代)。そういう方たちと一緒に物事を考えて進めていけることも、大きな経験だと感じます。
関:この間、「あわくらみらいアカデミー」でイベントがあったとき、会場の前を通りかかってのぞいたんですけど、知っている子が参加していたんです。その子は人前でしゃべっているのを見たことがなく控えめな印象だったんですが、マイクを持って堂々と司会をして、参加者に「どうですか?」とインタビューをしていて、びっくりして。「好きなことだと、人ってこんなに変わるんだ」と。子どもたちが自主的にやる姿が私には新鮮でした。
大島:そうそう。小学4年生になってからは、思春期が始まって、親だけではサポートしきれない部分が出てきたと感じています。そこに親以外の方たちが関わってくれることは、とてもありがたいですよね。学校の教室以外での知らない面や成長を地域で見てもらえるのは、とても嬉しいことだと思います。
横江:私自身は同級生が30人くらいいる教室で育って、好きな子、嫌いな子、苦手な子、目立つ子、目立たない子など、性格もいろいろな子がいると理解していったんですが、村では特に子どもの人数が少ないから、知っている人格のバリエーションも極端に少ないと思うんです。実は、それがずっと不安でした。保育園に入っていれば0歳から一緒に過ごしているので、人格を分かり切った人たちの間で育ち、そのバリエーションの少なさで社会に出たらどうなるんだろうと。
でも「あわくらみらいアカデミー」で子どもが可能性を開花させたり、周囲がそれを見たりすると、思いもしない交流が生まれて「そういう深め方があったか!」と。人数ではなく、人格やタイプの開き方によって、同じ人でも違う関わり方ができるんだと思いました。
— 公教育や村の環境について望むことがあればお聞きしたいのですが、何かありますか?
大島:「もっとこれがあったらいいよね」ということがどんどん生まれ続けば嬉しいですね。実は私も準備を始めています。子どもたちには、自分がどういう人間か知りながら、中学3年生になってくれたらと願っています。村内には高校がないため、中学卒業と同時に親元を離れる子が少なくありません。
最低限の自分の世話ができ、できないことは助けてと言え、得意なことは助けてあげられ、自分の機嫌を自分で取れること。「自分はこういうものが得意、こういうものが苦手」と、多様な活動を通じていろいろな自分と出会って、その上でありのままの自分を好きなまま、外に行けると、とてもいいなと。そうして自分を知るために、どんどんチャレンジできる環境だといいなと思います。
関:村内には学習塾などはないので、学問を極めたい子がもっと極めていけるような環境は、村には今のところない気がしていて、選択肢の一つとしてあればいいですね。「勉強しなさい」という話ではなくて、勉強がしたい子がちゃんとできる環境があってもいいかなと思います。
— 貴重なご経験やご意見を話してくださり、ありがとうございました。
西粟倉村の自然が多いところや各プログラムが大好き!
— お子さんたちにもお話をお聞きしたいと思います。みなさん小学4年生で(1クラスのため)同じクラスなんですよね。
一同:はい、クラスは13人。そのうち男子が3人、女子が10人。
— 好きなことはどんなことですか?
横江晴衣:西粟倉の森や山を歩くこと。
渡部紗智:貝殻拾い。拾いに行くのは、日本海とか。
関あやな:図書館に行ったり、森林で葉っぱを見たりすること。「あわくらみらいアカデミー」とか「ちぐさ研究室」のイベントに参加するのも好き。
大島百森:岡山市のリンクに行って、フィギュアスケートをすること。レジンにもハマっていて、今度、お店屋さんをするから来てほしい(SHIZENHIME)。西粟倉は自然がいっぱいあるところが好き。都会はたまに行くのは楽しいけど、木があんまりないから。
一同:うん、うん(同意している様子)。
— みなさん、西粟倉村が好きですか?
一同:うん! 自然が多いし。住むのは西粟倉がいい。
大島百森:村にいる人たちには簡単に声をかけやすいけど、都会ではそれができなさそう。
— 「にしあわくらモンテッソーリ子どもの家」はどうでしたか。岡野先生はどんな先生でしたか?
横江晴衣:優しい! いつもニコニコ、笑顔で。
関あやな:真由子先生は、優しく分かりやすく教えてくれるから、楽しく遊べた。また行きたい!って思える。
大島百森:みんなと合わせて(同じように)動くんじゃなくて、やりたいことをやっていいよと言ってくれる。一人ずつやりたいことを選んでして、終わったら片づける。紙皿で楽器をつくったり、いろんなものをつくって、それが楽しかった。
渡部紗智:おもしろい道具がたくさんあって、やりたいことをやらせてもらって、楽しかった。
— 「あわくらみらいアカデミー」はどうでしたか?スタッフである『Nest』のみなさんはどんな人ですか?
関あやな:楽しいから、行けるときは絶対行く。今日はやりたかったフルーツポンチ会を企画してする。キャンプも楽しかった。
渡部紗智:ふだんできない、いろんなことができるのが好き。みんなでしたキャンプが楽しかった。貝拾いのイベントを自分で企画して、大学の先生と一緒にやったり、やりたいことができて楽しかった。貝を売るとか、またイベントがしたい。
大島百森:ないものを自分たちで何とかするサバイバルキャンプがおもしろかった。(スタッフが)優しくて、相談にも乗ってくれる。「どうやってやる?」って言って、自分で考えるようにするけど、ちゃんとアドバイスもくれる。
横江晴衣:ももりちゃんやみんなと劇をしたのが、すごく楽しかった。金のオノと銀のオノの「オノ」を「チェーンソー」に代えた話をつくって劇にした。将来は舞台女優になりたいから、また劇をやりたいし、みんなでプロの劇を観に行きたい。
— これからも村での暮らしが楽しみですね。ありがとうございました。