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特集「SDGs×生きるを楽しむ2021」 3 西粟倉むらまるごと研究所 「最新テクノロジー×ローカルで地域の未来を変える挑戦」

2020年7月に発足した『一般財団法人西粟倉むらまるごと研究所』。
村を、丸ごと研究する……?
そんなユニークな名称の背景には、どのような思いがあるのでしょうか。
2011年に西粟倉村へ移住し、この研究所の代表理事に就任した大島奈緒子さんにお聞きしました。
西粟倉村の「SDGs×生きるを楽しむ」を伝える特集企画の、第3回の記事です。

 

村が、持続可能な村づくりにつなげる組織を着想

— はじめに『一般財団法人西粟倉むらまるごと研究所』(以下、『むらまる研』)ができた背景から教えていただけますか。

大島:役場内で地方創生の切り口で生まれる事業を取りまとめる「地方創生推進室」が、これから取り組んでいきたいことをピックアップし、持続可能な村づくりにつなげる『むらまる研』を着想したそうです。それを実現していこうとなったとき、「奈緒子さんに頼んだらどうか」という意見が出たそうで、声をかけていただきました。

まずはどういう組織体制でやるのか、みんなの声を一つにまとめていくお手伝いをさせていただいたら、私のなかに“やりたい気持ち”が育っていったんです。2020年7月に『むらまる研』を発足し、代表理事に就任しました。コアメンバーは私を含めて3名いて、役場や村外にも協力者がいます。

コアメンバーである秋山淳さん(右)・飯田桃子さん(左)とむらまる研ポーズ!

— 大島さんはこれまで村で、夫の正幸さんが2009年に創業した『株式会社ようび』の「ようび建築設計室」室長・二級建築士として、働いてきましたよね。

大島:そうです。『ようび』では建築だけでなく幅広く活動し、複数の地域に関わってきました。私は建築について、「地域全体の計画や長い目線が必要で、その一部が建築であるべきだ」という考えをもっています。

これからの時代、建築、車、カメラなど、いろいろなものの境界がなくなっていくと思っています。進化するテクノロジーと、人の動物としての快適性に強い関心があったことや、我が子がこの村で育っていく親の立場としても、今回の就任は「チャンスだ」と感じました。

『ようび』の仕事は夫やスタッフの理解のもと、調整しました。コンセプトメーカー業務は続行し、建築業務はほかのスタッフが担当しています。これは、建築部に信頼できる仲間がいることと、2年前に腰椎椎間板ヘルニアにかかり、人に仕事を頼んだり任せたりすることを増やしたことが影響しています。いいタイミングで声をかけていただきました。

 

大事なのは「生態系の本領発揮」や「テクドロジーの発明」

— どういうことを行う組織なのでしょう。地域の課題を解決していくということでしょうか?

大島:実は、「課題を課題と呼ぶのをやめよう」と話しています。課題を探そうとする目線は、重箱の隅をつつくようなネガティブなものですよね。課題起点で話をすると、狭い範囲での答えになると思うんです。人口約1400人の村ですから、課題を挙げてもすべてを解決するのに人手が足りません。

そこで、業務やプロセスの分解は必要だけれど、課題は分解せずに目指したい未来を共有するようにしました。自分の願いが結びついた人がいるところから動かすようにしています。

大島:この図は、みんなで話し込んで2021年1月に描いた、ここから先10年の未来予想図です。この中で私たちにとって大事なのが、「生態系の本領発揮」、「テクドロジー(テクノロジー×泥くささ)の発明」、「『生きるを楽しむ』をつなぐ」。『むらまる研』では、この三つを使命としました。こういう世界を目指して一つずつアプローチしていけば、結果としていくつもの課題を解決できる、と模索しています。

— 一つ目の「生態系の本領発揮」とは何でしょうか。

大島:私は、共創プロセスを使って地域や社会に大転換を起こそうとする研究コミュニティ「コクリ!プロジェクト」に5、6年関わっています。創始者でディレクターの三田愛さんが「それぞれが本領発揮して自分を生かしきることが大事」とおっしゃっていて、本領発揮ってすばらしい言葉だな! と。もっと一人ひとりがそうできれば、世界は変わると思います。

大島:同様に本領発揮できていないのが、地球やほかの生きものです。例えば山や森は、適切な植生になっていれば土が自浄し豊かになっていくのに、多くが停滞しています。うまく循環していないということですよね。よどみなく流れていくよう、菌から生きもの、地球全体が本領発揮すれば、人だけが解決しなくてもよくなっていくんです。みんなが本領発揮できる状態を目指し、回り始めることを信じることが、重要だと思っています。

— 二つ目の「テクドロジーの発明」とは?

大島:テクドロジーとは、テクノロジーと泥臭さ、泥まみれを掛け合わせたもの。都市向けのものが多いハイテクノロジーではなくて、ローテクノロジーや解明されていないシステムです。例えば都市向けのロボットを西粟倉村に持ってきても、ロボットが転んだり泥がついたりすると思うんですよ。未完成のものでも、願いを共有できる人とやっていきたいです。

私は建築をやってきましたけど、どちらかと言えば文系なんです(笑)。だからどのテクノロジーの専門家でもないけれど、願いを伝えることと、あきらめが悪いことに関しては専門(笑)。「できると思う」と言い続け、信じて伴走していきます。

 

「一人ひとりが輝き、その色が重なり合うことで生まれる彩り」をイメージしてデザインされた、むらまる研のロゴ

 

未来をつくろうとする人たちと村民をつなぐ

— 三つ目の「『生きるを楽しむ』をつなぐ」の「生きるを楽しむ」は、村が次に進む“旗印”として掲げたキャッチコピーですね。今、『むらまる研』が具体的に実装させようとしているものはありますか?

大島:一つが、村の人や村に関心のある人に開いたオープンスペースです。機能としては、道具のシェアができるシェア工房、シェアキッチンというコミュニケーションスペース、コワーキングスペースにしたいと思っています。子どもたちが3Dプリンターなどに触れられて、村民、多世帯どうしや共同開発する企業とも交流できる空間にしたいです。

旧JA事務所が今私たちの事務所になっていて、そこを改修して2021年5月頃にオープンスペースにし、さまざまな機能の空間をつくっていく予定です。

むらまる研の事務所として改修中の旧JA事務所

オープンスペースになる予定の事務所入り口スペース(目下、改装中)

大島:また、森林の状況や村民の健康、エネルギーの供給など多様な項目を対象に、公共データの公開や活用を促すオープンデータ化や、関係人口の増加を目指す草刈り作業のゲーム化、老若男女の自由な移動を保障する「地産地消モビリティ」の開発にも着手しました。

私が個人的に「これができたらいいな」と思っているのが、ゴミとして処分されているものを常時集めてアップサイクルできる場所。やりたいことはたくさんあって、これからがとても楽しみです。

— どんな人に関わってほしいですか?

大島:村内・村外を問わず、私たちのビジョンに興味を持ってくださる人であればOKです。「おもしろそうだから飛び込みます」で十分。「暇だから行こう」でも構いません。関わりしろのない人はいないと思うので、ビジョンを共有できるいろいろなタイプの仲間が増えたらいいですね。個人単位でも組織単位でも、プロボノでも出向でも、地域おこし企業人という制度でもOKです。

私は、シェアという文化を西粟倉村に根付かせたいと思っています。知恵や時間などいろいろなシェアが広がると、これまで「課題」と呼んでいたものにリーチできるはずです。データのシェアも重要だと考えていて、オープンデータをどう集めてどう魅力的に見せていくか、企業やエンジニアが集まってくださったら嬉しいです。

興味を持ってくださる方なら、どなたでもお待ちしています!

大島:未来をつくろうとする人たちと、今を生きる西粟倉村のみなさんをつないで、どちらもgive-giveである関係にしたい。その人自身の願いと、私たちの願いが結びつくところを生み出していきたい——。それが、私たち『むらまる研』の目標です。