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特集「SDGs×生きるを楽しむ2021」 4 TAKIBIプログラム 「地域に新たな経済を創りだす『TAKIBIプログラム』スタート!」

西粟倉村では、2015年から「西粟倉ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」を実施してきました。
その活動を一区切りとし、西粟倉村は2021年春から「TAKIBI(たきび)プログラム」を新たに始めます。

これまでを振り返りながら、現在の村の状況や未来像について、「LVS」及び「TAKIBIプログラム」の企画・運営を行うエーゼロ(株)の代表取締役・牧大介さんにお聞きしました。
西粟倉村の「SDGs×生きるを楽しむ」を伝える特集企画の、第4回の記事です。

 

起業家の育成が簡単にできるのか、葛藤は常にあった

— 「LVS」の事務局機能を担ってきた『エーゼロ』として、これまでを振り返っていかがですか?

牧:「LVS」では起業家を発掘して支援し、育てていく活動を展開してきました。おかげさまで、その成果として「ローカルベンチャー」という言葉が村内でも全国でも定着しつつあると感じています。

地方をあきらめずに挑戦するため、新しいビジネスを起こそうとする多くの方たちと出会ってきたわけなのですが、起業する人を育てていくことが簡単にできるのか、という葛藤は常にありました。果たして「スクール」や「支援」という言葉は適切なのか。本来の起業家のあり方と矛盾するのではないか……、と。

「LVS」の様子

牧:またこの5、6年で、全国各地で「何かやりたい人をサポートする動き」が増えました。西粟倉村が「ローカルベンチャーの村」として周知されるのは嬉しいのですが、フロンティア精神のある方に「西粟倉村は既に開拓されている」と受けとられてしまうこともありました。

これまでに西粟倉村を盛り上げてきたのは、何もないところから何かを切り開いた野武士のような方たちです。そんな自分の軸がしっかりしていてチャレンジを続けていける人にもっと出会うため、今後どうしていくかを考えました。

 

地域の事業をみんなで育てていくプログラム 

— そこで2021年春からスタートするのが「TAKIBIプログラム」ということですね。

牧:はい、「LVS」を一区切りとし、「TAKIBIプログラム」へと切り替えることにしました。これは、地域である程度見込みがありそうな事業テーマを予め用意し、インターンやプロボノ(知識やスキルを活かして貢献するボランティア活動やその人のこと)の方々とブラッシュアップし、本格的に進めるプレイヤーを用意して始動する起業プログラムです。

これまでは「LVS」で、外からビジネスアイデアを持ち込んでいただき事業として実行していましたが、これからは村の中から出していきたいと考えています。村内にローカルベンチャーが40社以上ありますので、誰かの願いごとを見つけ、事業アイデアを育てて、構想や計画に落とし込んでいきます。

村で生まれた40社以上のローカルベンチャーたち

牧:願いごとのオーナーが地域にいることで、地域の大人や学生が関わりやすいメリットもあります。経験のない学生、経験のある社会人、何かにチャレンジしようとする人という構成でチームを組成します。関係人口を含めた移民と村民をつないでいくことも、「TAKIBIプログラム」の大事なテーマです。

— 地域の人の願いに、周囲の人や村外の人が関わっていくんですね。

牧:そう決めた背景として、こんな経験も影響しています。「LVS」を始める10年前の2005年頃、都会で盛んに行われていたインターン制度を過疎地にも持ち込めないかと考えたことがありました。でも、実現できなかったんです。理由は、インターンに行く先の企業がなかったから。

でも今は、西粟倉村に企業が増えました。2005年頃にイメージしたことが、今ならできる。この前向きな変化を生かして、「LVS」やインターン制度に近しい活動ができないか、と。

そこでまず、2020年度の試験的な取り組みとして、専門スキルや経験をもつ社会人が村内の各企業でプロボノを行う仕組みをつくりました。プロボノは多くが都会に住み、大手の企業に勤めている方たちで、2020年秋から50名弱が稼動しています。地域に関わりたい人が想像以上にたくさんいて、地域にとってチャンスがあるのにリソースを使えていない状況なのだと分かりました。

村の取り組みに関心を持って訪れる人々

— おもしろい取り組みですね。

牧:これがすごく良くて、双方にとって刺激になっているようです。専門知識がある人が入るだけで、一瞬で課題が解決したり、商品が生まれたりする。ローカルベンチャーにとっては、「自分一人だとここまでしかできない」というあきらめや思い込みがあったところに、手伝う人が現れて「もっとここまでいける」と思える機会になっています。

一緒に経営を考えるチームがいることで、熱量が上がってチャレンジに踏み出していけます。やりたかったことが現実になっていくんですね。それを確認できました。

 

私には思いつかなかった、プロボノ発の新企画

プロボノを今年度実験的に受け入れているローカルベンチャーの一人である、西粟倉村の植物油専門店「ablabo.(アブラボ)」の蔦木由佳さんにもお話を伺いました。

— 蔦木さんにお聞きします。どんなきっかけで参加して、どのように始まったのでしょうか?

蔦木:『エーゼロ』さんから声をかけていただき、参加することになりました。事業テーマは、私から「これがしたい」と提案したのではなくて、プロデューサーの方に「今後、ファンづくりをちゃんとしていきたい」という話をさせてもらったんです。事業をするうえで地道にファンを増やすのはなかなか大変で、そのやり方もよくわかりませんでした。

蔦木:その後プロボノとして、プロジェクトコーディネーターが本業の男性を紹介されました。企画や広告系に強い方です。

私はファンづくりの話に加えて「将来、油を搾る人を増やしたいんですよね」とも話しました。将来油屋さんをもっと増やしたい気持ちがあって、業者を増やしたいという意味でした。するとプロボノの方から後日「油を搾る人を増やすのであれば個人でもいいのでは」と提案されたんです。私には思いつかなかったことで、おもしろいなと。

そこで家庭用油搾り機を個人に貸し出し、油の原料を定期的にお届けするサービスの企画「ablife(アブライフ)」をつくっていただきました。家庭用精米機のように、自宅で油を搾る小さな機械です。5分もあれば20〜30gの原料がティースプーン2杯分の油になります。現在モニターを募集中で(※取材当時。募集は2021年2月14日に締め切りました)、今後実用化に向けて動いていきます。わずか数ヶ月でここまで進められました。

蔦木:プロボノの方とのプロジェクトは、視点や動き方などが本当に勉強になっています。例えば、SNSの広告は仕様が一年前と大きく変わったことなど、知らなかった点も教えてもらいました。今後も生かせそうです。

— 牧さん、プロボノの方たちはどんなやりがいを感じているのでしょう?

牧:応援団として関わり、具体的に形になっていく手触り感やスピードは、大手の企業とは異なっていて、規模が小さいからこそのおもしろさがあるようです。

 

売上1億円規模のビジネスを村内でつくり上げたい

— ところで「TAKIBI」という名称には、どのような想いが?

牧:地域には、「これをなんとかしたい」という切実な思いや願い、祈りが無数にあるんですよね。これを“火種”と呼んでいます。そこに一時的にインターンやプロボノが飛び込み、つまり“薪”を入れると、燃えやすくなってぐっと火が大きくなります。

さらにその火を長く燃やし続けられる人が入ると、もう一段階、力をぐっと上げていけます。ビジネスで言えば、売上1億円規模の熱量に成長するわけです。売上1億円とは、企業が人材の採用と育成にしっかり力を入れていける規模にあたります。

「TAKIBIプログラム」で重要なのはプロデューサーです。プロジェクトごとに、それに適したプロデューサーを配置します。「LVS」は起業家起点での事業づくりでしたが、「TAKIBIプログラム」ではまずプロデューサーがいてインターンやプロボノと一緒にビジネスプランを練りこんでいき、その上で実行チームが組成されていく流れになります。

炎は、ワクワクできるアイデアと一緒に考える仲間がいる状態。大きな炎とは、夢があって本気でチャレンジする仲間がいる状態

— 牧さんが率いる『エーゼロ』は何を担当するのでしょうか。

牧:ローカルベンチャー事業部が事務局機能を担います。具体的には2021年春からスタートしてテーマを発掘し、プロデューサーをテーマに合わせて配置して、それからインターン・プロボノを募集しながらプランニングを進めます。プランが練りあがったタイミングで随時地域おこし協力隊の制度を活用して実行メンバーの募集を行います。つまり、受け手が「これはおもしろい! やってみたい!」と思えるようなプランを示した上で実行メンバーの募集をするということです。

こうして人と人をつなぎ、願いを重ね合わせてチャレンジが育つ環境を整えることで、結果的にチャレンジや人を育てていきます。

— 集大成としての「TAKIBIプログラム」ですね。今、どのような未来をイメージしているのでしょうか。

牧:僕にとっては15年かかりました。村内に、新卒やUターンで就職できる企業をもっと増やしたいと思っています。若い人が「就職したい」と思える会社です。西粟倉村はローカルベンチャー関連の事業を始めたときから、「ゆくゆくは村に雇用を増やし、結果的にUターンを増やしたい」という強い願いをもっていました。僕自身も、それを実現する具体的な事業に本気でチャレンジしたいなと。

「TAKIBIプログラム」には、村の中学生にも関わってもらいたいです。ディスカッションの場にいるだけでもいい。10年後くらいに、自分が関わったプロジェクトに帰ってきてくれたら最高ですよね。