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「役場職員は地域変革のエンジンだ。」 西粟倉村役場 地方創生推進班12名の挑戦。

「役場」という組織にどんなイメージを持ちますか?

「役場が変革のエンジンになる意志をもって動き出すと、どれだけパワフルな存在かを西粟倉村は体現している。」
そう語るのは、エーゼロ株式会社の牧大介。平成の大合併の際に西粟倉村が合併しないと宣言した頃からその奮闘の傍にいた一人です。

合併せず村として進むと宣言してから、百年の森林構想、再生可能エネルギー、ローカルベンチャーと数々の挑戦を連鎖させてきた西粟倉村で、昨年から新たに始まったのが、西粟倉村役場の職員の方々が主体となるプロジェクト設計&実践の事業。

今回は、この事業の仕掛け人であるお二人、西粟倉村役場の上山隆浩さん(地方創生特任参事)と、萩原勇一さん(産業観光課課長補佐)、講師を務めていただいた松崎光弘さん(株式会社知識創発研究所代表取締役CRO)、事務局の牧で行っていた昨年度の振り返り&戦略会議の場に潜入してきました。

「自分」のプロジェクトを、12名の役場職員が立ち上げる事業がスタート

昨年度、西粟倉村役場の課を超えて12名の方に辞令が下りました。それは「地方創生推進班」。西粟倉村役場は一般行政職員30名程の小さな役場なので、12名となると全職員の約半数にもなります。この12名の方々が通常業務時間後の夕方に集まり、村の未来と必要な取り組みについて議論し、そして事業の企画立案に取り組まれてきました。

「僕らも始めたはいいが、最初はどこに向かっているか、どこが落とし所になるかが不安だった。」今だから話せると、笑顔でそう振り返る地方創生推進班のリーダーの上山参事。

地方創生推進班リーダー 地方創生特任参事 上山隆浩さん

どこに向かっているかわからない、これは、取り組みのプロセスに理由がありました。そのプロセスとは「計画的戦略」と「創発的戦略」を取り入れたもの。これは、講師である松崎さんから教えて頂いた考え方です。

予め決められた計画に基づいて、粛々と実行していく「計画的戦略」。計画時には見えていなかったけど、環境や状況の変化にも柔軟に対応し計画変更していく「創発的戦略」。この2つを組み合わせ、事業立案し実行しながらも状況に応じて企画そのものを更新していく進め方をしたのです。企画が常に変わっていい、これは大きな挑戦でした。自由で一見楽に見えるかもしれませんが、自由ほどとても難しいこともあります。
この自由な状況で重要となってくるのは、目的や想いといった「軸」がブレないこと。この軸がブレない為に推進班ではもう一つ挑戦をしました。それは、「個人の想いに基づいた企画」を立案しようということでした。

民間で起業するならば、起業するその人の想いが起点となるので違和感は全くありませんが、行政の立場になると担当者の想いを起点に事業をすることはなんだか難しいと思ってしまいます。先入観かもしれませんが、行政事業の多くはその地域の方のために企画立案されるものであり一人の役場職員の想いが起点となることは難しそうに感じます。しかし、その事業がしっかりと実行され、成果が出ることに意識を向けた時、その担当者の想いがしっかりと重なっていることは重要です。今回は、総合計画で挙げられているような課題からどのような事業をするかという順序ではなく、推進班の方々にはあえて、一人ひとりが個人として解決したいことから企画立案を進めました。

そうして出てきた最初のアウトプットは、宇宙に行けるようなロボットを作りたいというような飛び抜けたものや、ご自身がお母さんであることから学校給食の大切さを訴えたもの、担当する業務からの深く感じたことから企画されたものと、様々でした。

―出てきた企画を見て感じられたことはなんでしたか?

萩原)個人の想いを起点となると、とっ散らかってしまうんじゃないかという心配もあったんですが、村が良くなることを前提に「これはやると面白いんじゃないか」ということがベースに企画が組まれていました。

上山)ベースとして、公務員になった段階でそういう想いは持っているものだと感じます。そして合併しないと決めた時からより濃いのかなと思いますね。合併しないと決めて、そこから百年の森林構想をはじめとしたこの10年間の取り組みからで、そういう意識が強くなったということもあるかもしれないですね。あと、僕は出てきた企画を見て、この規模の役場だから出てくるアウトプットだと感じました。うちの役場は大きな自治体と違って、パーツで動いていることはありません。全体のスケールが見えているなかで業務しているからこその内容でした。

牧)役場職員は一定以上の人数がいると、作業が細分化されてしまいます。一人が全体をみるとか、企画から実行までやることはできない 。しかし西粟倉村役場であれば、何でもかんでもやらなければならない。一人何役もやるのは当たり前だし。そして事業をやり切ろうとした時には、個別の作業に入るのではなく、一人ひとりの職員がプロデューサー的な動きをしなければならないですよね。

今回3~4名のグループを組み、プランの相互ブラッシュアップも実施しました。これが実現したのも、役場の皆さんがお一人おひとり村の全体を見ているからと実感します。村の全体像が意識されていないと、課を超えてお互い意見を言い合うことは難しいと思います。

萩原)今までのプロジェクトチームのようにリーダーがいて、参考意見を出してくださいと呼ばれているから意見を出しますとはしたくありませんでした。

上山)ゴールが見えているものに意見を出してください、となるとそれは結局他人ごとですよね。こうなったらいいよねーというぐらいのもので。そこは違うようにしたかったです。

松崎)ブラッシュアップでは、お互いに応援しようぜみたいな感じがありましたね。その空気はずっとそこに流れていました。

上山)松崎さんが「企画された方、ブラッシュアップに参加された方はこの事業でどういう位置で、どういう役割をするのか」という話には、普通の行政の計画にはない考え方がありました。プロジェクトにおいても「自分は何をするか」という視点が備わったと思います。

牧)行政が計画を作る時に、そこに「自分」がいることはめったにないですよね 。ただ、上山さんたち世代の方は「自分」が入った計画を立て、「自分」でお金を取ってきて実行されていたと聞いています。西粟倉村役場では普通なんでしょうか?

産業観光課課長補佐 萩原勇一さん

萩原)僕らは小さな役場なので、例えば道や水路を直す時には、どんな財源を使ってどこに発注して検査してお支払いする、事業の流れは一通りやります。ただ、近頃は事業やイベントの数も減っているので、若い世代は経験できる機会も少ないと思いますね。

上山)今は前提踏襲型と言うか、自分のアイデアを事業に入れるよりかは、昨年の事業前提に進めていくので、元々ないものを出してきて、どう形にするかをなかなか経験していない人が多いのかと思います。この推進班の事業が、その経験の1つになればと思っています。

そして12のプロジェクトが立ち上がる!

そして昨年度は12名の役場職員から12のプロジェクトが生まれ、その中から推進班としてまず取り組んでいく4つのプロジェクトを選びました。
4つとは、「子どもたちの学ぶ力を育むプロジェクト」、「地域のお母さんたちの安心できる時間を作るプロジェクト」、「副業×観光を狙い屋台村を立ち上げるプロジェクト」、「テクノロジーの実証実験を行う研究所を立ち上げるプロジェクト」。

中でもテクノロジーの研究所はとても印象的で、この取材時も盛り上がりました。「頑固男と書いて“がんなむ”というロボットを作りたい。そして宇宙に行きたい。」という建設課の向原さんの発想から始まった研究所のプロジェクト。その飛び抜けていて、かつ本人の楽しそうな雰囲気に周りも引き寄せられていました。最終発表でもロボットの夢は諦めず、夢に行き着くまでの計画として「テクノロジーは地域を幸せにするのか」というテーマで、企業や大学の実証実験を受け入れる研究所を立ち上げる企画となりました。

松崎)頑固男(がんなむ)は、あれはもうセンセーショナルでしたね。最初はなんか本当に、いい感じで荒唐無稽だったんだけど、だんだんちゃんと村の将来とフィットしていく感じがすごく楽しかったですね。

上山)あの企画が行政の事業に落ちていったのは、良かったです。一見するとロボットを作ることと研究所は違うかもしれないけど、要はロボットで宇宙に行くまでを現実論に落とす作業が重要でした。実は今、色んな企業や大学から連携のお話があるのですが、その受け皿として機能する可能性も見えてきています。

牧)ロボットを作る=最先端の研究を地域で仮説検証を行っていくとして、とても大きく事業の抽象度が上がったことで、前向きな挑戦の受け皿となろうとしています。研究所という言葉が出て、いろんな物事が進んでいることはプロデューサーとしては最高のかたちですね。ただ、どんどん話がマッチングしそうなのはいいですが、改めてそこで向原さんがどうしたいかを問い直す必要がありますね。

上山)最後の形としてはロボットなんだけれども、いきなりそこに行かなくても、技術を集めていくような組織として研究所があればいいよねと着地しました。
先日もとある企業さんと話をした時に、最終的に50年後にはロボットを作りたいんですよと話をしたら特に違和感もなくて。ロボット技術もメーカーさんだと鹿を追うロボットだとか、下刈りをするロボットだとかできる時代になってきて、不可能ではないと感じます。現実と夢、村の課題と個人の考える課題を話し続けることは大事だと思っています。
頑固男だけでなく、どのプロジェクトもとにかく面白いです。まずやってみればいいんです。プラスにしかなりませんから。

今年度は昨年の計画を実行に移していく年です。どのようなことが大切になるでしょう?

松崎)個々のプロジェクトはリーダーやメンバーに進めてもらうのですが、そこから見える、これから伸びそうな事業の芽を正式化していくことは必要かと感じますね。例えば総合戦略で位置づけを明確にすることです。
事業をぐんぐん進める部分と、筋や要素を捉えて全体の流れに持ち込んでいくことが必要です。
通常のプロマネって、計画通りに進めていくものですよね。一方で今回のようなプロマネは最終的に計画と違ったところにいくかもしれない。そうなるとドキドキします。それを変なドキドキにさせないようにすることが大切だと思います。そのために、要所要所で関所的なものを設けて状況を確認し、修正するかの節目を持つ。その節目までは、計画通りに粛々と行うようにする。そうすると、安定感を持てるかなと思います。どこに行くか不安な中で、モチベーション高く進めていくのは苦しいので。

牧)創発的なプロジェクトマネジメントを意識していくだけでなく、計画を立てたなら計画通りに進めつつ、既定路線から外れながら面白い展開があるかもしれないと意識していくということですね。

株式会社知識創発研究所代表取締役CRO 松崎光弘さん

今、役場は本当に地域のエンジンとなれる

ー各プロジェクトの実行戦略に関して、特に予算獲得の話題になりました。役場のプロジェクトでの予算獲得についてはどのように考えられているのでしょうか?

上山)プロジェクトごとにファイナンスを考えるべきだと思っています。現在村では、ICOの検討やガバメントクラウドファンディング(GCF)にもトライし、資金調達において相談できる窓口は増えてきている。もう補助金が取れないから予算獲得できないということは、言えなくなってきています。

牧)今の状況で上山さんのような一起業家のような動きをされる先輩がいると、予算はないんじゃなくてつくるものだと示してもらっていますね。

上山)最近ファンドの方にも会うことが多く、今取り組んでいることやこれからの話をすると、とてもラフに「いいですね!」と言っていただける方が大半です。しかし、そのような会話になることを知らない職員も大半です。今回挙がっているプロジェクトはどれも魅力的ですし、話せば進む事業は多くあると感じます。

「ファイナンス」という言葉も当たり前に話されている様子を見て、松崎さんには西粟倉村役場に何が起こっていて、何が起ころうとしているように見えますか?

松崎)人口が何人であろうと、自治体はちゃんと自立して生きて行けと。“寄らば大樹の陰”ではなくて、自分たちの規模で自活できていく絵が見える、本当に稀有な役場だと思いますね。そして田舎に行けば行くほど、役場が本当に重要なリソースだということも強く感じます。ということは、役場はその気になれば小さな村においてもどんな自治体においても、最大のエンジンだと言うことです。
これから必要な役場のあり方を、リアルに見せてもらっている。見ていてものすごく面白いです。

牧)役場がいわゆる役場らしく旧来型の組織であることを前提に、まちづくりのプレーヤーは民間主導だと言う論調はここ10年強かったように思いますが、それは役場が変われない前提に立っているだけの話。役場が変革のエンジンになる意志をもって動き出すと、どれだけパワフルな存在かを西粟倉村は体現しています。民間ができないファイナンスもできるし。魔法じゃないかと思うくらいです。笑

松崎)西粟倉は、その魔法を村を良くするために使っている事例だと思いますね。

牧)過疎地が使える魔法は、中毒患者をつくるケースもあります。中毒化しないためには意志を持って使うことが重要です。

-役場の皆さん魔法使いなんですね…!笑。牧さんに伺いたいですが、特にこの合併しないと決めてから10年ほど、西粟倉村役場は魔法使いへの道をどう歩んでこられたと感じますか?

牧)自分で意志を持ってリソースを獲得して何かを成し遂げる動き方ができる人は本来少数なのですが、西粟倉にはそういう人がたくさんいます。
西粟倉村役場の先輩方には、自分で企画して自分で実行してというのを若いうちからやっている方が多くいて。小泉内閣で自治体予算を圧縮していく努力された時の、自分で企画から実行までやりきるDNAが今動き出された感じがしています。
そのDNAを持った方々が動くと、動くほど追い風を集めるようにどんどん進まれます。
役場が意志を持って動くことが積み上がってきていて、積み上げてきた人たちにとって動きやすい流れも来ている。

上山参事を筆頭に、若い人が推進班として事業が集まり、これからまた自分で企画実行される人が育つ。これからの10年がまた本当に楽しみです。

エーゼロ株式会社 代表取締役 牧大介

上山)楽しみですね。そのうち役場からも起業してる人がまた出てきたりしてね。

牧)その頃には上山さんも起業していて、先輩として次の背中見せてくれていたり。

上山)失敗しちゃったんだよねとなっていたりね。笑

牧)シリコンバレーでは年間1万7千社起業して、1万社廃業しているんです。西粟倉での人口規模だと、毎年8・5社起業して5社廃業していることになります。これからは、廃業するくらいチャレンジは出てきてもいいのだろうと思う。そこは上山さんに見せてもらいたいです。笑
国からのお金で守られてきた地域みたいなものが一般論としてある中で、西粟倉は本当にやりたいことをやるために資金獲得もするし、お金も回し増やし自立していく、健全な資本主義を再構築していこうとするめったにない地域の1つなのではないかと思います。
なんとかやりたいことをやり遂げるチャレンジを一番先頭に立ってやっている役場は面白いですね。

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地方創生推進班の話から、西粟倉村役場の在り方、行政事業の在り方と話は尽きませんが、役場が西粟倉村の大きなエンジンとしての更に機動力を上げていくことで、予想できないほどの面白い村の未来に辿り着けそうでワクワクしてしまう時間でした。
今年の地方創生推進班の活動もまたご紹介したいと思っているので、各プロジェクトがどのように進んでいくのか乞うご期待ください!

読んでいただけると伝わるかと思いますが、西粟倉村役場はローカルベンチャーの1つだと言ってしまえるくらい、熱量も実行力も高い組織です。そんな役場の方々と共に、事業を立ち上げたい方には今丁度その扉が開かれていますので最後にご案内しておきます。

その扉は「西粟倉ローカルベンチャースクール2018」です。

このプログラムでは村での新規事業の立ち上げを役場の方はもちろん、村ぐるみで応援するブログラムです。少しでも関心のある方は是非お問合せください!

 

 

【続編】
役場らしくない役場へ。 西粟倉村地方創生推進班の活動を振り返って
http://throughme.jp/idomu_nishiawakura_suisinhan2/