特集「SDGs×生きるを楽しむ2021」 2 百森2.0 「RE Designによる百年の森林づくりへの挑戦」

西粟倉村が2008年に掲げた「百年の森林(もり)構想」、通称:百森。
それが「2.0」にバージョンアップしたといいます。
どう更新され、百年の森林づくりに向けてどう動いているのか、西粟倉村役場の産業観光課課長であり、百森2.0担当部署責任者の萩原勇一(はぎはら・ゆういち)さんにお聞きしました。
西粟倉村の「SDGs×生きるを楽しむ」を伝える特集企画の、第2回の記事です。

 

山からもっと多様な価値を引き出せるのではないか

— はじめに、「百森2.0」になった背景から教えていただけますか。

萩原:「SDGs」の文脈で村の今後を考えたとき(特集プロローグ参照)、森林資源ははずせません。西粟倉村は面積の約93%が森林であり、そのうちの約84%がスギやヒノキを中心とした人工林です。「戦後の拡大造林のなかで子孫のためを思って一生懸命植えられたスギやヒノキではあるけれど、手入れが進まず荒廃しかけている状況をなんとかしないといけない」。そんな思いから掲げられたのが2008年の「百年の森林構想」、つまり「百森1.0」でした。

「百森1.0」事業として山を整備していくなかで、山のてっぺんまでスギやヒノキが植えられていて、今の作業道では森林施業が届かないところがありました。森林の土壌は、頂上のほうがやせていて、木が育ったとしても今後薄い表土のようなところに巨木が立つことになります。「こうしたところを、今生えている木を伐採した後も用材木(スギ・ヒノキのこと)の生産に使っていくことが本当に良いのか?」。そう常々感じていました。

 

西粟倉村の森林

そこで2018年に「スギやヒノキの生産に向かない山林を他の植生に変えて、人工林だけでなく村の山林全体で考え多様化させていくことで、山からもっと多様な価値を引き出せるのではないか」と本気で考え、「百森2.0」が始まりました。多様な価値とは、従来の木材生産以外の価値のこと。例えばアグロフォレストリーや養蜂の蜜源など、自然に寄り添った多様な引き出し方をすることで、山の価値を最大化させようという考えです。

 

— 具体的には、どういうことをしているのでしょうか。

萩原:2019年から、村内におけるスギやヒノキの分布のほか、それが何年生かなどを全村の山林をデータにし始めました。2016年に航空レーザー測量で木一本ずつの樹高データをとっていて、森林台帳で何年生であるかを調べるんです。80年生の木なのに異様に背が低ければ、生長度が悪いということが分かります。

作業道からの木までの距離も考慮しながら、スギ・ヒノキの木材生産に向いているのかどうか、マッピングする作業をしています。向いていないところは、スギやヒノキ以外の生産や天然林化などを検討していきます。

村だけでなく、複数の民間企業や大学教授の方々と協議し、地図をつくっているところです。2020年からは方針に基づいて地図に落としこんでいて、2020年度に完成させる目標です。年度終わりの頃には、現状の分析がもっと見えてきているでしょう。

 

民間企業や大学教授の方々との協議の様子

村内の森林マップと理想形をつくる「RE Design」

— 見えてきたら、どう活用していくのですか。

萩原:できるだけ今後もスギやヒノキを生産したいという方針ですが、地形や生育状況などの条件から総合的に判断して山林の区域ごとにスコアをつけ、それを基に人工林の生産に向いているかどうかを判断する。言わば、村中の山の理想形をつくっているんです。

もちろん山林には所有者様がいらっしゃいますので、ご意向を尊重しつつ将来所有林をどうしていくかの参考にしてもらい、何十年もかけて理想形に近づけていくことになると思います。「百森1.0」のまま守りに入って粛々とやっていくのではなく、将来に向けての持続可能な開発のベースになっていくはずです。

 

— 未来のための、一手ですね。

萩原:はい、村の理想形を描くところまではきました。今生えているスギやヒノキはいずれ収穫しないといけません。その後にまた同じ樹種を植えるのか、天然林にしていくのかなどはマッピングによって明らかになっていきます。

今は間伐を進めていますが、これから皆伐(樹木をすべて伐採すること)を進めていくフェーズが始まります。例えば森林資源を活用したヘルスツーリズムやアグロフォレストリー、山菜採りなど、またスギやヒノキの植え付けでも、山林の更新に民間の企業や人が関わることが起きるといいなと。新しいアイデアを実現するフィールドとして使ってもらえたらと思っています。

私たちは、マッピングして理想形をつくるところまでを「RE Design(リデザイン)」と呼んでいます。

 

村の若杉原生林を歩くハイキングの様子

村内で進められている養蜂事業のための蜜源づくり(レンゲの種まき)の様子(エーゼロ(株))。ミツバチが好む花畑にも山を活用できる可能性がある

— それが「百森2.0」ということですね。

萩原:はい。村全体の山林を多様化し、村や所有者さん、村外の企業や専門家など多様な人たちの関わりで、西粟倉の山林を理想的な状況にする。計画というより大きなビジョンとして、リアルに再現していくのが最終目標です。

今すぐできるのではなく何十年もかかることですから、理想を見ながらも、景色をどう変えていくのかコツコツと取り組んでいきます。

 

美しく手入れされた、百年の森林

「地域にあるといいな」と思えるものならウェルカム!

— 村外の人にとって、どんな関わりしろがあるでしょうか。

萩原:企業の関係人口という意味では「うちの企業の技術で実験できるんじゃないか」などと思っていただけたらいいなと思っています。その企業さんにとってはデータを集める機会にもなると思いますし、山の使い方についていろいろなアイデアを持ち込んでいただけたら、と。企業でも個人でも、たとえアイデアがなくても、出されたアイデアを実践するところに関わってくださっても嬉しいです。

西粟倉村は小さい村ですが、日本によくある山村の一つなので、ここで実現できたことは他地域でもできるでしょう。ここで実践したことを故郷で展開することもできます。いろいろな人に関わってほしいです。「こうじゃないとだめ」という縛りはつくりたくないんですよ。おもしろそうで、地域にあるといいなと思えるものなら、何でもウェルカムです! ご縁に基づいていろいろなことが起きてきた西粟倉村なので、これから先もそういうことは必要だと思っています。

 

— 萩原さんは西粟倉村出身ですよね。地元の変化をどう見ていますか?

萩原:以前は他の地域を視察して「どうやったらこんな先進地になれるんだろう?」と不思議に思っていたほどでした。今では全国から視察に来ていただく側になり、村民として嬉しく感じています。近年ローカルが注目されるようになりましたけど、私の世代は、若い頃は田舎出身であることや「西粟倉村出身です」とは口にしたくなかったですから(笑)。

子どもたちが「西粟倉村出身です」と胸を張って言えるようになればいいなと願ってきたので、一定の層の方々に知ってもらえるようになったのはすごいと感じています。いつか、西粟倉村出身の子たちがUターンでわんさか返ってくるよう、頑張りたいと思います。