岡山県

西粟倉村

にしあわくら

母親がもっと育児を楽しめる村に! 西粟倉の母親支援プロジェクトから、地域に子育ての輪を育む優しさを感じた

あなたは、共働き派ですか?

近年、40歳前後の大人が子どもの頃と比べて、共働き世帯数は2倍近くに増えています。また、子どものいる世帯においてお母さんが仕事をしている割合は2017年には7割以上となりました(参考:男女共同参画局[男女共同参画白書(概要版) 平成30年版]、[平成29年国民生活基礎調査の概況]より)。

一方、6歳未満の子どものいる子育て世代の家事・育児時間は、夫1時間23分に対し、妻は7時間34分と約6倍に。(参考:[平成28年社会生活基本調査ー生活時間に関する結果ー結果の概要]より) ……とても驚きました。ぼくは男性ですが、世帯における母親の負担がとても重くなっていることを無理なくイメージできました。

全国的に職場と家庭で母親の仕事が増えているなか、西粟倉村では、女性が中心になって、母親支援の取り組みを活発化しています。この記事で紹介する、「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトも、そのひとつです。

 

子どもとゆっくり向き合う時間づくりのプロジェクト

「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトは、西粟倉村の保健福祉課に勤務する保健師・上野恵(うえの・えり)さんがはじめた活動です。2019年で3年目を迎えます。これまで託児サービスを中心に、育児面談、妊婦・両親指導などを実施してきました。

上野恵里(うえの・えり)さん

このプロジェクトが運営する託児サービスは、地域のボランティアによる育児支援です。子育て時間をサポートすることで浮いた時間を、安心して、急用や自分の時間に利用してもらいます。そのために、託児ボランティアの説明会やボランティアとのマッチング、預ける側と預かる側の交流会などを、西粟倉村社会福祉協議会や地域子育て支援拠点「つどいの広場『Bambi』」と協力して、開催してきました。

上野さんがこのプロジェクトをはじめたのは、西粟倉村の母子保健を担当するなか、地域の母親たちと話す機会に恵まれていたからです。

「お母さんたちの話を聞いていると、『イライラして、子どもを強く叱ってしまった』という声は少なくありません。そして、お母さんたちがひとりで反省している姿を見ていたら、『どうにかして、イライラする状況を減らすことはできないかな』『子どもとゆっくり向き合う時間を持てるようになったらいいな』と思うようになりました」(上野さん)

家庭と職場で働きっぱなしの母親たちに、休まる時間をつくりたい。そんな想いから、2017年にプロジェクトを発足。2年目から、「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトと改めて、上野さんをリーダーに、3名のプロジェクトメンバーと2名の協力メンバーで活動を続けています。

 

家事と育児に誠実なチーム

2019年2月時点、「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトの主要メンバーには、上野さんのほかに、西粟倉村の母親たちに詳しい5名がそろっています。上野さんより、メンバーのみなさんを紹介してもらいました。

高木都子(たかき・みやこ)さん

「都子さんは、同じ保健福祉課で、課長補佐をしています。西粟倉村に長く勤めている都子さんは、何を聞いても答えてくれる。地域の営みや子育てにとても詳しい方です。わたし自身は、西粟倉村に来て、まだ3年目なので、たくさん助けてもらっています。地域の他の機関と連携を取ることも担当してくれているんですよ」

木村由子(きむら・ゆうこ)さん

「木村さんは総務企画課に勤務しています。西粟倉村に来て13年と長い方です。子育て真っ最中で、生の声を伝えてくれます。わたし自身は子育て経験がないから、わからない部分をフォローしてくれて、なおかつ、広報をはじめとした他部署との連携も担当してくれる。このプロジェクトが滞りなく進むのも、木村さんのおかげです」

猪田敦子(いのだ・のぶこ)さん

「2018年5月から入村した敦子さんは、西粟倉村に助産師さんが来てほしいと思っていたところに現れた方。経験豊富で、村のお母さんたちともすぐに溶け込んで、サポートをたくさんしてくれています。お母さんたちによく声をかけてくれていますし、信頼も厚い人で、このプロジェクトも支えてくれています」

中野洋子(なかの・ようこ)さん

「社会福祉協議会に勤務する洋子さんは、地域のボランティア活動全般をサポートしている方です。託児ボランティアサービスの「おひさま」も洋子さんが立ち上げてくれました。このプロジェクト以外にも、地域活動をしている方々と密な関わりを持っています」

福井真由美(ふくい・まゆみ)さん

「真由美先生は、保育園に併設されたBambiを担当されています。ご自身も子育て真っ最中で、お母さんたちの相談に乗ってくれたり、託児ボランティアをしてくれたり。毎月、お母さんたちと楽しい時間を過ごせるような企画も立ててくれています。『Bambi通信』という広報媒体をつくるのも上手で、伝えることがうまい方なんですよ」

5名のメンバーに感謝仕切りな上野さんですが、ご自身は子育てをしていないにも関わらず、このプロジェクトを進めています。西粟倉村の母親たちに心が休まる時間を届けたいという優しい想いは、次年度に向けた会議を通して感じることができました。

2019年1月9日、「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトの会議に、『Through Me』のみなさんと訪ねました。1時間の会議では、2年間の成果を棚卸しして、次年度の方針を決める話し合いが行なわれました。

 

子育て支援の多様性とメンバーの想い

2年間を振り返るうえで、上野さんたちの心強い味方になってくれたのは、西粟倉村役場で他のプロジェクトに取り組む地方創生推進班のみなさんからのフィードバックシートでした。(参考:「役場職員は地域変革のエンジンだ。」 西粟倉村役場 地方創生推進班12名の挑戦。)他のみなさんから届いた声で、真っ先に目についたこと。それは、「このプロジェクトをもっと地域に周知していこう」という意見でした。

「村民全戸に配布される広報紙には、毎月、裏表紙に掲載してもらっているんですけど、西粟倉村のホームページでは、情報を更新することが遅れてしまっている。村外の人たちにも見てもらえるように、力を入れていきたいですよね」(上野さん)

「『おひさま』は一時預かり託児だけど、保育園があることも、ちゃんと載せておけるといいよね。子育て関連情報が一覧できるように載せておくのもひとつかな。単身で子どもを抱えている人にとっても、働きに出られる村だと思ってもらえるし」(木村さん)

西粟倉産の木をふんだんに使用して建てられた、村立西粟倉保育園

フィードバックシートには、2年間の活動に好評を寄せてくれる方々も少なくありませんでした。一方で、プロジェクトメンバーの目には、成果と課題が見えているようです。

「『あまり深く考えないで、活動しながら進めていけばいい』という意見には、私も同感なんです。取り組みながら、考えていくことが、チームでできているのは、とても良い成果だと感じました」(上野さん)

「お母さんごとに、心が休まる時間というのは異なっていることに気づきました。預かり保育で休まる人、子どもといる時間を持つことに休まる人、ニーズは多様です」(猪田さん)

「例えば、Bambiなら子どもを預かることができるけど、感染症にかかって熱を出した子どもは、他の子どももいるBambiに来ることができないから、ファミリーサポートのような支援があってもいいのかもしれない」(福井さん)

親子で自由に集まり、交流できる場となっているBambiでのお母さんたちの様子

ファミリーサポートとは、会員登録した家庭同士がサポートし合う状況づくりに取り組む支援の仕組み。家事・育児支援と言っても、種類はさまざまあって、お母さんの心♡休まるサポートプロジェクトですべてカバーできるのかどうかは悩みどころのようでした。とはいえ、100%母親たちの満足できるサポートをしていきたいと思うぶん、その母親たちの状況を考えることに話題は移っていきました。

 

母親のストレスを軽減して楽しさを感じるために

全国的に母親のほうが約6倍の時間を家事・子育てに費やしているという統計が出ているように、西粟倉村でも、家庭と職場で働く母親たちはひとりで子どもと向き合いがち。母親たちの現状は、どんな様子なのでしょう。

「平日は仕事をしながら、家と子どもをみていて、休日も子どもをどうやって遊ばせようかみている。休日くらいは、仕事がないぶん、家のことに集中したいけど、子どもの遊びたい気持ちに応えることに、ストレスを感じているお母さんも少なくないですよね」(福井さん)

「子どもがイヤイヤ期に入っていたとしても、その期間は一瞬。考えてみたら、実はその期間が一番可愛い時期であったりもしますよね」(木村さん)

「小児科健診に来る親子を見ていても、日頃から子どもとコミュニケーションをとれているお母さんなら、子育てがストレスになりにくいようです。健診をみているだけで、子どもとどう接していいかわからない家庭がわかったりもするんですよね」(高木さん)

子どもを預ける場合も、そうでない場合も、子どもと接する時間を楽しめるかどうかは大切なこと。家庭に職場に働きっぱなしの母親たちが、どうすれば子どもとの時間を楽しく感じられるのか。母親たちが家族や地域と協力しながらより子育てを楽しむポイントの1つは、「父親の子育て参加なのでは」という話題に移りました。

「お父さんが子どもと楽しく過ごせたら、お母さんの気持ちに余裕ができると思います。お父さんが子どもとの関わりをどのように考えているのか、知ることも大切なのかもしれません。」(猪田さん)

「お父さんが子どもを散歩に連れていく間に、お母さんが家事をしているところもあるそうです。お父さんにとっても、そうやって子どもと触れ合うことが、父親になっていく上で重要なことなのかもしれませんね」(中野さん)

「お父さんたちは、首が座っていないような赤ちゃんとどう接していいかわからないという話もよく聞きます」(上野さん)

赤ちゃんとの接し方に慣れていない父親は特に、子育てについて考えるきっかけをつくることが大切ではないかと目線が動いていきました。

「お父さんたちに、やってもらいたいことを言ったら、関わってくれる人もいますよね。ただ、『子育てをしてね』だと伝わらないけど、『何時にミルクをあげてね』だったら、やってくれるとか」(木村さん)

家庭内で声掛けすることも解決手段のひとつとは言え、一人ひとりの母親にそれを任せるわけにもいきません。どうすれば、父親たち同士で子育てへの意識を高めることができるのか、という話題に進んでいきました。

 

父親にも子どもと触れ合う機会をオープンにしよう

母親たちには、他の家庭と触れ合うタイミングがたくさんあります。それと同じように、父親たちも、他の家庭に関わる機会が必要なのかもしれません。

「例えば、小児科健診や予防接種に子どもを連れて来る父親はちらほらいるんですよね。その様子をみていて、これまでだったら、父親が出てきやすい雰囲気ってなかったのかもしれないと思いました」(高木さん)

「昔と違って、父親が子どもを連れてくることも増えましたよね。お父さんが子育てでできることを最初に伝えておけるといいのかな。早めにお父さんが赤ちゃんとのかかわり方を学べる勉強会を開いたり」(中野さん)

「子育てを学ぶ場に、お母さんだけでなくてお父さんや家族、地域の方など、いろんな人が来ていることが普通になったらいいかもしれないですね」(猪田さん)

父親が家庭外で子どもをみる機会は、どうすれば増えていくんでしょう。

「他所のお父さんが来ているなら、きっと参加しやすくなるんじゃないかな」(福井さん)

「参観日に、お父さんに行ってみてもらったことがあるけど、誰が来るかなって気にしていたような気がする」(木村さん)

「行きにくい雰囲気を感じている可能性もありますね。そういうお父さんの気持ちを考えることは重要なのかもしれないです。」(高木さん)

親が参加できる場所が、徐々に母親たちの場所になってしまっている状況を少しずつ変えて、父親たちも足を運びやすくしていくことは大切なのではないか。1時間の会議を通じて、父親の子育て参加をもう少し活発にするヒントは、家庭外にも見つけられることに気がつきました。

性別や世代を越えた交流を目指す、プロジェクト活動の一部の様子

 

おしまい

「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトの会議に参加していると、それぞれ異なる立場の女性たちが、自分の見てきたことを話しているぶん、いろんな母親たちの状況を理解していけるチームになっていることがわかりました。

そういうチームだからこそ、これからの活動をより良くしていくために、他の母親たちの協力を必要としていることも教えてくれました。

「わたしたちだけで話してしまうと、わたしたちの知っているお母さんたちのことしか気づいてあげられなくて。他のお母さんたちはどう思っているのか、もっと知りたいです。この話し合いをみて、他のことを知っている人がいたら、声をかけてほしいと思っています」(上野さん)

みんなで子育て環境を良くしていく。そんな西粟倉村らしい「お母さんの心♡休まるサポート」プロジェクトに、あなたも参加してみませんか?