岡山県

西粟倉

にしあわくら

村民の「願い」って何だろう?西粟倉村が「もっと幸せな村」を目指し、調査として50名にお話を聞いたら、やるべきことが見えてきた。

西粟倉村の村民の「願い」を集め、外部のプロデューサーやプロボノ・インターンなどと協働して、「願い」をビジネスへと育てていく「TAKIBIプログラム」。

最初のステップとして、村民に会ってお話を聞き、それぞれの願いを集めよう!

そんなありそうでなかったユニークな調査が、『一般社団法人防窮研究所』理事長で、大谷大学社会学部コミュニティデザイン学科講師の白取耕一郎さんの監修のもと実施されました。

 2022年秋に行われたパイロット調査については、こちらの記事で紹介しました。
2023年には本調査が行われ、白取さんが50名の村民に会い、お話を聞きました。

そこで見えてきた村民の願いとは何か。そして、その願いを実現していくためにやるべきことは何なのか——。白取さんに、調査についてお話をお聞きしました。

※写真は、願い調査をもとにワークショップを実施した西粟倉村役場の皆さんと撮影したものです。

 

調査で浮かんできた、「全員参加の西粟倉村」

— まずは本調査の手法について、教えてください。

白取:2023年6月〜12月までの7ヶ月間、中学生〜80代までの村民50名の方に対して対面で調査を行いました。お話を聞いたのは、一人につき原則90分です。パイロット調査では調査内容を介護医療分野に限定していましたが、本調査では幅広い分野についてお聞きしています。

50名の選出方法については、前回のパイロット調査と同様です。はじめに役場から年齢層などが異なる10名を紹介いただき、お話を聞いた方に友達を紹介していただくことを繰り返し、50名になるまで続けました。ただし、村の人口の構成とずれがないよう年齢層などの調整は行いました。

本調査での対象者を割り付けるために使用したマップ

— 本調査で、どのような村民の願いが見えてきたのですか?

白取:50名のみなさんに「西粟倉村が活気のある村であってほしい」「その盛り上がりは一部の人ではなく、村のみんなにとってであってほしい」という共通の願いがあると分かりました。

また、西粟倉村のみなさんはアイデンティティや誇りを持っていらっしゃることも分かりました。日々感じていることを言葉にしていただき、「ここをこう改善してほしい」という声はありましたが、前向きな姿勢で、投げやりな言葉ではなかったです。

谷あいに住居や施設が連なっている西粟倉村。端から端まで車で移動して30分程の距離感です

白取:一方で未来像については、発言がやや少なかったかもしれません。個人が自分ではなく村のビジョンをもつなんて、普通に暮らしていたらまずありませんよね。でも、みなさんの意見を総合すると「自分が参加してできることをやるんだ」という姿勢を感じました。ボランティアなどをやっている方が多く、「こういう貢献ができる」という声もありました。

また、「快適に住める住宅が多かったらもっと村の人口が増えると思う」、「この時間にこの路線でスクールバスを走らせたら利用者が多いと思う」など、具体的な活動に移せそうなご提案も数多くありました。

そのなかから、みなさんが納得し理解したうえで進んでいく村の未来をイメージとして受け取りました。関わり方やコミュニティのあり方が、願いの実現につながるんだろうなと。そこで浮かんできたのが、「全員参加の西粟倉村」という言葉だったんです。

逆に、今は全員参加ではないからこそ、「全員参加の西粟倉村」という言葉が出てきたとも言えます。さらに、調査して終了ではなく、調査の後に行うことが最も重要だと考えています。今回はただニーズや情報を集めるだけではなく、地域のポテンシャルを調べる調査だったのだと思います。

村に通わせていただき、実際に村民と会ってお話しするなかで、言葉になっていない願いや気持ちを感じたことも、たくさんありました。パイロット調査のときはそこまで感じることはなかったので、見えてきたものは前回より大きいと思います。

白取耕一郎先生

村民の願いは、何から手をつけたらいいのか?

— 若手の役場職員向けにワークショップも開催されたそうですね。

白取:はい、勤務3年目以内の若手職員の方と先輩職員(2017~2018年度にプロジェクト設計&実践の研修に参加した旧・地方創生推進班のメンバー)を対象にした全3回のワークショップで、今回の調査の中間報告を担当させていただきました。私は、2023年11月に開催された第一回の「村民の願いと自身の願いを重ねる」でお話ししたんです。

調査の報告だけではなく、願いの構造関係や、どれから手をつけたらいいのかを実感してもらう作業として、「願いツリー作成ワーク」も設計しました。実は、勢い余ってワークまで設計してしまったんです(笑)。当初私はワークショップの導入部分として報告だけ担当する予定だったのですが、村民の願いについて、何から手をつけたらいいのか考えていただけたらという思いがありました。

白取:ワークでは、具体的な願いが書かれた複数のカードからいくつかを選び、関連があるものをつなげたツリーをつくっていただき、着目したいところも考えてもらいました。どこまで満たされているかという達成度に色をつけてもらい、「これを実現しないと次の願いが満たされない」といった順序も感じていただくようにしたんです。

願いツリー作成ワークの手順図。例えば、ツリーの上部に「村の人口が維持されてほしい」という願いを配置し、下の方に「買い物が便利になってほしい」という願いを配置する

— 参加者はどのような様子でしたか。 

白取:苦心されているときもありましたが、みなさん真剣に、熱心に取り組んでいらっしゃいました。参加者は、就職をきっかけに西粟倉村に移住した方が多いという印象をもちました。そういう方は地元出身の方と比べれば村民の声に接する機会が比較的少ないでしょうし、私の報告の一部に「(村民が)そういうことを思っているんだ」という戸惑いも感じられましたから。

これから願いを全部反映していくのか、ということも含めて、「どう接していけばいいんだろう」と考えていた様子でしたね。そういった戸惑いは、調査をやった甲斐があるとも思いました。

 

地域には、接着剤のような役割をする人がもっと必要

— 願いを実現していくために、これから取り組むべきことは何でしょうか。 

白取:西粟倉村は自然豊かなところですが、一番の魅力は、人のすばらしさだと感じています。みなさんがもつ「力強く生きる知恵」に、私は圧倒されました。その力がうまく組み合わされば、今以上の大きな力になっていくだろうと感じています。

実現されていないという意味で、願いは課題になっていくのだと思いますが、「西粟倉村が前に進んでいるからこそ」の課題なのだと感じています。

村民のなかには、村が進めている事業を知らない方がいらっしゃいました。「今誰が何に取り組んでいて、何が必要なのか」を案外知らなかったんです。他の自治体と同じことをやっているうちは、村民に丁寧に説明する必要はないかもしれません。でも、他の自治体ではやっていないことをやるときには、より詳しく丁寧に説明しないと納得していただけないと思います。

今やっていることをしっかり説明したら、力を貸してくださる方はきっといると思います。『百森』さんが「百年の森林構想」事業のために、村内の集会所をまわって村民に説明されていると聞きました。それはあくまで一例ですが、説明の方法は無限にあると思います。

 

— 取り組みと、村民とのコミュニケーションですね。

白取:その二つは両輪で、どちらも回すことが大切です。地域では人の力がうまく組み合わさっていないことが多く、接着剤のような役割をする人がもっと必要だと感じています。損得勘定だけでは動かない、ある種余計なこともする人にみんなが巻き込まれて、進んでいくものってありますよね。

西粟倉村は先進的でおもしろい動きが既に起きているところですが、「全員参加」の方向で進めたらこれからもっと変わっていくと考えています。取り組みに関心を持った村民が巻き込まれて、意外な展開になることだってあると思っています。

例えば、村のほうから「この物件で、こういう店をやる人を探しています」と呼びかけて、それが村民の願いとうまくつながれば、協力者が現れて実現するかもしれません。サツマイモやイモ焼酎をつくって住民の自治で集落を再生している、鹿児島県鹿屋市串良町の柳谷集落(通称:やねだん)などの例もあります。

西粟倉村は村と村民がお互いに気にかけているので、その可能性をもっと広げたら、より新しい視点が開けるのではないでしょうか。

 

— 最後に、今後挑戦してみたい地域の仕事があれば教えてください。 

白取:私の活動のベースには、「あらゆる人を生活困窮から守りたい。一部の優秀な人が活躍する社会ではなく、全員の力を合わせたときにこそ社会や地域の可能性が開ける」という思いがあります。

私は、人が生活に行き詰まることを総合的に予防し、社会と個人をより幸福にするため活動している『一般社団法人防窮研究所』の理事長を務めているのですが、今回の調査期間中にアプリ「支援みつもりヤドカリくん」の開発をしていました

日本の支援制度は複雑で、「情報を知らないから助成金などを申請できず、生活に行き詰まってしまう」という方が多いと感じています。このアプリでは、個人が自分の現状を入力すると、受けられる可能性のある助成金などの金額のシミュレーションができます。

おかげさまでこのアプリは、東京都主催の⾏政課題の解決に向けたデジタルサービスの提案を競う大会「都知事杯オープンデータ・ハッカソン」で都知事杯(最優秀賞)をいただきました。アプリは東京都の協力のもと、2023年度末の成果発表に向けて開発を進めています。

都知事杯に参加した際のチームメンバーと/提供:一般社団法人防窮研究所

白取:今回の西粟倉村の調査は「聞く」に特化した仕事でしたが、地域の方と一緒に汗をかく仕事もしたいなと思いました。顔が見えるというのはすばらしい環境ですね。一人ひとりに気配りや目配りしたコミュニティづくりに協力できればと思っています。

— 今後のご活動も応援しています。ありがとうございました。