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災害に負けない「エネルギー自給率100%の村」を実現する、新電力プロジェクト開始!鍵は民間企業や家庭にある?【西粟倉村の再生可能エネルギー2022 後編】

全国26の自治体が選ばれた「脱炭素先行地域」に取り組んでいる、岡山県・西粟倉村。
いったいどのような内容なのでしょうか。
さらに西粟倉村では、その取り組みの一つとして新電力会社を設立する予定だといいます。 

地方創生推進室室長で地方創生特任参事である上山(うえやま)隆浩さんと、産業観光課の白籏(しらはた)佳三さんにお聞きしました。

これまでの取り組みを紹介する【前編】と、今後について紹介する【後編】に分けてお届けします。

 

安定稼働の人員体制、木質バイオマスの国産品が課題

— 実践を積み重ねて見えてきた、再生可能エネルギー事業の課題は何でしょうか?

白籏:つくった設備を安定的に稼働させていくための人員体制が課題になっています。採算が取りにくいとき、一般的には仕入れ値を下げようと考えますが、それでは山主さんへの還元が減ってしまいます。「三方よし」をつくるために、公共の立場から線引きして交通整理していく人や仕組みが必要だと思います。

ドイツには、民間でも公共でもない立場で、電気、ガス、水道、交通などの公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業「シュタットベルケ」があります。日本の中山間地域にもそういう組織が必要だろうなと考えています。

白籏:もう一つは、バイオマス関連の製品には海外製品が多く、バイオマスの歴史が長いヨーロッパ製が中心です。そうすると故障したときの部品交換が高くつきます。メーカーやメンテナンスできる人が地域にいないと不便が生じますので、国産に変えられるなら変えていきたいですね。

 

バイオマス発電はパズルのよう。循環社会を目指す 

— 「脱炭素先行地域」の取り組みは「むらまるごと脱炭素先行地域づくり事業」というそうですね。どのような内容なのですか?

上山:エネルギーをつくる取り組みでは、学校などの教育・福祉施設9箇所、産業施設2箇所、観光施設3箇所、村営住宅54戸に太陽光パネルと蓄電池を設置して自家消費を推進します。これらの施設で使われる電力は、村の全電力使用量の約3分の1に相当します。また、「道の駅 あわくらんど」には小型風力発電を整備します。

多くの観光客が訪れる、道の駅あわくらんど

上山:省エネの取り組みでは、新しい施設でLEDや断熱効果のある素材を使ったり、小中学校は建物が古く断熱力が低いので真空遮熱ガラスに取り替えたり、空気を循環させる際に熱が逃げないようする高効率換気設備を導入します。各施設のエアコンも老朽化していますが、整備した地域熱システムに地下水を利用して冷たい水を循環させればエアコンになります。

白籏:バイオマス発電だけでいえば、木材のA〜C材までは価値をもたせることができました。でも、それよりランクが下のものはまだあるんです。例えば、貯木場で発生するバーク(樹皮)。これは価値がなく、野積みしてもスペースをとるし、捨てるとしても産業廃棄物として費用を払って処分しないといけませんでした。

木質バイオマス燃料として、薪ボイラーで使用している間伐材

白籏:でも、バークを新たに活用することになりました。バークを木質チップの乾燥に活用するバークボイラーを導入することになったのです。木質チップは燃やせば温風や温水といったエネルギーになります。熱を有効利用して、これまでコストだったものが価値あるものに変わるというわけです。

 バークボイラーは、切り出した丸太を太陽光と風で乾燥させる貯木場の隣に置く予定です。バークを運ぶにも人件費などコストがかかるので、そこをシンプルにして、発生しているところに置けば効率がいいですよね。西粟倉村のバイオマス発電はパズルのようなもので、こうして少しずつピースが埋まって成り立って、循環社会を目指します。

ただし、バイオマス発電は収入になりにくいので、今後は太陽光発電や地熱(地下水熱)なども束ねてやっと、「脱炭素先行地域」が目指している2030年のカーボンニュートラル、つまり2030年までに家庭部門と民生事業部門の電気による二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするという目標達成がある程度見えてきます。

 

仮想発電所と電力販売契約をスタート!

 — 2030年まで、あと8年をきっていますね。

上山:2030年の目標に対して、2006年の二酸化炭素排出量1万3000トン強から半分まで達成しました。最終的には2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けて進めていきますが、ここからは民間の分野で進めるのが主力になります。

白籏:たとえ達成できなくても、小水力発電は2機あって安定的にエネルギーをFITで中国電力に売っているので、それを地域で買い戻し、目標を達成することもできます。保険がある状態なので、そういう意味では大胆にできます。

— 「むらまるごと脱炭素先行地域づくり事業」の一つとして、これから新電力会社を立ち上げるそうですね。どのような会社ですか?

白籏:二つの役割があり、別会社を考えています。一つが電力の小売り事業会社で村で作った電力を村で使えるように機能させる仕組みです。 

もう一つが電力を作る会社です。この会社と契約することで、各家庭などに太陽光発電システム設備を初期費用ゼロで導入できる仕組みです。

上山:電力を作る会社は、地域である程度見込みがありそうな事業テーマについて、インターンやプロボノ(知識やスキルを活かして貢献するボランティア活動やその人のこと)の方々とブラッシュアップし、始動する起業プログラム「TAKIBIプログラム」を通じて、事業化の検討をスタートしました。電力の小売り事業会社と電力を作る会社の設立等を目指し、2022年度中の事業開始を目指して、体制や事業内容の検討を進めているところです。

上山:電力の供給先としては、ふるさと納税を活用することを想定しています。西粟倉村への寄付に対して、電気をお礼の品として供給するという仕組みです。 

地域のインフラなので、どちらも自治体と連携しながら進めていく会社です。この二つの会社で、地域経済の基盤を創出できればと考えています。

 

脱炭素社会だけではない意義がある

— こうした取り組みによって、村民の暮らしはどう変わるのでしょうか。

上山:各施設や家庭に蓄電池があれば、有事に避難所へ行かなくても電気面では耐えられるでしょうし、先ほど話したように気候変動対策にもなります。

もしも売ることがむずかしくなったら、電気は使えばいいと思うんです。そうすれば生活電力が自前でできるようになります。生活費が安くなり、電気が止まらないという安心・安全につながります。ここに、脱炭素社会だけではない意義があると考えています。今は不安定な時代ですから、一人ひとりが安心して地域で生きていけることも視野に入れたほうがいいのではないでしょうか。

2014年から太陽光発電を開始している、村の全天候型ゲートボール場にて

— 村全体の未来だけでなく、個人の安心・安全にもつながっているということですね。ありがとうございました!

<西粟倉村やTAKIBI事業への関わり方に関する問合せ先>

エーゼロ(株)ローカルベンチャー事業部(TAKIBIプログラム運営事務局)
lv@a-zero.co.jp