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「エネルギーを自前で持とう」と10年以上も実践。多様なエネルギーが織りなすのは、村の豊かな未来。【西粟倉村の再生可能エネルギー2022 前編】

本気で再生可能エネルギーに取り組んでいる地域、といえば……?

容易ではない再生可能エネルギー分野において、この10年以上さまざまな挑戦を続け、先進的な地域として注目されているのが岡山県・西粟倉村です。

しかし、まだこの村が目指すゴール 、ではありません。2022年、さらに新しい事業が始まろうとしているといいます。

これまでの取り組みとこれからの予定について、地方創生特任参事である上山(うえやま)隆浩さんと、産業観光課の白籏(しらはた)佳三さんにお聞きしたら、この村の“現在地”が見えてきました。

これまでの取り組みを紹介する【前編】と、今後について紹介する【後編】に分けてお届けします。

 

「環境モデル都市」で脱炭素社会を目指す方向へ

— 西粟倉村は、2008年に「百年の森林(もり)構想(通称:百森)」を掲げ、2058年を目標年として村ぐるみで挑戦を続けていくことを宣言しました。その後、再生可能エネルギー事業に注力していった背景を教えていただけますか?

上山:まず、西粟倉村は「百森」で始まったさまざまな取り組みによって、地域に暮らす人たちがそれぞれの役割を担い、楽しみながら暮らせる「生きるを楽しむ」を 2030 年に実現することを目指しています。ただし、その2030年は一つのマイルストン(中間目標地点)であって、もっと遠い目標も掲げています。2058年に持続可能な森林環境を実現し、「百年の森林に囲まれた上質な田舎」にしていくことです。

これまでの50年を受け継ぎ、あと50年先も続く森林を目指し、整備された西粟倉村の森林

上山:再生可能エネルギー事業に注力した大きなきっかけは、2013年です。中国自動車道から西粟倉村を通って鳥取まで続いている鳥取自動車道(中国横断自動車道姫路鳥取線)の佐用JCTから鳥取IC間が全線開通し、京阪神と鳥取がより短時間で結ばれました。一方で、これまで村内の「道の駅 あわくらんど」に立ち寄ってくれていた多くの人が、西粟倉ICでは下りずに村へ来なくなってしまう可能性が出てきたんです。

そこで、ほかのまちではなく西粟倉村を目的地にした観光を意識して、村に何があるかを考えました。まず、国定公園の特別保護地区である「若杉天然林」や温泉があります。また、「百森」による新しい森林管理の取り組みが注目を集め始めていました。

村の小水力発電所第1号である「めぐみ」

— 今あるもの、関心が集まっているものを考えたのですね。

上山:はい。そんなときに、先駆的な取り組みにチャレンジする都市を国が選定し、その実現を支援する「環境モデル都市」を知りました。西粟倉村では、政府による再生可能エネルギーの固定価格全量買取制度(FIT)がスタートしたことを受けて、老朽化した小水力発電所を改修しFITにのせて利益を出す事業が予定されていたので、「全国モデルになるのでは」と応募したところ、同年、全国23自治体の一つに選定されたのです。

百年の森林構想の立ち上げ当初から今日の再生可能エネルギー事業に至るまで、役場の取り組みを推進してきた上山隆浩さん

上山:この「環境モデル都市」で、初めて「脱炭素社会」、つまり二酸化炭素の排出が実質ゼロを目指す方向へ振り切ることになったんです。これが一つの旗になりました。

視察がより増え、視察者が村内の観光施設に寄ってくださり賑わいました。「百森」の進展により木材の搬出も増え、バイオマス利用でないと価値を生まない木材も搬出されていましたので、さらに次の手も打って流れをつくろうと、2014年に「バイオマス産業都市」の選定を受けました。

 

二酸化炭素排出量の削減は、あくまで結果

— 上山さんが中心になって、そのように全体をプロデュースしていったのですね。一方で、現場で進めていったのは白籏さんだとお聞きしました。

白籏:はい。小水力発電と木質バイオマス発電を再生可能エネルギー事業の二本柱にして進めてきました。小水力発電は以前から始めていましたが、木質バイオマスは未利用材がきっかけでした。

間伐した木材は品質によりA〜Cにランクを分けるのですが、最も低いC材は山で捨てられていたんです。それがもったいないので、なんとかして使おうと考え、「木質バイオマス燃料として利用しよう」という結論になりました。

約10年にわたり、村の再生可能エネルギー事業の現場を最前線で支え続けてきた白籏佳三さん

白籏:その頃に環境省から脱炭素社会に関わる補助制度が複数出て、それを活用させていただきながら進めていきました。具体的には、山にある木の量から計算して、木質バイオマスの設備を計画したんです。仕入れや売電からではなく、使える木の量から逆算しました。

— ここでも、今あるものから計算したのですね。

白籏:年間約2,000立方メートルの木材が燃料に利用できます。まず薪をつくり、地域熱供給として公共施設の空調設備の熱に利用したり、小型のガス発電に利用したりしました。宿泊施設『国民宿舎あわくら荘』と『あわくら温泉 元湯』の温泉では、灯油による加熱ボイラーを使っていましたが、木質バイオマス燃料による薪ボイラーに更新しました。

村の温浴施設に導入された薪ボイラー

白籏:心がけたのは、山(森林)に負担がかかる施設はつくらないことです。山のスケールに合わせた規模にするようにしました。二酸化炭素排出量の削減は、目的ではなく、あくまで結果ですから。小規模分散型の再生可能エネルギーの導入を進め、村のエネルギー自給率を100%にするのが目標です。

 

三つの理由で「脱炭素先行地域」に選ばれる

— 2022年4月、西粟倉村を含む全国26の自治体が第一回の「脱炭素先行地域」として選ばれました。「脱炭素先行地域」とは、2030年度までに民生部門の電力消費に伴う二酸化炭素排出実質ゼロを実現するとともに、そのほかの温室効果ガス排出削減についても、国全体の2030年度目標と整合する削減を実現する地域です。選定を受けたポイントは何だったのでしょうか。

上山:おそらく三つあると考えています。一つ目は、多様なエネルギー事業をやろうとしている点です。西粟倉村のエネルギー関連の計画には、木質バイオマス発電だけではなく小水力発電や太陽光発電もあり、今度新たに風力発電の事業にも挑戦します。複数の発電事業を組み合わせることで、どれかが難しくなっても村内の発電がゼロになることはありません。地域にあった多様な再生可能エネルギーを活用する点を評価いただいたのではないでしょうか。

2021年には、百年の森林に囲まれた場所に第2小水力発電所を設置

上山:二つ目は、エネルギーを地域で使う仕組みをつくろうとしている点です。新たに電力事業を行う会社の設立を計画しています。 これが実現すれば、村内の公共施設に西粟倉村産の電力を供給できるので、安定した価格で電力調達することが可能になります。そうすれば住民の負担が減ることになります。FITは20年間で終わる制度ですから、電力を使う仕組みを自前でつくれるかどうかにも注目していただいたのだと思います。

三つ目が、実現性の高さです。国は計画を認定し、実行のための予算を交付する ので実際に計画を達成してもらわないといけないと考えるのは当然だと思いますが、西粟倉村は金融機関や民間企業と共同提案をしたので、その実現性を高く評価いただいたようです。

— 多様なエネルギーをつくり、村内で使うとは、すばらしいですね。

上山:エネルギーを自前でもつことは、非常に重要だと考えています。エネルギー価格が変動しないのこと は強みになりますし、何よりも気候変動対策にもなります。気候変動による森林の災害は「百森事業」により予防・管理できるのです。

西粟倉村では、大雨が降っても山が崩壊しない、いわば自然のダムをつくるような森林管理に2009年から取り組み続けていて、村の5,500haの半分弱にあたる約2,700haの森林を管理し、2,000haの間伐を終えています。

このように、脱炭素社会だけとかバイオマスの採算がどうだとか一つの側面ではなく、「百森」に始まるビジョンのなかで、意味のある複数の事業をつくっています。

後編に続きます。