岡山県
西粟倉
にしあわくら
西粟倉村をごちゃまぜにする担い手、募集。
NPO法人じゅ〜くの新事業「森のこども育成事業」
Date : 2017.09.05
人口1500人の岡山県西粟倉村で、子どもたちの「楽しい!」を軸に、地域で暮らす人たちがそれぞれの自分らしさを生かせる社会をつくることを目指す、「森のこども育成事業」が始まります。今回は、その第一歩として障がいのある就学児を対象とする「放課後等デイサービス」(以下、放課後デイ)を企画運営するスタッフを募集します。
当事業を始めるのは、村内で就労継続支援B型作業所「プラスワーク」の運営などを行う、NPO法人じゅ〜く(以下、じゅ〜く)。発起人は西粟倉ローカルベンチャースクール2016の採択者であり、じゅ〜くのスタッフとして働く大橋由尚(よしひさ)さん。
「子どもだから」「高齢者だから」「障がい者だから」と決めてかかるのではなく、「それぞれがありのままに力を出し合えるような場をつくりたい」と語る大橋さんに、事業への思いとここで働く魅力についてお聞きしました。
ローカルベンチャーの下支え、就労継続支援B型作業所「プラスワーク」
「森のこども育成事業」の母体となるじゅ〜くは、平成26年に設立されたNPO法人。「じゅ〜く」という名前は「障がいのある方たちが社会に出るための“塾”になれれば」という思いから。まずは、じゅ〜くについて大橋さんにお話をうかがってみましょう。
今年でじゅ〜くは創立4年目を迎えられました。改めて、じゅ〜くを立ち上げたときの思いを教えてください。
大橋:当時、西粟倉村には障がい者の方が働ける事業所はなく、多くの方が近隣の町の作業所などに通っておられました。作業所があれば、障がい者の方やそのご家族にも西粟倉村内で暮らしていくという選択肢が生まれるかもしれない。また、西粟倉で起業したローカルベンチャーのみなさんを応援したいという思いもありました。
西粟倉にはものづくりのアイデアを持つ起業家のみなさんがいます。僕らの事業所が、製品化のプロセスで発生する作業の受け皿になれば、彼らにはものづくりの部分に集中してもらえる。村内の仕事を上手に振り分けられたらいいなと思いました。
今、じゅ〜くではどんなお仕事をされているのですか?
大橋:メインになっているのは「西粟倉・森の学校」の仕事です。看板商品である「ユカハリ・タイル」の木の節をパテで埋めたり、丸太をサンドペーパーで削ったり。あとは、割り箸の製造・検品から箸袋に入れる仕事などですね。これらの仕事の一部を、「プラスワーク」に通所する利用者のみなさんと一緒に行っています。ほかにも、じゅ〜くの事務所やプラスワークがある旧影石小学校内に入居する「エーゼロ株式会社」から鰻の養殖に使う濾過装置のフィルタ清掃の仕事も請け負っていますね。
今は、スタッフと利用者さんはそれぞれ何人いらっしゃいますか?
大橋:プラスワークでの支援担当が4名、割り箸の製造担当や鰻の養殖担当などを併せて10名います。「プラスワーク」の利用者さんは9名ですが、毎日通ってくるのは5〜6名。スタッフも利用者さんも、半数以上がが西粟倉村の村民です。利用者さんの定員は10名ですから、平均すると稼働率は50〜60%くらい。まだまだ受け入れ可能な状況です。
利用者さんと仕事のマッチングはどのように判断されているのでしょうか。
大橋:現状としては、利用者さんに対して受注する仕事の方が多いので、スタッフも必死で作業しなければいけないくらいで。「好き嫌いはあるかもしれないけど、まずはみんなで一所懸命がんばろう!」という感じでやっています。仕事はやってみないとわからないこともありますから、作業中の表情や生産性を見ながらマッチングを考えていきたいとは思っていますね。
「ごちゃまぜ社会」をつくりたい
「プラスワーク」で、障がい者の人たちに接するなかで、大橋さんは「こんなことができるのか!」とその可能性に心動かされる瞬間があると言います。「障がい者だから」「高齢者だから」「◯◯だから」…と決めつけてしまうことで、その人の可能性の芽を摘んでしまうことは、日常の中にもあるかもしれない。
あらゆる人が自分らしさを生かして活躍できる場をイメージしたとき、大橋さんは「その中心になるのは子どもじゃないか」と考えました。大橋さん自身が、障がい者の支援の枠を超えて子どもを中心とした事業にたどり着くまでには、「西粟倉ローカルベンチャースクール」への応募が背景にありました。
「西粟倉ローカルベンチャースクール」に応募されたのは、「森のこども育成事業」を立ち上げるために?
大橋:いや、当初は、現在の事業をベースにしたアイデアを発表したんです。しかし、そもそもローカルベンチャースクールに応募したのはもっと根本を考えたいと思ったからでした。西粟倉に集まってくる面白い人たちに刺激を受けながら、障害のある人たちと関わる自分の仕事を見つめ直すなかで「自分自身は何をしたいんだろう?」と考えるようになっていたんです。選考のプロセスで「本当は何をしたいんだろう」と自分を掘り下げ、立ち返るべき原点を探っていくなかで生まれたのが、「森の子ども育成事業」につながるアイデアでした。
僕自身の原点は、日々の仕事のなかで障がい者の方の可能性に気づいたり、活躍する姿に心が震えるような瞬間。そこに思い至ったとき、障がい者だけではなく、地域で暮らすお年寄りや、子どもたちも本来持っているはずの可能性に対して、機会を提供する場をつくりたいと思ったんです。
障害のある人だけでなく、近所のおじいちゃんやおばあちゃん、子どもたち、その親御さんたちも、地域の人たちが一緒にまざって生活したり、遊んだりできる「ごちゃまぜ社会」を西粟倉村につくりたい。その真ん中にいるのは子どもなんじゃないかと思い、子どもを対象とした事業をやってみようと思いました。
「ごちゃまぜ社会」について、もう少し詳しく教えてください。
大橋:一般的には「共生社会」とか「インクルージョン(inclusion)」と言われますが、わかりにくいし、馴染みにくいでしょう?もっと誰にでもイメージしやすい表現はないかなあと探していた時に、「ごちゃまぜ社会」という言葉に出会いました。
例えば、地域のなかで障がい者の方は“支援される側”という存在だったわけですが、その人たちが活躍できる仕事があれば、“地域に貢献する人”になれます。ついつい“高齢者”という言葉でひとくくりにしてしまいがちですが、同じ年齢であっても人によって体力や健康状態はまちまちですよね。
“障がい者”“とか“高齢者”という縦割りの壁を取り払い、みんなで地域の課題を解決していくには、混ざる場所と時間が必要だと思うんです。そういう場所で、地域の住民みんなが混ざり合おうとする意識を持っている状態が、僕が思う「ごちゃまぜ社会」。「森の子ども育成事業」は「ごちゃまぜ社会」をつくるきっかけになると思っています。
森のこども育成事業の場づくり“放課後等デイサービス”
「森のこども育成事業」では、放課後デイを軸としながら、地域の子どもたちを対象に年数回のイベントや短期合宿を開催予定。西粟倉の豊かな自然を舞台に、全国から集まってくる“一芸ある”移住者を講師に迎えるワークショップなども計画しています。
それではいよいよ、「森のこども育成事業」についてお話を伺いたいと思います。実際にはどんな企画が進んでいるのでしょうか。
大橋:手始めに、今年から来年にかけて子どもを対象にしたイベントも3回企画しています。これは障がいのあるなしに関わらず、幼稚園生〜中学生がメインの対象です。先日、第一弾として「gettaスポーツ教室(講師:宮崎要輔氏)」を開催しました。一本歯下駄を使って、遊びながら眠っている筋肉を呼び起こすトレーニングです。初めての開催だったので集客できるか、事前の準備や当日の場づくりなど僕自身もドキドキでした。でも蓋を開けてみれば、村内外から子供達が集まってきて、下は幼稚園生から上は中学生、保護者や僕自身も一緒になって全身を使って楽しんでいました。まだ課題や工夫できることもたくさんありますが、まずは小さな「ごちゃまぜ」を形にできた第一弾。少しずつその輪を広げていけるよう、仕掛けていきたいですね。
来年3月に開所を目指しておられる放課後デイについては、どんなプログラムを考えておられるのでしょうか。
大橋:放課後デイは、障がいのある児童(小〜高校生)が放課後や長期休暇中に通える場所。今、障がい者の方たちと関わるなかで、早期療育(※)の必要性を感じていますので、療育型の放課後デイにしたいと考えています。
子どもの頃に、一人ひとりの「楽しいこと」をちゃんと見つけて大事にしてあげながら、何かを達成する喜び、失敗も成功も経験する機会をつくってあげられたら、自信を持って社会に出ていけるんじゃないかと思うんです。
※療育:障がいのある子どもが社会的な自立に向けて取り組む治療と教育。早期に行うことで適応障害を防ぎ、社会生活をしやすいようにサポートできるとされる。
放課後等デイサービスを企画運営する仲間には、どんな人に来てほしいですか?
大橋: イメージですけれど、やっぱり子どもが走り回っているのを見て、ニコニコしてくれる人かな。子どもたちだけではなく、自分たちも楽しめるのが一番じゃないかと思います。どうしても、福祉の仕事は「支援しないといけない」という風になってしまうんですけど、本当に自分がそれを楽しいと思える、好きだと思える人と一緒に仕事をしたいです。
具体的には、保育士または指導員の方、児童発達支援管理責任者の方、そして管理者(資格不要)の3名を募集します。
この場所だからこそ、出会いが事業を育む
大橋さんは、大学卒業後は神戸市内の高齢者福祉施設に就職。父・平治さん(理事長)がじゅ〜くを立ち上げる時に西粟倉村に戻ってきました。これから放課後デイで働くスタッフの方はおそらく移住と就職がセットになるはず。大橋さん自身にもUターンの理由を教えていただきました。
大橋さんはなぜUターンしようと思ったのですか?
大橋:直接的なきっかけはじゅ〜くの立ち上げでしたが、理由はそれだけではなかったように思います。
西粟倉村に帰ることを考えたとき、漠然と思っていたのは「田舎で子育てしたい」ということ。あと、西粟倉村に移住者が増えて、自分のやりたいことをしている人たちが集まっていて、面白くなってきたということも大きな理由でした。
大橋さんが仕事や生活のあり方を考えた時、改めて自分自身と向き合う場として、地元である西粟倉村は魅力的な地域に育っていました。
じゅ〜くの事務所がある旧影石小学校には、前述したエーゼロの他、フレル、帽子屋UKIYOをはじめとした7つのローカルベンチャーも入居。さまざまなイベントの舞台にもなっています。
大橋:そうですね。この場所にいることからも刺激を受けられると思います。僕もここで、いろんな人と交流するなかで、自分の生活や仕事への向き合い方を考えるようになりました。
実は、僕はここの卒業生でもあります。思い入れも深いこの場所が、廃校になった後もローカルベンチャーの拠点として様々な事業を受け入れていることは、単純に嬉しいです。そして僕自身も、ここで新たな事業を始められることに特別な思いを持っています。西粟倉に帰ってきていなければ、経験していなかっただろうと思うことのひとつです。
大橋さんに「この村で一番好きな場所はどこですか?」と尋ねると、少し考えた後に「(旧)影石小学校ですね」と返ってきました。今では“ローカルベンチャーの村”西粟倉村のシンボルとして、村外にも知られる桜色の木造校舎。
しかし、大橋さんから見るこの場所は、また少し違っているのかもしれません。西粟倉村で生まれ育った大橋さんが、したたかさの中にも挑戦の光を携えて新しい事業に踏み出したように。この場所もまた、村の長い歴史の中で新たな拠点としての輝きを放ち始めています。
最後に、応募を考えてくださる方に大橋さんからメッセージをお願いします。
大橋:じゅ〜くは規模の小さい組織ですから、カンファレンスの場を持つまでもなく、職員同士で「もっとこうしたらどうだろう?」「じゃあ、明日からやってみよう」と、ごく自然に利用者さんへの対応の仕方を話し合っています。そういう日常に溶け込んだ支援の在り方も、良さのひとつだと思います。
また住む環境としても、事業を運営する環境としても、西粟倉は自然に恵まれています。みんなで森に行って何か気づきを得るだけでも、他の場所ではできないことです。窓の外の景色からも、季節ごとの変化を感じることができます。西粟倉らしさを”ごちゃまぜ社会”にも取り入れて、楽しんでいきたいですね。
子どもを中心にいろんな人が集まる場所や時間をつくること、障がいの有無にかかわらず子どもの持つ可能性を育みたいと思っている人は、まずは是非一度西粟倉に来てください。
「森のこども育成事業」は、まだ助走期間にあります。
もちろんすでに進んでいる企画もありますが、大橋さんの試みが“事業”として本格的なスタートを迎えるためには、「ごちゃまぜ社会」という一つの地域の姿に向かって、ともに歩んでいける仲間が必要です。この事業自体が、大橋さんだけでなく様々な人たちの思いが集まった「ごちゃまぜ」になって初めて、想像を超えた可能性を帯びて成長していくのです。
子どもの笑顔をやりがいに地方で働きたい、教育・福祉の枠を超えたコミュニティづくりに携わりたい、なんだか大橋さんの志にグッときた。それがあなた自身の感じたことであれば、どんなことも応募の理由になり得ます。
あなたも「ごちゃまぜ」の一味として、船出を迎えようとするこの新事業に乗り込みませんか?