岡山県

新庄

自分らしく生きることで、日本一美しい村を守り継ぐ。 森と生きるフォレスターという選択肢。

人口が1,000人を切る岡山県でいちばん小さな自治体「新庄村」。日本で最も美しい村連合にも加盟するこの村の誇りは、ブナの原生林が生い茂り、希少な動植物が数多く生息する森林です。村では古くから林業が盛んで、大自然の恩恵を享受しながら生活を営んできました。しかし、近年は山で生計を立てる人も少なくなってきたと言います。この財産を、後世に受け継いでいくために。新庄村では昨年から地域おこし協力隊としてフォレスターの採用をはじめました。自分らしく生きることが、美しい森林や村づくりにつながる。ここにしかない新しい生き方に惹かれ、全国各地からさまざまなバックボーンを持った人たちが集まり始めています。

 

家族のように、おせっかいをやく

村長:林業なしに、村の未来を語ることはできません。この森林資源の価値を最大化し、再び林業に希望を抱ける村にするために。村ではさまざまな施策に取り組んできました。地域おこし協力隊の採用もその一環です。実は村でフォレスターを採用するのはこれが初めてではなく、15年前にも全国に先駆けて同じような試みをしたことがあります。村外から5人の候補者を採用したのですが、残念ながら5年後には0人に。ちゃんとした受け入れ体制ができてなかったので、みんな村を離れていってしまったんです。同じ過ちは二度と繰り返せない。私たちはこの反省を踏まえ、仕組みを整えていきました。

村の親父として協力隊を見守る新庄村長:小倉博俊氏

村長:そのひとつとして、今年の2月に発足したのが「地域おこし協力隊活動支援委員会」です。委員会は役場職員だけではなく、地域で活動するさまざまな組織の代表者で構成。村をあげて、家族のように協力隊をサポートできる体制を整えました。このような支援体制は、協力隊を受け入れる自治体では全国でも初めてのことのようです。
委員会の役割は、簡単に言うと「おせっかいやき」。あちこちからおせっかいをやくことで、協力隊の困り事や悩み事が顕在化する前に解消していくわけです。私自身も委員会のメンバーですから、食事の席を設けて村の親父としてみんなと語らうことも。もちろん、親父にはストレートに相談しにくいこともあるでしょうから、そこは支援委員や職員、村のみなさんでどんどんおせっかいをやいてもらうようお願いしています。15年前に失敗したのは、双方がお見合いをして、最後まで互いのあいだにあるガラスの壁を壊せなかったんです。だから今度は村民の側から積極的に歩み寄っていこうと。もちろん、協力隊にも村のイベント事には出来る限り参加してコミュニケーションを図るよう声をかけています。また、村民に向けて活動報告会も実施。協力隊や協力隊の活動を見える化し、個々への理解が進んだことで、交流がより活発化してきています。

2017年6月23日に開催された報告会の様子

 

3年で一人前のフォレスターに

経験がない人にとって林業は未知の世界。自分にもできるの?ちゃんと稼げるの?素朴な疑問を新庄村役場産業建設課・主事の池田さんにぶつけてみました。

学生時代は森林科学を専攻されていた池田さん。林業の可能性を追求するため村外から新庄村へ。

池田:新庄村の地域おこし協力隊には「就職型」と「起業型」があります。林業の経験をお持ちでない方は、基本的に就職型での採用を予定。村内で林業を営む國六株式会社か真庭森林組合で働き、一から学んでいただきます。フォレスターになるには、チェーンソーをはじめ、フォワーダやグラップルといった林業機械を使いこなす技能や資格が必要です。新庄村では協力隊の任期である3年間で、それらを一通り習得できるように育成プログラムを組んでいます。講習会への参加や、資格取得にかかる費用は役場が全額負担。希望に応じて、狩猟免許なども取得いただくことができます。そして3年後は、双方の合意の上で國六か真庭森林組合へ就職。或いは、フォレスターとして独立し、個人事業主として林業を営む道もあります。

 

半林半Xができる新庄村型フォレスターとは

新庄村では現在、7人の協力隊員が活動をしています。そのうち、3名がフォレスター志望者。「起業型」で採用された椿さん(25歳/2年目)もそのひとりです。大学の課外活動で出会った林業の爽快感が忘れられず、新卒で入職した金融機関を1年4ヶ月で退社。フォレスターになるため、新庄村へやってきました。

椿:大学の課外授業で林業のトリコになり、一通りの技術を身に着けました。今は國六さんや森林組合さんで助っ人として作業させていただいています。最近では前から興味のあった農業にも挑戦。近所の畑を借りて、野菜づくりを始めました。さらに今年は狩猟の免許を取ろうと思ってるんです。林業は基本的に日給月給制です。稼働した日数分だけ給与が支払われます。だから、雪で作業ができないことが多い冬期は、どうしても実入りが減ってしまう。雪の少ない真庭に出れば仕事はありますし、除雪の仕事もあります。それだけでもやっていけるんですけど、せっかくなら自然資源をめいっぱい活かして楽しみながら稼ぎたいじゃないですか。
この村に来るまでは、林業ができるならどこでもいいと思っていました。でも、ここで協力隊として活動を続けるうちに、やりたかった林業以外にも自然の中で生きていく術がたくさんあることを知りました。それは豊かな自然が息づく新庄村でしかできないこと。今はその生き方に大きな可能性を感じています。

 

村中の若者が集まる居酒屋さんで村合コン?

古くは出雲街道の宿場街として栄えた新庄村。今も街の中心には当時の面影を残す街並みが広がっています。通り沿いには小さな商店もあり、食料品や生活用品は一通り揃えることができるそう。また、一角には村中の若者が集う居酒屋さんも。椿さんはそこで開催された合コンイベントで、運命的な出会いをされたそうです。彼女との交際がスタートして1年。今では結婚も視野に入れておられるとのこと。「結婚したら彼女の家の畑も手伝って、農家としてもちゃんと生計を立てていきたいと考えています。その前にまずは一人前のフォレスターになることが先決です。」

連日、村の若者たちで賑わう本坂屋

 

理系女子や建築士が、新庄村を選んだ理由

つい先日、協力隊として活動を始めたばかりの二人は未経験スタート。栃澤さん(36歳/1年目)は大学で宇宙工学を専攻していた理系女子。塚田さん(31歳/1年目)は大学院卒の元建築士。林業とは縁もゆかりもない生活を送ってきた彼らが、どうして、これまた縁もゆかりもない新庄村へやってきたのでしょう。現在、國六で修行中のお二人にお話を聞いてみました。

栃澤:大学を卒業後、IT企業に就職。ITエンジニアとして昼も夜もない生活を送っていました。しかし、そんな生活が長く続くはずもなく。次第に周囲からの期待も重荷となり、体調を崩すようになりました。東京で生まれ育った私はこの目まぐるしい日常に何の疑問も抱いていませんでした。でも、息切れをしてはじめて、無理をしていたことに気付いたんです。そんなときに目に止まったのが、SNSでシェアされていた新庄村の募集記事でした。大自然の中で働けば、生活のリズムを取り戻せるかもしれない。全身を使うこの仕事なら身体も鍛えられる。心身のバランスを崩していた私にとっては、フォレスターという仕事が魅力的に感じられました。いちばんいいなと思ったのは、与えられた仕事を毎日コツコツと積み重ねていくことが、自然環境の保護につながるところ。誰かの期待に無理に応えようとしなくても、日々の生活を大事にすることで誰かの役に立てる。都会にはない、私の求めていた世界がそこにありました。

塚田:建築士事務所で住宅や公共施設の設計をしていました。好きで踏み入れた世界ではありましたが、いつしかストレスが限界に。図面と向き合う毎日に嫌気がさすようになりました。違う仕事がしたい。そう思って、前から興味のあった地域おこし協力隊を調べていたときに、ぐっと惹きつけられたのが新庄村の募集でした。林業のことなんて何も知りませんでしたが、「体を動かす仕事がしたい」「手に職をつけたい」という軸で職を探していた私にとってはぴったり。しかも、サポート体制も手厚く、一から丁寧に教えてもらえるということだったので、これはチャンスと思って応募をしました。実際、國六のみなさんは想像以上にやさしく、教え方もうまい。二人ともここにきてまだ間もないですが、いろんな経験をさせてもらっています。

國六のみなさん。右が山林部長兼所長の黒田さん。

 

村の未来をいっしょに考えてほしい。

地域おこし協力隊に誰よりもおせっかいをやき、熱い期待を寄せるのが國六株式会社の黒田所長です。「協力隊は村の希望です。だから、村の一員としていっしょに未来を考えてほしい。」そう語る黒田さんは新しい隊員が入ると、真っ先に連れて行くところがあるそうです。それは、麓の街に豊かな水を供給する源となる毛無山のブナ林。國六は、村だけではなく日本の財産とも言える、この大自然を守り受け継いできました。新庄村でフォレスターになること。それは、ここに息づく動植物や、美しく澄んだ水を後世に受け継いでいくことでもあります。黒田さんはその仕事の尊さを伝えるために、毎回ここにやってくるのです。

 

ますます広がるフォレスターの可能性

このように村中から大きな期待を寄せられる地域おこし協力隊。最後に村役場の池田さんに協力隊の未来についてうかがいました。

池田:新庄村においては、フォレスターがもっとも可能性のある職業だと思います。林業を生業にする地元の若者も数名いますが、彼らの大半が個人事業主。みんなでグループを組んで、森林組合の仕事を請け負っています。個人でやるには自前で林業機械を揃える必要がありますが、そこは村がバックアップ。500万円まで無利子で融資を受けていただける制度があります。このように技術さえ身につけてしまえば、食べていける土壌がある。協力隊のみんなが一人前になれば、そこでグループを組めますし、可能性はさらに広がります。もちろん、國六や森林組合に就職すれば、安定した生活を送ることが可能。いろんな経験を積みながら、自分に合ったキャリアを描いてください。

住居も用意。現在、新たな村営住宅の建設計画が進められています。

 

まずは新庄村をお試しあれ

また、自分の未来だけではなく、私たちといっしょに林業の未来を考えてほしい。そういう気概を持った方に来ていただけると、私たちとしてもうれしいですね。地域おこし協力隊の活躍もあり、新庄村では今、新たな試みが続々と進行中です。林業で言えば、村内で材が流通する仕組みをつくろうとしています。さらに木材の熱利用についても模索しているところです。林業以外では、道の駅のグレードアップや、テレワーカーの人材育成、地域資源を活かした製品開発、宿泊施設の新設なども計画されています。これら新規事業の担い手としても協力隊に期待を寄せており、今後も積極的に増員を予定。最近では村のPR担当として、愛知出身の愛ちゃんが協力隊として新加入しました。近年は移住者も増えているので、地域の偏見もなくなり、コミュニケーションも活発です。知らない土地で新生活をはじめるには勇気がいると思いますが、住めば都。案外なんとかなるものです。もちろん、明日から来てくれとはいいません。興味をお持ちの方には、まずは林業を体験していただきます。そして、新庄村に1泊以上していただいた上で、ご検討いただければと。要望があれば、全国のどこへでも私が面接へ伺います。ですから、まずはお問い合わせください。あなたにお会いできる日を楽しみにしています。