京都府
美山
みやま
京都美山の秘境・人口40人の芦生集落に根ざし、働く。五感を活かし、地域のよさを掘りおこす。
Date : 2016.11.30
京都市内から車で北上すること約1時間半。滋賀、福井と県境を接する美山町には、山々と田畑、時折みえるかやぶき屋根の家など、日本の原風景とも呼べるような光景が広がっています。この町の最も奥にあるのが、西日本最大の原生林「芦生の森」を擁する芦生集落。ここには「自然」と「自然の中の遊び・暮らし」をテーマに、10年以上ツアーやキャンプを開催してきたNPO法人芦生自然学校があります。今回は、芦生という地域を全身で感じ、そのよさを一緒に掘り起こしてくれるスタッフを募集します。
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芦生の雄大な原生林に抱かれた秘境、芦生集落
周囲をいくつもの山々に囲まれ、美しい一級河川、由良川が中央を流れる美山町。昔話に出てくるような懐かしい風景の中、由良川沿いに車を走らせます。いくつかの集落を過ぎ、ようやく現れるのが、美山の秘境、芦生集落です。ここに暮らしているのは現在40名ほど。その半数以上は60歳を超えたお年寄りの方々ですが、350年以上も前からあるこの集落でのくらしを、今も元気に守っています。
この集落の奥にある芦生の森は、ブナやトチノキ、アシウスギなどの木々が自然植生する、西日本最大の原生林地帯です。日本海と太平洋の気候のちょうど境目にあるため、他にはない豊かな動植物の生態系が育まれており、現在は京都大学芦生研究林として管理されています。森に入ると、どこか神聖な雰囲気につつまれます。
この芦生をフィールドに、子どもも大人も本気で自然を味わえる企画を作ってきたのがNPO法人芦生自然学校。大人には、芦生の森を歩きながら森の現状を知ってもらうエコツアーを。子どもには木々に囲まれたキャンプ場を拠点に、田畑でお米や野菜を育てて収穫したり、原生林や美山川(由良川の源流)で遊んだりしながら、生きる力を養うプログラムを提供しています。
そんな自然学校を立ち上げたのは、現在理事長を務める井栗秀直さん。小さいころから芦生と共に生き、木々や動植物の息づかいを肌で感じてきた、芦生の森人です。30年前、当時芦生にあった山菜加工工場を担うためUターンしてきた井栗さんは、12年ほど前にこの自然学校を立ち上げました。
井栗:ここを設立したときは、地域の活性化というのが大きな目標だったんで、地域の魅力の一つである自然を利用した観光業をやろうということになって。最初は大自然の中を歩いてもらうエコツアーで、山好きの爺ちゃん婆ちゃんたちをガイドしてたんだけど、もっと子ども達とか若い年代にこういう自然環境を知ってもらいたいなと。遊びの中で自然や環境を学んでもらおうということで、自然学校の立ち上げ時から子ども向けツアーを行いはじめたんです。
立ち上げ当初は苦労も多かったという井栗さんですが、徐々にその活動は世の中で知られていき、述べ年間1,500人以上のこどもたちが、自然体験教室へと参加。地域の方だけでなく都市から多くの人を迎え入れ、自然の中でたくましく学びながら、この地の良さや人々のくらしを守っていくことを目指しています。
「芦生とともにありたい」いつかそう思ってくれる人にきてほしい
今年で12年目を迎える芦生自然学校。現在は井栗さんの他、2人のスタッフと社会人や学生ボランティアの力でツアーを行っていますが、今後は新たな方向への展開も考えていきたいといいます。様々な構想はあるものの、形にしていくには新たなメンバーが必要。話してくれたのは、芦生に関わる人々に惹かれて3年前から自然学校に関わっている、青田真樹さんです。
青田:これまでは芦生の自然で学んでもらう、子ども向けの自然体験を中心にやってきました。でも今後は、芦生の自然を守るという環境保全もやっていきたい。現在も美山川を清流に戻すための「美山川クリーンリバー作戦」や、病害虫からミズナラを守る「マザーツリープロジェクト」を行っているんですが、まだボランティアベースでしかできていません。エコツアーなど、環境保全や自然の回復に関わりながら、経済的に回るしくみを作れないかと考えているんです。
一見美しく見える美山川ですが、昔に比べると、森の衰退による土砂の流出により川の淵が埋まり、魚が住みにくくなったといいます。またミズナラはナラ枯れ病が蔓延したことで多くの大木が枯死してしまい、残ったミズナラの保護には人手、資金ともに足りない状況です。
また、環境保全のほかに考えているのが、地域資源をいかした生業づくりです。「芦生には、資本があるわけじゃないけど、自然資源はあるんです」と井栗さんは話します。
井栗:芦生には2.2haほどの田畑があるけれど、使っているのは2割くらいで、多くは放棄地。これを回復させて、何かできないかなと。集落の有志で山ウドを育てたりもしていて、どう売っていこうか考えています。あとは森林もあるので、林業に興味がある人がいれば、択伐することもできるし、自然エネルギーとしての活用なんかもあると思います。そういった自然資源をプロデュースしながら、ここの暮らしや良さを、外に発信していくといったこともやっていきたい。芦生に関わる人が増えて、賑わいが生まれていくのが理想です。
この芦生を守り育ててきてくれたのは、現在40人ほどの集落に住まい続けてきた、お年寄りの方々。こうした地域の方とコミュニケーションをとりながら、事業を進めていくのも大切です。必ずしも専門的に環境保全を学んできている必要はありません。芦生というフィールドを楽しむことや、それを周囲に発信することに関心のある人にきてもらいたい。そしてお互いに学びながら地域を活性化していきたいと、井栗さんと青田さんは話します。
青田:芦生は、豊かな原生林があり、日本の山村地域の中でも比較的知られている場所だと思います。そこに秘めている可能性や、自然学校でできることはたくさんあると思います。でも、来てくれる人にはまず、この地域を好きになってもらえるかが大事かなと。そして「芦生とともにありたい」という想いで一緒にやっていけたらなと思う。既に芦生のことを知っていて、好きでいてくれている人も歓迎です。
移住の先輩が語る、芦生の魅力とは
自然学校には、井栗さんとともにツアーを作り上げてきた、移住の先輩がいます。それぞれ大阪から移住し、芦生で出会い、ご結婚されたという、岡佑平・優香ご夫妻です。先に自然学校にやってきたのは、優香さん。元々植物が大好きで、今では「歩く植物図鑑」とも呼ばれているほど。芦生には、小さい頃から家族に連れられてきていたそうです。
優香:「自然学校を作りたい」という構想を聞いたのは、「芦生の自然を守り生かす会」という、井栗さんのお父さんが当時主催していた会に参加していたとき。元々好きだった芦生ですし、子どもの自然体験に関われるっていうのにすごく興味があったので、この集落に移住してきました。最初は事務所の空き部屋に住み込んで、毎日ツアーがあるわけではないので、週3は近くにある「芦生の里」の山菜加工場で加工作業の手伝いのアルバイトをしながらでしたね。その後結婚して、こどもも生まれて、今はもう少し下流にある中村という集落に住みながら、自然学校に毎日通っています。
これだけ自然に囲まれた場所だと生活面が気になるところですが、週1で来る生協や、福井から来る行商、それにインターネットの通販などを利用すれば、そこまで買い物に不便は感じないそう。
佑平さんは9年ほど前、まだツアーの年間プログラムがないころから、アルバイトなどをしつつ自然学校を作ってきました。現在は、自然学校のメインプログラムの1つ「アンズキッズ」の企画、運営などすべてを取り仕切っています。佑平さんもまた、元々自然が好きだったそう。
佑平:ここにいると、例えば夏場は草刈り、冬場は雪かきもせなあかんし、近所付き合いもある。だからめんどくさくて嫌いな人は無理だろうなと思うけども、僕は逆に都会にいる方が不便だなと思うことの方が多いくらい。お金がないと何もできないし。ここではお金はなくとも、豊かなものを食べれたりとか、いい経験ができたりしますからね。
優香:私は初めは自然が好きやって、芦生に来たんですけれど、来てみたら面白い食べ物や文化もあってね。山深いから、保存食や山菜を大事にするんです。おばあちゃんたちがみんな漬物つけてるし、わさびのお祭りなんかもあって。京都とも近いし、福井とかとも繋がっているし、海のものも山のものもある。だから面白いものが生まれるんですね。そういった文化と、ここの自然とが繋がってるっていうのを徐々に知って、そういうとこもすごく好きになったんです。
芦生の四季は、その自然と文化とともに鮮やかに変化していきます。春は、山岳信仰を象徴するといわれるわさび祭り。冬の熊狩りの成功を祈り、断っていたわさびを、解禁する祝いの日です。夏は美しい新緑の中、京都府の無形民俗文化財にも指定されている幻想的なお祭り、松上げ。秋は、原生林が紅葉で美しく彩られ、冬は一面雪に覆われます。
佑平:四季の変化の中で、綺麗やなと思える瞬間があるじゃないですか。景色がぶわっと変わって、季節が移り変わったことに気づく日。芦生はそれがすごく強く感じられるから、それだけでも幸福度が上がりますね。今日はこんな鳥が飛んでいたとか、この間はヤマセミ見たとか。珍しい動植物や、自然の気配なんかは、美山の上流にくればくるほど味わえるんですよ。そこは本当にいいなって思いますね。
日々芦生の自然を肌で感じ、その素晴らしさを自然学校で伝えていくという、芦生に根ざした暮らしをしているお二人。今後、芦生がどんな地域になっていったらいいと思っているのでしょうか。
優香:これまで芦生集落の人たちと自然学校が一緒に何かすることってあまりなかったんです。もし若い世代が増えたら、もっと地域と繋がれたらいいなあとすごく思います。おじいちゃん、おばあちゃんだけだとどうしてもできへんしってなったりすることも、若い人達が来たら、「じゃあやってみよう」みたいな雰囲気ができるかも知れないし。おばあちゃんたちのレシピも教わったりしたい。それはすごく楽しいやろうなって思いますね。
その時々で様々な表情を見せてくれる、芦生の自然や文化。代表の井栗さんは、こうした自然の中に包まれて心を穏やかにしていくことを、風禅(ふうぜん)と呼んでいます。五感をいかして、自然の中にただあることで心を癒していく。そういう暮らしを営める良さが、芦生にはあります。
まずは芦生に来ていただいて、どんなことを感じるか。1年だけ働いてみるというのでもいい。時々足を運ぶだけでは味わいきれない芦生の魅力を発見し、伝えていくことができるでしょう。この地になにか縁を感じる方を、芦生自然学校はお待ちしています。