新潟県

三条市

さんじょうし

世代を超えて、人が出会い、つながる公共施設「三条スパイス研究所+ステージえんがわ」(前編)

新潟県三条市は社長の人口比率が日本で一番高い、ものづくりの町。2016年3月、“公共施設とスパイス料理店”という異色の組み合わせで誕生した新たな場所が、世代を超えた新たなコミュニティを生んでいます。「高齢者の外出機会を増やす」ことを目的とした場所にもかかわらず、なぜこのような構成になったのか。幅広い世代に受け入れられた裏側にはどんな工夫があったのでしょうか。飲食部門の統括ディレクター山倉あゆみさんをはじめ、この取り組みに関わる担い手のみなさんにお話を伺いました。

 

公共の広場にスパイス料理店という異色の組み合わせ

新潟県のちょうど真ん中に位置する三条市。「ものづくりのまち」として知られ、金属加工業をべースとした地場産業が根付いています。高齢化が進む町の中でも、特に高齢化率の多い北三条エリアに、2016年3月「高齢者の外出機会を増やすこと」に端を発した新たな公共施設が誕生しました。

この施設を構成するのは、地元の食材を使ったスパイス料理店「三条スパイス研究所」と、誰もが自由に利用できる交流広場「ステージえんがわ」。ここを訪れて真っ先に抱いたのは “公共の広場にスパイス料理店”という異色の組み合わせから生まれる新鮮な違和感と、何か新しいことに出会えそうな言い知れぬ期待感でした。
取材当日は「将棋の祭典in三条」というイべントが行われ、屋根付きの広場にお年寄りが集まり、思い思いに将棋に興じる姿がありました。

 

当日行われていた将棋イべントには、一日中人だかりが。高齢者に混じって小学生も参加していました。

建物を奥に進むと、そこはスパイスの芳しい香りが漂う「三条スパイス研究所」。スパイス料理店でありながら、飲食の持ち込みは自由で、注文しなくても気軽に立ち寄って休憩することができます。東京・押上にある「スパイスカフェ」の伊藤一城シェフによって監修された、幅広い世代が楽しめるスパイス料理も、もちろん絶品。さらには、新旧問わず個性豊かな家具や小物がミックスされた独特な空間も、この施設の魅力を形づくっています。

 

香ばしいカレーの匂いが漂う店内。本や小物など一つひとつこだわってセレクトされたアイテムが居 心地よく並んでいます。

 

高齢者が出かけたくなる「えんがわ」をつくろう

こうした“どこにも前例のない公共施設”は、どのようにしてつくられたのでしょうか。この施設のはじまりは「スマートウエルネス」という三条市の取り組み。生涯にわたり誰もが健康で幸せに暮らし続けるために、一番身近な全身運動である “歩くこと”で健康づくりにつなげるという事業の検討を進めていました。

 

その一環として、市民を集めて「歩きたくなる町を考える」ワークショップを開催。「気軽に集まれる場所がほしい」「健康的な食事を楽しみたい」といった意見が出たことから、高齢者の外出機会を増やすために、飲食の機能を持たせた象徴的な場所をつくる動きが浮上します。

そこで、当時関わっていた市の職員は、「外出機会が少なくなりがちな高齢者が出かけ、 “えんがわ”のように気軽に立ち寄り、ときには一人で、ときには知人と思い思いの時間を過ごせる場として、全天候型広場を建設する」というコンセプトを考えました。「この町に “えんがわ”をつくる」というこの考え方が発端となり、その後さまざまなきっかけで県内外のクリエイターが集結。食や地域の資源を組み合わせた新たな場をつくる取り組みがスタートしたのです。

 

この町だから見出せた、高齢者とスパイスのつながり

高齢者が行きたくなる飲食店としてどんなメニューを提供するのか。スパイス料理に行き着くまでには紆余曲折の日々がありました。当初から取り組みに関わっている三条市役所地域経営課の三方順子さんはこう振り返ります。

「飲食店で提供するメニューとして、高齢者が親しみやすい和食とカレーが候補に挙がっていましたが、和食はコストがかかり、ありふれている、という意見もありました。一方、三条市は70年以上の歴史を持つ「三条カレーラーメン」があり、市民にとってなじみの深いカレーに絞り込まれていきました」(三方さん)

 

そこで飲食店の監修として、世界を旅しながらスパイス料理を研究してきた伊藤シェフが東京から参画。新潟県を拠点に食の分野で活躍するプランニングディレクターの山倉あゆみさんも加わりました。検討を重ねる中で、重たくお腹に残る日本的な欧風カレーではなく、健康的なスパイスと地元野菜を中心とした、ここでしか食べられないシンボリックなカレーを提供しようという大きな流れが決定。しかし、この町とスパイス料理を結びつける必然性や方向性はなかなか見えてきませんでした。

暗中模索の中、二人はある高齢の生産者と出会います。きっかけは、二人が三条市の山間部にある下田地区の直売所に行った時に、ウコン、キハダ、ドクダミなどが並ぶ売り場を目にしたこと。通常の直売所と比べると、山の産物・加工品売り場に関しては3倍も大きな棚でした。特にウコンは乾燥しただけのものから粒状、パウダー状と異様なほどバラエティーに富んでいました。ウコンは別名「ターメリック」。まさにカレーづくりには欠かせない基本のスパイスでした。

 

三条スパイス研究所の統括ディレクターを担当している山倉あゆみさん。

「これは不思議だなと思って、お店の人に聞いてみると、山崎一一(かずいち)さんというおじいちゃんがこの店のウコンの売り上げトップで、何でも知っているのだと教えていただきました。そこですぐに 山崎さんに会いに行ったんです」(山倉さん)

山崎さんは定年後に行った沖縄旅行で初めてウコンに出会い、その苗を持ち帰り、「健康によさそうだから」と地元で栽培をスタート。インド原産のウコンが冬を越すなど聞いたこともない中、すべてを独学で研究し栽培を成功させました。山崎さんがつくったウコンは高齢者の間で評判となり、その需要に合わせて生産者が増え、下田地区はいつの間にかウコンがつくられている地域になっていたのです。

「山崎さんに出会って一番すごいなと思ったのは、自分が楽しいと思うことに率先してチャレンジして、結果的にそれが商品となり、売り上げをあげていること。この取り組みの中の別チームで、高齢者に100人インタビューを実施したんですが、日本で一番社長の多いこの町で、高齢者になっても残っている欲求として最も強かったのが『誰も知らないことを自分だけが知っていたい』というような知識欲でした。山崎さんの取り組みは、まさにこの知識欲につながることに気づいたんです。『高齢者は守り守られるもの』と思いがちですが、山崎さんの自ら培ったその知識や技術は、守るどころか若者にはなかなか一人で実現できることでなく、むしろ教えてもらいたいくらい強くたくましくカッコいい!私たちはそんな山崎さんのことをすごく眩しいと思ったし、彼もこうやって自分のすることに興味を持って山の中までついてくる私たちを眩しいと思ってくれました。こんな年齢や立場を超えてお互いを尊敬し、眩しいと思い合えるやりとりが、まちづくりには必要なんじゃないかと思って。こうしたやりとりや高齢者の生活や経験を含めた食や暮らしの知恵・技術を広く発信することを、この飲食店の大きな方向性にしたいと思いました」(山倉さん)

山崎さんのような自ら学び続ける高齢者のたくましく、おおらかな姿に、暮らしや食を楽しく豊かにする可能性を見出した二人。三条産のウコンという三条市と「スパイス」を結びつける新たな要素にも出会い、それらを掛け合わせた「スパイス文化」をここから発信しようと、取り組みを前へと進めていきます。後編では、交流広場と「三条スパイス研究所」と「ステージえんがわ」の有機的につながった動きを、山倉さんや関わる人たちのお話からひも解いていきます。

三条スパイス研究所

http://spicelabo.net/

ステージえんがわ

http://sanjoy-machinaka.jp/engawa/about/

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