岡山県

西粟倉

にしあわくら

ローカルベンチャーが生まれるところ

「強い想い」をテーマとして掲げた西粟倉村ローカルベンチャースクール2017。そこは「想い」を持って挑戦しようとする人たちが対話を通して自分と向き合い、その「想い」の軸を見つけるための真剣で暖かい場所でした。
(この記事は、西粟倉村でローカルベンチャーの生態系を研究している神戸大学大学院の坂東優香さんが、ローカルベンチャースクールを通して感じたインプットを元に構成されています)

 

言葉にすることから始まる

2017年10月21日。少し緊張した様子の6組のエントリー者、村内外のメンター陣とスタッフ、あわせて30名ほどが旧影石小学校の教室に集まりました。まずはその場にいた全員の自己紹介。メンターである勝屋久さんが「カッチャマンと呼んでください!」と宣言されてから、それぞれが自己紹介の最後に自らのあだ名を発表。最初にあだ名で呼び合うきっかけ作りができたことで、お互いがぐぐっと近づきやすくなった気がしました。

そしてエントリー者による最初のプレゼンテーション。何かしらのご縁で西粟倉村に集まったエントリー者の方々が起業に挑戦しようと思い立った理由や経験、具体的な事業内容や計画などを発表しました。
その後、メンターの方々とそれぞれ個別でブラッシュアップを重ねていきます。そこでは「なぜそれをやりたいの?」「なぜ西粟倉でやりたいの?」という問いが何度も投げかけられます。その「想い」があることが、事業を成し遂げるために大切だと考えられているからです。

自分の「想い」が何なのか。これまでの固定概念や建前を全部取り払って0から考え直していきます。真剣でいて自由で、迷いもたくさん生じるこのプロセス。エントリー者の方々がメンターの方々との対話を通して、悩みながらも有意義な時間を過ごされていたように思います。

そこでまず感じたのは『言葉にすることの大切さ』。ブラッシュアップの過程では「想い」を自分で言語化することが一番重要視されていました。言葉にしなければ伝わらない、とよく聞いたことがありますが、この場にいたことでよりその重みを感じられました。言語化できない感情やそもそも言葉にすべきではない気持ちもあるのかもしれない。でも、言葉にするから相手に見える、伝わる、共感してもらえる。それだけではなく、言葉にすることで自分の考えを整理できて、その中で生まれた違和感を頼りに見えてくる何かがあるのかもしれないなぁと思います。

少し話が逸れますが、生産するのは心に良いと聞いたことがあります。生産といっても文章を書くことでも料理をすることでも何でも良いらしいのですが、今回の生産は自分の気持ちを言葉にしてみること。中でも勝屋久さんが提案し、「自分のやりたいこと、ワクワクすることを書き出す」ことは、自分が本当に大事にしたい気持ちや価値観を見つけて次のステップに進み、事業を立ち上げるための第一歩だと思うのですが、ワクワクを書き出し、目に見えるものとして生産することは、その人の心にとっても良いことなのかなとふと感じました。

自分と向き合い続け、想いを巡らせるエントリー者

でもここで言葉にしなくてはいけないのは自分の本音の部分。その部分を言語化して可視化することは誰にとっても怖いことであるはず。それがどう思われるか分からないから。誰でもそうだと思います。でも、この場ではそれを否定する人は誰もいません。全員が真剣で、全員が味方です。

昨年はエントリー者として、今年はメンターとして参加した田畑さん

どんな本音だって受け止めてくれる。それが本当に自分の心の底から出た「想い」ならば。そんな包容力のある空間はなかなかないと思います。人に問いを投げられて、自分でも自分に問いを投げてみて、自分の内側から出てきた純度の高いその言葉が人の心に響いて応援したいという気持ちが強まる。苦しくも、やりとげれば温かさが残るような空間でした。

 

エネルギーをいただく時間

ブラッシュアップが終わると次は勝屋久さんの講義。考えるよりも感じてください!と講義前に言われたのは初めてでした。目をキラキラさせ、とっても明るくお話される勝屋久さん。直筆の色鮮やかなプレゼンテーション資料とあわせて、お話を聞いているだけで、その姿を見ているだけで、おっきくてあったかいエネルギーをいただきました。
今を心の底から楽しく生きている、というオーラを醸し出されていて、自分が幸せでいることは他人をも幸せにする!ということを体現しているような人だなあと思いました。

それと、いつも一緒におられる勝屋祐子さんのコメントも、「あ~そうか!なるほど!」なんて声をあげながら感心して聞いておられたのを見て、お二人の関係の素敵さと、勝屋久さんの素直さを感じました。素直でいることは成長に必要不可欠で、かつ人の魅力を高めることを再認識しました。そして個人的には、何かを始めるのに遅すぎることなくて、いつでも何でも始められるんだ、という気づきをいただきました。何かを始めるのに必要なことは、まず自分で行動すること。それだけなのかもしれません。

 

辿り着いた「想い」の先

一晩明けて最終プレゼン前。自分の「想い」とずっと向き合ってきた2日間の集大成をどうやって見せようか。そんなことを考えながらパソコンや模造紙を見つめる皆さんの目は、最初に集まったときとは違うものでした。メンターの方々がエントリー者の方々に真剣に向き合っているのも素敵だと思いましたが、自分に真剣なのが一番かっこいいと強く感じた瞬間でした。

プレゼンを暖かく見守るメンターの菊永さん

そうやって迎えたプレゼンテーションは、誰もが最初のプレゼンテーションよりも自分の感情に素直になって、いきいきとお話されていたように思います。
そうやって自分の感情をきちんと自分の言葉で話そうとする皆さんの姿がその場にいた人の心に響いているのが感じ取れました。苦しくても真剣に自分と向き合って考え抜いたからこそ、ここまで辿り着けたのだと思います。それだけでも素晴らしい成果と言えるのではないでしょうか。

 

愛ある選考

ローカルベンチャースクールの1次選考会は「想い」のブラッシュアップの場でもありますが、本気で挑戦しようと集まったエントリー者の皆さんに最終選考まで残ってもらうかどうかの選考を行う場でもあります。選考というとどうしても優秀だから合格、そうじゃないから不合格。みたいなことがイメージされるのですが、それもまたここでは違うと私は思いました。通すことも落とすこともメンター陣の愛あってこそ。

冷静に、そして真剣にコメントを重ねる勝屋裕子さん

そう感じたのは勝屋久さんから何度か出てきた「通すことが愛なのか?」という言葉。その人が今後どんな人生を送れるのか、それを考えたうえで今すぐ導いてあげることが本当にその人のためになるのか、それを他人事にせず真剣に考えておられて、そこに勝屋久さんのおっしゃる愛を感じました。

合格不合格に良いも悪いもなく、選考結果はエントリー者の皆さんがまた次の一歩を踏み出すために背中を押してくれるものだったんじゃないかと思います。

 

ローカルベンチャースクールとは

実際にこの場にいなければ、ローカルベンチャースクールは地域で起業するための学びの場、支援の場くらいの解釈で止まっていたように思います。スクールの目標はもちろん西粟倉村での起業なのですが、ただ単に「では起業してくださいね」なんて軽く声をかけるのではなく、なぜそれをやりたいのか、それはどういう価値観があるからなのか、そしてなぜ西粟倉でやりたいのか。
その「想い」を自分で言語化するためのサポートをメンターの方がしてくれて、その「想い」を受け取った上で今すぐに起業へと向かうため、背中を押すべきかどうかを真剣に考えてくれる。そんなプロセスを経るローカルベンチャースクールは、選考に通過しても通過しなくても、自分と向き合い、何か大切なことに気付くきっかけになったと思います。

そしてエントリー者だけではなく、この場にいたすべての人が何かを感じ、受け取り、吸収できた、そんな特別な空間だったのではないでしょうか。このプロセスを経た上で、約1カ月半後の最終選考のときには皆さんのどんな表情を見ることができるのか、純粋に楽しみです。

 

「想い」を起点に生まれるということ

西粟倉村のローカルベンチャーが「想い」を起点に生まれるということ。それはつまり、
自分が自分の「想い」を認める。
他人が自分の「想い」を認めてくれる。
自分も他人の「想い」を認める。
それが良いか悪いかの判断をするわけじゃない。正解不正解の判断を下すわけでもない。ただただ認める、受け止める、共感する。そこから新しいものが生まれる。生まれたものをまたみんなで認めて育てていく。

強い想いを軸にしてきた牧さん

「強い想い」は自分の心の底から出た言葉を自分の言葉で伝えることから始まる。「強い想い」があってこそ事業を立ち上げるモチベーションがあるのだと思うし、「強い想い」が他の人に知られてこそ、共感してもらえたり、応援してもらえる。
ローカルベンチャーとはそうやって生まれ育まれていくものなんだという気づきをくれた2日間でした。そしてそれを受け入れる西粟倉村の懐の深さにますます惹かれました。これについてはまだまだ観察を続けていきます。
正解はないし、結果がすべてでもない。
自由にやればいいし、自信があってもなくてもどっちだっていい。
どんなものであろうと自分の本音に正直でいていい。
弱くてもいい。脆くてもいい。
そこに「強い想い」さえあれば。

西粟倉村に関わって、ローカルベンチャースクール1次選考会をずっと横で見させていただいた私は、勝手にそんなメッセージを受け取りました。このメッセージを胸に、私もまた前を向いて頑張っていこうと思います。