岡山県
西粟倉村
にしあわくらそん
「どういう村であってほしい?」。そんな調査で見えてきたこと・これからしていくこと。西粟倉村の本気の事業で「担い手の村内事業者」を募集!
Date : 2024.10.07
大なり小なり、誰もが持っている「願い」。
村に住まう人たちが望むことを形にしていきたい——。
そこに着目した西粟倉村は、2023年度に本格的な「願い」調査を行いました。
その調査データを預かり、次の段階となる作業を担当したのが、『エーゼログループ』のCRO(最高研究責任者)兼創発推進本部長の松﨑光弘さん。
どのような願いや声が見えてきたのでしょうか。
そして、西粟倉村はそれをどう活用していこうとしているのでしょうか。
松﨑さんに、このプログラムの“現在地”を教えていただきました。
村民の願いは、ふとした瞬間に言葉の端々に出てくる
— まずは、願いをどう定義しているのか、教えてください。
松﨑:2021年から、村の中にある願いを起点にビジネスを創出する「TAKIBIプログラム」という事業を行っています。
その中で、西粟倉村に住む人が人生における村との関わりを振り返ったうえで、「将来村がどうなっていれば、自分たちにとっていい状態か」を考えたものです。その人にとっての村のビジョン、あるいは、その人が心に抱いているこの村の可能性、それを願いと定めています。
— 「TAKIBIプログラム」の一環として、2023年度に村民50名の願いの調査を行いましたね(参考記事はこちら)。
松﨑:はい、その50名分の調査データを使って、2024年度に入ってから私と本部長補佐であるる松﨑典子の二名で、質的データ分析の手法であるSCAT(Steps for Coding and Theorizationの略)を用いて、より深い分析を行いました。質的データとは、数量データ以外の情報をいいます。
村の方たちが調査で話してくださったことから、「そこにどのような概念が含まれていて、それらがどうつながっているか」という潜在的な意味や意義を探りました。さらに、どのような価値観、考え方、論理性があるかを、掘り起こしていったんです。村民の個人情報はわからない状態で分析しています。
— 「願い」はストレートに表現されるものばかりではないからこそ、そういう分析作業をされるんですね。
松﨑:そうなんです。ふとした瞬間に言葉の端々に出てくるので、それを拾っていきました。言葉の背後にはどんな想いがあるのか、言葉の端々や単語の選び方を見てやっと見えてくるものがあります。
今はいろいろなツールがあり、単語の関わりを自動的に出すこともできるのですが、手動で作業することで、自動ツールでは出せなかったようなものがたくさん見えてきました。50名の方の膨大なデータがあり、分析途中で力尽きそうになったときもありましたけれど(笑)。
— 具体的にどのように作業していったのですか。
松﨑:第一段階では、インタビューの文字起こしをセンテンスに分けて、話し手がどういう考えの流れの中で話しているかを読み込みます。その上で注目すべき言葉を抽出します。第二段階では、抽出したものを、そこに含まれている意味をはっきりと表す別の言葉に置き換えます。元の言葉は、その人の暮らしや人生経験に基づいた言葉で一般化されにくいので、共通認識できるようにするんです。例えば、新しい服を着たという会話の中で、「何もまとっていないように動ける」という言葉があったとすると、そこには「動きやすさ」とか「軽さ」とかいった意味が含まれています。そういったものに置き換えるのです。
第三段階では、置き換えた言葉を説明する概念を引き出します。最終的に「そのセンテンスはこういうことを言っていた」と置き換えていくんです。
移住者の多い、西粟倉村らしい願いも見えてきた
— どのようなものが見えてきたのでしょうか?
松﨑:実にさまざまな願いが見えてきました。我々は「TAKIBIプログラム」のなかで願いをベースにした事業をつくることを目的にしていますが、事業以外のことも山ほど出てきたんです。
比較的みなさんに共通していたのが「自然が豊かで人が優しい」という認識です。村の自然環境は大事なものだから生かしていきたい、という願いですね。「新しい挑戦が生まれる環境で、それを維持してほしい」という願いも浮かび上がりました。
教育面では、自然環境を生かした子育てを望む声や、「自分で考えて行動できる人になってほしい」という声もありました。マイナス要素として、子どもの遊びや活動、習い事、高校進学などの選択肢が少ないことへの懸念も見えました。また、「学校教育に馴染めない子どもに、村の自然を生かしたプログラムを提供してほしい」という公教育への要望もあり、それが村の政策と合うのかは別として、興味深い願いだと感じました。
仕事面では、「しっかり稼げる仕事」の需要が高いです。村を出て都会に暮らす人が帰ってこない理由の一つに、「給料が安い」というのがあります。稼げる仕事の選択肢を増やすことが求められています。
全体としては、みなさんバランスを求めていて、村の良さを守った形でより豊かになるような発展は望んでいますが、人間関係が崩れるような過度な発展は望んでいないと分かりました。
— 村にとって、貴重な資料になりますね。
松﨑:村の人口は1,333人で(2024年3月31日現在)、そのうち移住者は200人ほどいます。移住者の多い西粟倉村らしい願いも見えてきました。地元の人も移住者も、お互いを知りたいけれど、付き合い方や距離感をつかめていないようです。「移住者が既存コミュニティに参画している状態」を望んでいる人が双方にいる一方で、新しい付き合い方を望んでいる人もいました。
「相互扶助による地域の問題解決」という願いもありました。これまではお互いに助け合うコミュニティがあったからこそ、いい人間関係が築けてきたけれども、移住者の多くはそこに入る入り口を持っていないし、作法も分からない。都会の暮らしは市場経済型ですけど、村の暮らしは相互扶助型でやってきた。そのギャップがいたるところで起きていると感じました。
従来型コミュニティがないところで暮らしている移住者もいますし、地元の人とどう混ぜ込んでいくのか・いかないのか、市場経済と相互扶助のバランスをどうとっていくのかは、これからの課題なのかもしれません。相互扶助の力を新しい形に変えていくのにはチャレンジが必要だろうと思っています。
売上規模が1億円以上になる可能性のある、事業テーマを掘り起こす
— 暮らしに紐づいた、いろいろな願いが見えてきたのですね。
松﨑:願いというより、切実なニーズもありました。それは、老後についての不安や危機感です。例えば「自分が動けるうちはいいけれど、将来車を運転できなくなったらどうするのか」といったものです。子どもが都会にいて独居のご家庭もあれば、家族はいるけれど買い物に連れて行ってもらうのに気を遣うというご家庭もあります。また、要介護度が上がったとき、施設への入居が選択肢の一つになりますが、そうなると村外になってしまうんです。
この村が便利になったがゆえの問題もあるんだろうと考えています。兵庫県・佐用町と鳥取県鳥取市を結ぶ鳥取自動車道のインターが村内にでき、車で動ける人は県外の近隣エリアへ行きやすくなりました。その影響か、村内や隣町にあった商店やスーパーが閉店してしまったんです。
— 日本のローカルの縮図も見えてきますね。
松﨑:貴重な声をたくさんいただいたなと思っています。願いは、現状の不満の解消ではなく、この村の将来への希望を表すものです。この分析を通して、多くの希望を見出すことができました。
— 次のステップとしては、どういう予定なのですか?
松﨑:分析をもとに「願いから再構成された事業テーマ」を出しました。これらは、村外に市場を求めることが可能で、売上規模が1億円以上に拡大する可能性のあるものという基準で考えています。具体的には、「生物多様性の回復」「新たな森林価値の活用」などです。
スケールする可能性は低いけれども、条件次第で拡大できるものとして、「コミュニティの拠点として誰もが利用しやすい空間」なども出しました。また、「社会的処方」など、事業よりも行政政策にすべきであろうテーマも見えてきて、すべて村にご報告しました。今、村と協議しています。
2024年10月以降、テーマに取り組む事業者を募集します。応募資格は、村内に事業所があり、テーマに関する新規事業の構想を持つ事業者です。11月の審査を経て、実践に入ります。村外でそのテーマのビジネスで成功している人などをプロデューサーとして迎え、そのサポートを受けながら事業をつくっていこうとしています。
— 願いから事業が生まれていくのが楽しみです。ありがとうございました。
【募集について】
昨年度実施した「願い調査」の分析と、これまでの「TAKIBIキャンプ」での議論から、これから村内で取り組むビジネスのテーマが決まりました。これらのビジネステーマについて、村外のプロデューサーの支援を受けつつ、売上1億円以上の新たなビジネスの開発に取り組む村内の事業者を募集します。
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