岡山県
西粟倉村
にしあわくらそん
【特集】この村で応援する文化は育ったのか~岡山県西粟倉村ローカルベンチャー事業の10年を振り返る~/プロローグ
Date : 2025.08.19
――プロローグ
かつて「消滅可能性自治体※」と呼ばれた岡山県・西粟倉村。
人口約1,300人のこの小さな村は、いつしか「ローカルベンチャーの村」と呼ばれるようになり、2024年には「消滅可能性自治体」の指定から外れるに至りました。
2004年、平成の大合併の波の中で村として歩むことを決めた西粟倉村。2008年には「百年の森林(もり)構想」を掲げ、森林という地域資源を未来につなぐ挑戦が始まります。
その挑戦の1つが、「起業支援」でした。人を呼び込み、新たな仕事や雇用、そして暮らしを生み出そうとしたのです。
その取り組みの中核として2015年にスタートしたのが「西粟倉ローカルベンチャースクール」です。
このプログラムは、西粟倉村での起業を志す人々が自らの事業や想いの種を持ち寄り、現地でのフィールドワークと対話、事業ブラッシュアップを通じて想いをあたため、さらに強めていく場です。
地域に存在する(まだ目に見えていない“可能性レベル”のもの含めた)「資源」に自らが持つ想いやアイデアを重ねてみる。そこに村の方や起業経験者、外部専門家などのメンター(伴走者)たちからさまざまな角度で問いかけが飛ぶ——。この実践的で探索的なプロセスを通じて、事業がこの村で花開くことを大切にしてきました。
西粟倉ローカルベンチャースクールが始まり10年が経つ今。
研修や情報発信、新規事業立ち上げの取り組みは続き、この10年間で村内で約50社のローカルベンチャーが誕生し、ローカルベンチャー総売上は取り組み以前の8億円から22億円にまで成長しました。
多様な人々がこの地を訪れ、それぞれの想いを携え地域の資源や人々、そして自分自身と向き合いながら「仕事」と「暮らし」の新たな形を生み出してきました。
村を離れた起業家もいますが、その挑戦は誰かに引き継がれ、別のかたちで根づいているものもあります。
この起業支援に力を注いだ10年間は、「応援する文化を育てた10年間」でもあったのではないかと考えています。
起業とは、誰か一人のアイデアや情熱——つまり「苗」のようなものです。
この苗が育つには、根を包み栄養を送る「土」のような応援する文化が欠かせません。
この「起業」と「応援の文化」を別の風景にも重ねることができます。
タイトルの背景に写るヒメボタルが飛び交う風景です。
西粟倉村では、7月上旬から下旬にかけて北の山間でヒメボタルの群生を見ることができます。
森林の中で小さな体から強い光を放つヒメボタルの姿は、一人ひとりが挑戦する姿のようであり、ホタルたちが呼応して光り合う様子は、互いに関わり応援し合う姿に見えてきます。
一つひとつは小さくても、光が集まれば森を照らすような眩しさとなり、まるで挑戦と応援が巡り、地域の風景をつくっていく様子にも感じられます。
この特集は起業家たちだけの物語でも、制度運用の話でもありません。そして「我が村は素晴らしいでしょう」とひけらかすものでも決してありません。
西粟倉村で取り組んだ起業支援と、その取り組みもきっかけとなりながら積み重ねられた多様な事業者の挑戦に光を当て、次の10年も挑戦が生まれ育っていくために「応援する文化をどう育てていくか」を問い直す機会にもしたいと考えています。
この特集そのものが、未来から見て「応援」になることを願い、綴ります。
※「消滅可能性自治体」とは
人口減少により将来存続が危ぶまれる自治体を指す言葉です。2014年の日本創成会議の報告書で、2040年までに20〜39歳の女性人口が半減する市区町村が該当するとされました。出生数の減少につながるため、地域の持続性に大きな危機感を示す指標として用いられています。報告書は2024年に2回目の分析・報告がされています。
