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人類ひとり一人がベンチャーだと思っています。9月26日から開催『西粟倉ローカルベンチャースクール』校長・勝屋久先生より
Date : 2015.08.27
9月より始まる『西粟倉ローカルベンチャースクール』の校長先生・副校長先生として、勝屋久さん・祐子さんご夫妻にお話を伺いました。すごく表面的に勝屋さんのご紹介をすると、IBMベンチャーキャピタルの代表をされていた勝屋さんです。ITベンチャーの人達の中ではまあまず知らない人はいないと言われている、ベンチャー起業を育てていくというところでは日本の最前線で活躍していた人だっていうと、凄い人なんですけど、でもなんかそれはとても表面的なというか、全然説明できていません。
スクールでは、お二人が定期的に関わっていただくだけですごく伸びる人達が増えると思っています。これから『西粟倉ローカルベンチャースクール』に参加される方が、勝屋さん、祐子さんとお話をするなかで「僕はここを大事にしていきたいんだ」と気づいたり。「資本政策どうする?」みたいな時のテクニカルなアドバイスや人の紹介は勝屋さんにしていただけたり。祐子さんには、もっともっと深いところ、その人がどう生きていくのか、何を大事にしていくんだろうというところまで掘り下げていただけたらと思っています。今回の記事では、勝屋夫妻のお人柄や生き方を働き方に焦点を当てながら、ローカルベンチャースクールで大事にしたい事が浮かび上がっていけばと思います。
すごく言語化が難しい職業
牧:勝屋さん。今も『プロフェッショナルコネクター』という肩書きを使われているんですか?
勝屋:色んな切り口があるんですが、プロフェッショナルコネクターというのと、最近はペインティングアーティストもやっています。でも職業は『カッチャマン』ですね。自分の生き方を職業にするような表現というか。
牧:祐子さんはどういうご紹介をしていくのがいいんですかね。何度もお会いしていると祐子さんの存在はなかなか重要で、カッチャマンが単独で成立していないような気がしているんです。結構、祐子さんの鋭い勘が効いている時があったりするんだろうなと。
勝屋:僕はどっちかというと、公務員さんだったりとかとかいろんな立場の人、その人の立場をとっ外してつないだりするのがプロフェッショナルコネクターとしての仕事なんですが、人と人のつながりをとおして特にちょっと表向き硬そうな人、たとえば公務員の人や大企業の人が心開くときにとてもワクワクします。祐子さんは、本質的には一人一人が、魂が歓ぶ道に進めるような、ガイドするみたいな役割なのでしょうか。
祐子:私たちは、役割が違っていて。彼はメンタリングしている時は、「そうだね、そうだね」的な・・・。もちろん、言うべきことは伝えた上でですが。男の人って、同性に言われるとすごく反発を感じるときがあって。競争が無意識下にあると、難しい場合があります。私は、全然違うフィールドなので。勝手に言葉が降りてくるので、そのまんま言うとなにか、響いて・・・。降りてくる言葉をそのまま「いいこと思いついた!」とひらめくことがあったり、その時点でのベストな道が見える(わかる)時があります。それはおそらく、私個人の考えじゃないんですよね。悩んでいる人が彼に打ち明けたことで心を開いたから、たぶんそこに言葉が降りてくるっていう感じで、分からない時は全然降りてこないんで。経営を学んだ事はないので経営のことはなんにもわからないんですよ。でも、なんかこう、なんか違うとか・・・。本質的なところが分かるところがわたしの強みです。
勝屋:彼女は、そのやりたいって言った根っこの部分とかあるじゃないですか、それが本当にその人のやりたいことだっていうのか、違和感を感じるんですよ。
牧:祐子さんは巫女ですね・・・!
祐子:それ何か違うとか、、、そんな時ものすごくざわざわするんです。
『職業:カッチャマン』が生まれたきっかけ
勝屋:僕は今53歳ですけど、37歳の時にベンチャーの人たちと出会ったんですよ。ベンチャーの人っていうのは、数多くいるんですけど、僕がであったのは、たまたまお金だけのベンチャーの世界じゃなくて、志が高く、社会をこう変えたいとか、こういうサービスが自分がつかいたいから、作るとか、自分のやりたいことをやっている人たちに出会いました。僕も働きはじめて最初、IBMでやりたいことやっていたんだけれど、でもやっぱりどっかしらカッコつけてたりとか、お金だとか名誉だとか出世とかそういう世界に変わっていって、だんだん家のローンのために働いたりとかですね、要するにやらなきゃいけない生き方になっちゃって。
でも渋谷で会ったその方々は「これやりたいんだ、あれやりたいんだ!」って。そしてたまたま、インターネットバブルでお金が流れてきたのもあって、たぶん大きい渦ができたと思うんですけど、そこでのドキドキ感ワクワク感っていうのが刺激になりましたね。彼らと会っているうちに、一人になると寂しくなって、自分は何もできない人間だと、自分と初めて向き合うきっかけができたんですよ。それが彼らと出会って一番大きかった。本当にやりたいことは何かって見つからないんだけども、模索しながら人をつなげていった。僕の好きな人だけ集めたらなんか知らないけど、あれよあれよとどんどんどんどん広がってって、競合他社も含めてみんながつながる、中央官庁や地方公共団体も一般的にはつながりにくいのだけど、現場レベルで繋がったりとか。でも葛藤が生まれて「そんなことやってもお金にならないしなあ」みたいな。僕は当時、仕事ではなくて僕の欲求でやっていて、葛藤しながら、だんだんそこから変わりだしてきた。
二つ目は、祐子さんとの出会い。それまでは外資系の会社だったので、売上や実績、「世の中の価値はすべてお金で換算できる」とかそういう世界にずっといたんですね。彼女は、当時会った時から愛とか、目に見えない大切なものを、僕に伝えてきたんですね。僕は最初全然わかんなくて、反発してたんですけれども。
いろんなエピソードがあるんですけれども、僕は離婚をして、仕事もリストラになった時に、お金がすっからかんになっちゃったんです。でも祐子さんは一緒についてきてくれると。女性ってそれまで、僕はお金があって、ステータスがあったところに来るんだって思っていたんだけれど、違うんだな、と。何もないのについて来てくれるなんて「え!」と。そういうのを日々教えてくれた。そこが2つ目の人生の変わり目ですね。世の中には目に見えない大事なものがいっぱいある。西粟倉にも目に見える範囲だけじゃなくて沢山あるじゃないですか。そういうのが解るように、感じられるようになっていったね。
最近始められたというペインティングアーティスト。西粟倉・森の学校にインスピレーションされて描かれたという絵を見せていただきました。
人類皆ベンチャー
牧:勝屋さんの自分的な喜びはなんでしょうか。普通のベンチャーキャピタリストとは違うんですか?
勝屋:違うと思います。なんでかというと、ベンチャーキャピタルは基本的にベンチャー、上場を目指す会社しか対象にしていない。それ以外の支援団体はあるかもしれないけれど。僕は人類ひとり一人がベンチャーだと思っているので。
牧:いいですね、人類皆ベンチャー。
勝屋:皆、自分自身の体を使って、自分の人生の創業者であると思うんです。
牧:勝屋さんにとって、一種ベンチャー経営者とか言われている人は、解りやすいシンボリックな存在でしかなくて、一人一人がその人の人生をしっかり生きていくっていうことに関心、興味があって。そうなっていくことを勝屋さんの魂がそれを欲しているんですね。
勝屋:多分「おせっかい!」なんだと思います。(笑)
牧:だからいわゆるベンチャー経営者、IPO(新規株式公開)を目指していなくても、勝屋さんにとっては関わっていくモチベーションがあるというか、西粟倉のような場所に興味を持っていただけるのも、IPOを目指している人は誰もいないんですけれども、普通のベンチャーキャピタリストからするとなんの関心の対象にもならないけど、なんか、それぞれ一生懸命生きているなという人がちょこちょこいるのが面白いし、そういう人が増殖していくっていうこと自体、勝屋さん的に興味の対象になりうるという、そういうところがあるんですかね。
勝屋:ありますあります。
牧:その人がその人らしく生きていける人が増えて行くのがカッチャマンの幸せ、というところがあって、地域っていうのは一定のエリアのなかにいろんな人がいるので、その人らしく生きていける人が集団として、群れとして育っていくみたいな、そういう場所として捉えることができるのかなって。いろいろな人がぽこぽこといろんなことをやり始めて繋がってきて、生態系として育っていって、ぐっと渦が出来くる。そういうところが勝屋さん的にはけっこう関わっていて面白いと思える部分ですかね。
勝屋:そうだと思います。自分を完成させるプロセスでは、他者の存在が必要で。一人では絶対うまくいかなくて、他者へなにかを与えてそこで歓びを感じ、自分が差し出したこと(能力や才能)を受け取って、自分の居場所ができるんですね。例えば、僕の場合、絵を描くことをしています。絵を描くときは一人の世界にどっぷりとつかるのですが、人に作品を見て喜んで頂くと、凄く共感共振が生まれて、次に描く勇気に繋がったりします。自分と他者のつながりは大事で、自分一人で登るんじゃなくて、他者とつながりながら登るようなもの。そして、自分を磨くのだと思います。チームに所属している場はチームメンバー、そして関わる人全員と目指す山を登るようなものなのかもしれません。
牧:成功しているいわゆるIPOとかそういう方向でもうまくいっているベンチャー経営者っていうのは、その人が本当に素直にその人を完成させていっているときに、ぐっとお金とか事業とかうまく回っていくっていうこともあるんでしょうかね。
勝屋:それもありますね。それと、あとその人の持っているエネルギーとか、向き不向きもあるんだよね。そこは結構良くわかります。あんまりビジネスモデルがどうのこうのとかいうのは後付けです(笑)。
牧:ですよねー。戦略ってたぶん、後から振り返って筋が通ってるなと見えた時に戦略性があるように見えて。最初に戦略があってその戦略に沿って成功するっていうプロセスは実際のところほとんどないのかなって。
地域資源や固有の文化なんて言わない方がいい
祐子:地域に関わっていると、ここ(地域)には何もないとかよく耳にするんです。でも地域を豊かにしていくのに、条件は関係ないんじゃないかって外から見てると感じるんです。何もないけど何かあるって、私一番すごいと思ってて。特に西粟倉はそれを感じさせてもらうところです。でも、その一見、何もないとこに何かを見いだしたり、生み出したりしていくのはやっぱり人なんですよね。
牧:地域資源とか地域固有の文化とかなんか、そういうのもう言わないほうがいいっていうか。何もないと思うところから始めるからなにかあるんで。うちにもこんな特色があるとか、特徴があるはずだからそこから始めようとかって、結構しんどいやり方だなあと。お役所的にはみんなそうなるんですけどね。金太郎飴じゃいけない、うちはうちの個性はっていう。実際は、日本中どこにいっても山があって田んぼがあって畑があるのって、どこでも一緒なんで。
祐子:一人一人が起業家っていうのと一緒ですよね。勝屋さんも定期的に25日に振り込みがある生活を25年勤め続けていた人です。そしてリストラ宣告。ある日突然、1週間で今後の身の振り方を考えてくれって言われて、もう2ヶ月くらいドヨヨンとしていて、本当大変だったんです!それはそうだと 思います。 25年間、与えられている世界にいた人が、急に君これからどうする?1週間で決めてと言われて。わたしは彼が自分らしく生きられたらどんな選択でもよかったんですけど。
ありがたいことに残る選択肢もあったんですよね。ただ、いままで好きにやっていたのを、 半分はこれまで通り自由にしていいけど、半分はこれをきちんとこれをやってくれと言われるようになったんです。今まで自分を好きなことだけある意味やっていたのに、急に半分義務でやらなきゃいけないことができて、それを提示されて、それでまたすごく悩むんですよね。残れば生活は保証されるけどどうしよう。みたいな葛藤が2ヶ月くらいあって、そこを超えたとき、やっぱり、自分で立つって決めたんですよね。やりたくないことはやらないって。その時点で。
そしたら本当に、いろんな人が助けてくれたんですよね。一回だけ勝屋さんの講演を聞いてくれた方が突然1年間の支援を申し出てくれたり、たくさんの方から、おそらく応援であろうというお仕事を頂きました。彼が自分の人生を生きるって決めた時に、本当に応援してくれる人が現れるんですよね。私もその経験をしていて。勝屋さん自身もその経験があるのでちょうどそんなタイミングの人がいたら自信をもって「絶対大丈夫だから、やりたいことやりなさい」って、言えるんだろうと思うんです。その2ヶ月くらいのドヨヨンとした葛藤といったら・・・もう・・・もがき苦しんだ時間だったと思います。
牧:でもその、もがき苦しむっていうプロセスもやっぱり、ないといけないですよね。
祐子:いつ向き合うか、勝屋さんは48才だったんですけど、それが20代なのか、その人のタイミングでいつなのかっていうのはわからないんですけれども。
牧:もがき苦しんで調子悪いくらいの時がチャンスなのかもしれないですね。自分の人生を生きるっていう。
小さい渦と小さい渦が乱立していって、大きな渦になっていく
牧:自分の人生を生きる人たちが、単独ではなくていろんな人のつながりの中で、だからひとりひとりの渦があるんでしょうね。小さい渦がたくさん集まって、こう大きい渦になっていく、銀河系みたいな。たまたま、今台湾に向かっている台風が900hPaくらいの凄く大きい台風ですけど、あれがここ一週間くらいで、はっきりした目を持つ大きな渦になるプロセスの動画を見てて、ものすごい面白かったんですけど、局所的に積乱雲が発達して、小さい渦、小さい渦がブワーッと乱立している状態からだんだん、ブワーッっていう渦になっていくんですよ。これかなあと勝手に思って。
勝屋:そうだと思いますよ。それですよ。
牧:局所的に上昇気流は発生していて、それぞれは小さいんだけれどぽこぽこ発生している小さな渦が大きな集合体、大きな渦になって秩序を持ち始めるんですよね。地域が面白くなるとか会社が面白くなるとかって、こういうことなんじゃないかっていう。だから、秩序を生み出すきっかけになるような言語化とか、ビジョンみたいなものとかコンセプトとか大事だと思うんですけど、一人一人が自分の人生をしっかり生きていく、一人一人が自分なりの渦を作っていくっていうのが、だんだん成熟してくると大きいしっかりしたやつが出来ていくっていうのが、会社が結果として大きく成長していくとか浮上してくっていうことなのかもしれないなあという気もしていて。
地域が面白くなるって、地域は会社でもなんでもないですので、どれだけ自分の人生を生きれる人がそこで増えていくのかって、それが地域が面白くなるというか。地域活性化ってもう使い古されてなにが活性化なのかよくわかんない。個人個人がちゃんと活性化していくっていうか。その積み重ねで。
勝屋:それがたぶん「学校」で。ある意味、森の学校が、今の時代の学校じゃないのかなと。
牧:そうですね。そういう場が作っていければと思うし、今回のローカルベンチャースクールっていうのも、ひとりひとりの渦をしっかりつくっていくような、きっかけを与えられる場になったらいいし、勝屋さんと祐子さんがそこに来てくれると最強だなあと、僕は強く思っていて。地方創生とか活性化とかって結局そういうプロセスだよね、と捉え直すことができたらシンプルで、わけがわからない計画とか作らなくても。
勝屋:牧さんみたいに渦を作りそうな人とか、作って間もない人を引っ張ってくるとか、そこを見つける作業を広げる応援団になるみたいな。全部同じだなと思って。わかりやすいのがベンチャーの世界だし、地域の世界だし、大きな会社も、なんでもそうなんですけどね。
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