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【北海道厚真町、起業家募集中】不通過でも「ありがとう」で終われる「本音の場」。北海道よろず支援拠点のチーフコーディネーターが見た厚真町ローカルベンチャースクール。

北海道厚真町で開催される、地域おこし協力隊制度を活用した起業家支援プログラム「ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」には、参加者に助言、支援を行う「メンター」も参加します。そのメンターのひとりとして小企業事業者に対して経営支援を行う「北海道よろず支援拠点」でチーフコーディネーターを務める中野貴英さんがいます。日々事業者の相談にのる中野さんにとってLVSとはどのような場だったのか?そして中野さんが大切にする支援のあり方や考え方について、LVSで共にメンターとして関わった花屋(エーゼロ厚真取締役)がお話を伺いました。

相談者の課題が解決するまで一緒に考え続ける、北海道よろず支援拠点

厚真町は今年もローカルベンチャースクール2022を開催します。エントリーをご希望の方はこちらをクリックしてください。

―中野さんには2019年、2020年のLVSにメンターとして参加していただきました。まずは「北海道よろず支援拠点(https://yorozu.hokkaido.jp/)」について教えてください。

中野:はい。よろず支援拠点は中小企業庁による国の事業として、全国47都道府県に設置されている無料の経営相談窓口です。北海道は広いのでここ札幌以外に6か所の支部があります。(LVSと同じような)創業に関する相談は全体の2割ほどで月に約200件になります。創業に関しては、誰に相談していいかわからない、何を相談していいかわからないところがあり、そこをしっかり整理することからお手伝いします。

北海道よろず支援拠点チーフコーディネーター中野貴英さん

―そういったさまざまな相談を受けるのは「コーディネーター(https://yorozu.hokkaido.jp/staff/)」の皆さんですが、専業でこちらにいらっしゃるのでしょうか?

中野:各コーディネーターはそれぞれが自分自身の会社や事業を持っていて、週に1日か2日、ここにきて相談対応をしています。創業支援といった観点では各コーディネーター自身に創業経験があり、起業する人たちの気持ちがよくわかるところがあると思います。

―よろず支援拠点にいる皆さんはどのように選ばれるのですか?

中野:コーディネーターは公募に応募いただいた方の中から適任者を選任しお願いしています。私が務めているチーフコーディネーターは各都道府県の拠点責任者となりますので、公募により国に選ばれます。この拠点は9年前にできましたが、私はそのときに選んでいただきました。当初はここがいったいどのようになるかもわからず手探り状態でしたが、たまたまご縁があり手を挙げて、気づけば9年になりました。

―よろず支援拠点の目的、目指すものはどのようなものですか?

中野:各中小企業が抱えている課題が解決されるまで一緒に考えることです。何か情報を出してアドバイスして終わりではなく、成果が出るまでトライ&エラーを繰り返し進めていきます。そのため何度でも相談無料で対応しています。

―「成果にコミットする」ですね。言うのは簡単ですがとても大変なことですよね。

中野:大変です。「100%解決できるんですか?」と言われるとそうでないことも当然あります。9年やってきて思うことは「解決するのは相談者本人」ということです。解決するために必要なことはそのときどき、相談者ごとに変わります。それに対して教科書にあるようなことをただ伝えるだけではなんの価値もなく、相談者のことをしっかり見て、相談者自身が解決のために何が必要かを考え、行動に移せるようにアドバイスすることが大事です。

北海道よろず支援拠点は、観光名所「札幌市時計台」のすぐ近くにあります。

周りの人は見てくれている。やると決めたらとにかく全力でやる。

―続いて中野さん自身のことを聞かせてください。中野さんも自分自身のお仕事を持ってらっしゃるんですよね?

中野:ここでの仕事と同じような内容ですが、経営コンサルタント業で企業の顧問をしたり、事業のお手伝いをしています。

―創業するまでの経緯を教えてください。

中野:最初の影響は父親が会社をやっていたことですね。今もやっているんですが、その会社がつぶれかけたという非常に重たい経験があり、そこで「会社経営って何だろう」と関心の種が生まれました。
そして社会人になるときに金融業界を選び、都市銀行に入行し京都支店の配属になりました。。そこでいろんな経営者と会う中で「うまくいくといかないとの違いって何だろう」とより深く考えるようになりました。そうした関心を持ち続けるなかで「企業診断」をする部署に配属になり、さらにその関心を深堀りできるようになりました。そしてより実践的に手伝えるようにと思いコンサルティング会社に転職した後、自ら事業をやってみたいと思い北海道に戻り創業しました。

―コンサルタントのままでも十分に関心を満たし、実践もできたと思うのですが「北海道で創業する」という選択に至った理由は何でしょうか?

中野:そうですね。やはり北海道が好きですし、高校を出てすぐ北海道を離れたこともあり北海道を満喫できてない感じもあったので潜在的に戻りたい気持ちはあったと思います。
また「誰を手伝いたいか?」を考えると、会社が傾いたときの自分の父親の顔を思い出します。あのときは助けられなかったけど、今なら助けられたかもしれない。だから私の中では経営者の支援は「家族を応援する」ような感覚なんです。であれば、より地元感のある北海道の経営者を応援したいと思いました。


―そういう思いがあったとしても、創業すればお客さんが必要となりますよね?すぐに見つかるものなのですか?

中野:見つからないですよね(笑)。コンサルティングの経験は積んできましたし、依頼があればどんなことでも対応できるとは思っていましたが、当時自分が作った創業計画書通りに進んだかと言ったら、全くその通りになってないです。それぐらい現実は厳しいものがあります。
ただ、軌道に乗るのに数年はかかると思って準備はしていましたし、うまくいくかどうかを楽しむことも含めての独立だと、前向きにやっていました。


―その状況で前向きにというのも難しいと思うのですが、実際にはどのように仕事をされていたのですか?

中野:飛び込み営業などは得意ではないのでやっていません。ただ、すぐにお金にならないようなことでも縁があれば一生懸命やりました。
例えば、電話がかかってきて聞いてみると資金繰りの相談でした。報酬額も決まってない、契約もなしでしたけど相談に乗って、金融機関に融資の申し込みまで持っていきました。でも、審査は通らず。そうしたら「中野さんのせいじゃないですか?」と言われました(笑)。

LVSで参加者と対話する中野さん(左)

―それは…(笑)。何ももらってないのに。

中野:善意だけでやってもなとは思ったのですが、それでも続けていたら8つ目くらいで融資がいただけたんです。とにかく時間はありましたのでやると決めたら全力でやっていました。そうやって進める過程で出会った人たちが私の動き方を見てくれていて「中野さんは一生懸命やっていたから」と、別のお仕事をいただけることにつながったりしました。ここでのチーフコーディネーターの仕事もそういったつながりから教えていただいたものです。

―見てくれる人がいるんですね。

中野:そうですね。創業する人たちには「信頼を得られるまでの期間をどれだけ短くできるか?が事業を軌道に乗せる上で大事です。なんだかんだと周りの人はあなたが信頼できるかどうか、どんな風に取り組んでいるかを見ていると思いますよ。」と伝えています。

LVS、自分だけが関わるのはもったいないなと感じた「本音の場」

―ここからはLVSについてです。こちらからお願いしておいてなんですけど、初めはきっと何もわからずに来ていただいていますよね(笑)。

中野:そうですね(笑)。でも、私がここにいる役割は何かしら相談に来てくれたものを次につなげていくことですし、これはこれできっかけをいただけたということで自分が果たせる役割があるなら行くべきだなと思いました。

―それはありがたいです。LVSではどんなことが印象に残っていますか?

中野:すごく「本音の場」ですね。形式上の支援ではなく人間味のある支援の場、一番好きな場所。厳しいことも言うけど批判ではなく、相手のための言葉。相手のことをちゃんと見て言葉を発し、人間と人間がちゃんと接している感じの場ですね。

―具体的にそのように感じた瞬間はどんなところですか?

中野:参加者に対して「不通過です」を伝えたときです。伝えられた側のほとんどの人の反応が「ええ!?なぜですか!」ではなく、「この3日間本当に勉強になって、すごく良かったです。ありがとうございました」と。通過しなくても「ありがとう」で終われるところが、お互いがしっかり意思疎通できていると感じるところですね。

―中野さんにはメンターの役割を担っていただきましたが、参加者とはどのように対話をされましたか?

中野:1回の対話は20分ずつぐらいの時間だと思いますが、すごく緊張感のある場でこっちも真剣勝負。この時間がこの目の前にいる人にとってプラスの意味を持てるのかどうか?この人が望むところに行くための分岐点になるようなアドバイスがひとつでもふたつでもできたらと思いながらやっていました。
LVSは不通過だった方ですが、そのときお話しした方が私のことを覚えてくれていて「やりたいことが消えたわけじゃないし挑戦を続けていて、今はこんな感じです。次をどう進めようか」と、よろず支援拠点に相談に来てくれたこともありました。そういうことが何件かありましたね。

―それはこちらもうれしいです。そしてLVSには中野さんだけでなく、他のコーディネーターの方にも参加いただきました。

中野:そうですね。まず、私だけがあの場を経験するのは「もったいないな」と思ったんです。だから「ぜひ経験して欲しい」と話をしてみて「行ってみたい」という人に参加してもらっています。そしてやはり私と同じようなことを感じて帰ってきてます。各コーディネーターにとっても、あの真剣勝負の場で自分が役立てたかを自問自答することが各自の成長にもつながっていると思います。

よろず支援拠点のコーディネーターとして2020年度のLVSに参加した新宮さん(左)。「熱い思いの人が多かった」と感想を教えてくれました。

 

―最後にLVSを目指す人や創業しようとする人に中野さんからのアドバイスをお願いします。

中野: 今見えている比較的近い未来のことだけでなく、もっと先の目標や目的も見る。目の前の目標と、人生という長いスパンでみたときの目標を同時に掲げる。そうすればある短い目標が達成できなかったとしても、長いスパンの目標から見ればどう立て直していけばいいかとなり、その瞬間では成功も失敗もなくなります。短期的に失敗していたと感じても先の目標があることで楽になれます。

―長いスパンの目標を見つけるのはなかなか難しいと思うのですが、何かコツがありますか?

中野:近い目標をとにかくクリアしていくことです。そうすると次はあれをやろうかな、これをやろうかな、が湧いてくるようになります。たいていの場合、目標を設定できないのは「失敗したらどうしようかな」が入ってくるからなんですね。小さくクリアし成功体験を続ける中で先の目標が見つかる。そういうものでも良いと思います。


―いろいろなお話を聞かせていただきありがとうございました。今年もLVS開催しますので、引き続きお力添えをお願いします。

中野:こちらこそ。よろしくお願いします。

LVS終了後のスタッフ集合写真。中野さん(後列一番左)も一緒に。

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