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最強の思い出を、次世代につなげたい。厚真町商工会青年部・寺坂元部長の意気込み
Date : 2018.01.12
全国各地で地域の商工業の改善・発展を目指し結成されている、商工会。今や全国に1,700以上が設立されています。商工会青年部は、その中でも次世代の事業の担い手が集う場。北海道厚真町の商工会青年部は、今年50周年の節目を迎えます。昨年度、部長を務めていた寺坂康生さんは、先輩に託されてきた”最強の思い出”づくりを次世代につなぐべく奮闘中。人手不足で仕事や地域活動に役割が増える中、これからの未来について語っていただきました。
年2日で1年分の資金を稼ぐ、男たちの気概
– まずは商工会青年部というのはどのような団体か、教えてください。
寺坂:商工会青年部は、商工業の後継者や経営者で、親や自分が会社や店舗を経営している45歳までの人が集まっている組織です。加盟は任意で、厚真町では現在30名ほど加盟しています。私は父が経営する株式会社厚信電機から青年部に参加し、昨年まで部長を担っていました。
– どのようなことを目的に、活動されているのでしょう。
寺坂:簡単に言ってしまえば、町を盛り上げていくための団体です。今年青年部は50周年を迎えるのですが、長年続いてきた町のイベントを企画運営したり、小学校入学式に合わせて子どもたちに探検バッグを寄贈したり、経営者としての自身の資質の向上のためにさまざまな活動をしています。部長として「新たにこういうものをやってみようよ」と提案もしました。
– イベントというのは、具体的にどんなものを運営されているんですか。
寺坂:まず、厚真には「田舎まつり」という大きいお祭りがあるんです。年に1回、2日間に渡って開催していて、今年で45回目を迎えた伝統的なお祭りです。前夜祭で1万人ほど、本祭で1万5,000人もが集まるんですよ。
– 厚真町の人口って、5,000人以下ですよね。ものすごい集客力のイベントですね。
寺坂:そうなんです。町外からも、相当数の方がいらっしゃいます。そこで、焼き鳥や焼きそばの屋台を出したり、子供たちに向けて縁日をしたりしてます。実は自分たち厚真町商工会青年部は昔から、田舎まつりで年間の活動資金を集めているんです。
– 2日で年間の活動費を集めるとは、緊張感がありますね。
寺坂:他の商工会青年部では、商工会の親組織から予算をもらうケースも多いので、珍しいと思います。だからみんな、楽しみながらも必死ですね。
田舎まつりって、例えると大ジンギスカン祭りなんです。”草原焼き”と言うのですが、会場で焼くあづまジンギスカンや野菜も販売していて、購入していただいた方には無料で炭を提供し、その場でみんなジンギスカンするんです。ビールも売るし、なんでも売る。もちろん青年部の他にも農協や他の出店もあります。とにかくそこで一生懸命やって売り上げを上げるっていう感じですよね。とても盛り上がるイベントです。
– それは楽しそうですね。厚真町は作物も豊富で、ジンギスカンも有名なお店があるので、まさにこの町ならではのイベントという感じがします。他にも運営されているイベントはあるのですか。
寺坂:大きいイベントでいうと、2月の初めに「スターフェスタ」と「ランタン祭り」が同時開催されて、商工会青年部は「スターフェスタ」を主催しています。半分に切って薪を詰めた一斗缶を400個〜500個作って、火を灯して、田んぼにその年の干支文字を作るんです。そして、着火と同時に花火を2,000発上げる。多くの人が見にきてくれるイベントですね。このイベントでも、マイナス20度の中で、あづまジンギスカンをみなさん食べるんですよ(笑)
– こちらも、厚真を盛り上げていこうという気概を感じさせてくれるイベントですね。
つながりを大事にする厚真が好きだから
– 寺坂さんは厚真にUターンされたと伺いましたが、どんな経緯でここまでこられたのですか。
寺坂:中学を卒業するまでは、ずっと厚真で育ちました。田舎だから、近所のみんなが友達という感じの環境で育って。すごく特別なものがあるわけではないけど、隣近所で仲がよくて、今思うと過ごしやすい環境だったと思います。田舎まつりは、自分にとっては最強の思い出ですね。僕らが小学生のときは、1学年で大体50人くらいで、そのうち今厚真に残っているのは10人くらいですけど、彼らは今ほとんど青年部に入っています。
大学で町外に出た後、卒業してからも3、4年は苫小牧にいました。でもやっぱり厚真が好きだったので、どんな形であれ、いつか戻ってこようと思ってたんです。厚信電機は兄が継ぐことになっていたので、戻らなきゃいけないということはなかったんですけど。
– 厚真は、こども園や子育て支援住宅など、子育てをする人にとって優しいイメージがあるのですが、もともとこども自身にとっても過ごしやすい土壌というのがあるのかもしれませんね。
寺坂:なんでしょう、うまく言葉にならないですけど、厚真は人同士のつながりが結構あって、それが好きでしたね。小さいころも近所付き合いがものすごく濃くて、子ども会でキャンプに行くだけじゃなく、普段から近所の家族で集まって炭を焚いて「ジンギスカン食べようよ」っていう感じでしたし。それがとても楽しかったんですよね。だから自然と、そういうつながりのある環境っていいなと思うようになっていたんだと思います。
– 厚真に戻ってきてから、寺坂さんが青年部に入るきっかけは何だったのでしょう。
寺坂:うちの父親が、実は商工会長なんです。それで僕が厚信電機に戻ってきたときには、必然的に先輩たちから「青年部、入るよね」みたいな流れになってて(笑)。入ったのは26、27歳くらいですね。なので10年くらい活動してます。
– 青年部の活動は、皆さん仕事と並行してやられるのだと思いますが、寺坂さんは普段どのようなお仕事をされているんですか。
寺坂:厚信電機という電気工事の会社で営業部長の立場として、営業担当をしてます。工場や病院、学校、マンション等の電気工事を施工する会社で、出張で色々な地方に行くことが多いです。道内だと苫小牧・札幌が中心で、道外にも行きます。あと、会社の管理業務もやっています。
– お仕事も忙しそうですね。その中で、青年部の活動はどれくらいされているんですか。
寺坂:青年部は、平均すると月2回くらいです。青年部長になると親会である商工会の理事委員にも参加します。その他、消防団や苫小牧の電気組合の青年部もあるので、夏のイベント前になると、特に休みがないです。新鮮組での活動もありますし。
– 新鮮組、というのはどんな集まりなんですか。
寺坂:厚真の商工会と、農協と漁協の青年部が一緒になって活動している団体です。新撰組にかけて「新鮮組」。これも30年近く歴史があるんですよね。各団体の垣根を越えて、厚真産のものを拡大させて、町を元気にしようという団体です。昔は、商工会と農協と漁協の連携などはなかったのですが、小さな町なんだから、みんなで協力していこうよと始まりました。今は、すごく仲良いですね。新鮮組主催で、婚活パーティーなんかも開催してます(笑)
– 地元での出会いが生まれるいい機会ですね。昔だと、例えば仕事の合間に青年部の活動をするくらいでも回っていた、なんてお話もお聞きしたのですが、寺坂さんのお話を聞いていると、1人ひとりの活動範囲も広くて、本当にお忙しいですよね。
寺坂:そうですね。基本的に仕事は忙しくて、人は少ない、イベントも多い。だけど、僕は楽しいと思ってやっています。もちろん大変なこともありますけど、イベントが終わってみんなが喜んでくれて、俺らも楽しめたっていうのであれば、それでいいと思うんです。みんなに伝えてきたのは、まずは僕らが楽しもうと。「俺らが楽しまないと来てくれてる人だって絶対楽しくないから」って。それはずっと思ってきています。
次世代不足は必至。それでも厚真のよさを残したい
– 寺坂さんが青年部の部長としてこだわってきたこと、活動の中で大切にしてきたことはありますか。
寺坂:厚真町は歴史の長いイベントも多いんですが、自分が部長になってからこの行事がなくなってしまった、という風になるのは嫌だったんですね。人手不足で厳しいなと思うことはたくさんあっても、先輩たちが残してきたものは何とか残したいなと思って。そこは一番考えてやってきましたね。
青年部のメンバーに対してで言えば、青年部に参加するのって楽しいんだよ、っていうことは伝えようと思ってきましたね。確かに大変ですけど、終わった後みんなで「いやー、今回うまくいったね」とか「もう少しああした方がよかったね」とか、飲みながら達成感を分かち合えるのはものすごくいいものだと思っているので。
ただ今、そういう集まりに対する考え方とかが変わってきてますよね。そもそもそういう集いがあまり好きではない、とか。でも少しでも接点を持ってもらいたくて、例えば打ち上げはどこかへ食べに行くんじゃなく、自分たちで炭焚いて「ご飯だけでもいいから食べていきな」とか。そういうのはやってきました。
– 今後の青年部のあり方について、何か考えていることはありますか。
寺坂:若い参加者は、やっぱり減ってきてるんです。なので今あるイベントをすべて継続していくのは、残念ながらほぼ不可能だと思います。ただ、残していきたいものはたくさんあるので、やり方を変えながらできるだけ続けていきたいです。それに、出て行く人ばかりではなくて、最近は厚真に移住してきてくれている人、Uターンしている人もいますからね。そういう方たちに、加入を呼びかけたりもしてます。先日も、4人ほどの家に直接訪問してきたんですよ。
– 移住といえば、厚真町では昨年度からローカルベンチャースクールというイベントを通じて、移住者を集っていますよね。厚真町内で起業したい人も応援していく、という内容ですが、この動きについて寺坂さんはどう受け止めていらっしゃいますか。
寺坂:僕ら地元で育った人間って、外から人を呼ぼうだとか、起業するためのプログラムをやろうだとかいう感覚がなかったんですよね。だから、素晴らしいなって思いますよ。そうやって外から来て厚真町で起業して、その人が成功すればもちろん厚真町にとってものすごくいいですもんね。
すでに町内にいる方でも、もし「やってみよう」ってチャレンジしてくれる人がいたらいいんじゃないかなと。僕ができることはなんでも応援したいですよね。
– 最後に、厚真町や青年部が、今後どうなっていったらいいなという想いがあれば教えてください。
寺坂:そうですね、もちろんイベントそのものもなんですけど、やっぱり人のつながりは残していきたいです。僕らがまだ子供の頃は、隣近所で顔もよく知っていて、そういうのをいいなと思ってきたんですよ。人が入れ替わっていくと、どうしても関係性が希薄になりがちだとは思うんですけど、それでもつながりを作れるようにしたいです。
あとは、今年青年部は50周年なのですが、100年後も同じように、居酒屋や地元のお店が盛り上がっていればいいなと思います。商工会青年部って、当たり前ですがそれぞれがやっている事業があって初めて成り立つので、いかに商売を継承させていくかが大事なんですよね。
今は50周年記念のイベントも企画中です。まだ具体的には決まっていませんが、特に子どもたちにとって「将来、厚真に戻ってきたい!」って思ってもらえるような最強の思い出になるようなものを1つ、作れたらいいなと思っています。
お話からは、これまで上の世代が守ってきたものを次に伝えたいという想いが強く感じられます。次世代の担い手不足という全国共通の悩みに向き合いながらも、”最強の”思い出を残すために、前向きな未来について語ってくれました。
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(取材後記)
取材後、2017年度の商工会青年部長には金谷泰央さんが就任しました。
今年10月に開催された50周年記念事業では、「厚真町の未来につながる企画を行いたい」という想いからインターンシップ事業を実施。北海道内・道外の3名の学生が参加し、町内の事業所や新鮮組販売イベントに関わりました。商工会青年部員との交流を通じて、若い世代が厚真で生きるということに直に触れてもらう機会となりました。
厚真町商工会青年部創立50周年記念式典も無事に終え、部員は現在32名に増加。これまでの活動で得た信頼から、部員も増え続けています。
「より魅力的な商工会青年部を目指して、これからも地域発展の先駆者として人と地域を繋ぎ、未来を描いていきたい」と語る金谷さん。
今後も厚真町を盛り上げていくために、厚真町商工会青年部の挑戦は続いていきます。