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動き出す「北のナリワイ研究所」。研究対象は自分自身。 「LLL2017 一次選考合宿」
Date : 2018.02.28
今年初めての開催となる「厚真町ローカルライフラボ」の一次選考合宿が2017年10月13日〜15日に行われました。「厚真町ローカルベンチャースクール」との合同開催で、ローカルライフラボには全国各地から13名が参加。「ここから何かを変えたい」と願う参加者の熱気に包まれた「リセットとリスタートを考える」会場の3日間に密着しました。
(LVSの一次選考合宿レポートはこちら)
自分なりの「ナリワイ」を研究する
「厚真町ローカルライフラボ(以下、LLL)“北のナリワイ研究所”」は、地域で暮らし方や働き方を探求し、自分なりの「ナリワイ」を生み出すプロジェクト。事業計画を立て町内で起業することを目的とする「ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」に比べて、LLLはハードルを下げて、厚真町や移住に興味を持つ人が、起業を含め自由なテーマで可能性を探究し、自らが進んでいく方向を見出すことを目的にしています。
研究員は最大3年間、厚真町に暮らしながら、町内での起業や店舗開設、醸造家など、自らの「ありたい暮らし方」を築くことをめざします。
LLLの運営を手がけるエーゼロ株式会社代表の牧大介さんは「都会から、いきなり移住して起業を同時に始めるのは大変です。魚の水槽を変える時に、新しい水に順応させるための時間を持つことで、魚が新しい環境で安心して泳ぎ出せるように、LLLは移住する人が地域に上手く馴染むための期間です。研究生として暮らし、LVSへ進むかもしれないし、企業に就職するかもしれない。これは厚真町にとっての研究でもあります」そう話します。
一次選考合宿は、書類審査を通過した18名のうち13名が参加。
参加者は男女20代〜50代。学生から、会社員、公務員、既に起業している人まで世代も背景もさまざまです。共通するのは、今の生活や仕事に対して「このままでいいのか」という思いでした。
13人、それぞれのスタート地点
合宿は、町内フィールドワークから。
北海道でも屈指のサーフポイントである浜厚真をはじめ、町役場の若手職員がプロジェクトを立ち上げ企画に参加した認定こども園、今年オープンした研修農場、分譲地・フォーラムビレッジなど、ナリワイを生み出すためのヒントとなる場を巡り、町の方から直接話を聞きました。
メインファシリテーターの1人、『greenz.jp』編集長・鈴木菜央さんは、「少し前に厚真町に来て事業を始めて少し形にしている人やもっと前から始めてかなり形にしている人たち。いろいろな人と話す中で、自分自身の形を作っていく。それが最も実現可能性が高い方法です」と、フィールドワークの狙いを語ります。
もう1人のメインファシリテーター、エーゼロ株式会社・但馬武さんや、メンターとなる町内外のアドバイザーも、参加者をフォローしていきます。
最初のワークショップは、自分の人生をグラフにして「見える化」した変遷グラフ(人生のテンショングラフ)と、「いまの自分とこれからの自分」を整理するシートの共有。上がったり下がったり起伏の多いジェットコースターのような人生や、極端な高揚も落ち込みもないフラットな人生など、グラフの形状はさまざま。「今」のテンションに注目すると、少し上向きな人、ゼロポイントに近い人、低い人もいます。時間をかけて自分自身を振り返り確認した、それぞれのスタート地点。
アウトプットするワークに、「過去を振り返るのは嫌だったけれど、聞いてもらうと爽快感があった」「自分自身と向き合うつもりが、自分をよく見せようと作っていることに気づいた」「話を聞いてもらって、自分が何を考えているのか、何をやりたいかが見えた」など、参加者からさまざまな声が聞かれました。
「どんな人でも変われる。自分を生きろ」
一次選考合宿2日目。前半のハイライトはLVSのチーフメンターである勝屋久さんの講義です。数多くの企業でメンターを務めています。
勝屋さんは参加者に「どんな人でも変われます。そのためには、自分がワクワクすること、ピュアな欲求を探して、叶えること」と言い切ります。「一方で、思考はやらないことを正当化する。お金がない、時間がないといって欲求を打ち消してしまう。だから正当化している自分を客観視することが大事。『自分はどうしたいのか』を問い、純度の高い欲求に従ってチャレンジすることで人間は変われるんです」。そう話します。
勝屋さん自身の人生からにじみ出た言葉の数々は頭だけではなくハートに直接響きます。参加者からは「目が覚めた」「30歳だから、会社員だから、とブレーキをかけていたけど、自分が幸せに生きたいという想いに素直に従っていいんだと知ることができて楽になりました」という声が。
「自分を生きろ。生ききったらいい」という勝屋さんのメッセージが、リスタートを望む参加者たちに突き刺さりました。
10年後の自分にワクワクする
午後は、望み通り夢が叶った10年後の日記を書く「未来日記」のワーク。
その日の天気、肌を包む空気の温度、漂ってきた香り、聞こえてくる会話まで、細部に渡り五感を総動員し、自分にダイブして言葉を紡ぐ作業。参加者は意識を集中してイメージを膨らませます。
鈴木さんは、こう話します。「LLLに採択されたら、おそらく厚真町では先例のないプロジェクトを形にしていきます。それは、不安で、孤独で、高度なチャレンジ。そのときに核になるのが、自分が本当にやりたいと思う確固たる何かです。このワークの目的はそれを感じること。10分や15分では心は答えてくれません。でも、30分ほど経つと少しずつ心が答えてくれるようになる。最後の5分はきっととめどなくイメージが湧き上がって、思いもよらないようなことがバンバン出てくるはず。それを経験してほしい。心からあふれ出るものを確認できたら、迷ってもそこに立ち戻ることができます」。
参加者が発表する「未来日記」に耳を傾けると、まるで映像を見るかのように10年後の一日がビビッドに語られることに驚きました。
但馬さんは「未来日記は思考を拡散する作業、次のワークの売上や数値目標をナリワイに落とし込むのは収束の作業。拡散と収束を繰り返し、螺旋を描くように上昇する人もいれば、堂々めぐりの人もいる。一次選考合宿のゴールは、厚真町でチャレンジすることがぼんやりとしながらも決まること。あるいは、ここは私がチャレンジする場所じゃないと気づくのも一つの答えです。大切なのは、参加者にとってここが安心安全な場であること。他人から評価されることを恐れずに話ができる。未来志向で楽しむ。その場づくりはファシリテーターの僕たちだけでできることじゃなく、一人ひとりが築き上げるものです」。
年齢も立場も関係なく、夢を本気で語ったり、他人の夢を応援したり。そういうシーンを日常に作ることの難しさを、参加者自身も知っているからこそ、気で臨む。
2日目の最後に参加者がプレゼンテーションした「ナリワイ」は、それぞれが懸命に答えを出したものでした。
「陶芸活動をしながら民泊を受け入れてまちに人の流れを作りたい」「浜厚真にトレーラーハウスを集めて屋台やゲストハウスのある“下町”を作りたい」「地ビールを造りたい」「ビーチサッカーのクラブチームを作って、厚真町からビーチサッカー文化を発信したい」。
最後に登壇した参加者は「ナリワイは整理できなかった」と打ち明けました。「これから、自分にできることを見つけたい。それが率直な気持ちです」。2日間、考え抜いて出した結論。それを聞いた勝屋さんは「きちんと向き合って自己開示できたところがカッコイイ」と拍手を送りました。
導き出した、自分自身の答え
合宿を通して、参加者にはさまざまな変化が生まれました。
厚真町でコミュニティサロンを作りたいという夢を抱いて札幌市から参加した福本深里さん。
「夢をお互いに応援できる関係が生まれました。一人で考えている間は行動に踏み出せなかったけれど、想いの強い人たちと話し合う中で世界が広がり、お互いのテンションが上がりました。サロンワークや薬膳の知識をもっと磨いてたくさんの縁が繋がるコミュニティサロンを開き、いただいたご恩を、訪れるみなさんに『恩送り』できるような場をつくりたいです」。
人生のテンショングラフで「今」を人生の底辺に位置づけた浦田弘幸さん。
「最初は今の状況をリセットしたい気持ちが強くて、厚真町での暮らしをぼんやりとしかイメージしていませんでした。
合宿を通して狩猟や採取を中心とした暮らしを築きたいという夢の輪郭が明確になってきました。起業という同じ志を持つ仲間と出会い、また厚真町職員の熱い想いに触れ、多くの刺激をもらいました。ここでなら自分も目標を持って起業に挑戦できるのではないかと気持ちが高まりました」
恵庭市から参加した村上紗希さん。
「地域の課題解決のために今までにないような求人サイトを作りたいという事業プランが、合宿でどんどん変わりました。
求人サイト自体、“手段”に囚われていた部分がありました。でもワークをする中で自分を放出し、本当にやりたいことを見つめ直すことができました。『まちづくりがしたい』『笑顔が見たい』『人の心に届くような文章を書きたい』『自分らしく幸せに生きたい』。この4つが私の核。求人サイトの夢を手放し、手段にとらわれることから離れると決めた今、結局ふりだしに戻ったのですが、自分の核を大切にしながら自分なりの形を見つけたいと思います」。
但馬さんは「みんなの思いが上手くかみ合い暖かい場が生まれました。いろんなチャレンジャーがそれぞれの想いを自分なりにブラッシュアップできたことが、この3日間の成果でした」と語りました。
鈴木さんはLLLの成果として「和気あいあいとした中でそれぞれが未来を見据えた議論がきちんとできたこと。自分の内面、根っこにある欲求からプロジェクトを考えることができたこと。これからも続く人と人とのつながりのベースができたこと」の3点を挙げました。
3日間に及ぶ合宿を終え、LLLの参加者は厚真町を後にしました。研究すべきナリワイを見出した人、最後まで見つけられなかった人、それぞれが頭と心を使い果たした疲労感を抱えながら、誰もがすっきりとした表情だったのが印象的でした。
次にどんな表情で厚真町に帰ってくるのか。再会が楽しみです。