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本気で育て、本気で寄り添う学びの場。 「LVS2017一次選考合宿」

昨年度に続いて2回目の開催となる「厚真町ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」の一次選考合宿が2017年10月13日〜15日の3日間にわたって行われました。今回は、初めて実施する「厚真町ローカルライフラボ(以下、LLL)」との合同開催となり、LVSにエントリーした4名に加え、LLLには13名が全国各地から参加。会場は昨年度を上回る熱気に包まれました。

 

精度より「想い」を重視する選考会

厚真町ローカルベンチャースクール(LVS)とは、地域を舞台にして価値創造に挑戦する事業の発掘と育成を行う起業支援プログラムです。提案した事業プランが採択されると、地域おこし協力隊や町独自の起業支援制度を活用て厚真に移住し、起業します。昨年は2名が採択され、この春から厚真町に暮らし、事業に取り組んでいます。

今年のLVSのキャッチコピーは「未完で可能性を秘めた北の大地を、思いで開拓する」。

一次選考合宿では事業プランを徹底的にブラッシュアップした上でプレゼンテーションを行い、審査通過者のみが次の最終選考会に臨むことができます。

LVSの大きな特徴は、アドバイザーの役割を担う町内外のメンターの存在。町内メンターを担う厚真町役場職員は町内で事業を展開する上でのニーズや可能性をアドバイスします。町外メンターはさまざまな起業のスタートアップや新規事業に携わってきたプロフェッショナルの方々。メンタリングを繰り返し事業プランの組み立てをサポートします。

LVSの選考会が一般的なビジネスプランコンテストと異なるのは、単にふるいにかける選考ではなく、「育てる選考」であること。提出された事業プランの優劣よりも、その人の「想い」に重点を置いていることです。3日間の合宿の中でみるみる変化していく参加者の表情が何よりもそれを物語っています。選考会に参加した二人のチャレンジャーに密着しました。

 

LVSに臨む、それぞれの理由

鈴木守門さん

一人目は岐阜県から参加した30代の鈴木守門さん。あだ名は「ゴリ」。

十勝の士幌町で生まれ育ち、高校卒業を機に北海道を出たゴリさんは、バッグメーカーに就職し、10年間勤務。そのうち7年間は中国の自社工場で製造管理に従事しました。しかし「このままここで働き続けることが自分のの生き方なのか」と自問し退職。「自然の中で自分の頭と体を使って働く」林業に興味を持ち、一念発起し阜県にある林業専門学校に通っています。

野生動物による森林被害の現状を知ったゴリさんは、狩猟をしながら林業を営む「半林半猟」をLVSの事業プランを作り上げました。

初日に行われた事業プランのプレ・プレゼンテーションでは、厚真町が抱える林業者の担い手不足の問題、エゾシカによる林業被害対策への期待もあり、会場から多くの質問が飛び交いました。

 

二人目は町内から参加した小松美香さん。彼女は大手外食産業の社員で、厚真町が受け入れを行う「地域おこし企業人」制度を利用し2年半前から町に出向しています。現在は会社の新規事業として町内の古民家を活用した民宿兼カフェを立ち上げるために奔走中。町内在住のためLVSに採択されても地域おこし協力隊になることはありませんが、自ら立てた事業プランに客観的な評価を受け、ブラッシュアップするために参加しました。

 

小松美香さん

プレ・プレゼンテーションでは、長年企業で揉まれてきたとあって観光入込客数の推移や観光消費額、アンケートなどの各種データをそろえてプランの合理性を説き、3年間の損益計画も示して実現可能性の高さをアピールしています。

 

理論武装ヲ解除セヨ

選考会の2日目は「今まで考えてきたプランを一度壊して、再構築する日」。

まず行われた個別メンタリングでは、参加者が町外メンターと1対1で面談。メンターから理論の隙をつかれたり、言葉だけで覆い隠していた詰めの甘さを見破られたり。厳しい意見でハッパをかけられ、優しいに自分の中にある想いを引き出されました。

 

「半林半猟」を掲げたゴリさんの評価を気にするあまり形式的なプレゼンテーションに、「薄っぺらい」と厳しい声が。他のメンターからは「どうしてもこれをやりたいという気持ちが見えない」と指摘を受けました。「自分らしく、自分の言葉で表現したらいい」というアドバイスをもらったゴリさん。個別メンタリング後、何度も書き直した資料ををじっと見つめ、キーボードに置いた手は止まったまま。「本当にオレがやりたいことは何だろう?」と自分自身に問いかけているようでした。

 

メンターを目の前にして事業プランを説明する小松さんは、理論武装を固めた言葉とは裏腹に、どこか自信ない様子で、小さな声は、ますます消え入りそうなほど。「プランを否定されたらどうしよう」「弱点を突かれるのではないか」そんな恐れが見え隠れします。

メンターは、プランの内容よりも彼女の想いを引き出すことに限られた時間を使いました。「あなたは何が好き?」「あなたはどうしてこれがしたいの?」。小松さんの口から、プレゼン資料に書かれていなかった「想い」が少しずつこぼれ出します。

「今まで自分が好きなことなんて恥ずかしくて言えなかった」と振り返る小松さん。「事業プランといっても、会社の事業だし、自分の好みなんてどうでもいいと思っていた。だけどメンターの方とお話しをする中で、自分はこういうことが好きなんだ、こういうことを求めていたんだということに気がついて。『自分の好きなことを本当にやっていいんだ』と思えた瞬間に視点がガラッと変わり、気持ちがすっきりしました」。

 

聞いてほしい。これが私の生きる道

個別メンタリングのあとはチーフメンター勝屋久さんによる90分間の講義が行われました。その中で話されたのは『自分軸を育てろ』『自分の壁をぶっ壊せ』ということ。厚真町で起業して生きていく、その生き方を本当に自分らしくあらせるためのヒントでした。頭だけでなく感情もビリビリ震わせる勝屋さんのパワフルなスピーチは、講義というよりライブという言葉がぴったりなほど。そのメッセージを受け、参加者たちは本プレゼンテーションまでの3時間半、事業プランの個別ブラッシュアップを行いました。

長らく温めてきた事業プランをゼロの状態にまで引き戻されてしまった参加者にとっては短くも濃密な時間。ある参加者は部屋の隅っこで壁に向かい、ある参加者は給湯室に閉じこもり、想いを言語化する作業に集中しました。

 

夕方、いよいよ第一次選考の最終プレゼンテーション。

1人目の発表が終わり、ゴリさんの番です。

「この2日間、いろいろな方に話を聞いて、本当に自分が厚真町で何がやりたいのか原点に戻って考えました」。そういうとゴリさんはプレ・プレゼンテーションのときに使ったPCは使わず、ポスターサイズのほどの模造紙を掲げました。そこには黒いペンでしっかりとこう書かれています。

“株式会社ゴリ林業はじめました(仮)”

会場から笑いが起こります。カッコ書きで「仮」と付けながらも、それはゴリさんなりの覚悟を込めた決意表明のようでした。

「このプレゼンタイトルは僕の妄想です。だけど、僕は厚真町が好きで、ここに住んで仕事がしたい、ここで林業がやりたいという気持ちを今は抑えられません」。事業プランの内容よりも、厚真町への思い、林業への思いを語り始めたゴリさん。

今は林業の勉強中であるという現在地を踏まえながら、採択後どのように林業修業をし、独立してから何年後に、どんな林業家になるのか、地域とどう関わっていくのかといった未来を描いていきます。

「僕の幸せは、誰かの喜ぶ顔を見ることです。それが仕事をする上での一番の動機になります。自分が関わることで、誰かが喜ぶ。自分が厚真で林業をやることで、ほかの人たちに可能性を示したい」。

そう熱っぽく語ったゴリさん。初日のプレ・プレゼンテーションで多くの時間を割いて説明した狩猟についてはほとんど触れることはありませんでした。「林業へのオレの想いを知ってくれ!」「オレはここに居たいんだ!」。穏やかな口調の中に、そんな湧き上がる心の叫びを込めました。

 

続いて、小松さんの発表。小松さんもまた長い時間をかけて準備してきたパワーポイント資料を捨て去り、プランを模造紙に手描きしました。

そこにはプレ・プレゼンテーションのときに多用した数字もカタカナもほとんどありません。

これまで語られることのなかった「食卓」への憧れ、それをみんなに提供したいという想い……。

「カフェでお出しするのは、たとえば熟成させた手づくりの味噌と、丁寧に取ったダシで仕立てる味噌汁。厚真町を『第二の故郷』と思ってもらえるような、ほっとする場所を作りたい」。

小松さんはまっすぐなまなざしと飾らない言葉で、事業プランを堂々と発表しました。

最終プレゼンテーションでは、それぞれの想いをしっかりと語っていただきました

 

未完の通過者たち。これからが本当の勝負

一次選考合宿最終日の朝。LVS参加者一人ひとりに選考結果が伝えられました。

 

ゴリさんが面談室に呼ばれました。

ずらっと並んだ審査員・メンターチームを前に緊張感が隠せない様子でしたが、チーフメンターの勝屋さんから「合格です」と告げられると、その表情が一気に緩みました。

「ただし、事業プランとしてはカラッポですね」と痛いところを突かれて苦笑い。「でも、あなたならやってくれるんじゃないかと期待をしている。ここからが踏ん張りどころです」とエールを贈られました。

3日間を振り返り、「一次選考合宿は自分自身の思いを再確認させてもらう時間になりました」と話すゴリさん。

また、合宿中に開かれた懇親会ではLVSの一期生である馬搬林業家の西埜将世さんとも知り合うことができました。「心強い先輩、仲間が得られたことは一番の収穫」と語ります。

 

古民家を活用した民宿・カフェの事業プランを提案した小松さんも、無事一次選考を通過しました。

「正直にいうと、最初はLVSに参加するのを迷っていましたが、参加したことで一人では見えなかった答えが出せました。。これまでは会社の事業だからと自分を押し殺すこともあったけど、答えは外側ではなく、自分の中にこそ『やりたいこと』のイメージがあって、それをアウトプットすることができた。すごく明確になりました」。

そう語る顔は晴れやかです。

「実は昨日までは考えることばっかりで、口内炎ができちゃったんです。メンタル、弱いですよね」と笑います。

 

一次選考は鈴木さん(ゴリさん)、小松さんを含む3人が通過し、最終選考会への切符を手にしました。3人にはそれぞれ町外メンター・町内メンターの担当者が付き、最終選考までの1カ月余りの間、事業プランのブラッシュアップのために伴走します。

 

3日間密着して感じたのは、LVSの選考会が「育てる選考会」と同時に「寄り添う選考会」であるということ。

選考会である以上、合否はありますが、もしも結果が不合格でも、選考会に参加したことがプラスになってほしい。そんな運営サイドの本気度を感じる一次選考会でした。

 

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