岡山県
西粟倉村
にしあわくらそん
スプーン1本から、ビル1棟まで。まるごとFSC®認証木材を届けます。
Date : 2025.08.27
エーゼログループ、住宅300棟分対応のFSC®認証木材の供給体制を確立
エーゼログループの木材事業がひとつ大きな節目を迎えました。FSC(Forest Stewardship Council®※)認証材の供給が構造材、構造用合板、内装材、造作材に至るまで、建物全体をカバーできる体制へと広がりました。住宅換算で300棟分以上、つまり大規模な建築物にも対応できる供給能力を確保できたのです。
この背景には、西粟倉村が育んできた「百年の森林(もり)構想」とそれを支える木材流通の仕組み、西粟倉・森の学校時代から応援いただいた多くの方々、長年かけて築いてきたネットワークと挑戦の積み重ねがあります。
近年注目される脱炭素や生物多様性への配慮。その重要性が高まる中で、FSC®認証材は、環境や社会に配慮した持続可能な選択肢として、これからの建築に欠かせない存在になっていくでしょう。エーゼログループの木材事業は会社設立当初から掲げる良い森づくりと人々の豊かな暮らしが循環する未来を支える役割を果たしていきます。
※Forest Stewardship Council® (FSC®:森林管理協議会)
責任ある森林管理を世界に広めることを目的とする国際的な非営利団体です。
大規模建築でも全てFSC®認証材の供給が可能に
―エーゼログループ 木材営業担当の川口健太さん、どうぞよろしくお願いします。改めて、今回エーゼログループでFSC®認証材の供給ができるようになったというのは、どのようなことなのか、簡単に教えていただけますか?
川口:エーゼログループの前身である「株式会社 西粟倉・森の学校」(以下、森の学校)時代から、私たちはFSC®のCOC認証※1を取得し、西粟倉村が保有するFM認証林※2から木材を調達、FSC®認証の商品を販売できる仕組みを整えてきました。
これまでも、小物や一部の内装材についてはFSC®認証商品として販売や供給をしていましたが、大規模な建築物向けに、建物全体の木材をFSC®認証材でまかなう供給体制までは整っていませんでした。
今回ようやく、大規模な建築物であっても建物に使われる木部すべてをFSC®認証材で供給できる状況が整いました。長い間、FSC®認証材の可能性を信じ、諦めずに仲間を増やしながら取り組んできた努力が、こうして形になったことをとても嬉しく思っています。
※1 COC認証とは
COC(Chain of Custody)認証は、森林認証製品が原材料の調達から製造・流通・販売に至るまで、認証されたルートで適切に管理されていることを証明する制度です。持続可能な森林管理を支援する仕組みとして、FSC®やPEFCなどの国際的な認証制度があります。認証はFSC®から直接発行されるのではなく、FSC®から認定を受けた独立した第三者認証機関が審査を行い、認証サービスを提供しています。エーゼログループ(当時:(株)西粟倉・森の学校)が取得したのはFSC®の認証です。(FSC®認証 SA-COC-003741 ライセンスコード FSC®-C068055)
※2 FM認証林とは
FM(Forest Management)認証林とは、環境や地域社会に配慮しながら、適切に管理されていると認められた森林のことです。FSC®やPEFCなどの国際的な森林認証制度は、認定機関を通じて「持続可能な管理をされた森林」であるかを審査・認証を行います。ここで伐採された木材は、合法で安心できる資源として流通します。西粟倉村のFM認証は、FSC®の認定を受けた独立した第三者機関による審査を経て、認証されたものです。

(エーゼログループ 木材営業担当 川口健太)
―そもそもFSC®認証というのは何でしょうか?
川口:ざっくり言うと「どこで、どのように採られた木材か」を追跡できて、一定の基準を満たして管理されている材料が、FSC®認証を受けることができます。
この「一定の基準」というのは、安全衛生や労働環境、材料の取り扱いについて、環境面でもしっかり配慮されているか、ということですね。
もう少し詳しく言うと、FSC®認証には二つ種類があって、ひとつは「FM(Forest Management)認証」といって、森林そのものがきちんと管理されているかを審査するものです。もうひとつが「COC(Chain of Custody)認証」といって、伐った木が製材されたり流通したりする過程でも、認証材としてきちんと管理されているかを確認するものです。
つまり、FSC®認証って、森の管理だけじゃなくて、森から出た木材が人の手に届くまでずっときちんと追いかけられている、っていう証明でもあるんです。
FSC®認証材を選ぶというのは、違法伐採を防ぐことにもつながるし、生き物たちが暮らしていける森を守ったり、森に関わる地域の人たちにもちゃんと配慮していく、そんな大切な意味を持っています。

―他の会社ではされていることでしょうか?もし、エーゼログループだからできるならば、なぜエーゼログループはできるのでしょうか。
川口:このような供給がきるのは日本ではまだ数社しかありません。(エーゼログループ調べ)
エーゼログループがこの供給を実現できる背景には、まず西粟倉村が独自で持っている流通の構造が大きく存在します。西粟倉村は村のFM認証林から伐られた木を、ある程度使用用途をコントロールできるという基盤があります。
そのうえで、エーゼログループは自社で製造機能を持ちながら、協業先や業務委託先との連携をしっかり整えることがでました。そして国内でも数少ない「建物に関わる全ての部材をFSC®認証材で供給できる」という状況になったのです。
―エーゼログループの立ち位置はどのようなものですか?木材加工の会社、メーカー、商社のいずれでしょうか?
川口:今挙げていただいた要素全てを持っています。
エーゼログループは、まず木材加工の会社としてスタートしました。実際、会社の成り立ちとしては木材加工事業から始まり、特に内装材の分野で長年にわたって成長してきました。そのため、基本的には木材加工会社と言えます。
さらに、エーゼログループは自社で商品の設計・開発・製造も行っているため、メーカーとしての側面もあります。
また、商社的な役割も果たしています。現在、木材業界では分業が進んでおり、たとえば「構造材は得意だけど、内装材は不得意」といった具合に、特定の分野に特化した企業が増えています。これらの企業は、それぞれの分野で高い技術や知識を持たれています。
エーゼログループは長年の製造経験を活かし、こうした多くの専門的な会社とつながることができました。このネットワークを活用して構造材などをまとめて供給する体制を整えています。
西粟倉・森の学校の誕生から16年
―創業時からの経緯をもう少し詳しく聞かせてください。どのようにして今の木材加工の会社でもあり、メーカーでもあり、商社でもあるというスタイルになっていったのでしょうか。
川口:かれこれもう16年ぐらい経っているので、なかなか要約するのは難しいんですけど、「百年の森林(もり)構想 ※3」の実現に向けて、エーゼログループの前身である「株式会社 西粟倉・森の学校」は、森を管理する中で出てくる木材を加工、製造、販売する役割を担うべく立ち上がりました。

「西粟倉・森の学校」が設立されたのは、2009年10月のことです。
その少し前、同年2月には「森の学校プロジェクト」というチームが立ち上がり、活動をスタートさせていました。最初に手がけたのは、家づくり。『西粟倉の森と、人々の暮らしをどうつないでいけるか』に挑戦するため、建築家を募るコンペを開き、設計から関わりながら、一歩ずつプロジェクトを進めました。当時はまだ自社工場もなく、周囲の工場と連携しながらの取り組みでした。

(森の学校プロジェクトで建てた一軒家)
この経験を通して見えてきたのは、「百年の森林構想」を実現するためには、森から生まれる木材を人々の暮らしへと確実につなげていくことが不可欠だということでした。そして同時に、納期や品質を守るためには、自社工場を持つ必要があるという課題も明らかになりました。
こうして、2009年10月に会社が設立され、翌2010年10月には自社工場が本格稼働。最初の大きな仕事は、村営住宅のための木材一式を準備することでした。近隣の製材工場と力を合わせ、建築に必要な材料をそろえていく取り組みを重ねながら、少しずつ経験と信頼を積み重ねていきました。

(工場 設立前)
当時の西粟倉村では、まだ森林の間伐が十分に進んでいない状況でした。そこで、間伐に適した木を選んで伐採し、森を健全に保つための仕組みづくりにも力を注いできました。自社工場では、大型設備を持たない代わりに、ユカハリ・タイルなど内装材向けの板材に特化し、製造過程で出る副産物も無駄にしない商品開発に取り組みました。
木材業界の中で事業を続ける中で、自分たちだけではできないことにも数多く直面しました。たとえば、間伐で得られた丸太をどう流通させるかという課題には、合板工場への直接販売に挑戦するなど、村の木をよりよい形で届けるための試行錯誤を重ねました。森と人の暮らしをつなぐ、そのために何ができるかを常に問い続けてきたのです。
今では「百年の森林構想」を土台に、西粟倉村全域で安定した間伐が行われるようになりました。また、FSC®認証材の普及にも力を入れ、村内外に多くの協力パートナーが生まれています。
設立から15年。ようやく、木造建築に必要なほぼすべての部材をFSC®認証材で供給できる体制が整い、わたしたちは新たなスタート地点に立ったと感じています。
※3 「百年の森林(もり)構想」とは
岡山県西粟倉村が掲げる持続可能な地域づくりと森林資源の有効活用を目指す長期的なビジョンです。森林の適切な管理と活用を通じて、地域の活性化と次世代への森林の継承を目指しています。

ありがたいチャンスと、積み重ねた経験
―ありがとうございます。ターニングポイントとなったプロジェクトはありますか?
川口:商社機能を本格的に強化していくきっかけになったのが『直島ホール』です。三分一博志さんという有名な建築家の方が設計をされた建築に携わったことは大きかったです。
この建築のプロジェクトは2014年からかかり、2015年11月竣工です。
この建築物は木材を積極的に用いた設計で、その部材供給を請け負える会社を探されている中で我々にコンタクトがあって、西粟倉村の材料を中心に木材供給のコーディネートをできますよということで仕事がスタートしたというところですね。

(直島ホール 所有者:直島町 設計:三分一博志建築設計事務所)
建設現場からは、朝から夜遅くまで、次々とさまざまな部材の相談が届きました。それに一つひとつ全力で応えていくうちに、気づけば建築に必要な木材の一定量を、私たちがまとめて供給することになっていました。最初から一括での発注があったわけではなく、相談に応じ続ける中で「この会社なら何とかしてくれる」と信頼を寄せていただけるようになった結果かと自負しています。
このビッグプロジェクトは、丸太の手配から建築現場への納品までを一貫して担う力を私たちに育て、また、多くの協力会社との絆を深める大きなきっかけにもなりました。

(2016年の集合写真)
その後、西粟倉保育園(2018年竣工)や、西粟倉村役場・あわくら会館(2021年竣工)の建築プロジェクトにも携わることになりました。特にあわくら会館では、建築施工に2年、材料供給に4年をかけるという、長期にわたる大きな挑戦となりました。あわくら会館は「大型建築施設にFSC®️認証材を供給できた」という大切な機会でもあり、FSC®️認証の構造用合板を2万枚供給しました。

(西粟倉保育園 園舎)
―芸術祭における建築ほどの大きいプロジェクトをやってきた経験が、西粟倉保育園とあわくら会館では生きてのではないかと感じるのですがどうでしたか?
川口:そうですね。芸術祭における木材を積極的に用いた建築のプロジェクトを通して学んだのは、特殊な仕様も含めて必要な材料を集めるときに、山側――つまり森の現場から建築現場までの情報をきちんと整理し、タイミングよく材料を届けられる会社は、日本国内でもなかなか存在しない、という現実でした。
建築スケジュールから逆算し、「この工事の時期に間に合わせるには、この時点で木を伐っておかなければならない」といった細かい調整を積み重ねる大切さを、現場の中で身をもって学ばせてもらいました。

(西粟倉村役場・あわくら会館)
―あわくら会館建築以降はどのような取り組みがあったのでしょうか。
川口:2023年から2024年にかけて、西粟倉村で建設された単身者向けの村営住宅(全5棟)に、木材を供給させていただきました。
そのうち3棟では、FSC®の「プロジェクト認証」を取得。プロジェクト認証には、部分的な認証と全体認証とがありますが、私たちが担当したのは「全体プロジェクト認証」です。建物に使用する木材だけでなく、紙資材に至るまで、すべてFSC®認証材を使用しました。
エーゼログループで製造できない合板や角材(柱)については、西粟倉の森から伐り出した木材を購入し、村内外のCOC認証を取得している協力先企業と連携して揃えました。
柱は、西粟倉村内の外部委託先で製材し、その後エーゼログループで乾燥・成型加工を行って供給、合板は「株式会社日新」さん(FSC®・COC認証合板を2017年から供給)に販売し、合板になったものを買い戻すという形で確保しています。

(提供:株式会社 日新さん)
今回発表した「大規模な建築物へのFSC®認証材供給体制」が整う以前から、こうした村内外のネットワークを活かすことで、比較的小規模な単発の建築物向けには、すでにFSC®認証材の供給が可能な状況になっていました。

(全体プロジェクト認証を受けた単身者向け住宅)
―では、今回発表された「住宅300棟分以上の供給能力」とは、これまでと何が変わったのでしょうか?
川口: 大きな変化のひとつは、「協同組合兵庫木材センター(以下:HMC)」さんが、FSC®・COC認証を取得されたことです。
これまでもHMCさんとは、私たちが販売した原木を製材してもらい、それを買い戻すという取引を行っていました。そんな中、全国的に木材が不足した「ウッドショック」の際、創業当初から応援してくださっている「アイワホーム株式会社」さんから、構造材の供給について相談をいただきました。私たちも何とか応えたいと奔走し、その過程で改めてHMCさんとの連携を深め、構造材の本格的な流通、販売を始まりました。

(提供:アイワホーム株式会社さん)
この流れの中で、私たちは「もしHMCさんがFSC®認証材を製造できるようになれば、FSC®認証の構造材も安定して流通できるのでは」と考え、HMCさんに提案を続けました。そしてこの春、HMCさんもその価値を感じてくださり、正式にFSC®・ COC認証を取得されました。
これにより、建築物に使われる大きなボリュームの木材――構造材はHMCさん、構造用合板は日新さん、内装や造作材はエーゼログループという形で、建物全体をFSC®認証材で賄える体制がようやく整いました。

(提供:協同組合兵庫木材センターさん)
体制が整った今、つくれると信じる未来
―創業からすると、15年以上かけて色んな方々にチャレンジの機会があり経験を積みなあげネットワークを広げながら、ここに至られた現在地についてよくわかりました。 エーゼログループ内でこの木材供給に関するチームはどんな方々がいるのでしょうか。
川口:まず、木材流通の仕組みづくりから携わってきた西岡がリーダーを務めています。そして、私が現場営業を担当。配送業務や案件管理を担当する那須、商品開発や設計提案ができる専任スタッフの池野も加わり、チームを組んでいます。
企画、営業、事務など、幅広い役割をカバーできる体制を整え、商社機能を持つチームとして取り組んでいます。

―今回の体制が整ったことで、どんな未来を作ろうとされていますか?
川口:会社としては、まず「木材が売れにくい状況を打破したい」という思いが一番強くあります。
また、国際大会の建築物ではFSC®認証材が推奨することが一般的で、使われるパーセンテージはそれぞれ異なりますが、まだ記憶に新しい東京オリンピック・パラリンピック(2020年開催予定、実施は2021年)ではFSC®認証材は部分的な使用に留まったことがわかり、本当に悔しかったですね。
私たちは、いつかエーゼログループとして、国際大会の建造物の木材供給を担うことをひとつのゴールにしたいと考えています。
FSC®認証材は、しっかりとトレーサビリティ(追跡可能性)が確保され、厳格な管理基準のもとに生産された、安心して使える木材です。
しかし、日本の木材流通の仕組みは分業が進んでいるため、FSC®認証材は「安心な一方で使いにくい木材」となってしまう側面もありました。これも、東京オリンピック・パラリンピックでFSC®認証材が多く使われなかった一因だと感じています。
私たちが、まとまった量を安定的に供給できるようになれば、FSC®認証材が「当たり前に使われる」世界に少しでも近づけるのではないか、そう信じています。
短期的な利益のために、安価で大量に木材を供給する流れに流されるのではなく、森も元気に、人々の暮らしも木に囲まれて豊かになっていく。そんな未来をつくるために、これからも一歩一歩取り組んでいきたいと思っています。
また、少し違う角度から見ると、最近注目されている「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」とも深く関係してきます。これから大手ハウスメーカーや木材を使う企業には、生物多様性に配慮したサプライチェーンをつくり、それをきちんと報告することが求められます。FSC®認証を受けた森林は、生物多様性への配慮がなされていることの証明にもなるので、そうした観点からもFSC®に関心を持つ企業が増えていってほしいと願っています。

※4 TNFDとは
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が自然(生物多様性や水資源、土壌など)との関わりやリスク・機会を把握し、それを投資家やステークホルダーにわかる形で開示するための枠組みをつくる国際的な取り組みです。これまで「気候変動」に関してはTCFDという枠組みがありましたが、TNFDは「自然環境全体」に注目したものです。企業活動が自然にどんな影響を与えていて、また自然環境の変化が企業にもたらすリスクは何か? そうしたことを整理・報告することを目指しています。
直島ホールをはじめとする大規模建築物への木材供給で培った経験から、どんなに量が多くても「頼まれたら必ず応える」という姿勢を貫いてきました。
そして今、ようやく、FSC®認証材にこだわりながら、より良い森づくりに貢献する大型建築にも応えていける段階に到達できたと感じています。
現在、住宅300棟分に相当する規模の供給が可能な体制は整いました。けれど、ここに満足することなく、これからさらに、他地域でも志を同じくする仲間たち――林業関係者や木材業界の方々と手を取り合いながら、もっと大きな輪を広げていきたいと考えています。
この取り組みは、私たちだけでは決して実現できないもの。FSC®JAPANさんとも連携しながら、未来へ続く仲間づくりにも挑戦していきます。
ーFSC®木材供給にご関心を持っていただける時はお気軽にお問い合わせください。
メール: mokuzai-info@a-zero.co.jp
