北海道
厚真町
あつまちょう
「研究型地域おこし協力隊」を北海道厚真町が募集開始 ─ 若手研究者が研究と社会実装を両立できる日本初の制度
Date : 2025.11.01
北海道厚真町で、地域おこし協力隊制度を活用した新しい取り組み「研究型地域おこし協力隊」の募集が始まります(【12月5日(金)募集締め切り】)。対象は博士課程以上(在学または修了した方)の若手研究者(22歳〜35歳)。最大3年間、生活基盤を厚真町に置きながら、自らの研究を深めつつ「社会実装」へ挑戦できる制度です。報償費(給与に相当)に加えて活動費(研究費、諸経費に相当)が用意され、自治体と民間のサポートを受けながら研究を地域で実際に試せることが大きな特徴です。
3年間の研究費と期間を備え、さらに「地域をフィールドにした研究と社会実装」という、得がたい実践経験を積むことができます。研究成果を活かして地域社会に貢献したい方、研究の新たな活路を見出したい研究者の方にとって、大きな挑戦とこれから歩む道の広がりを生む機会となるはずです。
本記事ではプログラムオフィサー(PO)を務める 松﨑光弘さん(エーゼログループ地域創発研究所 所長) から、この募集の魅力や厚真町が持つフィールドとしての可能性を伺いました。
研究成果を実用可能にしたいという研究者の方へ
–北海道厚真町で「研究型地域おこし協力隊」を募集する新しいプログラムがスタートします。このプログラムオフィサーであるエーゼログループの松﨑さんから簡単にご説明いただいていいでしょうか?
松﨑:はい。 地域おこし協力隊の仕組みを活用して、地域の中で使えそうな研究シーズ、種を持っている若手の研究者に地域おこし協力隊員として厚真町に来てもらい、1年以上最大3年間自分の研究を進めつつ「社会実装」のための仮説検証に取り組むことができます。研究自体が進む、そして研究結果が少しずつでも社会の中で活用されるような状況を作ろうというプログラムです。 採択までには書類選考、プレゼン選考を予定しています。

(プログラムオフィサー(PO)の松﨑光弘さん)
―研究者の方が地域おこし協力隊になる制度をこれから始めようということなんですが、どういう研究者にとって適用される制度なのか、またその人たちにとってこの制度のメリットはどんなところがありますか?
松﨑:まず自分のここまでの研究成果を厚真町を舞台にして実用可能にしたいという研究者の方にとって、本プログラムは適しています。だから、純粋な学術研究だけではなく、やってきたことを実際に使って世の中を少しでも良くしたい、という研究者の方に向いていると思います。
大きなメリットの一つは、研究成果を実際に試すことのできる「現場」があることです。そして、その挑戦を自治体の方と私たちが共にサポートの仕組みが整っていることです。ここでいう“サポート”とは、研究内容そのものに関して大学の先生から受けられる支援だけでなく、地域の中で実証しようとするときに「誰にどう相談すればよいか」といった実践面まで含まれます。
もう一つは地域おこし協力隊は、一定の身分保障があることも重要です。協力隊には給与に相当する「報償費」と、取り組みに使える「活動費」と呼ばれるお金があります。 この活動費は地域の中で研究成果をうまく使うための社会実装のための費用としても使えるため、給与もあり研究に使える資金もあるので、自分のやりたいことに専念できるという恵まれた環境だと思います。

(イメージ)
―対象になる研究者の条件はありますか?
松﨑:大学院の博士課程以上の方です。ポスドクも含みます。
また、地域おこし協力隊の制度適応は現住所が三大都市圏または地方都市にお住まいであることと、採択後には厚真町に住民票を移せる方となります。※
※詳細は下記リンクをご確認いただくか、直接お問い合わせください。
地域おこし協力隊の地域要件について(総務省)
―ポスドクの場合、学術振興会(通称:「学振」)の特別研究員がお給料および研究費の資金源として一般的だと思います。学振と比べたときにどんな違いがあるのでしょうか?
松﨑:お給料の面だけを比較すると、研究型地域おこし協力隊は月額25万円〜30万円(在学か修了しているかによって変動)なので、学振PDの方が月額37万円と若干高めです。ただし研究費に関して言えば、研究型地域おこし協力隊の活動費は比較的自由度の高いうえで十分な額が確保されています(年間100万円程度)。また期間も最大3年間と長く、学振のDC(3年間)、PD(2年間)と比べても遜色ない水準にあります。加えて、扶養家族が居て一緒に厚真町に住民票を移す場合は上限月額1万円を上乗せすることもできます。
純粋に学術研究をするのなら、学振の特別研究員は確かに適しています。しかし「研究成果を社会に実装したい」と考えたとき、学振にはそれを支援する仕組みがありません。地域の中で技術を試す、住民の方々とつながりを持ちながら進めるといったサポートは、このプログラムだからこそできることですし、大学にもそのノウハウはほとんどありません。
そのため、地域というフィールドで研究を進めたいと考える方にとっては、学振に応募するよりもこちらのプログラムに参加していただいた方が、現地でのサポートが手厚いという大きなメリットがあると思います。

(イメージ)
―ありがとうございます、逆に、デメリットや制約といった点はありますか
松﨑:一番の制約は、「きちんと社会実装に取り組むこと」です。つまり、研究計画と同時に社会実装のための計画を立てる必要があります。単に論文を書けば終わり、ではなく、実際に地域の中で活用してみて、その結果どうだったのかを示し、改善すればより多くの地域で使える可能性がある――といった流れを実証していただくことが求められます。
いわゆる「可能性試験※2」を必ず実施していただく、というのが約束事です。これはデメリットというよりも、ハードルといえるかもしれません。ですので、こうした社会実装に取り組む気持ちがない研究者の方には、あまり向かないと思います。
可能性試験(※2)とは
新しい技術や研究成果が、実際の現場や社会の中で役立つかどうかを確認するために行う試験のこと。研究室内の理論や実験で終わらせるのではなく、「地域で実際に使ってみたらどうなるか」「改善すればどのように広がる可能性があるか」を検証するプロセスです。
―地域おこし協力隊制度を使うということは厚真町に住む、住民票を厚真町に置かないといけないということですね。
松﨑:はい。これを「デメリット」ととらえるか、それとも「研究フィールドに腰を据えて関わるための条件整備」ととらえるかで、受け止め方は大きく変わると思います。研究フィールドに長く滞在することを前向きに考えられない方にとっては、あまり魅力的ではないかもしれません。
―加えて、指導教官にあたる大学の先生から見たときにどんなメリットやデメリットがあるでしょうか。
松﨑:最大のメリットは、現場に社会実装を支援できる人がいる環境のもとで、自分のお弟子さんが育つ環境が得られることだと思います。役割分担ができるわけです。つまり、学術的な指導は大学の指導教員が進める、一方で社会の中で技術を活用するためのサポートは、私たちエーゼログループや厚真町役場が一緒になって支えます。
この二段構えのサポートに加えて活動費もつくため、社会の中で技術を活かしたい研究者を育てる仕組みとしては非常にやりやすいと思います。お互いが持つノウハウを組み合わせることで、これまでにあまりなかった形で若手研究者を育成することにつながります。

―ありがとうございます。加えて、「厚真町」を研究フィールドとして見たとき、その魅力や可能性にはどんな点があるでしょうか。
松﨑:大きく二つの側面があると考えています。ひとつは、人を受け入れ、支える力が高いという点です。厚真町はこの10年間、ローカルベンチャーの育成に力を入れてきました。その経験から、外から来た人を受け入れ、活動を支える力が培われていると感じます。
もうひとつは、研究フィールドとしていろいろな研究テーマを持ち込むことが可能な点です。厚真町では、すでに見えているだけでも「森林資源×防災」や「エネルギー×ICT」のようにテーマが多岐にわたります。たとえば「10年間にわたるローカルベンチャー支援の仕組みを学術的に解明する」といった研究も可能ですし、「自然資本をどう活用し、どう回復させ、それが社会にどのような影響を与えるか」といった研究も考えられるでしょう。研究テーマは多岐にわたりながらも地域の範囲はコンパクトにまとまっているので、現場で直接人に話を聞きながら、適切なスケールで多様な分野の研究を展開できるのは大きな魅力だと思います。
さらに地理的な利便性も見逃せません。厚真町は新千歳空港から車で約30分とアクセスがよく、都会との行き来が容易な点も研究環境として大きなメリットです。

さらに、厚真町役場にプロジェクトコーディネーターとして関わっている宮久史さんの存在も、大きな魅力の一つです。宮さんは非常にチャレンジ精神あふれる行政職員で、ローカルベンチャー施策に関する制度をゼロからつくり上げてこられました。
加えて、宮さんは役場の中で唯一、博士号を取得されています。研究と実践の双方を理解し、日常的に活用している方ですので、研究者にとっては非常に心強いコーディネーターです。研究活動と社会実装をつなぐ存在として、安心して相談できるサポート体制があるのは厚真町ならではの強みだと思います。

(産業経済課 林業・森林再生推進グループ主幹の宮久史さん)
―ありがとうございます。厚真町にとっては、このプログラムはどのような意味を持つのでしょうか
松﨑:厚真町にとっては、最先端の科学的知見や技術が日本で最初に試される場所になる、というのは大きなチャンスだと思います。実験的な取り組みではありますが、この地域で新しい研究が始まることで、新たな知見や技術が持ち込まれ、“新しいもの”を受け入れられるまちの土壌もさらに育まれていきます。
さらに少し未来を想像すると、社会実装の一環として子どもたちが研究に参加する場面も考えられます。もし子どもの頃から最先端の研究に触れられるなら、厚真町ならではの学びが生まれるでしょう。そうした経験は、厚真町にとって「人が育ちやすい環境」をさらに強くしていくチャンスになると考えています。

(イメージ)
研究者としての、一番幸せな在り方を見いだす人を増やしたい
―今回のプログラムのオフィサーである松﨑さんご自身についても、ぜひ教えてください。
松﨑:私のルーツは地球科学の研究者で、博士号もその分野で取得しました。研究者として生きていくつもりでしたが、大学に勤める中で、大学のマネジメントの役割も任されるようになり、自分の研究で使っていた「複雑適応系」という考え方を応用することを試みました。するとこれが結構有効で、社会との関わりの中で自分の研究を位置づけ直してみると、新しい道が拓けることは身をもって体感しました。
私は試行錯誤を繰り返し、時には失敗もしながらそのことを体得してきました。しかし、もし最初からサポーターがそばにいて、きちんと筋道を立てて実践できる環境があったならば、研究者のキャリアの幅はもっと広がるのではないかと思います。そうした「幅」の中で、自分にとって一番幸せな研究者としてのあり方を見いだす人を増やしたい――それが、私がこのプログラムに込めている思いです。
―松﨑さんは大学の教員、教授も務められたと聞きました。
松﨑:はい。なぜか経営学部で(笑)
地球科学から横道に逸れて経営の世界に関わることになりましたが、ここでも複雑適応系の理論を経済や経営に応用しました。ある意味で、基礎研究を社会実装することにつながったのだと思います。
現在はエーゼログループの地域創発研究所の所長を務めるとともに、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)で科学技術の社会実装を進めるプログラムアドバイザーも務めています。これらの仕事を通じて、研究と地域をつなぎながら未来をつくっていくチャレンジを、ライフワークとして取り組ませていただいていると感じています。

―JSTとはどのような組織で、松﨑さんはそこでどんな役割を担われているのでしょうか。
松﨑:JSTは、文字通り日本の科学技術を力強く推進していこうとする国立研究開発法人です。その中に「SOLVE for SDGs」というプログラム(公式サイト)があり、2030年のSDGs達成に向けて、研究者が持つ多様な研究シーズを社会実装していくことを支援しています。毎年数件の研究が採択され、社会実装に挑戦していくのですが、私はそのプログラムに約5年間、アドバイザーとして関わっています。アドバイザーの役割は「こうすればうまくいきます」とお教えする立場ではなく、研究者と一緒に悩み、仮説を立てながら考えていく伴走者のような存在です。採択される研究者の方々は、ご自身がこれまで蓄積してきた科学的知見を社会で活かしたいという強い思いを持った方々です。科学技術や地域、社会の現場を見てきた私としても、この取り組みには大きな価値を感じており、力を込めてサポートしています。
―SOLVE for SDGsプログラムで関わってこられた研究者の方たちの中で、松﨑さんの力が入った、印象深い方はどんな方達ですか?
松﨑:具体的に顔が思い浮かんでる方達は、「自分が積み上げた科学的知見はこれ、これは世の中に役に立つかもしれないと思ってるけどやり方よくわからないから、とりあえず1個ずつ仮説立てて次々と試してみる!!」と何度でも仮説検証を繰り返すような研究者の方ですね。本当にうまくいくかわからないんだけれども、それでも何度も軌道修正しながら仮説検証を繰り返すということを愚直にやれる研究者の方は、元研究者として全力で応援せざるを得ないです。
―よく伝わります。今回の募集も厚真町という舞台で愚直に試行錯誤を重ねていくような方に是非参加いただきたいですね。
最後に改めて応募してくださる方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
松﨑:ぜひ特に若手の研究者の皆さんには、ご自身のアカデミックな知見と社会を繋げることで、こんなに社会って良い方向に変わるんだということを一つでも二つでも体感していただきたい、そして、それをまた次の研究の糧にしていただきたいです。
ご自身の研究を社会に活かそうとチャレンジしたい研究者の方、ぜひご参加いただければと思っております。よろしくお願いします。
―ありがとうございました。ご関心のある方は是非お気軽にお問い合わせください。

問い合わせ先:
〒059-1692 北海道勇払郡厚真町京町120番地 厚真町まちづくり推進課政策推進グループ 電話:0145-27-3179(直通) FAX:0145-27-2328 maimaiseisaku@town.atsuma.lg.jp
――詳細・募集要項【12月5日(金)募集締め切り】――
