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挑戦者を地域みんなで育む学校『西粟倉ローカルベンチャースクール2015』第1回レポート

『西粟倉ローカルベンチャースクール2015』(以下ローカルベンチャースクール)は「西粟倉に移住してみたい」「起業してみたい」という人々のために開かれたプログラムです。参加者は西粟倉村が採用する「地域おこし協力隊(起業型)」を目指し、「西粟倉村に来て実現させたいこと」を全3回のローカルベンチャースクールで西粟倉村に触れて、関わって、知って、磨きあげていきます。

スクールには、校長の勝屋久先生、副校長の勝屋祐子先生をはじめ、西粟倉村で活躍中の挑戦者たち、西粟倉村役場の行政マン、地元企業の社長など、西粟倉村を形づくる人々が集まりました。今回は、感動と熱中の坩堝と化した会場のようすと、西粟倉村で自分らしく生きていくことを選んだ参加者たちの奮闘をお届けしたいと思います。

 

壊れそうなものばかり集めてしまうよ、西粟倉

ローカルベンチャーの群れが育ってきた西粟倉村で、新たな挑戦者を育てる学校がはじまりました。「地域おこし協力隊(起業型)」は地域おこし協力隊でありながら自分がやりたいことで地域起業ができるプログラム。「国が考えている地域おこし協力隊の使い方とは明らかに違うことは自覚しています(笑)」と行政職員自らいう西粟倉村の斬新かつ画期的な地域おこし協力隊の採用です。
 


斬新な地域おこし協力隊(起業型)の筆頭。西粟倉村で酒屋をはじめた「酒うらら」。西粟倉村でなぜ酒屋?!スゴい酒屋のサクセスストーリーはこちら

いわゆる一般的な地域おこし協力隊は過疎地域へ若者が田舎にIターンして、地域課題を解決して活性化する…。テレビドラマになったほどその響きは美しく、正しさで満ちあふれています。しかし、現在、多くの地域おこし協力隊は自治体にとって「便利な臨時職員」、そして移住者にとって「田舎暮らしの安易な就職口」と化しているのが現状です。定住が大前提と言いながら、協力隊任期終了後も地域で暮らすためのヴィジョンを持たない自治体。地域で暮らしていくための術を持つことがないまま縁もゆかりもない地域に来てしまった協力隊。そのマッチング、何も生まれる気がしませんよね。

そんな中で「定住しなくていいんです」そして自分の力で自分の好きなことをやってイイヨ!と言い放って、村をあげてそのサポートをしようというのが西粟倉村です。『百年の森林構想』の概形に沿って、行政と民間で仕事の切り分けと協力体制ができている希有な自治体は、まちおこしや地域課題の解決の向こう側へいききったからこそ最新鋭の価値観を持ち合わせています。ローカルベンチャーたちは自分たちの好きなことを一生懸命やって、それが村の多様化に繋がり、またその豊かさを村が認めるという幸せな相思相愛なのです。

「田舎で暮らしたい、自分らしい生き方をしたい、それならユー西粟倉来ちゃいなよ!」…そんな底知れぬ度量を持つこの村に移住したいと思いますよね?しかし、西粟倉村といえども、何でもOKというわけではありません。自分の好きなことを一生懸命やって欲しい、そしてできれば、それはみんながワクワクすることであってほしい。一見リスクがある自治体のスタンスですが、わたしはその願いこそ、最大のイノベーションだと思うのです。

 

輝きは飾りじゃない、ローカルベンチャースクール

そして西粟倉村は成功事例だけではありません。この村で起業して、がむしゃらにがんばったけれど砕け散った者。命からがら逃げ出した者。ぶっ壊れてしまった者。汗と涙と血にまみれたローカルベンチャーの屍の上に今の生態系が成り立っているのもまた事実です。そのギリギリの経験を元に、ローカルベンチャースクールではこの村で頑張りたいという人を応援するとともに、この村で好きなことをやるための知恵を、村民・講師陣・ローカルベンチャーたちが寄ってたかって伝授する場が生まれたのです。眩しい!
 

ローカルベンチャースクールの会場は「あわくら温泉 元湯」です。元湯は2011年に廃業してしまった温泉ですが、今年の春にリニューアル再オープン。西粟倉村のローカルベンチャー企業『村楽エナジー株式会社』が村から委託をうけて運営をしています。百年の森林から切り出された木材をエネルギー活用して、心地よい場をもたらしている元湯は、地域の魅力を仕事にして豊かさをもたらすローカルベンチャーを生み出すにふさわしい場所です。
 


ちなみに泉質も村内随一。女将もノーメーク・つるつるぴかぴか笑顔でお出迎えです。
 


北は東北、南はスペイン(!)から、ローカルベンチャースクールに集う人々。

それでは「ローカルベンチャースクール、こんなに豪華でいいんですか??」と目を疑う、スペシャルなプログラム内容をご紹介します。

 

ローカルベンチャースクールのココがスゴい!

その1「校長先生・勝屋久さんの共感型プレゼンテーション」
オープニングは校長の勝屋久先生によるプレゼンテーションです。今回のローカルベンチャースクールのテーマである「地域で起業して自分らしく生きる」ことをご自身の経験を踏まえて朗らかに話します。笑顔がプロ。(勝屋久さんのローカルベンチャースクール開校記念インタビューはこちら
 


まず目をひいたのはプレゼンテーション資料。ご自身手書きのメッセージや色鮮やかなペインティング。プレゼンテーション資料は講演毎に書き下ろしているそう。今回、勝屋さんからよく出てきたキーワードは「楽しく」。その楽しさは、ひととひとの繋がりがつくり出すものだと教わります。そしてなにより勝屋さん自身とーっても楽しそう。自分らしさを大爆発させるためのハウツーでは、会場のひとりひとりと目を合わせて、言葉を丁寧に手渡すような共感型プレゼンテーションを展開。挑戦者への励ましのように力強く響きました。

その2「人間力豊かなゲスト講師による講演」
第二部は、経験豊かなベンチャー企業の社長のおはなしを伺います。今回のゲスト講師は株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング代表取締役社長の中山亮太郎さんです。
 

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中山亮太郎さん
2006年にサイバーエージェントに入社し、社長のアシスタントを経てポイントメディア事業部を立ち上げ収益化。
2010年にベトナムに渡りベンチャーキャピタル業に従事。現地のスタートアップへの投資を進める。
2013年に日本に帰国し、サイバーエージェント・クラウドファンディング社を設立。現在クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」を運営。Makuake(マクアケ)
https://www.makuake.com/

…お、大物じゃ…(岡山弁)と会場がビックネームに沸きます。校長先生しかり、東京でもめったにお目にかかれないようなベンチャー界の猛者が西粟倉村に集っている奇跡に震えます。

中山さんが社内ベンチャーではじめたクラウドファンディングサービス「Makuake」は多様性やインタラクティブな見せ方によって業界屈指のプロジェクト達成率を誇ります。そんな「Makuake」の仕組みや裏話などここでしか訊けない貴重はおはなしに挑戦者たちは耳を傾けます。
 

資金調達はもちろん、新規プロジェクトのプラットホームとしての側面を持つクラウドファンディングは、ローカルベンチャーの多くが利用しています。自らの挑戦に他者が「期待」を対価にかえて支払う。そこには「共感のプロセス」があります。中山さんのおはなしから、そんな共感が生まれるようなプロジェクトの成り立ちを学びます。

その3「地域おこし協力隊(起業型)事業計画の超実践的プレゼン大会」

濃ゆい校長先生&ゲスト講師のプレゼンテーションを終えて、いよいよ西粟倉村地域おこし協力隊(起業型)の熾烈な一次審査を通過した挑戦者候補生たちによる、事業計画ブラッシュアップのためのプレゼン大会です!
 


一次審査を通過した挑戦者候補生は、一次審査で提出した企画書を5分以内でプレゼンテーション。限られた時間内で自らの挑戦を端的にかつわかりやすく、そして熱く語らなければなりません。そして、そのプレゼンを踏まえて、講師陣&会場からの質疑応答が15分。このやり取りがアツかった!
 

挑戦者候補生のプレゼンテーションに的確な質問をする校長先生。ロジカルなところを明確に指摘する時もあれば、「この企画が本当に素晴らしい!というパッションが感じられないんだよ!」と、激励叱咤する姿も。主催者である森の学校HD牧大介さんも「その企画まったくだめだね」とドストレートなダメ出しを繰り出し、震える会場(笑)。自らの企画・起業を地域に共感をもたらし、この村の未来の可能性を感じさせるものに仕上げることは並大抵のことではありません。優しさも厳しさも、すべては校長先生の愛、愛、愛…もはやそこには愛しかありません。

会場からも「部外者の僕は、その事業のどこに面白さを感じれば良いですか?」「収益化はどう考えていますか?」など、超実践的な質問が容赦なく挑戦者候補生たちに飛びます。
 


「西粟倉村で帽子屋さんを開業したい」というプレゼンテーターのプレゼンでは実際にデザインした帽子が披露されました。先ほどの厳しい言葉とはうってかわって、子供用帽子を被りはしゃぐ講師陣(笑)。会場の女子からも「かわいい〜!欲しい〜〜!」と喝采。こんな声もプレゼンした挑戦者候補生の力になります。

西粟倉幼稚園の指定の帽子にしたらよいのでは?という会場の声に、西粟倉村産業観光課長(つまり偉い人)は「そういうプレゼンを待っていた」と仰天&西粟倉村らしい柔軟な発言も飛び出し、挑戦者の可能性を拡げます。どうしてこの西粟倉村が挑戦者の村に成り得たのか垣間見えた瞬間でもありました。

挑戦者候補生はこのようなやりとりで「西粟倉村はいまなにを求めているのか」ということを肌で感じられるのです。このやりとりが、挑戦者候補生たちと地域結びつけはじめます。

ローカルベンチャースクールは、単なる事業プレゼンの場ではありません。挑戦をしている(しようとている)ひとたちは、今回の挑戦者候補生たちだけではなく、起業家、行政マン、お母さん、地元の人々、このローカルベンチャースクールに参加するために、遠方からやってきた学生、この記事を読んでいるあなたも、みんな挑戦者なのです。地域で自分らしく生きたいと漠然とでも感じている人にとって新しい気付きやつながりを生む場であり、その場をつくることができるのが今の西粟倉村なのです。

また地方移住の概念がこの5年で劇的に変わりました。3.11以前、地方移住は転勤、引越し、そしてライフスタイルの一環でした。特にリタイア世代が安住の地を田舎に求めるイメージが強かった気がします。それが今では20代から40代のいわゆる働き盛りの世代が「自己実現する場所」として、田舎を目指すようになりました。そんな価値観の分岐点に訪れた「地方創生時代」。この時代をともに生きて切磋琢磨していける仲間や前向きにサポートしてくれる役場の人たちが、地域にいる尊さを、このローカルベンチャースクールは教えてくれるのです。

 

過酷な課外授業

14時から18時半までほぼノンストップで行なわれたローカルベンチャースクール。19時からは懇親会です。西粟倉村の起業家はみんなよく飲みます。アツい起業談義、ここだけのはなし、飲まなきゃやってられねぇぜ的な話まで、ある意味本編以上に濃い時間です。元湯の美味しいご飯と西粟倉村イチの泉質を誇るラジウム泉とともに、夢と希望と憧れを持った仲間たちとのひとときは夜更けまで続きます。
 


乾杯の音頭は、この場で無茶ぶりされた油女子「ablabo.」の大林由佳さん。彼女もこの村で起業にむけてチャレンジを続ける挑戦者です。

参加者全員が同じテーブルに座り、挑戦者候補生たちが描いた未来についてディスカッションする姿にわたしは感動で目頭を抑えることを禁じ得ません(泣)。また印象的だったのは、すでに西粟倉村で起業している挑戦者たちが「僕らもすごく勉強になった」と話していたこと。次なるアクションのための作戦会議をはじめる挑戦者たちも。こうして西粟倉の生態系はさらなる進化を遂げるのです。

こうして、「地域おこし協力隊(起業型)」という、西粟倉村の新たな挑戦者をひとりひとり、丁寧に育てていくというプロセスに西粟倉村の人々が実際関わっていくことは地域の生態系を拡げていくうえで大切なことだと思いました。
 

ここからどんな挑戦者がうまれるのか、楽しみでしょうがありません。