特集「SDGs×生きるを楽しむ2021」 1 プロローグ 西粟倉村「生きるを楽しむ、持続可能な村づくりへの挑戦」
Date : 2020.12.28
西粟倉村の現在と未来——。
それを語るのに欠かせないキーワードの一つが「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」です。
村はそれをどのようにとらえ、村づくりにどう活用していくのでしょう。
西粟倉村役場の地方創生推進室地方創生特任参事でSDGs担当部署責任者も兼務している上山隆浩(うえやま・たかひろ)さんに、村の全体像についてお話をお聞きしました。
西粟倉村の「SDGs×生きるを楽しむ」を伝える特集企画の、プロローグです。
村の取り組みを端的に表せるのが「SDGs」だった
— 西粟倉村が「SDGs」に着目したのは、どういう経緯だったのでしょうか。
上山:西粟倉村は、面積の約95%が森林です。2008年に「百年の森林(もり)構想(通称:百森)」を掲げ、2058年を目標年として村ぐるみで挑戦を続けていくことを宣言しました。その後、2013年には先駆的な取り組みにチャレンジする都市を国が選定し、その実現を支援する「環境モデル都市」、2014年には「バイオマス産業都市」の選定を受けています。
2017年、西粟倉村は持続可能な地域づくりを実現するため、自治体ICO導入の研究に着手しました。ICOとはInitial Coin Offeringの略で、新規仮想通貨公開という意味。資金調達をしたい企業やプロジェクトが独自の仮想通貨を発行・販売し、資金を調達する方法です。
これまでにない資金の流入と循環を促す手法の可能性を探り、国内外をターゲットに検証するなかで、「村の取り組みを端的に表せるのがSDGsだ」と気づきました。そこで2017年に村内で議論し、2018年から「SDGs」に取り組むことになったのです。そして同年、村の新しいキャッチコピーが「生きるを楽しむ」に決まりました。
— 「SDGs」と「生きるを楽しむ」。まず「SDGs」について、どういうものか教えていただけますか。
上山:2015年、国連サミットで国連加盟国の全会一致により採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、今では「SDGs」と呼ばれています。2016年から2030年までの15年間で達成するために掲げられた、国連加盟国の国際目標です。
持続可能な世界を実現するための17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成され、その多くは地域が抱える問題と深く関係しています。17の目標には、貧困、飢餓、保健、教育などがあり、西粟倉村が取り組んでいるエネルギーも入っています。
2018年、内閣府地方創生推進事務局は先導的な取り組みをしている自治体を「SDGs未来都市」として選ぶことになりました。そして、2019年度には31のSDGs未来都市が選ばれ、その一つに西粟倉村が選定されました。
また、そのなかから特に先導的な「SDGs未来都市」の10事業を選定する「自治体SDGsモデル事業」にも選んでいただきました。
“具体的なプロジェクト型”として実践していく
— それまで村が続けてきたものに「SDGs」がフィットしたのですね。
上山:えぇ。「SDGs」はあくまでも持続可能な開発目標のゴールを表す言葉であり、これまで14年間打ち出してきた「上質な田舎」という大きな概念のもと、百森やローカルベンチャーなどの事業を行ってきました。「SDGs」という看板を掲げただけで、本質的に同じなんです。
「SDGs」の17の目標のうち、2の「飢餓をゼロに」、3の「すべての人に健康と福祉を」、4の「質の高い教育をみんなに」、7の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、8の「働きがいも経済成長も」、12の「つくる責任 つかう責任」、15の「陸の豊かさも守ろう」という7つに応じたゴールを設定しています。ですが、土壌として地域の人に「持続可能な地域づくりをしているんだ」と思っていただくことこそが重要だと考えています。
— 実際にどのように進められていくのでしょうか。
上山:言葉をただ普及させるのではなく、“具体的なプロジェクト型”として実践していくことが西粟倉村の特徴だと思います。こちらの図をご覧ください(以下の図参照)。
上山:ベースにあるのは、森林の価値を新しくデザインし、持続可能な森林づくりを進める「百森2.0」です。目には見えないものの価値を出し、林業以外の新しいビジネスをつくろうというもので、それを基本に、経済、環境、社会の三分野に各プロジェクトがあります。環境には自然資本やエネルギーを、社会には暮らし、福祉、教育を含めます。
具体的には、プロボノチームで磨いた事業テーマでプレイヤーを募集し、村に入った後もサポートしていく予定の「TAKIBI(たきび)プロジェクト」、企業や研究機関と新技術の研究開発及び地元と連携した実証事業を行う「むらまるごと研究所」などがあります。これを都市部の企業や研究機関との連携で進めようとしています。
2058年、「百年の森林に囲まれた上質な田舎」にする
—「生きるを楽しむ」のほうは、どのように決まったのですか。
上山:2017年から、部署を横断した役場職員たちのチームをつくり、「村がこうなったらいいな」という想いを具体化するプロジェクトを進めてきました。百森を掲げてから、村ではローカルベンチャーなど多様なプレイヤーや事業が生まれています。持続可能な村づくりを目指し、百森に加えて目指す姿とは何かを考えたときに、村が次に進む“旗印”として掲げたキャッチコピーです。
— 村として「SDGs」と「生きるを楽しむ」を掲げ、この先どこを目指していくのでしょうか。
上山:目標は、関係人口を活用した地域の課題解決です。それに向けて、インキュベーション(事業創出や創業支援)ではなくみんなでインベンション(創意工夫)していくようなプラットフォームをつくっていきたいです。地域に散在している情報をそのプラットフォームにおさめ、誰もが見れるようにし、それを活用していくイメージです。
そうした取り組みによって、地域に暮らす人たちがそれぞれの役割を担い、楽しみながら暮らすことができる「上質な田舎」を 2030 年に実現していることを目指しています。
— 2030年。あと10年ですね。
上山:2030年は一つのマイルストン(中間目標地点)で、「百森2.0」は2058年に持続可能な森林環境の「百年の森林」を実現し、「百年の森林に囲まれた上質な田舎」にしていくことを目指します。
村に関わる人や企業も多様に。“余白”はたくさんある
— 「SDGs」という看板と、具体的な複数のプロジェクトがあるという村の取り組みの全体を知ると、なんだか“完成しつつある村”のようにも感じてしまうのですが……。
上山:村の事業は多様になってきていますので、村に関わってくださる人や企業も多様になっています。今、西粟倉村には現役の地域おこし協力隊が35名いて、移住者が全人口のうち約1割います。
多様になってきているからこそ“余白”はそこらじゅうにあって、“関わりしろ”もたくさんあるんですよ(笑)。関係人口やプロボノなどでも構いませんので、「こんな技術や研究を試してみたい」、「地域のためにこれがいいのでは」といったアイデアがたくさん出てくるといいなと思っています。
— ありがとうございました。西粟倉村のこれからが楽しみです。各プロジェクトの詳細は、特集のこの後に続く記事でご紹介します。