岡山県
西粟倉村
にしあわくらそん
熱田尚子のうなつぐリポート01 プロジェクト発表会
Date : 2024.07.05
2024年6月6日、株式会社エーゼログループ(以下「エーゼログループ」)が「うなぎ食べ継ぐプロジェクト(略称:うなつぐプロジェクト)」を発足させ、オンライン発表会を開催しました。このプロジェクトでは、研究者・有識者・うなぎ料理専門店・うなぎを食べる一般の方々も、一緒に野生のニホンウナギを増やしていくことを目指します。発表会には西粟倉村の田んぼですくすく成長中のウナギの赤ちゃんたちも同席(!)、オンラインでは数多くの一般の方にもご参加いただきました。
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うなつぐプロジェクトについてお届けするのは、うなつぐリポーターの熱田尚子、岡山の田舎で暮らす川遊び大好き3児の母です。うなつぐプロジェクトの先にある未来に向けて、みなさんと一緒に学び、考え、行動していきます。
私は幼い頃から川でいろんな生き物たちと遊ぶことが大好きな”川ガキ”でした。今ではすっかり絶滅危惧種となってしまった川ガキを増やしたいと思いながら、毎日のように子どもたちと川で遊んでいます。
私自身、子どもの頃に思いっきり川で遊んだ原体験はキラキラと楽しいものとして心に残っています。一方で、たくさんの生き物の住処であり自分たちの遊び場でもある豊かな水辺環境が急激に失われていく光景も、目の当たりにしてきました。私たちは「昔はもっとたくさん生き物がいた」というお話を聞き続けて育った世代でもあります。
母になった今もいろんな川で「昔はたくさん魚がおったけど、今はもうおらんじゃろう」とよく声をかけて頂きます。特に「昔はウナギがとれとったんで」という言葉は何度聞いたかわかりません。自分でウナギを捕って食べたという経験は、遊んで楽しく食べて美味しい本当に素敵な思い出なんだろうなと羨ましく思います。
かつての豊かな川のお話を聞きながら、ウナギという生き物はとても身近で特別な存在だったこと、そして残念ながら激減しているということを思い知らされてきました。そして、こんな寂しい気持ちになるのは私たちの世代までにしたい、次の世代には豊かな生態系の上に成り立つ暮らしをつないでいきたいと、強く思うようになりました。今までたくさん聞いてきた「昔の川は良かった」「昔はうなぎがとれた」というセリフを、私たちが言うことのない未来、次の世代が聞くことのない未来をつくりたいと思っています。
うなつぐプロジェクトが始まったことで、本当に野生のうなぎを増やせるかもしれない、失われた繋がりを取り戻せるかもしれない、子どもたちが豊かな里山でうなぎやいろんな生き物たちと遊ぶ未来をつくることができるかもしれない!と、わくわくしています。
まずは、うなつぐプロジェクトはじまりの日、どのお話ももっと聞いていたいと胸がはずんだ発表会の様子をギュギュっと凝縮してリポートします!
発表会の流れ
- うなぎ食べ継ぐプロジェクトの背景と概要 牧 大介(まき・だいすけ)
- うなぎを「食べ継ぐ」ということ 熱田 安武(あつた・やすたけ)
- うなぎの置かれた現状と放流試験について 海部 健三(かいふ・けんぞう)
発表者紹介
牧 大介
株式会社エーゼログループ 代表取締役CEO(Chief Executive Officer)。うなぎ食べ継ぐプロジェクトの発起人でありCEO(Chief Eel Officer ※eel:ウナギ)。
海部 健三
中央大学法学部教授。河川や沿岸域におけるウナギの生態研究のほか、ウナギを適切に管理する仕組みづくりに関する研究活動を行う。IUCN種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループのメンバーとしてレッドリスト評価を担当。主な著書に「結局、ウナギは食べていいのか問題」(岩波書店)、「日本のウナギ 生態・保全・文化と図鑑」(山と渓谷社 2024年7月出版予定)など。
熱田安武
幼少期から、蜂獲りに狩猟、ウナギ漁、山芋掘りといった野遊びに夢中になったまま現在に至る。習性や生態、捕獲技能にのめり込んだ末、いかに次世代に残すかという父の原点に回帰している。現在は岡山県和気町の里山を拠点に、家族五人での暮らしをたてている。
野生のウナギを増やすということは、日本の文化を守ること。そして、失われてきた豊かな生態系をとり戻すこと。それぞれのお話から、うなつぐプロジェクトの先にある未来の風景が見えてきました。
「ただ食べない」「ただ守る」ではない道を探っていきたい
牧:本日6月6日は月齢が0になる新月の日です。ニホンウナギはマリアナ諸島付近の海域で新月辺りに産卵することがわかってきています。遠く離れたマリアナでウナギたちが卵を産んでいるかもしれない今日、このプロジェクトを発足します。
ウナギの壮大な旅に思いを馳せながら、私たち人とウナギの共存共栄の道に向けて進んでいきたいと思っています。今日のこの場は、たくさんの試行錯誤を重ねながら仲間を増やしていくであろうこのプロジェクトの、長い長い旅路の出発点です。
「食べる」+「継ぐ」で「食べ継ぐ」。
ウナギが激減しているという大前提の中で、食べるということを完全に否定せず、ありがたく頂戴しながらも残していくという「ただ食べない」「ただ守る」ではない道を探っていきたいと考えています。
近代的な価値観の中で、合理化・個別最適化・部分最適化が進み、海や川や水路や田んぼは分断されてきました。かつては繋がっていたそれらをいろんな生き物たちが行き来しながら元気に暮らしていたのですが、今はそれができないような状況を人間が作ってしまっています。
ウナギはそのようないろんな繋がりがあってこそ生きていける、食物連鎖の上位にいる生き物でもあります。野生のウナギをどう増やしていけるかということは、生態系全体をいかに豊かなものとして取り戻し回復していくかということでもあります。
うなつぐプロジェクトの概要
牧:当社と検討委員で構成する検討委員会を設置します。検討委員にはウナギに関連する専門知識を有し、プロジェクトに賛同いただいた様々な分野の方々に就任いただいており、議論や対話を重ねながら共に行動していきます。今後新しい事実がわかってきたら、それに合わせてプロジェクトの内容を変えることもあるかもしれません。そのような前提の中、まずここから始めてみよう、というところをお話しします。
「うなつぐプロジェクト」3つの参加方法
①メンバーになって応援
うなつぐサポート会員(年会費1口3000円)になり、当プロジェクトをサポートいただくという参加方法です。会費収入は主にウナギを増やしていくための研究と普及啓発活動(年次報告書の作成・発行を含む)に使います。
研究ができて、集まった情報が整理され、発信できるということが、効果的にウナギを増やしていくということに繋がればと思っております。
②うなぎを食べてうなぎを増やす
食べ継ぐというコンセプトを一番ダイレクトに表している参加方法が、うなつぐ基金です。鰻を食べていただくけれども、増やすということにもお金が回るような仕組みです。
うなつぐプロジェクト対象商品・メニューの売上10%が、ウナギを増やすための活動に使います。まず弊社の襷屋と東京の老舗鰻はし本さんの2軒から加盟店をスタートします。
例えば、鰻はし本さんには7000円(税抜)でうなつぐプロジェクト対象のうな重を提供いただきます。10%の700円がシラスウナギの買い取りと放流、そして放流したウナギが成熟してマリアナまで行けるような状況を作るための環境整備に使われます。シラスウナギ1匹を仮に300円としたときに、7000円のうな重一人前ごとにシラスウナギを2匹買取ることができます。
③うなぎの生息環境に一石を投じる
3つ目は、皆さんにWebを見ていただくだけでもこの世界に一石を投じることになるという仕組みです。文字通り水路などに石を投入していきます。
月間のユニークユーザー100人当たり、人の頭ぐらいの大きさの石を1個フィールドに入れます。コンクリートの水路でも石があるとウナギが生息しやすくなりますので、Webを見ていただく人が増えるだけでもウナギの生息場所が増える、ウナギを増やしていく力になっていただけます。
ー 次に、うなぎを捕って分かち合うということを続けてこられた熱田さんのお話です。技術や経験を磨きながら、文化としてのうなぎとり、そして愛着愛情を持って関わる心を受け継いでこられました。そこには、食べ継ぐということ、食べながら増やすということの原点がありました。
ウナギがとれる喜び、大切な人を笑顔にできる喜び
熱田: 僕は毎年春になって藤の花が咲くと、ちょっとそわそわします。故郷の父や祖父が教えてくれた「藤の花が咲いたらウナギが動き始める」という言葉があるからです。父も祖父も、季節の営みの一つとしてウナギを捕ってきてくれる人でした。
捕ってきた鰻が食卓に並んでその鰻を食べたときに、子供ながらになんて美味しいんだろうと思っていました。父や祖父の姿が眩しくてかっこよくて、僕もああなりたいと、子供の頃から一生懸命技術を磨いてきました。
こうして培ってきた技術があることで、家族や大切な人に鰻を食べてもらえて、すごく喜んでもらえます。ウナギがとれる嬉しさよりも、そのとれたウナギで大切な人たちに喜んでもらえるというのが、僕にとっての喜びです。そんな大事な存在が僕にとってのウナギです。
“捕り過ぎないこと”や”愛でる気持ち”も育み受け継ぐ
熱田:ウナギを捕ってきて捌いて蒲焼にして家族で分かち合う、ということが暮らしの中に当たり前にありましたし、それを可能にする技術を持った人たちが身近にいたんですけれども、ウナギを捕り過ぎるということはありませんでした。
僕は今でも、夜の川に潜って目の前をウナギが泳いでいる姿を見ると嬉しくなります。ウナギへの愛着愛情といいますか、ただ捕って食べたいというものではなく、ウナギという存在がその川に生きていてくれるだけで僕は嬉しくなるんです。
捕り過ぎないようにしようという心とか、愛でる気持ちと言いますか、そんな大切な気持ちも育むような遊びとして、うなぎとりという文化を受け継いてきました。
人が関わることで資源を増やすことができる
熱田:父に教わった野遊びの一つに、「自然薯堀り」というものがあります。自然薯というのは野生の山芋です。自然薯を1本掘ったら資源としては減るんですけれども、同時にすることがあります。それは、むかごを植えることと、自然薯の頭の先端の部分を折って植えるということです。山から資源を1個分けてもらったとしても種になるものを土の中に埋めてあげることで、その資源が増えていきます。人が関わることで自然薯を増やすこともできる、という姿を父が見せてくれました。
ただ捕るのではなくその資源を絶やさずに活かせる方向にできないか、ということを、僕は今ウナギに対しても強く思っています。
うちの子どもたちも、藤の花が咲いたら、かつての僕と同じように「父ちゃんうなぎとりに行こう!」と言います。日本の原風景でもあるうなぎを季節の恵みの一つとして分かち合うという文化を、次の世代にも伝え続けていきたいです。
そしてウナギが激減している今、これまで自分がその習性を熟知してウナギを捕ることに使ってきた技術や経験や情熱を、ウナギが喜んでくれる環境を作るにはどうしたらいいのか、というところに使っていきたいと思っています。
ー 続いて、国際的にも活躍されているウナギの研究者である海部先生より、ウナギの資源管理に関する現状や問題点、そしてより良い放流のあり方についてお話いただきました。ウナギが本来持っている力を引き出すためには、私たち人間はどう関われば良いのでしょうか。
漁業だけではない、うなぎが直面している様々な脅威
海部:ウナギが蒲焼になるまでには現在のところ、飼育下で生まれたシラスウナギの産業利用は実現していないので、基本的に養殖ウナギも全て天然資源(河口で採取されるシラスウナギ)に頼っています。
現在ニホンウナギは激減しており、2013年に環境省により絶滅危惧種に区分され、翌年の2014年にIUCNによって同じく絶滅危惧種に区分されたというところです。減少の要因としては食べ過ぎが問題にされることが多く、特に養殖に用いるシラスウナギの捕りすぎが注目されます。しかしそれ以外にも天然ウナギの漁獲や、生息環境の変化もとても重要だと考えられています。産卵場のある海洋の環境の変化も影響があるのではないかという見方もなされています。自然の脅威もあれば人為的な脅威もある、ウナギは様々な脅威に直面しています。
ウナギの放流はウナギのためになっているのか?より良い放流のあり方とは?
海部:シラスウナギの池入れ量の制限合意など、漁業におけるウナギの資源管理は始まっています。そして漁業に限らず広い視野でウナギの保全について考えたとき、放流というのは現在行われている最大規模の保全策なのではないかと思っています。現在日本国内で、直接消費する天然ウナギの漁獲量70t弱に対して、養殖場から20tぐらいのウナギが放流されています。それが十分なのかという議論は難しいですが、放流の方法をより良くしていくということは、ウナギの保全への近道かもしれません。
ただし、そもそも放流というのはプラスなのかマイナスなのかという問題もあります。放流されたウナギは”食べる”という人間の害からは逃れるかもしれませんが、人間が強く手を加えてしまっています。成長の悪い個体を選別するとか、(養殖場で育ったウナギは雄が多いため)雄を選択的に放流してしまうとか、病気が蔓延しやすい養殖場のウナギを放流してしまう、といったように、人為的な悪影響を増やしてしまっているかもしれません。放流した後の定着率が低いということもわかってきています。こう考えると、放流はウナギのためになっているのか、なっていないのか、よくわからないのです。
人間がやるべきことは、人間がどこかで与えている悪影響を少なくしていくこと。
海部:生き物は元々、自分で生まれて繁殖する力を持っていて当たり前なのです。人間がやるべきことは、人間がどこかで生き物の成長や繁殖をストップしていたり悪影響を与えたりしていることを、少なくしていくということだと思います。そうすることで、生き物がその本来の力を発揮し、自分たちの力で子孫を増やしていくことができます。
人間の手を強くかけない放流、田んぼでの「租放的な飼育」に期待
海部:私はうなつぐプロジェクトの、田んぼへのシラスウナギの放流という部分に関わっています。田んぼの横にビオトープを作り、2024年の4月に400個体を放しました。そのまま餌も与えず、網を張って鳥から守るということもせずに、4月の調査では少なくとも217個体、5月の調査では145個体が生き残っていると推測できました。採捕効率を考慮するともっと多くいるはずです。放流後の変化を追うこと、そしてある程度生き延びていてくれたことも確認でき、今のところは成功していると考えています。今後もちゃんと数字で評価していきます。
海部:この放流の何が良いのかというと、人間の手があまりかかっていないということです。人間の手を強くかけずにうまく生き残らせることができれば、その方が理想に近いんじゃないかと考えています。そしてこれは放流といえば放流なんですけれども、「粗放的な飼育」と言ってもいいかもしれないと思っています。昔から相性の良かったウナギと田んぼの関係を取り戻すという点でも、私はこのプロジェクトに期待しています。
人間が強く手をかけずにその命の持っている力をうまく引き出すような関わり方の中で、自然を豊かにしていけるかどうか。ウナギという生き物と向き合う中で、人間のあり方について考えていく。これはそんなプロジェクトでもあります。
うなつぐプロジェクトの目指す未来
牧:まずウナギとはどういう生き物なのか、多くの方にウナギことをちゃんと知っていただいて、その上で食べていただけるようにしたいです。食べながら増やすということが本当にできるのかどうか、というところを長期的に目指します。
そして、ただウナギが増えるというだけではなく、身近な場所でのうなぎとりというような、かつて当たり前にあった子供たちの遊びや楽しみも、文化として残していきたいと考えています。子供たちが田んぼや川で遊ぶということも含めて、うなぎを残すことができるからこそそれに関連する遊びや食文化等も残して未来に繋いでいける、ということも目指します。
人間の都合でバラバラにしてしまったものを繋ぎ直す中で、結果的にたくさんの自然の恵みが生まれ育って、人と自然がともに育み合うという関係ができて、大切な人たちと自然の恵みを分かち合うことができる。そういうことができる経済・ビジネスというものを作っていくことに、このウナギを一つの軸として挑戦していきたいです。
ー 7月に入り、土用の丑の日が近づいてきました。魚屋さんやお料理屋さんだけではなくスーパーでもコンビニでも「うなぎ」と書かれた旗が立てられ、お惣菜コーナーにはうな重が並んでいます。これだけ日本の食文化に深く根付いてきたウナギが激減してしまっている現状があっても、そのことを実感する機会は少ないのかもしれません。
でもやっぱり私は、このままウナギや他の生き物たちがいなくなってしまうのは寂しいなと思います。みんなで一緒に、ちょっとずつ未来に思いを馳せてみたいのです。
技術があっても捕りすぎない、より良いあり方で放流する、生息環境を整える・・・ウナギへの愛着をもって、それぞれができることをして、ウナギを食べながら増やすということを本気で実現しようとする人たちがここにはいます。
このプロジェクトが続いていった先で、分断されていたものが繋ぎ直され、ウナギが海から源流部の村にたどり着き、成熟し、また海へ帰って産卵することができるようになったとき。そのときにはきっと、ウナギ以外のたくさんの生き物にとっても暮らしやすい環境が整い、里山にはたくさんの人の笑顔が溢れているのだろうなと想像します。
そんな風景を見られる日が本当に来るかもしれないと心が踊る、うなつぐプロジェクト発表会でした!
▼うなつぐプロジェクトの詳細はこちら▼