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厚真町役場・行政は頭が固いなんて言わせない。有志のプロジェクトチームが仕掛けた、新しいこども園

北海道・厚真町の魅力の1つは、「若手のチャレンジを応援しよう」という役場の雰囲気。その代表的な動きが、有志の若手職員で結成される、プロジェクトチームです。2016年に上厚真に開設された、厚真町の木材を使って建設した「宮の森こども園」も、このプロジェクトチームの動きによるもの。リーダーとしてプロジェクトに参加した、まちづくり推進課・江川さんの話をお届けします。

 

中途採用の職員たちが起こした、新しい風

現在は厚真町のまちづくり推進課に所属し、役場が実施する約500の事業の計画を取りまとめる仕事をしている、江川允典さん。厚真町出身の江川さんが、新卒で役場に就職したのは、2000年でした。

江川:土木の専門科がある学校に行っていたんですが、親からも「地元に帰ってきてほしい」と言われて、役場に就職しました。同期5人中、町内出身者は僕だけ。ちょうど、町外からの人材も採用し始めたくらいの時期でしたね。先輩たちはほとんど町内出身者だったので、役場が少しずつ変わっていくタイミングだったのかもしれません。

厚真町の町制が施行された1960年当時は1万人を超えていた人口も、2000年には約5,400人へと減少。町内出身者が多かった厚真町役場ですが、採用に苦戦した時期もあり、職員の年齢バランスが偏っていました。それを補う形で、2007年から本格的に民間企業等の経験者の中途採用を始めていきます。
 


 
江川:新卒の僕らは最初に研修を多く受けましたが、社会人枠で入ってくる人は即戦力を期待されるので、大変そうだなと思っていました。「社会人経験が有るから、すぐやれるだろ」みたいなね。でも、中途採用の人が入るようになって、役場の雰囲気が変わり始めました。人口5,000人の町でしょう。地縁血縁というか、あの職員はどこどこの息子さん、お孫さん…みたいなのが以前は役場内で感じられたのですが、それがあまり感じられなくなってきました。

このタイミングで町役場へと入ってきた中途採用の職員たちが、後に「プロジェクトチーム」と呼ばれる、有志の活動を動かしていきます。

江川:僕たちがやった「上厚真市街地環境整備プロジェクト(以下、上厚真プロジェクト)」の前には、道内でも有数のサーフスポットである浜厚真から、まち全体を活性化するという「あたらしいなみプロジェクト」があったんです。そのチームのメンバーは当初、全員が町外から来た職員たち。町外から来た職員は、仕事に対する意識の高い人が多いと感じました。僕らのチームの活動も、外部から中途採用の人材が来たことで動いている。それは間違いないですね。

こども園のプロジェクトは、中途採用で役場に転職してきた宮さんが、江川さんに相談を持ち掛けてきたことから、始まりました。宮さんは、大学院で林学を学び、民間で経験を積んでから「林業担当者募集」に惹かれて町役場に来たという、いわば林業オタク。
 


 
江川:一緒に出張する機会があったんですが、「こども園を建てるんだったら、子どもたちがワクワクする魅力的なものがいいよね。それを中心に置いた地域づくりは、まちの魅力アップにもつながると思うし。せっかく子どもの為に作る施設なら地域の木材を使って」って、宮さんが言い始めたんです。その後ちょうど役場職員の政策立案研修があって、僕もそういう提案をしていくうちに、宮さんから「実際にやっていこうよ」って話になって。

「どこまでできるかは手探りだけれど、とりあえずやってみよう」とプロジェクトが始まっていきました。

 

チームリーダーとして、丁寧な調整で企画を形に

こども園の建設予定地は、厚真町の中でも隣の苫小牧市に近い上厚真(かみあつま)という地区。このエリアに、魅力的なこども園ができて子育て環境が充実すれば、若い世代も集まりやすく、町のこれからを支えていく核にもなる。江川さんは宮さんと一緒に、「2人だけではなく、もっと仲間を集めよう」と動き出します。

江川:最初に声をかけたのは、社会教育に熱い教育委員会の宮下桂さん。その次が、当時保育士として働いていた宮下(旧性・大岸)葉子さん(現・宮の森こども園副園長)と、建築を担当していた橋本一哉さんです。宮下さんは、「いいよ!」って2つ返事でしたが、葉子先生には「プロジェクトってどういうものかよくわからない」って言われ、橋本さんも「通常業務が忙しいから無理だよ」という感じでした。「一緒にやろうよ、大岸さんや橋本さんの意見が聞きたいんです。なるべく負担かけないようにするから」みたいに、お願いして無理やり引き込みました。実際は相当な負担をかけましたけど(笑)。
 


「プロジェクトチームを作る」ということを上司に相談し、町長からも辞令をもらって、公式にチームとして認められたメンバーたち。まずは、週1回程度全体会議をすることに決めました。しかし違う部署の人たちでチームを組む中で、意見が食い違ったりすることもあったそう。

江川:こども園については、建物などハード面のことだけじゃなくて、実際にどのように使うか、どんな子育て環境が望ましいかといったソフトの話もしていたんです。ソフトに合わせたハードにすることで、理想的な保育が出来ると思ったんです。議論を重ねていくうちに、地域とのつながりや子ども同士の繋がりを生むきっかけになるような施設にしたいとの思いが強くなりました。

加えて、子ども達が安心して過ごせる場所にしたいとの思いから、なるべく長い期間かかわれる建物が良いのではないかと考え、こども園と児童会館をシームレスに合体させ、0歳児から小学6年生、出来ればそれ以上の子ども達も集える施設に出来ないかと検討を重ねました。葉子先生からは、現場の保育士の視点から、厚真町や他地域の現状と課題、それを踏まえた今後の保育の目指す姿を教えて貰いました。

 


 
建物の大枠については建設課の橋本さんと随分議論しましたね。どんな建物になるかわからない時点から、保育士と建設課の職員が話す機会は通常無いので、振り返ってみると貴重な時間でした。宮下さんは俯瞰して物事を見て、0歳から小学生までの子ども達の安全と安心について整理してくれたり、議論が白熱してきた時に、論点を整理してくれたりしました。住民の方の意見を聞くことの大事さを言い続けていたのも宮下さんでした。

ハード・ソフトどちらの面からもいろいろ話が食い違ったりすることは多かったですけど、お互いの信頼関係があったせいかぶつかることはあっても、そんなに気まずい雰囲気でやっていたわけではないですよ。ひたすら熱く議論をしていた感じでした。

辞令をもらったことで、プロジェクトに関する業務時間も、仕事時間として認められるようになりました。でも、プロジェクトチームという聞きなれない活動は、周囲にすぐ理解されたわけではありません。

江川:お互いのテリトリーを越えて行動することに丁寧な説明が不足していました。「おまえ、なんで自分の仕事以外に他の課部署の仕事をしてるんだ」みたいな。でも僕の上司は「おまえら、どんどんやれよ」って感じだったので、それは本当にありがたかったです。

チームの中では、提案会議を設定して上司に決裁を上げていくのは、リーダーである江川さんの仕事でした。

江川:どう決裁をとっていくかはちょっと難しかったですね。バランスを取りながらなんとか上に話を通していくっていう…。僕も勉強しながらでしたけど。
担当課に提案をしたうえで、関係する各課の管理職を全員集めて提案をして。その後に町長にも提案をして。「何がしたいの?」ってかなり言われました。そのたびに、「僕らはこういうこと考えています」って丁寧に説明をするようにして。

当時、まちづくり推進課で企画調整と事業推進とを兼務していた仕事柄、誰がどの事業を担当しているかも、だいたい知っていた江川さん。「僕には、突破力はあんまりないんですよ」と話しますが、新卒からずっと勤め続け、上の世代にも顔が知られている江川さんは、調整役にはぴったりでした。丁寧なコミュニケーションによって、合意形成も少しずつできていきます。

江川:僕、大事な事を電話でお願いするのは嫌いなんです。やっぱり、人と人は顔を合わせながら仕事をしていくものだと思っているので。こども園のプロジェクトを進める上でも、関係する管理職にはほとんど、自分で直接お願いに回りました。資料も、なるべく自分が手で渡して。電話だと、どうしても他人事のように感じられる時があるので、信頼を得る上で顔を合わせることが大事だなと思っています。

どんなにいい意見を持っていても、調整がしっかりできないと通らないから、頑張りどころでしたね。まあ、リーダーといえどチーム内でも年下でしたし、若かったから、あんまり怖いものがなかったかな(笑)。やっぱり小さい町ですから、役場の職員数も少ないですし、大きな役場よりは合意形成もラクだったかもしれません。

今回のプロジェクト自体、「建てる計画があったこども園を、よりよいものにしよう」というものなんです。すでに計画を積み上げてきてくださった方に「もっとこうした方がいいよ」って言っていく上で、それが失礼な表現や、必要のない批判にならないように…ということには気を配っていました。プロジェクトチームの意見だけでこども園ができるわけではないから、それを忘れないようにしたいなと。

 

個々の持ち味を結集させ、こども園をオープン

江川さんは、上司や周囲に説明をしながら、企画提案書を取りまとめていきます。チームをまとめる上でも、「顔を合わせる」ということを大事にしていました。

江川:なるべく全員の意見を聞くことが大事だなと思っていました。声の大きい人もそうじゃない人もいるけど、みんなそれぞれ専門分野の意見や自分の理論を持っているので、「これどう思う?」って。あとは、何かしらの節目に飲み会をして…。でもそうしているうちにプロジェクトを始めた当初よりお互い随分仲良くなったように思います。今では、メンバー間で部署が違うことで壁を感じることはまるでありませんね。気が付いた事や、協力してもらいたい時なんかは、直ぐに相談したり、お願いしてます(笑)。

中途採用のメンバーの突破力や新しいアイデアに対して、町出身の江川さんならではの調整の細やかさが緩衝材となり、うまく進んでいきました。

江川:どんなチームでも、突破していこうと0から1をつくる人と、それをうまく広げて1から2にしていく人が必要だと思うんです。宮さんとか中途採用の人たちは、0から1をめざす人間が多い様な気がします。僕はどちらかと言えば、あちこちと調整して、それをちゃんと広げていく方かな。でも、一人じゃ成し得ないことも、チームだった5人の役割がうまく重なり合ったことで、うまくいったのかなと思います。

企画提案書も、全員で分担して、子育てや建設などメンバーそれぞれの専門的な知見が組み合わさった提案書になりました。そうして町長への最終提案を行ったのは、2014年のクリスマス。2012年の12月に始まったプロジェクトチームも、2年間の月日が経っていました。

 


 
そうして無事に2016年春にこども園をオープン。「子どもたちに、地域の木に触れてほしい」をコンセプトにした園は、触れる部分の殆どが町産材に。その他にも、北海道産のカラマツをふんだんに使っています。町始まって以来の大規模木造建築を担当することになったのは、建設課の江川泰弘さん。

江川(泰):建物本体と園庭を含む造成工事合わせて約9億円規模の事業となりましたが、先進地の同規模施設の情報から活用できる部分を研究し設計に反映することで、他地域の施設と比較して建設費用を抑えることが出来ました。こうした施設は、いったん作ってしまうと少なくとも30年を超えて使い続けるので、今回は30年に一度のチャンスでした。園の給食などにも町産野菜を使っていたりして、今では「こども園があるから」と移住してくださる家族も出てきているようです。
 


こども園と子育て支援センターと学童保育の3つの機能がまとまっているこの施設は、乳児から小学生まで通い続けることができます。現在は60人の子どもたちが入園し、地域に愛されるこども園となっています。

 

役所も民間企業も同じ。言い出しっぺの自発性が、成功を生む

こども園のプロジェクトが一定の役割を果たしたことで、町役場の雰囲気も少しずつ変わってきました。

江川:今回の取り組みが一定の役割を果たしたことでプロジェクトチームという動き方が、役場の中でも知られるようになりましたね。「縦割りじゃなくて課を横断して取り組むことも大事だな」とか、そういう雰囲気が生まれつつあります。総合戦略グループという横断的な部門も、正式にできました。

今回のプロジェクトをやってみて、困ったときに頼りやすくなったり、縦割りの垣根がちょっと下がった感じがして、そういうことがすごい成果だったなと思います。いろんな仕事の話が、職員内でお互いにできるような環境になった。

でも、そんなに難しいことじゃなくて、やる気になれば他の役場でもどこでもできるんだと思います。民間企業だったら、みんなやってることなんだろうし。「役所だから…」っていう仕事じゃなくて、「役所でもこんなこともできる」みたいに仕事をしていかないと、これからは難しいのかなあって。
 


プロジェクトチームの活動やメンバーについては、町の広報紙でも紹介され、こども園の近くのエリアの住民の方に話しかけられたりもするとのこと。

江川:オープンに話せないこともありますけど、役場内の動きを住民の方たちに知ってもらうことも、重要なんじゃないかなって思います。特に、中途採用の職員など地縁がないメンバーも役場には増えてきているからこそ、住民に知ってもらわないとなと。僕たちも「新しいこども園どうですか」って聞くし、住民と交流することで、新しいアイデアにもつながると思うので。

これから、後輩や次の世代が、プロジェクトチームみたいな動きを連鎖的に起こしていくにはどうしたらいいかを、江川さんは考えています。

江川:今思えば、プロジェクトチームが出来るプロセスをもうちょっと形に残しておければよかったなと思います。プロジェクト自体の合意形成やプロセスをどうやっていたかって、なかなかわからないことなので。僕らの体験を、うまく下の世代に引き継いでいくのは、大事だなと。

あと「外を見る」ってことも、重要ですね。たくさんの人に会ったり話を聞いたり。僕らは他の市町村なんかへも先進地事例視察に行かせてもらったし、他の地域の役場職員との交流もあって。そこでいろんな話を聞いたりすると、「厚真町もこう変えていかなきゃな」とか思うきっかけになるので。

ただ、「誰かから言われてやる」という形では、プロジェクトは成功しないとも感じるそう。
 


 
江川:「もっといろんなプロジェクトをやったらいいんじゃないか」って雰囲気が生まれたのは、すごくいいことです。でも、誰かに言われてやるプロジェクトチームでは、たぶん成功しないんですよね。コアとなる言い出しっぺの人間がいて、自発的にやっていくことが、成功につながる。僕もやっぱり、言い出しっぺの宮さんの強い思いに共感してやってきたので。

昨年から、年1回、だいたい40歳以下の職員全員で集まる飲み会をみんなで始めたんです。それまで、なかなか職員同士で話す機会もなくて、別の課の動きも知らなかったので。お互いを知らないと「あれやりたいね」「それいいね」みたいな動きが生まれないですよね。そういう横のつながりから、次の世代の新しいプロジェクトが生まれればいいなと思っています。

地域でよそもの・若者が重要だと言われる中、外部人材を呼び込んでいる地域は、たくさんあります。でも、よそから来た人材が輝けるのは、その地域の人がいろんな調整をしてこそ。厚真町役場の魅力は、突破力のある人材のチャレンジを後押しする、町出身の人たちがいてこそかもしれません。

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