岡山県

西粟倉

にしあわくら

木のように、ゆっくりでいい。ここで働き、育ってくれる人を募集します。

山にある木々が、家や家具のような身近な製品になるまでには、丸太を角材や板に生まれ変わらせる「製材」というプロセスがあります。林業が中心産業となっている岡山県西粟倉村で製材を続けてきたのが、山本材木店。近隣の大工さんやDIYを個人で楽しむ方に愛されてきたこのお店で、一緒に働く人を募集します。「未経験でも大丈夫です。始めは杉もヒノキもわからなくていいですから。」そう穏やかに話すのは、2代目の山本和憲さん。やる気や適性次第では、お店の後継者になってもらう可能性もあります。木の奥深さに触れられる仕事を、あなたも始めてみませんか。

 

時代の変遷を見つめて40年

– まずは、山本材木店さんがどんな成り立ちでここまでこられたのか、教えていただけますか。

山本:最初は父親がここで、素材生産*っちゅうやつを4、5人で始めたんです。それが、父親が40、50代くらいになってから、山に入るのがしんどうなったみたいで、昭和46年から製材業をやるようになりまして。

*素材生産:樹木を伐採して素材(丸太)に加工し、所定の場所まで運搬・集積すること。

山本:大学に行っているときから、夏休みなんかにここでバイトをしてたんですね。卒業と同時にこっちも人手が足りなかったこともありましてね、21歳で帰ってきて、そっから40年近くやってます。始めた時分から10年くらい、バブル崩壊までが一番忙しかったかもしれません。

– バブルに突入していく前から、このお仕事に携わられているわけですね。80年代はこの製材業も、どんどん仕事が増えていったのですか。

山本:忙しくて追っつかないくらい。ちょうど周りの家が古くなってどんどん建て変えていったり、智頭急行や鳥取道ができて立ち退きも出たりしていてね。仕事もあったし、今親方さんになられている年代の大工さんで、独立されていく人も多いタイミングで。

そういうのもあって、材木の仕事も次から次へと増えまして。みんな収入がよくなっていくサイクルのときで、西粟倉だけじゃなくて近隣の地域も、同じような感じだったらしいです。その時分の儲けはどこへやら、というかんじですけどね。

– あらゆる面でものすごい追い風が吹いていた、まさにバブル期という感じがします。そこからバブル崩壊、景気の低迷などの変遷を感じながら、ここまで続けてこられたのだと思いますが、お客様も長く事業を続けられている方が多いのですか。


山本:昔から長くやられているようなところが多いですね。先代から取引があったお客さんが、僕の代になってちょっと拡張したかなっていうくらいで。新規開拓したところって少なくて、基本は長くお付き合いさせていただいてます。お客さんは、工務店さんと卸売業者さんが同じくらい。卸売業者さんは兵庫県とか、鳥取県の方ともやりとりさせてもらってますね。

– 先代から、それだけ遠方のお客様も含めてお付き合いが続いているというのは素晴らしいことですね。そんな中、今回新たに人を採用したいということですが、どんな背景があるのでしょうか。

山本:一緒に働いてくださっていた方が3人いらしたんですけど、高齢で2人一遍に仕事を離れられて、人手が足りなくなっていまして。もう1人も80歳近くなってますし、将来的には、一緒に会社のことを見てくださる方にきていただけたら、一番ありがたいですね。

– 製材業のみならず、ゆくゆくは山本さんと同じ目線で山本材木店を支えてくれる人を探しておられるのですね。後ほど詳しく伺いたいと思います。

 

ベテラン大工からDIYの方まで、細かなオーダーに応える

– もう少し具体的に、山本材木店さんのお仕事をイメージできたらと思うのですが、先ほど主なお客様と伺った工務店や卸売業者さんからは、具体的にどんなご依頼が多いのですか。

山本:うちは家一棟分の木材ということはなくて、特殊材が多いです。壁材やフローリング材なんかの注文が結構あって。製品の市場でしたらね、たとえば1m、2m、3mとか、4cm、5cm、6cmって規格が大体決まってるんですね。それがうちはね、例えば3m20だとか、6.5cmだとかって、規格にないようなものを頼まれたりすることが特に多いです。他のところではあまりやらないからだと思いますけど。

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– 規格外ですか。やっぱり、昔からお付き合いのある大工さんからは、そういうオーダーが多いのですか。

山本:手がけられる建物によっては、結構ちょっとした寸法の調節みたいなもんの融通がきく方がええみたいですからね。あとは加工の技術なんかも、専門でやっているところの木材の方が使いやすいって言われるんですよ。

– そういう意味では、昔からの大工さんの木を見る目に育てられる環境、とも言えるかもしれませんね。他にも、大工さんとお付き合いされていて感じられることはありますか。

山本:この辺りには、使うには厳しいかなっていうような木材でも、うまく使ってくださる大工さんが多いんですよ。それ以外のところだと、見た目がちょっと悪ければ返品されたりするんですけど。裏に節があるようなものでも適材適所で上手に使ってくださいますね。

– 木を見る目がある職人さんは、その活かし方もよくご存知なのですね。そういった職人さんが、お客様のメインなのですか。


山本:あとは今、DIYってあるじゃないですか、フローリングとか構造材だけを手配して、自分の手で作られるっていう。実はそういう個人の方も、飛び入りや取引先の紹介でちょこちょこ来られるんです。一番北だと、滋賀県のほうから来られる方もいます。金額でいったら、年間を通して2割くらいはそういう仕事があるかもしれませんね。

– 山本さんのように個々の案件にもていねいに対応してくださる方は、こだわりを持って空間を作りたい人にとっては有り難い存在だと思います。でも山本さんからすると、手間がかかるのではないでしょうか。

山本:僕からしたら半分仕事、半分遊びみたいな感じもするんですけどね。せっかくだから喜んでもらえたらって思ってます。それに僕は基本的に、国産材のスギとかヒノキを少しでも使っていただいたら、ありがたいんです。ですから、そのようなものを使って、家を建てたり、リフォームしたいっていう方は少しでも応援したいなと思ってます。

 

1本たりとも同じ木はない。だから面白い

– 山本さんがこれだけ長く材木店を続けられているのは、家業であられたこともあるでしょうけれど、何か理由はあるのですか。


山本:僕も最初全然気がつかなかったんですけど、多分、単純に木が好きなんですね。じゃなかったらこんなに30年も40年も続かないと思うんですよ。木ってね、1本1本性格が違うんですよ。杉とかヒノキとかの種類によってだけじゃなくて、1本1本違う。その見極め方ができるようになるのに、時間がかかるんですよ。

– 機械の使い方を覚えれば、必要サイズに切り出せるわけではないんですか。

山本:機械の動かし方自体は、覚えればすぐにできるんです。でもちゃんとした材木を切り出すには、木の性質を知らなくっちゃできないんですね。木は曲がるんですよ。例えば1本の木から、10.5センチ角の柱材を作るとしたときに、最初から10.5センチにとんとひいてしまったら正しいものはとれないんです。11センチから11.5センチくらいに一度ひいてからじゃないと。しかも曲がり方も1本1本違う。


木によってはね、曲がるかなと思ってた方向と反対に曲がったりするんです。想定外な曲がり方をした場合には、いやあ、木をよう見んかったなって後悔しますね。

– そういう失敗は、山本さんも今でもあるのですか。

山本:ええ、ありますあります。日常茶飯事(笑)。それくらい難しいですし、完全に木のことを見切るっていうのは僕はないと思ってます。

– 奥深い世界ですね。でもそうやって上手くいくかどうか分からない、ということも含めて、面白いということなのですね。

山本:そうですね。これがものづくりの楽しさの1つだと思うんですね。そして木は生き物だと思うんです。人間が10人いたら全員違うのと同じように、木も違うんです。

– 山本さんは、この製材というお仕事をされている中で、どんなときに喜びを感じますか。

山本:あのね、おっきい木をびゅーっとひくときに、これは何センチ曲がる可能性があるから、じゃあ3センチほど大きめにひいてみようと思ってひくじゃないですか。その通りに出てくると気持ちいいんですよ。

あとは、製材のよさっていうのは、数年経ってから分かるところもあるんですね。家って新築して、完成したときにはどの家もきれいなんですよ。それが、5年くらい経つと、家の狂いが出たり、柱に割れが出てたりすることがあるんです。そういうのがなく、住んでるうちに木材の良さが出てきて、きれいな材料を搬入していただいてありがとうございましたって言われるのが一番ありがたいですね。

– 1本1本の木に向き合うその瞬間だったり、数年経ってからだったり。いろいろな時間軸で、喜びを感じられるお仕事なんですね。山本さんのきめ細やかなお仕事によって、日々の生活を支えてもらっている人も、きっと全国にいらっしゃるでしょうね。

 

ゆっくりでいい。理解しながら少しずつ進んでいただけたら

– 今回新たに迎え入れたい方について、お伺いします。まず、入られたらどんなお仕事から覚えてほしいですか。

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山本:まずは、木のこと、製材のことを覚えていってもらえたらと思います。僕の仕事を手伝っていただきながら、こういう木を製材したらこんなものができるんですよ、この加工の後に、最終的にはこういう風な格好で販売経路が確立して、製品になって出ていくんですよ、ってことをまずは順番に教えていきたいです。1、2年はかかっちゃうんじゃないかと思いますけどね。

例えば全然僕がおらんかってもお客さんと「この品物はこういう風にして販売できますから」って話せるようになっていってもらえれば、一番ありがたいなと思ってます。

– いずれは、山本さんの後継者となれる可能性もあるのでしょうか。

山本:そうですね、一緒に経営のことを考えてくれるくらいの方がきてくだされば尚ありがたいです。給与面なんかも一緒にがんばってくださって、売上が上がればそれに応じてと思っとります。でも、始めからあまり難しくは考えてくださらなくていいですよ。こういう仕事に興味もってくださっていればそれで。

– 材木や林業関連の経験は、特に問いませんか。

山本:僕ね、全然経験がない方のほうがいいかなと。かじったことのない分野で、真新しい人のほうがもしかして飲み込みも早いかなと思ってまして。どれが杉の木、どれがヒノキっていう風なのが分からないくらいでも大丈夫ですから。もちろん工務店さんとか、素材生産の経験のある方が来てくださる分には、受け入れるのもやぶさかじゃないんですけど。

– たとえば家の木の家具だったり建物だったり、何かしら木という生き物に興味を持ってくださる方や、ものづくりに携わりたい人だったら、やりがいを感じられそうですよね。山本さんの中で、どんな方と一緒に働きたいというイメージはありますか。

山本:どちらかといえば、穏やかな人の方がいいですよね。自分で勝手にノルマをこさえてね、今日こんだけの仕事を絶対、自分の中でせなあかんいうような仕事の仕方は、してくださらなくて結構ですから。ゆっくりでも、理解をしながら、前進していってくださったら一番ありがたいかなと。

– こられる方は、西粟倉村に住むことになると思います。ここで生まれ育った山本さんから見た、西粟倉村のよさを教えてください。

山本:あのね、よく10年すめば都っていうじゃないですか。でも西粟倉はそればかりじゃなく、住みやすいところだと思います。交通の便も、京阪神どこでもいきやすいですし。それにね、新しく入ってこられた人には、特によくしてあげようという気持ちが結構強いみたいですよ、皆さん。特にここ10年くらいは僕の中ではそんな風に感じ取ってます。きてくださった方には、出来る範囲で住まいの手配もがんばろうと思っているんでね、ぜひきていただきたいです。

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– お話中、時折浮かべてくださる大きな笑みで、周囲をほっとさせてくださった山本さん。すぐ隣で、昔からの大工さんにも通じる技術と心を学び、材木店のこれからを作って行ける貴重な場が、ここにはあります。経験の有無に関わらず、木に関わってみたいという方を、山本材木店はお待ちしています。