札幌で、厚真を語りつくす!交流イベント「厚真ナイト」<後編>
Date : 2020.03.20
「札幌で、厚真を語りつくす!交流イベント『厚真ナイト』<前編>」では、2020年1月25日に札幌で開催された「厚真ナイト」の様子をたっぷりとお届けしました。
初めての試みにもかかわらず多くの人が集まり、期待以上の盛り上がりをみせたのは、仕掛け人の一人である学生実行委員の「じゃんぼ」こと金井直樹さんの存在が大きかったと実行委員のメンバーは口をそろえます。
後日、その金井直樹さんにお話を聞くことができました。
金井さんが厚真町にひかれる、その理由とは……。
一緒に何かできたら面白そう
「厚真ナイト」から1週間後、金井直樹さんに会うため札幌駅近くのカフェバー『学生リビング 穂と葉』におじゃましました。実はこちらは金井さんが運営して“いた”お店。というのも「厚真ナイト」の前日に2年間の営業を終えてクローズしたばかりだったのです。
金井さんは東京都出身。現在は北海道大学に籍を置く29歳の大学生です(休学中・2020年3月現在)。高校を卒業後、一浪して国際基督教大学に入学。その後、不動産会社でのインターンシップを経て早稲田大学に入学し、1年で退学して2013年に北海道大学工学部に入学します。
ここまでさらっと書いてしまいましたが、金井さんの人生はまさに「まわり道」の連続。「やりたいことがわからず、大学を変え、仕事をして……結果的に何も続けられずにいた」といいます。2016年12月、金井さんは自分自身の経験が、同じような境遇の学生にとってヒントになるんじゃないかと、留年生が留年生を応援する『学生団体リビルディングラボ』を設立。年間50回を超える学生向けイベントを企画し、学生間のネットワークを築いてきました。厚真町とのつながりができたのもちょうどこの頃。ここからは金井さんの人柄が垣間見えるようインタビュー形式でお伝えします。
— 金井さんが厚真町に興味を持ったのは2017年7月に札幌で開催された「ローカルベンチャースクール・ローカルライフラボ」のキックオフイベントに参加したことがきっかけだそうですね。そもそもどうしてこのイベントに参加したのでしょうか?
金井:実は、それまでは特に地域で何かをしたいとは考えていませんでした。たまたまSNSでこのイベントを見かけて面白そうだなと思って。というのも、「今はやりたいことが具体化できていなくても一緒に考えていこう」という「ローカルライフラボ」のスタンスが気になったんです。
このイベントで宮久史さんに出会いました。第一印象から自分が思い描いていた「役場の人」のイメージとはまったく違い、すごくアクティブで、一緒に何かできたら面白いだろうなと思いました。後日、学生4人で宮さんを訪ねたところ、「まずは厚真町のことを知ってほしいから、合宿はどう?」と提案をいただきました。
それで2017年9月はじめの2日間、学生8人で合宿をしたんです。その際、「ローカルベンチャースクール」1期生の佐藤稔さん、地域おこし協力隊を経てパン屋さんを開業した高田真衣さん、羊飼いの山田忠男さんといった方々の話を聞く機会をつくっていただき、厚真町にますます興味が湧きました。
— 合宿をきっかけに、その後も厚真町との関係が続いていくわけですね。
金井:はい。厚真町のイベント「3本引き」に参加したり、『穂と葉』で厚真産のハスカップのイベントを実施したほか、北海道胆振東部地震後には厚真町の「小林農園」の再建のため、ビニールハウスの解体・設営ボランティアにも参加しました。
長く続く、ゆるやかなつながりを
—「厚真ナイト」の話はいつから動き始めたのでしょうか?
金井:2019年の春だったと思います。宮さんが『穂と葉』に来てくれて、そのときに「厚真町をもっと盛り上げたい。札幌の若い人とつながりたい」という話になりました。その後も、観光協会の原さんたちが何度も足を運んでくれて、そのたびにうちに来る学生とも会って話をして。原さんたちはほかにもいくつかの大学にアプローチしていたそうですが、「やっぱりここの子(学生)たちがいい。社会への関心も強いし、誰かのために力になりたいという思いがある」と言ってくださいました。
実は、うちにたくさんの学生が集まるからといって、ただ使われるのだけはイヤだなと思っていたんです。でもそうじゃない。ちゃんと学生一人ひとりを見てくれているんだと分かりました。それで夏ぐらいから学生を中心に地域に関心のある人を対象としたアンケートをはじめて。ただ、それで終わってしまうのはもったいないので、せっかくならコミュニティづくりにつながるようなイベントをやりましょうという提案を僕からしました。それが結果的に「厚真ナイト」の形になったんです。
— たくさんのイベントを企画運営してきた金井さんからみて、「厚真ナイト」の感触はいかがでしたか?
金井:交流イベントに慣れている参加者が多かったという印象があります。ただ、だからといってここからすぐにいろんなプロジェクトが動き出すかといえば、いきなりそこまでは求めていません。どこに目標を設定するかだと思うんです。開催前に実行委員全員で話し合ったときに、「当日だけで具体的な形が生まれるところまでは目指さないようにしましょう」と確認しました。
たとえばグループワークの時間をとって、付箋に文字を書いて、発表して…そうやってイベントとしての見栄えを良くすることもできます。でも、今回はそれをしませんでした。体裁を整えれば参加者はなんとなく満足するかもしれないけれど、だからといって次につながるとは限らない。その辺りは厚真側の実行委員のみなさんも共通していて、「今度また飲みたいね。連絡先を交換しよう」というつながりが一つでも多く生まれたらいいなって。
それで、参加者同士がまた会いたいときに連絡を取り合えるよう、イベント後にオンラインのグループを立ち上げました。でも、こちらから何をしましょうとか、どういう形にしましょうと誘導するつもりはありません。縛りを強くすればきっと、自分には合わないとこぼれ落ちていく人が出るでしょう。できるだけいろんな人がいられる「ゆるさ」を大事にしたいし、同時に、入りたくなったらいつでも参加できる間口の広さも確保しておきたいと思っています。
—「厚真ナイト」からは少し話が逸れますが、2年間運営してきた『穂と葉』をふりかえってみていかがですか?
金井:お店としては2年ですが、活動自体をはじめて3年になります。それまでは自分一人で悩んでいました。「やりたいことがわからない」。だから、答えを出すために本を読んだり、インターネットで調べたり。ですけど、あるとき外に出ていろいろな人と会い、いろんな生き方があるんだと知りました。人と会って話をすることが大事だと気づきました。「やりたいこと」が分からないというのは、僕に限らず、多くの学生が抱える悩みです。だったら、人と人が出会える場をつくろうというのがキーワードになりました。
それで3年前からいろいろな集まりを企画しました。「札幌学生100人交流会」もその一つです。けれども、悩みを抱えていてもイベントには来られない人もいるんですよね。昔の自分がそうだった。昔の自分だったら、たとえイベントの存在を知っていても参加する勇気はないだろうな。意識高いやつらの集まりなんだろうなって思ったと思うんです。実際はそんなことないんですけどね。
だから、イベントじゃなく、いつでも気が向いたら行けるような場所があったらいい、そう思ってこのお店をつくりました。それからはイベントでは出会わなかったような人たちが来てくれましたね。学生のための場づくりができた、それは一つの成果だと思います。
— 最後に、金井さんが厚真町にひかれる理由はどんなところにあるのか教えてください。
金井:素敵な人たちがいる。それが一番大きいですね。地域としての魅力ももちろんですが、あの人たちがいる町だから関わりたいというのが僕の中では強いんです。山口さんにしても、宮さんにしても、30歳を過ぎてから今の仕事をはじめています。たいへんな20代を経て、今がある。
だからなんでしょうね。宮さんのお話を聞いていると、チャレンジしたくて厚真町にやってきた人に対して、その選択がその人にとって本当に心地よいことなのか、そこまでちゃんと見てくれている気がするんです。その感覚を、厚真町の多くの人たちが共有しているんだろうなと感じます。そういう感覚は僕も強く共感できるし、響き合うモノがあるのかなという気がするんです。
僕自身は2020年春から大学に戻り、勉強に集中することになりますが、今後も厚真町とはゆるやかにつながっていたいですし、厚真はそれができる場所なんだと思っています。
厚真町への思いをこんなふうに語ってくれた金井さん。実はこの取材の数日後、「ランタン祭り」当日に厚真町を訪れ、会場でアイスキャンドルを並べてくれました。金井さんと厚真町、学生たちと厚真町とのゆるやかなつながりは、アイスキャンドルのように、これからも希望のともしびとなることでしょう。