北海道

厚真

あつま

採択されたのはどんな人、どんな事業?厚真町ローカルベンチャースクール2016・採択者インタビュー

昨年の11月から12月にかけて開催された「厚真町ローカルベンチャースクール」では、2名の事業プランが採択されたことを以前の記事でお伝えしました。彼らは4月から、地域おこし協力隊として厚真町で活動を開始します。しかし、これまで町内で活動してきた協力隊とは少し異なり、移住後すぐに自身の事業をスタートさせる予定です。どんな人がどんな事業をするのでしょうか。2名のお仕事の事や、叶えたい夢について、お話を伺いしました。

 

「この町に住みたい」シンプルだけど熱い想い

まず1人目は、神奈川県鎌倉市で個人貿易業を営む佐藤さん。佐藤さんが、ローカルベンチャースクールに応募した理由は、いたってシンプル。「家族で厚真に住みたいから。」

移住まで2カ月を切った某日、都会で暮らす一家が厚真に住みたいと思うようになったエピソードと、思い描くこれからの暮らしについて、看板商品でもあるワーゲンバスの車内でお話しいただきました。

– 佐藤さんと厚真町の出逢いについて教えてください。
 


佐藤:一昨年の夏、嫁さんと2人の子ども連れて、キャンプをしながら2週間かけて北海道各地を巡りました。豊かな自然や広大な土地を見て、漠然と「いつか北海道に住めたらいいな」って思ったのが始まりですね。それから、北海道移住のために情報を集めようと足を運んだ移住フェアの会場で、初めて厚真を知りました。

フェアには、たくさんの市町村が出展していて、たまたま厚真のブースに立ち寄ったときにお話しした担当の方の印象が非常によかったんです。役所の職員が業務で接している感じではなくて、一人の人として真剣に話を聞いてくれたというか、僕に興味を持ってくれたというか。それで「この町いいな」って思ったんです。
 


その後、「ちょっと暮らし」(厚真町内の戸建て住宅で移住体験ができる制度)を利用して、実際に厚真の暮らしを2週間ほど体験しました。そのとき、借りた家の近所に住んでいる方も、町外から移住してきた方だそうで、いろいろと参考になるお話が聞けました。そのお宅にはうちと同世代のお子さんがいて、うちの子ともすぐに仲良くしてくれて、僕みたいな知らない大人にクワガタ見せてくれたりするんです。「厚真の子どもは、なんて素直でいい子なんだろう。この町で子育てしたいな」と思いましたね。そしたら嫁さんも同じことを考えたみたいで。すっかり魅了されて、「厚真に住みたい」って強く思うようになりました。

– 厚真に移住することを本気で考えるようになったものの、なかなか踏み出せないでいたのは、仕事への不安があったのでしょうか。

佐藤:そうですね。自営業なので、移住先でも同じ仕事を続ける予定ではいましたが、拠点を移すことにより、お客さんはかなり減ると思います。今と同じだけ稼ぐようになるには、少し時間がかかります。知らない土地で事業を軌道に乗せるまでに食いっぱぐれるんじゃないかな、って考えちゃって。

そんなときに、連絡を取り合っていた役場の方からローカルベンチャースクールのことを教えてもらいました。迷うことなくエントリーしましたね。

– ローカルベンチャースクールの様子を拝見しましたが、一次選考の佐藤さんと最終選考の佐藤さんは、どこか違った印象を受けました。

佐藤:僕の場合、「厚真でやりたい仕事がある」というよりも、「厚真で暮らしたい」っていうのが一番の理由です。でも、それだけでは採択されないだろうと思って、一次選考では相当、武装してたんです(笑)町のためになりそうなアピールもしましたし。でもあの場では、全部必要なかったですね。最終選考では、正直に「僕は厚真に住みたいです。厚真に惚れました」って言えてよかったです。移住してから、「どうして移住して来たの?」って聞かれても堂々と「厚真に住みたかったんです」って言えますね。

– 厚真に移住してから早速、お仕事を展開されると思いますが、ズバリ、今どんなお仕事をされているのでしょうか?
 


佐藤:いろいろなものを輸入して日本で販売したり、逆に、日本の商品を海外で販売しているんです。「〇〇屋さん」って言えないので、わかりにくいですよね。

具体的な例を挙げると、これまで一番数多く扱った商品はカメラです。アンティークのフィルムカメラを日本と海外で販売しています。カメラはもう10年以上扱っていて3,000台くらい売りましたね。あとは車です。このワーゲンバスも海外で僕が直接仕入れました。その他にも、為替や市場のニーズによって扱う商品は変わるんです。

– 貿易と聞くと、なんだか難しそうですが、事業を始めた経緯を教えてください。

佐藤:高校を卒業してすぐワーキングホリデーでニュージーランドに1年間行きました。帰国して、地元の専門学校で貿易について勉強し、輸入家具を販売するオーストラリアの会社に就職して、貿易のノウハウを学びました。

当時のオーストラリア人の上司がスパルタで…僕の英語が達者ではないのを知ってて、会議にも一人で行けって言われるんです。でも、「わかりません」って言ったらなめられると思って、会議中は堂々としてるんですけど、内容をこっそり録音して、後から何回も聞き直して理解したり(笑)

その上司からは、外国人との交渉術のイロハを教わりました。バーでお酒を飲みながら大きな取引の話をする、なんて海外の映画で見るような経験とかも。おかげで、アメリカに一人で行って商品を買い付けてくることもできるようになりました。全然苦じゃないですね。

その後、会社が家具事業を縮小してしまって、日本へ帰国することになったんですが、せっかく海外との取引を覚えたので、個人で事業を始めました。

初めは、日本で人気のあるワーゲンバスを輸入しました。個人宅に訪問して、「庭に置いてあるワーゲンバスを売ってください」って直接交渉したんです。その場でお金払って、まっすぐ走らないようなボロボロの車を港まで運転して、書類を作って船に積んで。日本で受け取って車検をとったら高く売れたんです。

それから、外国人に日本の古いカメラが人気だと聞いたので、日本でカメラを買い付けて海外のハンマーオークションに出品したら、富裕層の人たちがバンバン買っていくんですよ。そうしていくうちに、「売れそうなもの」を買い付けて売ることが事業として成立していきました。

– 厚真に移住して、新たに挑戦したいことはありますか?
 


佐藤:このワーゲンバスを厚真にもっていこうと思います。そして、海岸やキャンプ場など、どこか置ける場所を探して、グランピング(※)できる場所を作りたいです。

※グランピング…グラマラス(Glamorous)と、キャンピング(Camping)を合わせた造語で、寝具や家具、食材などがあらかじめ用意されていて、ホテルのようなサービスを受けられるキャンプのこと。

そこで、厚真産の食材でバーベキューをしてもらいたいです。テーブルやチェアなんかも、大手キャンプメーカーのじゃなくて、地元の作家さんの作品が置けたらいいですね。お客さんが気に入ったものは、「全部厚真で買えますよ」って案内できたら楽しいな、って考えています。

そして、町民の方にも、「あの車、誰の?」っていう話題から、僕の事を知ってもらうきっかけになればいいなって。僕の場合、「この商品売れないかな」とか、逆に「こんなものが欲しいんだけど買い付けできるかな」っていうやり取りが、仕事につながっていきます。

だから、僕が「何ができる人なのか」を認知してもらう事が、まずは大事だと思っています。貿易って、書類も難しいし、国によって制度が違うから、なかなか手を出しにくいと思うんですよね。そんなときに、「佐藤さんならできるかも」って思い浮かぶ人になりたいです。

車を商品として長いこと扱っていますが、僕、整備できないんです。だから、厚真の自工屋さんにもお世話になると思うし、もしも、自工屋さんが海外の部品で困ったら相談してほしい。そんな関係を築きたいですね。
 

言葉の通じない相手とも、すぐに仲良くなれるという佐藤さん。春からはお子さんが小学校に入学されるそうで、父兄同士のお付き合いも楽しみだといいます。きっとすぐに地域にも溶け込むことでしょう。佐藤さんのように、住みたい場所があって、そこに住むための手段として仕事を創り出したり、アレンジしていく。これも移住の一つの形ですね。
 

馬を活用した山仕事を、今の時代に合わせて再生したい

二人目の挑戦者は、林業家の西埜さん。現代の日本の林業は、伐採した木を山から搬出するために重機を用いるのが主流です。しかし、西埜さんが伐った木は、重機ではなく、馬が運び出します。これは、「馬搬(ばはん)」という林業技術で、ホースロギングともよばれ、数十年前までは日本各地で行われていました。

林業の大規模集約化が進み、衰退してしまった「馬を使った山仕事」を、西埜さんは、今の時代に合った形で再生しようとしています。恵庭市出身で、岩手県の大学で林学を学んだ西埜さん。大学卒業後も、野生動物の生態調査や、森林体験のガイドなど、森に関わる仕事をしてきたそうです。

– 日本で馬搬をやられている方は数名しかいないそうですが、西埜さんはなぜ馬搬に興味を持ったのでしょうか。

西埜:森で働いていると、林業のプロたちに会う機会が多くて、彼らの木を伐る姿を見て「いつか、自分で木を伐って商品として出すまでの仕事をしたい」と思い始めました。でも、自分は木の伐り方も知らない。それで、林業会社に転職したんです。いわゆるチェンソーマンをやりました。木を伐る仕事、植える仕事、育てる仕事…。林業を一通り経験しました。

2年くらい経った頃、昔からお世話になっている方に「馬搬をやってみないか?」って誘われたんですが、それまで馬搬を詳しく知りませんでした。インターネットで調べると、ヨーロッパの森で足の太い馬が、木を引いている画像がたくさん出てきたんです。「なんだこれ、かっこいい!」と思いましたね。

岩手県の遠野市に馬搬の普及活動をされている方がいて、早速、見学させてもらいました。そこで、人間と馬が一緒に働いている光景と、木を運んだあとの山の美しさを見て衝撃を受けました。当時は、木を伐って重機で一気に搬出する、という一般的な林業をしていましたので、すごく感動して、馬搬をやってみたいと思ったんです。
 

– 馬搬の優れている点を教えてください。

西埜:馬搬の一番のメリットは、山が荒れないことだと思います。木を運ぶための重機を山に入れるには、まず山を削って、作業用の道を作る必要があります。そこを大きな重機が何往復もして木を運ぶことによって、地盤が崩れたり、生態系に影響することもあります。馬搬の場合は、馬が通る幅が確保できればいいので、大きな道をわざわざ作ることはほとんどありません。馬は木と木の間を通れますから。

あとは、馬搬の動力は馬ですから、「燃料」は牧草と水です。重機だと、たくさんの軽油が必要ですよね。化石燃料を使わないという点も環境にやさしいですね。

海外には、馬搬が盛んな国があって、実際にイギリスとスウェーデンに行って馬搬の様子を見てきました。イギリスでは特に、森林が国土の面積の10%くらいしかないので、日本よりずっと森林が貴重というか、大事にされていて、環境保全の観点で馬搬が活用されている印象を受けました。あとは、馬と共存する文化がありました。ライフスタイルとして、馬と山仕事をしている人もいました。

– 多くの場合、効率の面で重機を採用していると思うのですが、やはり馬搬は重機での搬出に比べて効率が悪いのでしょうか。
 


西埜:効率の悪そうな馬搬ですが、道をつける手間を考えたら馬の方が効率のいい場合もあります。少し間伐したい、数本だけ伐りたい、といった小規模に伐り出したい場合ですとか。

あと、重機が入ることのできない場所や、入れたくない場所でも馬搬は活躍します。これまで、海沿いの山で、土を荒らすことによって海にも影響が出て、漁師に迷惑をかけてしまうので、重機を使用せずに作業してほしい、ということもあったそうです。比較的平らな場所で台風によって倒れてしまった木を撤去したい、庭の木を伐りたい、なんてときは、馬搬がおすすめです。

– 重機を使った林業と、馬搬は得意分野が違うということでしょうか。

西埜:大量の木を短時間で搬出するには重機が向いていますし、勾配の急な斜面だとか、馬の苦手な場所もあります。夏の暑い時期は、アブが寄ってきて馬の機嫌が悪くなったりもします。なので、重機を使った林業を否定するのではなくて、役割分担というか、適材適所で共存していけたらいいなと思います。

僕自身、馬搬のできない季節は林業会社さんにお世話になるかもしれませんし、植え付けや、下草刈りといった、伐採以外の仕事もしていきたいと思っています。

– 馬搬のどんなところに魅力を感じますか。
 


西埜:一般的な林業の作業現場は、重機の音で騒がしいものですが、馬搬はとても静かな仕事です。作業の合間に、「シーン」となることがありますし、馬が木を引いているときも、鳥や動物の鳴き声が聞こえます。すごく森に馴染んでいるな、と感じます。馬搬の作業が終わった後にできる道を見るのも好きです。歩くのにちょうどいい、とてもきれいな道ができるんです。

それから、馬と一緒に仕事をすると、なんだか疲れ方が違います。先導して歩いてくれる馬について行くと、僕もどんどん歩けるんです。馬がいたら自然と体が動くというか。馬だから休憩も必要で、川で水分補給させて、隣で僕は水筒のお茶を飲む。馬と一緒に働く感覚です。うまく言えないですけど、なんか、いいですよ。

すっかり馬搬に魅了された西埜さん。馬搬で起業すべく、ローカルベンチャースクールに参加しましたが、「満場一致で採択」というわけではありませんでした。

– ローカルベンチャースクールに参加されていかがでしたか。

西埜:以前、林業のつながりでお会いしたことがあった役場で林務を担当している宮さんから、ローカルベンチャースクールの開催について教えてもらいました。林業に力を入れている町は他にもありますが、馬搬に興味をもっていただけたみたいで、嬉しかったですね。

ただ、選考会では、事業として成立するのか、食べていけるのか、という点がクリアにできず、不採択になる可能性があった、と後から聞きました。それでも応援してくれる方がいたことも。だからこそ、事業として成立させて食べていけるようにならないと、と思います。早いうちに相棒となる馬を見つけて、トレーニングしたいです。今の時代に、馬搬を応援してくれる自治体はそう多くはないですから、期待に応えたいです。

– もうすぐ引っ越しですね。知らない土地で生活することに不安はありますか。

西埜:たまたまですが、これまでの仕事の関係で面識のある方や、以前から知り合いだった方が厚真に住んでいて、なんだか「全く知らない土地」という感じではないんです。家も町内の空き家になっていた一軒家をお借りすることになりました。幸運にも、お借りする家には、広い敷地があって、馬と一緒に暮らすことができます。
 


林業っていう業種は、一般のご家庭にとっては縁遠い存在に感じるかもしれないけれど、実はそうでもないんです。厚真には、山を所有している方も多いですし、広い庭に木が生えていたりしますよね。「間伐したいけど重機入れたくないな」「薪にする木が数本欲しいな」と思ったときに気軽に相談してほしいですね。「庭師と林業会社の間」みたいなイメージでもいいかもしれないです。まずは、僕が馬搬をやってることを知ってもらわないといけないですね。

このあたりの牧場で見ることのできる競走馬とは、体系も毛並みも違うのでぜひ見に来てください。かわいいですよ。

– 馬搬で革命を起こそうとしているわけではなく、馬搬を林業の選択肢として再生していきたいという西埜さん。将来、「山に馬がいる光景」が厚真では当たり前になる日が来るかもしれません。

メールマガジン

いきるが、ひろがる。Through Me Magazine をお届けします。