岡山県

西粟倉村

にしあわくらそん

熱田尚子のうなつぐリポート 03 『第1回検討委員会』

2024年11月6日-7日、うなつぐプロジェクトの第1回検討委員会が開かれました。
初日はこれまでの取り組み状況が共有され、ウナギの未来について、地域の未来について、多角的な議論が行われました。二日目にはうなぎを放流したビオ田んぼや、ビオ田んぼとつながる川などの現場を視察しました。

ビオ田んぼに放流されたウナギちゃんたちの今、うなつぐP Jの目標、いろんなフィールドの可能性、行き着いたのは「愛」?当日の議題に沿ってお伝えします。

<出席者>
検討委員:
中央大学法学部教授 海部 健三 氏
株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長 田口 一成 氏
株式会社エーゼログループ 代表取締役CEO 牧 大介
あつたや 熱田 安武 氏
※八重洲鰻はし本(1947年創業)店主 橋本 正平さんは残念ながら予定が合わず欠席となりました。

加盟店:襷屋

事務局:株式会社エーゼログループ


<議題>

①2024年度放流試験について状況共有(モニタリング結果)、今後の課題
・ウナギの放流試験と追跡調査の報告
・放流試験の前提と目的

②環境づくりについて
・田んぼの環境改善と生物多様性の増加

③うなつぐPJの広がりの状況

④今後の展開や取り組みについての議論
・完全養殖が商業化されたときの課題と展開
・うなつぐPJの長期目標と展開
・PJをさらに波及させていくための仕掛けづくり(議論)

 

①2024年度放流試験について状況共有(モニタリング結果)、今後の課題

ウナギの放流試験と追跡調査の報告

2024年4月11日に400匹のシラスウナギをビオ田んぼに放流し、定期的なモニタリングを行ったことが報告されました。順調に育っていたことが確認されていたものの、6月末以降は捕獲が困難になり、一部のウナギが田んぼを出て水路に移動したことがわかりました。課題として、成長に伴う捕獲方法の改善が挙げられ、石倉式トラップやパイプ束、しば漬けなど様々な捕獲方法が試されています。

▼モニタリング用に活用するトラップたち

 

放流試験の前提と目的

シラスウナギを放流する前提として、日本のいろんな場所でウナギの放流がされていますが、放流した後どの程度生き残って産卵に寄与しているのかということは一切わかっていない、ということがあります。産卵に寄与するかどうかということを調べるのはハードルが高いですが、放流されたウナギがどのぐらい生き残ってどの程度成長しているのかを調べるということは、ウナギの保全においてとても重要なことなのです。

シラスウナギを放流する背景としては、これまでの調査や海外の事例から、放流されている一般的なサイズの30g程度のウナギよりも小さなサイズの方が生き残りやすいのでは、という仮説がありました。シラスウナギを川に放流すると流されてしまうなどして追跡調査が困難になりますが、ビオ田んぼではそれが可能かもしれないということで、ビオ田んぼにシラスウナギを放流し、追跡調査を行なってきました。

今回の放流では、6月以降捕獲ができなくなってしまいましたが、そこまでは順調に成長していたことが確認できています。(7月に1匹だけ捕獲できた個体は3ヶ月で全長が2.14倍になっていました。)

より効果的な放流方法とは?ウナギがすくすく育つ環境とは?と試行錯誤することによって、ウナギの保全・地域の生態系を回復させるための知見が蓄積していきます。追跡調査の可能性を検証することそのものが放流試験の目的ともいえます。調査方法や生息環境の改善をしながら、ビオ田んぼでの放流試験は続きます!

 

②環境づくりについて

田んぼの環境改善と生物多様性の増加

一生懸命ウナギのために生息環境を整えたら、ビオ田んぼにいろんな生きものが増えてきた!という嬉しい報告です。

ビオ田んぼには、稲を植える部分以外に、深く掘った部分や水路がつくられています。モニタリング調査によって、メダカやドジョウ、アカハライモリやトンボなどの生きものが増えていることが確認されました。絶滅危惧種のタガメもたくさん確認でき、複数回繁殖していると考えられます。これまでは確認されていなかった水生植物も出現し、水辺の生きものにとって良好な環境が整ってきていることがわかります。

また、ビオ田んぼとつながる水路でも石を入れたり仕切り板を設置するなどして、多様な環境をつくっています。流れを淀ませることで泥や落ち葉がたまり、そこでも生きものが増えてきています。

参考:一石を投じる

去年の夏には、私も子どもたちと一緒にビオ田んぼで遊ばせていただきました。
畦道から覗くだけで何匹ものタガメを見つけることができ、子どもたちがカエルやドジョウと一緒に泥んこになって遊んでいました。かつては日本中に広がっていたであろう、今では滅多に見ることができない光景を目の当たりにして、心から感動しました。

 

③うなつぐPJの広がりの状況

ウェブサイトの訪問者数、会員数、加盟店の状況、メディア露出状況など、うなつぐプロジェクトの進捗状況が報告されました。
ウェブサイト累計訪問者数:1,385人(サイトオープン~10/31)

うなつぐ会員数21名(10/31時点)

加盟店:2店舗

募金箱設置箇所:3店舗

八重洲 鰻はし本さんに設置いただいている募金箱

6月に始まり、多くの方に応援していただいているこのプロジェクト。さらにたくさんの方と一緒にうなぎを食べ継ぐ未来をつくっていけるよう、認知度も向上させていきたいです。

 

④今後の展開や取り組みについて

完全養殖が商業化されたときの課題と展開

鰻の完全養殖は技術的には実現しています。そう遠くない未来で商業化もされると考えられています。

そんな中、2024年12月21日、エーゼログループはウナギの養殖事業を休止すること、「森のうなぎ」の生産を休止することを発表しました。

今回の検討委員会でも、養殖の見直しや自然環境を活かした放流の可能性が提案されました。完全養殖が商業化されていく中で私たちがやるべきなのは、これまでの方法での養殖を追求することではなく、5年後10年後に向けて、ウナギが棲める場所を作ることに集中していくことだと、再確認しました。

※森のうなぎ休止の記事はこちら

 

うなつぐPJの長期目標と展開

「ウナギやアユがゴヨゴヨといて、その中子どもたちが楽しく遊んでいる風景」をいつか取り戻したい。」

これは、うなつぐP J発起人の牧さんの願いであり、私たちにも共通の想いです。
では、このプロジェクトの「目標」はどう表すべきなのでしょうか。

ノスタルジーではなく、科学的に目標を設定すべき、という議論がなされました。うなぎを食べ継ぐ未来に本気だからこそ、最終目標をきちんと理屈で説明して、それに沿って一つ一つのプロジェクトを進めていきます。

生きものの保全においては、生きものが進化してきた環境がベストです。例えばウナギのために川の中にコンクリートで何か構造物をつくることになったとして、それがウナギにとってベストな環境ではありません。最も適した状態はこれだけど、そこまでいけないから代わりにこれをつくります、というような、最終目標と具体的なできることをはっきりさせることが必要です。

まだまだ議論の段階ですが、ウナギに適した環境づくりやより良い放流や追跡調査について、色々なフィールドで根拠を持って試行錯誤しながら、適切な目標設定と報告を重ねていきます。

目標を見失わないこと、見直すこと。この共有ができていることが、うなつぐ検討委員会の強みだと感じます。

 

うなつぐPJをさらに波及させていくために

うなつぐプロジェクトの今後の展開について、真剣に、そして和やかに進んだ1日目の最後の議論をお届けします。

 

何が面白くて、どうなったら良いのか?

田口:このプロジェクトは何が面白くて、どうなったら良いのかなと考えていました。

何が面白いかっていう意味ではやっぱりウナギ捕りがまずすごく面白そうですね。それを食べるのか、モニタリングするのかは置いといて、やっぱりああいう生きものと触れ合う機会っていうのってなかなかないし、捕れなくなってきていると聞いている中で、自分たちが住んでいる場所でも、実はいるかもしれないっていう話も面白い。

この活動は、生きものの生息環境を作っていく活動ということなのかなと、聞きながら思っていました。ウナギが棲みやすい生息環境を作ろうとすると、おのずとタガメとか他のいろんな生きものにとっても良い環境が作れるっていう。ウナギを象徴にしながら生きものが暮らしやすい河川環境を日本各地に作っていくっていうことがイメージできました

西粟倉でノウハウを学んで、各地に戻って、地域の仲間たちと一緒に生きものが棲みやすい川づくりをしていく、というような広がりも面白いかなと思いました。

田口 一成 氏

熱田:僕は、小学生のときに父親の水中眼鏡を黙ってつけて潜って、モクズガニをとったりウナギの穴釣りをしてたんです。あの原風景を取り戻したい、我が子や周りの子供たちに経験させたいなと思っています。ウナギに限らずです。山から海まで連続して繋がっている河川では、ウナギも、餌となる生きものも豊かで。そういう河川を調べていくとやっぱり生きものの隠れ場所があって、瀬があって淵があって。そういう生きものにとって快適な環境を取り戻すっていうことが僕はしたいんじゃないかなと思います。

ただ、それがどういう環境かって知るためには、初めての場所でもウナギの気持ちになって、ウナギ目線になって、この川ならウナギはどこにいるかなっていうことを見極める力がないと話にならないですよね。だからやっぱり潜ったり、常に新しいところを調査しながら常に自分の腕を磨くことによって、初見の場所でもウナギの棲家がわかるようになります。そしてその構造を分析して初めて、海部先生がやられてきた世界が僕らみたいな素人にも見えてくると思うんですよね。

熱田 安武 氏

海部:やっぱりこういう活動って実践する場所がないとできなくて。それって、自由に選べるわけじゃないですから、組めるところとやるしかないですよね。

牧:いろんな社会実験を積み重ねて、試行錯誤していけるようなフィールドを何とか作っていくっていうのが会社としてできることなのかなとは思っています。実際田んぼでやってみるとか、池をまるごと一つモデルとして、地域の方とか行政や研究者とも協力しながらですね。とにかく試行錯誤しながら、わかったことを共有していくっていうことを続けていけたらと思います。

みんなでうなぎを愛でたい!

牧:「実は身近にいる」っていうこともほとんどの人が知らなかったりします。一方で難しいなと思うのは、身近にいるんだってわかっちゃったときに乱獲されないかという懸念が出てきます。そこをクリアできるのであれば、ウナギと遊ぶということを広げていけるといいなと思います。

躊躇するところもあって、楽しんだり味わったりということは伝えたいけれど、みんながみんなウナギをどんどん捕り始めて資源が枯渇してしまうという事態を招くのは本意ではないですよね。今考えているのは、ちゃんと漁協を作って、資源管理をしっかりできるという状況を作ることですね。ただそこまでやるのは結構大がかりで大変なんです。
こういうジレンマを超える方法は無いでしょうか。

海部:100人のうち、実際に捕って捌いて食べる人がやり方を整理して全国に広げるっていう話ではないんだろうなと思います。
調査とかをしていると、やっぱりウナギを捕ることが特殊な体験だっていうことはすごくよくわかるので、そういうツアーとして、体験を提供するのはありかもしれません。特別な場所で特別なことをやってるんだと感じたら、そこを壊すことはないかもしれません。

田口:例えばサーフィンをする人ってめちゃくちゃ海を大切にするじゃないですか。あれと同じ方向に持っていけないかなっていうのが発想の起点で。僕は釣りが好きなので、海のことはめちゃくちゃ関心があります。防波堤からいつも釣りをするのですが、そうすると「藻場の再生」が自分の中で大切な問題になるんですよ。これって乱獲とは違う方向に力学が働いていますよね。

生態系を守ることに対して人間の活動は悪であるっていう大前提があって。ここに一つの希望はあるのかって言ったときに、人間が入っていくことで、より生態系が豊かになる、生きものが棲みやすい環境を人間が作る側に行くっていうのが、もしかしたらこの活動のコンセプトかなと思っています。

生きものの生息状況を把握して、人間が入っていくことによってより棲みやすい工夫を施すとか、魚道を設置するとか、そういう「生きもの防衛軍」みたいな活動をしていく。そうすると、ウナギも実はまだいるとわかっても、その生態系を壊してしまうような方向性にはならないんじゃないかと思います。そうして活動していく中で、年に1回か2回だけ、ウナギが増えることを目指してきた中で、みんなで頂いて感謝しましょう、というしくみも考えられますね。

海部:田口さんのお話を聞いていて思ったことが、全国に同じ仕組みを広げられるって話はないんですけど、やっぱり「愛」っていいなって思いました。

ピットタグというものを使って、個体識別ができるんです。ウナギにピットタグを付けること自体は、誰でもできるような方法で、一度付けてしまえば、再度捕獲しなくても近くに行ってリーダーをかざすと何番がそこにいる、というようなことがわかります。それを利用して、「私のうなぎ」というのを会員に1匹ずつ当てはめられるのもいいかもしれないですね。

田口:面白い!

海部:所有権はないですし、将来食べていいとかいう話でもないんですけど。あなたのうなぎ、今回の調査でも見つかりましたよ、何センチ何グラムに成長してますよ、同じところから見つかりましたよ、とかね。
やっぱり知ることは、まず大事なことだと思うんです。興味を持って、そして親近感を持って、そうしたら壊したくないですよね。もっと良くしたいっていう気持ちに繋がるような。熱田さんが言っていた「ウナギ目線」に近づくような気がしました。
ごめんなさいあなたのウナギはもう見つかりませんでした、ということもたくさん出てくると思うんですけど、いなくなったという同じ結果を知るにしても報告書を見るだけとはちょっと感じ方が違うかもしれません。よく自分ごとって言いますけど、そういう興味の入口になるかもしれないなという気がしますね。

海部 健三 氏

田口:会員として定期的に確認していく活動が、常日頃から乱獲への意識とか環境汚染への意識を作っていくことになるんじゃないかなと思います。そういう関わりしろをデザインしていくことも、生態系を守っていくことにつながるのかなと。

牧:そういう、みんなでうなぎを愛でる、楽しむ遊び方を、開発して文化として広げていくということを、チャレンジしてみたいですね。

田口:やっぱり「楽しかった」から始まりますもんね。結局その体験抜きでは、保全の立場に立つのは難しいですよね。

牧:美味しいも楽しいもない中で守りましょう言われても、概念としてはわかるけど気持ちが入らないですよね。

海部:魚の保全は難しいんですよね。見えないから。なので、見えない魚を見えるようにする工夫、鳥とかの保全とは違う工夫も必要なんだと思います。

牧:ピットタグも、すぐに日本中ではできなくても、モデルケースを作ってみてもいいかもしれないですね。ウナギってこんな風に動いているんだとか、そういうことがしっかり見える場所を作って、さらに映像にして編集して、みんなで共有できるとか。面白いかもしれませんね。
熱田くんは、普通は見えないものを見ているんですよね。夜の川に潜っているから。

海部:結構怖いですよね、夜の川に潜るの。

牧:万人にはおすすめできないですね。

田口:深さはどのくらいなんですか?

熱田:あんまり夜は深いところにはウナギは出ていないですよ。だいたい3メートルまでですね。

一同:・・・まあまあ深いですね。笑

「うなぎを捕る」ということはとっても面白い体験です。絶滅危惧種と言われている中でも、いるところにはいるんだという感動。身近なところにもいるかもしれないというワクワク感。生きものと触れ合う機会としても、このプロジェクトに楽しく関わってくれる人が増えたらいいなと感じます。

自分ごとになって親近感や愛着を持つと、ウナギの生息する環境を壊したくない、もっと良くしたいと思えるかもしれません。まずは知ること、そして興味を持つこと。そして、「美味しい」や「楽しい」から「大切にしたい」という気持ちが生まれます。

うなつぐプロジェクトとして、うなぎに愛着を持つ関わりしろを作ること、みんなでうなぎを愛でる遊び方の開発にもチャレンジしていきたいです。

その他にも、河川でのコンクリート構造物による自然再生手法や、海外の管理システム、追跡手法や保全活動に使える様々な仕組みなど、ウナギの保全にまつわる情報共有が行われました。

美味しいと楽しいをたくさんの人と共有しながら、ウナギの保全と持続可能な利用のために、科学的な管理手法、効果的な放流方法、環境改善、自然体験活動、そして新しい資金調達モデルなど、探求し続けます。

二日目にはビオ田んぼと川での視察が行われました。
吉野川では、事前に仕掛けておいた「ジゴク」と呼ばれる仕掛けを回収すると、立派なウナギが姿を見せてくれました。

ウナギを捕ることは、やっぱり楽しい!!

その場にいる全員が自然と笑顔になり、歓声をあげます。

ドキドキとワクワクを共有して、遊んでくれたウナギを川に返しました。自分が戻るべき場所をわかっているかのように、ゆっくりと泳いでいくウナギ。見送る皆さんの表情からは、ウナギへの愛着が感じられました。