岡山県

西粟倉村

にしあわくら

村で「面白い」に取り組む、大人と子どものつながりをつくる!子どもたちが、自分らしく生きていく力を養う「あわくらみらいアカデミー」プロジェクト

西粟倉村役場には、地方創生推進班があります。通常業務を行う所属課を兼務する11名の職員は、各々が異なる課から選ばれて、ひとつのチームになりました。2017年には、この地方創生推進課では各職員がリーダーシップを取る、11個のプロジェクトを策定しました。そのうち4つをシンボルプロジェクトに決めて、力を入れて取り組んでいます。

※参考記事:「役場職員は地域変革のエンジンだ。」 西粟倉村役場 地方創生推進班12名の挑戦。

今回、紹介するのは、そのシンボルプロジェクトのひとつ。教育委員会の榎原まゆきさんがプロジェクトリーダーを務める、「あわくらみらいアカデミー」です。このプロジェクトは、中学校までしかない村の子どもたちが迎える、「十五の春」を意識して、学校でも家庭でもない、第3の居場所をつくっています。

 

自分らしく生きていける力を養ってほしい

あわくらみらいアカデミーとは、西粟倉村の子どもたちに向けて、地域すべてをフィールドにして、感じ、考え、チャレンジする場を村として提供するプロジェクトです。幼稚園、小学校、中学校と進学した村の子どもたちは、15歳で迎える春を境に、村外へ進学する子がほとんどです。そんな子どもたちが村を離れて社会に巣立っても、やりたいことをして生きていく力を身につけてほしいと願って、2017年より、このプロジェクトはスタートしました。

「あわくらみらいアカデミーは、中学生が0から1(今地域に無いものを生み出すこと)を経験するところです。学校と家庭だけでなく地域でもそのような力を養う機会をつくってあげたいと思いました。村の子どもたちは、みんな落ち着いていて、行儀の良い子が多いのですが、十五の春に村外へ出ても、自分らしくいられたり、大きな挫折を感じずにいられるようであってほしい。それでこのプロジェクトを提案しました」(榎原さん)

プロジェクトリーダーを務める榎原さん自身、二児の子を持つ母親です。

「上の息子は、今年この村を出て高校に通っています。寮に入って、いろんな経験を積んでいる最中なんですが、親としては、やっぱり心配です。もしかしたら、この村にいる間に今よりももっと学んでおけることがあったのかもしれない。

それを一つひとつの家庭で教え切ることは難しいですから、地域が担って、自信を持って子どもを送り出せるようになりたいと思いました。わたし自身、下の子を、自信を持って外に出してあげたいんです」(榎原さん)

 

立場の異なるメンバーが一丸となって進むプロジェクト

榎原さんのほか、6名のメンバーがあわくらみらいアカデミーに関わっています。

榎原さんと同じく、教育委員会に所属する白岩将伍さんをはじめ、善き参謀役を務める産業観光課の萩原勇一さん、西粟倉村で生まれ育った総務企画課の福井啓太さん、新しい生涯学習施設の開設に向けて準備を進めている公民館兼図書館長の蔦木伸一郎さん、村で1年間「自分×地域」をテーマに生業を研究するプログラム西粟倉ローカルライフラボ1期生の細谷由梨奈さんです。

「本当に、チームのみなさんに支えられています」と榎原さんは言います。

あわくらみらいアカデミープロジェクトのミーティングの様子

「メンバーに恵まれているんです。私自身、あわくらみらいアカデミーをどのようにしていきたいか、イメージは持っているんですが、このメンバーには、そのイメージを具体に起こせる人、上手に発信してくれる人、チームの意見を綺麗にまとめてくれる人、いろんなアドバイスを出してくれる人がそろっています。

それぞれのメンバーが自然に役割を持って動いてくれていて、私ができないことを補ってくれるんです。このチームあっての、あわくらみらいアカデミーなんですよ」(榎原さん)

メンバーにとって、榎原さんは優しいリーダーなのだそうです。

「榎原さんは教育委員会で学校教育や社会教育などに取り組んできた方です。ご自身の母親という立場を含めて、トータルで考えられてくれています。同じ教育委員会に所属するぼくも、そんな榎原さんを手伝っていきたいし、榎原さんからたくさん学びたいことがあります」(白岩さん)

「榎原さんは、愛情を持って仕事にも子どもたちにも関わっている方です。お母さんのような安心を感じます。榎原さんの思いを、自分の立場から一緒に実現していきたいです。」(蔦木さん)

左が榎原さんと同じ教育委員会の白岩さん、右が公民館長兼図書館長の蔦木さん

榎原さんの魅力は優しさに現れています。その優しさは、リーダー役を務めている、このチームへの想いにも表れていました。

「このプロジェクトは、決して、わたしがリーダーとして引っ張っているわけではなくて、チーム全員で進めているものなんですよ」(榎原さん)

 

子どもたちの魅力を存分に知った2018年

2018年には、岡山県内で活動しているNPO法人だっぴと組んで、村の大人と子どもたちがつながる場(地域の大人と子供がフラットな関係でテーマトークを行うイベント)を設けました。中学生8名が実行委員会を立ち上げ、自分たちで会いたい大人に声をかけ、当日の企画調整を行い、イベント当日を迎えた学びの機会です。榎原さんたち、あわくらみらいアカデミーのメンバーを訪ねた日は、その学びの機会を終え、サポートの仕方など振り返りをしていました。

だっぴイベント当日の様子。子どもたちが会いたい大人に話を聞く会という企画で実施

「子どもたちと一緒に動いて、すごく楽しかったというのが、わたし自身の素直な感想です。声をかけた子どもたちは、自分から手を挙げてくれて。その子たちの考えや動きがとても素晴らしかった。さまざまな場面で、関わった大人からも褒めてもらえていたようで、自信をつけることにもなったんじゃないかと思います」(榎原さん)

「だっぴさんと一緒に取り組むことができて、本当によかったですよね。内気に見えていた子どもたちも、自分の考えをしっかり持っていることや、ちゃんと発言できることに気がつきました。だっぴさんがうまく子ども達から(いろいろ自分たちでできることを)引き出してくれたことで、子どもたちの現状をちゃんと知ることができてよかったです」(白岩さん)

改善していけそうなポイントも見据えることができました。

「だっぴさんとの取り組みで気づいたのですが、もしかすると、今後の子どもたちのグループワークでも、先に座学(取り組むことの解説・ロジックなど)で学んでから、実行に移すステップを踏んでいても良いのかもしれません。当日、とてもスムーズに進行することができましたし、学んで実践することを小さな単位で繰り返すことにもつながると思いました」(福井さん)

「はじめて、子どもと一緒に取り組む場に参加して、むしろ大人のほうが緊張していたようにも見えました。子どもは積極的にだっぴさんとの学びの機会に参加していたので、大人たちも子どもと同じように参加していけるようになるといいと思います」(細谷さん)

左が村生まれのUターン・総務企画課の福井さん、右が教育に関心のある西粟倉ローカルライフラボ1期生の細谷さん

プロジェクトの計画段階から、実践段階に移った2018年。はじめて、あわくらみらいアカデミーの学びの場に触れて、西粟倉村の子どもたちにも明るい兆しが少し生まれていました。

「今回、参加した子どもの中には、次回は実行委員会をやりたいと言ってくれた子どももいました。それが嬉しかったんです。実際に実行委員会として何かを企画することからやりたいのか、まただっぴさんとの学びの機会をつくることがしたいのか、それはまだ聞いていないので、これから深掘りしてみたいと思いました」(榎原さん)

「このあわくらみらいアカデミーをどうやって進めていくのか、改めて、コンセプトを決めることが必要かもしれないね。そのコンセプトが決まったら、2019年度に何をしていくのか、もっと具体的にストーリーを組んでいくことができると思う。だっぴさんとの取り組みに参加した熱が冷めないうちに、子どもたちと考えていく準備をしていきたいですね」(萩原さん)

プロジェクトの参謀役を担う、産業観光課の萩原さん

楽しむ人のつながりが子どもの成長を促す学びの場へ

2019年度には3年目を迎えるあわくらみらいアカデミー。このプロジェクトを続けた先に、西粟倉村はどんな風になっていってほしいと思っているのでしょうか。メンバーを代表して、榎原さんに答えてもらいました。

「この村には、もともと魅力あって。それで、Iターンで移住してきてくれる人もいて、面白いことを考えてくれたり、村とコラボできる仕組みも備わっています。そんな魅力的な村だから、いずれは、十五の春に村を出た子どもたちが大人になってUターンで帰って来てくれるように頑張っていきたい。

ただ、村に帰ってくることばかりがすべてだとは考えていなくて。子どもの頃に、村への愛着を持ってくれたら、きっと村外で仕事や活動をするときにも、その子たちは村の魅力を発信してくれるんじゃないかと思うんです。

だから、あわくらみらいアカデミーを続けていって、そんな子どもたちを育てるプロジェクトをしている村なんだったら、移住してみたいと思って、来てくれる人が増えてもいいなって思います」(榎原さん)

移住者や出身者が村に引っ越してきたいと感じてくれるように、教育面の魅力を充実していくのが、あわくらみらいアカデミーのようです。そんな学びの場がこれからもずっと続いていくためにも、新しいメンバーが入って、このプロジェクトに関わる人たちが増えていくといいんだろうなと思いました。

「あわくらみらいアカデミーには、面白いことをやっていくのが好きな人に関わってもらいたい。今回、だっぴさんとの取り組みで、村の子どもたち自身が会いたい大人を呼んできたんですが、そのときも、村の面白いことをやっている人たちを呼んできていました。そして、そんな大人たちとのつながりができた子どもたちは、さらに面白いことを考えているように見えたんです。

面白いことを考える大人とつながることで、どんどん広がりが生まれていくんじゃないかと思っています。この村で楽しいことができるんだって大人に関わることが、一番の学びの機会なのかもしれませんね」(榎原さん)

大人たち自身が楽しみ、生きることを通して、子どもに「生きるを楽しむ」力を育むことができる。関わり合いの中で、学びの場を育んでいける「あわくらみらいアカデミー」に、あなたも参加してみませんか?