鳥取県

智頭町

ちづちょう

手放すから物事が動き出す。健やかな地域内循環を目指す「タルマーリー」の今とこれから。(後編)

天然菌による発酵を起点としたさまざまな地域内循環を生み出すことで、「腐る経済」の具現化を目指しているタルマーリー。後編では、タルマーリーのオーナーシェフ・渡邉格さんと女将の麻里子さんに、今、どのような進化が始まっているのか、その過程などについて伺いました。

前編:手放すから物事が動きだす。健やかな地域内循環を生み出そうと挑戦を続ける「タルマーリー」の今、そしてこれから。

 

時間の概念が変わることで、チャレンジが広がる

前編では店舗の移転、スタッフの入れ替わり、パンの製法を変えるといった大きな出来事をひとつひとつ乗り越えてきたプロセスを紹介しました。そして、新たに入ったパン職人のスタッフが定着し、組織も状態も上向いてきた今、格さんと麻里子さんはパンよりも安定的に製造でき、日持ちもして販売しやすいクラフトビールの販売を伸ばしていきたいと考えています。

 

なんとクラフトビールサーバーも格さんの手づくり。

麻里子さん:「子どもたちが大きくなってきて、自分ももう少し外に出ていきたいと思うようになってきたんです。そのためには、今よりも大きな規模の売り上げをつくって、きちんと雇用して、事業体としての強さを獲得していく必要があります」

格さん:「次の日には売り切らなきゃいけなかったパンよりも、半年間かけて売ることができるビールの比率を増やすことで、時間の概念を変えていきたいんです。絶えず忙しかった世界から、ゆったりとした世界へ。僕たち自身が、発酵から熟成のステージに移ろうとしているのかもしれません」

また、麻里子さんは今後「“伝える”という行為に時間をかけていきたい」と話します。

 

麻里子さん:「タルマーリーには、『言葉を紡げる』という特徴があると思うんです。格が本を出して、一つ後世に思想を残すことができたけれど、当時と今では変わってきている部分もあるし、また改めて伝えるという行為に、二人とも力を割けるようになっていきたい。そういう時間を確保していきたいです。

そう思えるようになったのは、子どもが成長して自信がついたからなんです。 私はサラリーマン家庭で育ったので、父親が働いている姿を見たことがありません。家では仕事の話をしない人だったので、土日は家族の時間だと思っていたし、それが普通だと思っていました。

でも、私たちは土日が一番忙しくて、子どもをどこにも連れて行ってあげられなかった。ずっと申し訳ないような気持ちでいたけれど、気がつけばちゃんと育っているんですね。私たちが働いている姿を見て、自分とは違うものを見て、ちゃんと育ったんだなと思ったら、自信が湧いてきました」

 

Photo by 川瀬一絵

 

真逆な二人がどこまでも信じ合える理由

タルマーリーにおいて、麻里子さんは経理・企画・発送・販売・広報など、製造を除くあらゆる仕事を担当しています。言葉を変えれば、麻里子さんがいなければ、顧客の元に届くパンやビールの数は激減してしまうのです。いくらパンがおいしくても、届ける人がいなければ私たちはそれを得ることはできません。

 

そんな麻里子さんは、これまで大きな岐路が訪れるたびに、とことん話し合い時に喧嘩もしながら、格さんの決断を信じ、迷いを正すことで後押ししてきました。

慣れない土地へ移転するときも、夫婦で力を合わせて次の展開へ取組み、格さんが他店の様子に囚われ、フランス産小麦を使おうか迷うようなときには、自分たちの理念を確認し、「常識を超えて行こう」と言葉をかけてきました。

考えるよりも先に体が動くタイプの格さんに対し、論理的な思考で物事を捉える麻里子さん。真逆とも言える二人は当然、喧嘩をすることも多かったといいます。にも関わらず、ここまでお互いを信じてこられたのは何故なのでしょうか。

 

麻里子さん:「目指しているゴールが一緒だからですかね。彼が作曲家で私が作詞家みたいな、ルートは違うけど、目的地は一緒なんです。それと、だいたいおもしろいことになるというのが、これまでの経験でわかってきているからかもしれません。お互いに、一つひとつ結果を出してきた。それが信頼関係になったような気がします」

 

“無”から“有”を生み出すおもしろさを伝えたい

そんな二人が目指すゴールとは、どんなものなのでしょう。

 

麻里子さん:「毎日地道な仕事だけれど、きちんと作ってきちんと売って思いを届けていると、思いがけず物凄く素敵な人に出会い、更には一緒に仕事ができたりする。それが私には最もエキサイティングで、それが楽しみで生きているのかもしれないです」

格さん:「パンづくりもビールづくりもそうですが、大切なのは、与えられるものを使うだけでなく、“無”から“有”を生むこと、生産者の側に一歩移ることのおもしろさ、思い切ってチャレンジする大切さを伝えたい。

“無”から“有”は、土や自然から生まれるものです。そういう場所で、“無”から “有”を生み出す方法を身につければ、20年後も笑って暮らせる安心感を得られることを、パンやビール、文章や講演を通じて伝えたいんです。

そして、地域と共に人が成長する場を整え、“無”から“有”を安定して生み出す生産体制を確立させていきたいです」

 

この10年の間に起きた数多くの出来事は、きっとどれも大変なものだったはず。でもその都度、格さんと麻里子さんは自らの心に正直に変化し、手放しながらより自然である方へ一歩一歩進んできたのだと思いました。

そんな二人のお話を伺って特に感じたのは、「考える前に踏み出す」ことの大切さ。もちろん、何かを始める時には事前にリスクを想定することも重要ですが、引っ越してしまうとか、パンの作り方を変えてしまうように、やってみないと正解がわからないようなことには、悩みすぎず、立ち止まらず、先に行動してしまうのがよいのかもしれません。動き出してしまえば、その瞬間から物事は変化を始めるのですから。

さて、あなたの一歩が社会を変える時代です。ときには頭ではなく体で感じてぜひその一歩を踏み出してみてください。

タルマーリー
https://www.talmary.com/

メールマガジン

いきるが、ひろがる。Through Me Magazine をお届けします。