岡山県

西粟倉村

にしあわくらそん

「株式会社エーゼログループ」の発足。 僕たちは、未来の里山をつくりたい。【前編】

2023年4月1日に株式会社西粟倉・森の学校(以下 森の学校)とエーゼロ株式会社(以下 エーゼロ)は合併し「株式会社エーゼログループ(以下 エーゼログループ)」となります。

この合併に関しては2023年3月2日のプレスリリースでも発信されましたが、プレスリリースには伝えきれていない合併に至った背景や、想いを森の学校、エーゼロ2社の代表取締役であり、エーゼログループも代表取締役を務める牧大介にインタビューをしました。

2009年に設立された森の学校、2015年に設立されたエーゼロ。
この2社で取り組んだことや成果はどのようなものだったか、またそこを経て2023年4月から目指す未来とは何か。
前後編に渡ってお伝えします。

 

 

全国7つの拠点、7つの支社設立を目指す

-では早速ですが、まずシンプルになぜ合併するのかというところを教えてください。

牧:合併の目的は多拠点展開です。森の学校とエーゼロの売上の合計が約10億円になって、足腰も強くなってきたからこその次の展開ですね。
今は岡山県西粟倉村、滋賀県高島市、北海道厚真町の3拠点で事業をやらせてもらっていますが、さらに拠点を増やして将来的には7拠点までの拡大を目指します。
日本全体に影響を与えていける会社となるために、関わっていける地域を増やしていける方がいいと思っています。かといって、ただ拠点が多くあればいいわけでもない。ちょうどいいのが7拠点ぐらいがいいかなって考えたんです。
7拠点それぞれに歴史や地理条件などが違うので、違いがあるなかで同時に仮説検証を重ねていくと、そこから未来につながる大切な知恵を生み出し続けていけるんじゃないかなと思います。

牧 大介

エーゼログループは「未来の里山」をつくって行く会社です。森の学校とエーゼロのそれぞれに蓄積した経験を1つに統合して、その上で他の地域への展開を目指していきたい。そのための合併です。2社に分かれていた事業がより強く相互に繋がりあって一体的に事業展開ができるようにしたい。

今、西粟倉村だけでも森の学校、エーゼロ合わせて事業が8つあります。
8つの事業が1つのチームとして相互に繋がりあっていくときに、どんな相乗効果を出していけるかということ自体が、未来の里山っていうところを目指していく上での大事なチャレンジです。

西粟倉村の風景

―ありがとうございます。7という地域数には何か意味はあるのでしょうか?

牧:まずどこかの地域に各地域のリーダー層が集結してあーだーこーだと議論できるようにしたいなっていうのがある。繁忙期や年末年始、お盆休みとかあるので、年7回くらいだったらそういうリーダーたちの大集結会議というか支社長会議をやれそう。あとやっぱり、顔を合わせてしっかり話をしながら未来をつくっていきたいと考えた時、1つのテーブルを囲んで7支社、7人くらいであれば前向きに議論ができるっていう感覚があります。これは今、西粟倉で取り組んでいる事業部長会議と同規模なのもヒントになっていると思います。

将来、支社長会議の積み重ねによって未来の里山のための大事な知見の蓄積があると思いますが、それは社会に対してオープンにしていきたいです。対外的に公開できるものはして、他の組織や地域に活用してもらいたい。僕らの活動が結果的には7地域を超えて広がっていくようにしたいと思っていて、そのための中核になる7拠点は直営でやっていくというイメージです。

厚真町の風景

あと7つ拠点があると、どこかの拠点で災害などあっても他の拠点によって支え合えるようになる。
拠点を複数持つことは、僕らが会社として生き残っていくこと、社員一人ひとりとその家族の生活を守っていくという上でも、リスクを分散させる意味もあると考えています。
また、これから僕らのお客様になってくださる方々にとっても、何かあった時に避難できるような、疎開することができるような場所を作っていくということにもなる。
疎開できる権利みたいなのをサービスに落とし込んでいきたいというのは、昔から構想としてあるけれども、これって1地域だけではやっぱりできない。仮に西粟倉村で疎開サービスをやります!としても、西粟倉が被災したらもう終わりじゃないですか。やはり複数の地域が繋がっている状態で、西粟倉が被災しても厚真町があるよという選択肢がある状態にしたい。人々が生き残っていける場所をちゃんとつくる、サバイブしていけるようにしたいんです。

滋賀県高島市での農福連携事業

―なるほど。ちなみに残り4地域に求めていることがあれば教えてください。

牧:まずは「未来の里山」を一緒につくっていきたいと思っていただける人が、まずそこにいることです。これまで増えてきた拠点、滋賀県高島市、北海道厚真町でも起点になる、僕らと一緒にチャレンジしていきたいと言ってくださる人がいて、そこから仲間が増えて拠点が生まれてきました。それはこれからも変わらないと思います。

これから増える拠点は、あんまり近い距離というより日本国内で色んな地理的条件とか、歴史的な背景とか、自然環境も違う方が良いなと思っています。
そうすると条件が色々違う中で多様な事業が生まれますし、一方で共通する部分っていうのが見えてきて、本当に大事なことってこういうことだよねっていうのが分かってくる部分もあるだろうと。
だから、個人的には東北の方とか、四国とかでもあるといいなと思うし、あと離島とかあるといいなとは思っています。

―全国7拠点、楽しみですね。

牧:はい。だから僕らと一緒にチャレンジしていきたいな、大変だろうけど、一緒にやりたいなと思っていただける方とこれから出会っていけるといいなと思っております。

 

「未来の里山」をつくっていきたい

―先ほどの“なぜ合併するのか”というお話の中にもあった「未来の里山」について伺わせてください。
もともと牧さんの中の里山はどういったものなのでしょうか。

牧:里山は、江戸時代の間に確立され日本の田舎においては戦後しばらくまで維持されてきた、持続可能性の高い地域の社会経済システムだと捉えています。そこにある資源を生かしながら、人と自然が共生していくという地域社会のあり方でもある。僕が大学院生時に研究していたのも里山だったんです。僕たちが今生きている人と自然の関係が壊れて持続可能ではなくなっていく時代に、かつての里山という地域システムには色んな未来へのヒントがあるのではないかと研究していました。

「となりのトトロ」で描かれているあの懐かしい世界。あれはまさに里山の風景ですが、日本人にはあの風景を懐かしく思えたり、素敵な世界だという感覚があるから、となりのトトロという映画もあれだけたくさんの人が繰り返し見るのだと思います。

だけれど、それはもう過去のものになってしまいました。今の時代では里山はやはり経済合理性がなくて廃れていったし、無くなっていったものでもあります。

では一方で今の経済のかたちがずっと続くのかというと、そうではないと思います。
今の僕たちの生活は、グローバルな資本主義経済の中にありますが、今のロシア・ウクライナの問題も含めて、急な電気代や資源の価格高騰も含めて、どんどん危うさが露呈してくる時代にもなってきています。
これまでの日本は、食糧やエネルギーを世界中から安く買ってきて消費していくことで生活があったわけですが、今の日本の経済自体はどんどん弱まり円安も進んでいて、円安が進むほど海外から何か買う際は値段が高くなっていく状況です。
有事の際、日本は食べ物やエネルギーが届かず大量の餓死者を出すのではないかという研究もあったりする。

だからこそ、そこにあるものを活かしながら地域単位での経済の自立と循環を大事にしていかないといけない。少々コストがかさんだとしてもそこにあるもので上手く生きていけるような経済を作り直していく必要があるんじゃないか。
人が生きていく、サバイブしていく為には、地域ごとにかつての里山のようなシステムを作り直していかないといけないっていう時代になってきているんじゃないという時代観も僕の中ではあります。

また、ITとかデジタルの技術が急速に変化し進化していくことで、すごいスピードで社会が変わっていく時代だからこそ、身体感覚っていうのを取り戻せる場所も必要です。
人というのは顔の見える範囲、一緒にご飯を食べられる範囲でこそ身体感覚を伴いながら仲間を仲間だと思える生き物です。身体感覚が伴わなくても、情報のやり取りだけで経済が回っていくという時代になっていくほど、人間を含めて色んな命が繋がりあう体感や身体感覚を取り戻せる場所の価値が、相対的に上がっていく。

未来の里山っていうのは、人がサバイブしていく、生き残っていくために必要なんだっていうところもあるし、色んな命の繋がりが身体感覚を伴いながら実感できて、人っていう生き物が幸せに生きていくための場所でもある。そういう風にも思っているところがありますね。

色んな自然とか生態系とか命の繋がりを総称して「自然資本」と呼ぶとして。それがしっかり存在する中で、その上に「社会関係資本」という健全な人と人との関係性、良質な関係の蓄積っていうのがあり、さらにそれに立脚する「経済資本」がある。
そういう自然・社会・経済の関係性がちゃんと地域の中で確立されている状態、それが未来の里山であるということもできる。

かつての里山をそのまま復元したとしても、やっぱりそれは経済的にも成り立たないし、色々無理が多い。でも、今の時代だからこそできる、新しい技術も使っていくことで、ただの懐古主義ではない、未来において経済的にも成立しうる里山っていうのがあり得る。インターネットなどの新しい技術があるからできることの1つに、その土地の中だけでは閉じないコミュニティづくりができる。僕達はこれをオープンコモンと言っています。例えば西粟倉村の自然が豊かになった先に、その自然のめぐみを村の人たちだけでいただいていくんではなくて、分かち合っていく仲間が地域の外側にもいる。その人たちと一緒に地域の自然を守り育てていくことができる。オープンコモンであるということが未来の里山なんじゃないかと考えています。 

森の学校とエーゼロが連携してこれまで育ててきた域内循環システム

 

自然資本、社会関係資本、経済資本の3つの事業領域

―ありがとうございます。「自然資本、社会関係資本、経済資本」は新しい会社にとって大事なテーマですね。ここは各事業とも関連してくると考えていいでしょうか。

牧:はい。
合併するにあたり、自然資本領域、社会関係資本領域、経済資本領域っていう3つの事業領域を僕たちは設定しています。

3つの事業領域と各事業の整理

世の中には色んな会社があり、色んな事業があります。
分類していけばどの事業も「自然資本、社会関係資本、経済資本」の事業領域になるでしょう。
1次産業はだいたい自然資本の領域だろうし、色んなコミュニティを作っていく第3次産業や教育や福祉は社会関係資本っていう領域に当てはまるかもしれない。あらゆるビジネスが経済資本領域の中にあるっていう風にも言えます。

でも僕たちは1つの会社の中に自然資本領域、社会関係資本領域、経済資本領域っていう3つの事業領域を全て持っているのは意味があると思っています。
未来の里山を作っていくっていう前提の中でその3つの領域がバラバラではなくて相互に関連しあっていることが重要。
まず本当に簡単に儲からないし、大変なんだけれどもそこにある自然そのものから価値を産んでいくっていう自然資本領域があり、その恵みを分かち合っていく関係性、コミュニティを育てていく。人と人が支え合っていくという社会関係資本の領域があり、さらにその上により付加価値の高いサービスっていうものがそこに立脚して存在していくっていう3つの事業領域がある。
自然資本があり、社会関係資本があり、経済資本がある、そういう構造を作っていくという前提で色んな事業があるっていうのがうちの会社の特徴だと思います。

結局何故合併するのかにも繋がっていくんですけれども。例えば経済資本事業領域のローカルインキュベーション事業部(LI事業部)は収益性が高い部署として挙げられます。LI事業部は起業支援や、事業創出に携わる部署で、この業務だけを切り出すと、総合シンクタンクや、コンサルティング会社と競合するかもしれません。
しかし僕たちは木材加工事業や農業など、必ずしも収益性が高くはないけれど泥臭く地道で大切な仕事の経験を内部にしっかり持っている。だらこそ、ただのコンサル屋ではないぞっていう自負がありますし、地域で事業をつくり育てていくっていうことにも関わっていけると考えています。

後編へ続く


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