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震災を乗り越えて続けられる 100年の時を刻む古民家再生

厚真町で2月に開催された「スターフェスタ2019 inあつま」&「第19回ランタン祭り」は、厳冬期の風物詩となっているイベントです。
会場では、町内をはじめとするさまざまな団体が、工夫を凝らしたランタンの演出を行い、その一角には、札幌市立大学による雪とランタンとを組み合わせ、市松模様を浮かび上がらせた作品がありました。
このお祭りへの参加は、今回が初めてという教授と学生たち。
どんな想いを持って厚真町を訪れたのかをお聞きました。

 

厚真町には北陸地方にルーツを持つ貴重な古民家があった

厚真町と札幌市立大学とのつながりが生まれるきっかけ。それは、この大学の教授で建築史が専門の羽深久夫さんが、およそ10年前にこの地を訪ねたことが始まりでした。

「厚真町役場の大坪秀幸理事が『厚真には古民家がたくさんありますよ』と教えてくれまして、現地調査をしてみたら、北陸地方にルーツをもつ貴重な農家民家が多く残っていることがわかりました」

羽深教授(左)。ランタン祭りの会場で、10年来のつきあいがある厚真町役場の大坪理事とともに。

なぜ厚真町には古民家が数多く残されているのでしょう?
羽深教授によると、北海道では寒さのために住宅の基礎部分が凍って地面が持ち上がってしまう「凍上」という現象が起こり、古い建物を維持することが難しいとされています。しかし、厚真町は火山灰質の土壌で水はけがよく、この現象が起こらなかったことが、築100年以上の古民家が残った理由の一つだそうです。
羽深教授は、これらを移築して残せないだろうかと厚真町に提案し、札幌市立大学の学生と一緒に現地調査を重ねてきました。
これをきっかけに町も再生事業に乗り出し、移築した古民家がパン屋として生まれ変わるなどの取り組みが行われ「古民家のまち」として知られるようになってきました。

「厚真町古民家再生プロジェクト」第1号となったのは、旧畑島邸。

2014年に、フォーラムビレッジに移築再生。古民家の内部を一般公開する、パン屋「此方(こち)」も営業中。

学生たちが考えた古民家再生のプランとは?

2015年からは、町と札幌市立大学とで協定を結び、学生たちが主体となって、現地リサーチの結果をもとに、就労施設や役場立て替えプランなどを提案する試みも始めるようになりました。
2018年に学生たちが取り組んだのは、古民家の移築後の利用方法について具体的な提案を行うこと。
北陸地方の貴重な伝統構法を用いた家屋が多く残る厚真町の中で、富山県越中型民家の特徴を持つ旧幅田邸を、新しい観光資源として再生・活用する可能性について考えるというものです。
羽深教授と学生たちは昨夏にも旧幅田邸の調査を実施。その後に、厚真町は最大震度7の地震に見舞われたのです。

「言葉を失いました。まさかこれほどの規模の土砂崩れが起こるとは思ってもいませんでしたから、信じられない想いがしました」

震災から1ヵ月たたないうちに現地へと赴き、古民家の被災状況を調べた羽深教授は、当時の状況をそう語ります。
調査をしてみると土砂崩れによって、いくつかの古民家は流される、もしくは全壊と判定されたものの、大きな揺れを乗り越えた建物もあることが分かりました。

「古民家は、釘や金物を使っていない『柔構造』になっていますから、揺れにも強いことが証明されました」

伝統構法では、柱や梁などの構造の接合部を、釘や金物でがっちりと止めず、ある程度の余裕を持たせていることから、地震の力を吸収することができるといいます。また、北海道では積雪があるため、屋根に瓦が使われていないことも、倒壊を免れる要因になったようです。
昨夏に調査をした旧幅田邸も被害はなく、学生たちは、古民家再生・活用プランの検討を続けていきました。
札幌市立大学の空間デザイン分野・修士2年の河口紘亮さんによると、提案したのは「ワーキングスペースを兼ね備えたゲストハウス」。柱と梁を残しつつ、壁を取り払い、さまざまな用途に対応できる空間を設けたところがポイントになっているそうです。
また、同じ分野の修士2年の津田唯子さんは「起業をしたいという地元に住む方と、観光で訪れた方との交流が生まれる場になってほしい」と考えたといいます。

学生たちが考えた古民家再生プラン。ワーキングスペースという発想は、厚真町でローカルベンチャースクールという、まちで起業をしたい人への支援が盛んであることから生まれたもの。

鎮魂の祈りをランタンの灯火に込めて

例年、夏に厚真町を訪ねていた羽深教授と学生たちは、今年の2月2日のランタン祭りに合わせて再びこの地にやってきました。

「厚真町では36名の方が亡くなられています。その中には古民家を町に寄贈してくれた畑島さんご夫婦もいらっしゃいました。今回、鎮魂の意味を込めて、ランタンを設置しようと考えました」(羽深教授)

被害状況をテレビの映像などで見ていた学生たちは、今回の訪問で大規模な土砂崩れの様子を目の当たりにして、さまざまな想いを持ったようです。

「被災直後にラジオで大坪理事が、被害の状況を語っていらして、お世話になったみなさんがたいへんな状況にあることにショックを受けていたので、ランタン祭りにはぜひ参加したいと思いました。会場に来る途中にも木が倒れているところがあって、被害の大きさを感じました」(修士2年・田邊和音さん)

6名の学生が参加。朝から休まず制作を続ける。

羽深教授と学生たちは、朝から制作に取り組みました。
当初は36個の雪だるまをつくる予定でしたが、サラサラの粉雪を一つにまとめるのは難しく、急遽現場で雪を水で固めながら市松模様をつくるデザインに変更。
ベニヤ板で型をつくって雪を固めていく作業は思いのほか難航し、15時頃までかかったそうです。
実は、前日が修士論文の最終発表日だったこともあり、制作がようやく終了したあと、学生たちはぐったりとした様子でしたが、「たいへんだったけど、制作のよい経験となりました」と笑顔を見せてくれました。

粉雪を四角く固める作業に難航。ほかの団体が作業を終えるなか、最後まで頑張った。

学生たちが考えたゲストハウスのプランは、震災の影響もあり、実施されるかどうかは、まだ決まっていないそうですが、札幌市立大学では今後も継続してさまざまなアイデアを提案していくそうです。

「震災を経てなお残った古民家を活用することが、町の復興につながればと思っています」(羽深教授)

移築再生をすることで、100年先、200年先にも古民家を伝えていきたい。
震災があってもなお、厚真の古民家を再生するプロジェクトは途絶えることはありません。
学生たちが考えたプランも、一年で終ることなく、次の学生たちに引き継がれ、よりブラッシュアップが重ねられていくそうです。
こうした古民家の再生は、厚真の復興を象徴する動きとなるはず。今後の展開を末永く見守っていきたい、そんなプロジェクトの一つです。

 

ランタンにあかりが灯ると、学生たちが苦労してつくった市松模様がくっきりと浮かび上がった。

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