北海道
厚真
あつま
ふるさと厚真町から、各地にいるお客様のもとへ。妥協しないTaniko leatherのものづくり。
Date : 2018.05.04
2018年3月、厚真町中心部の住宅街に革製品ブランド「Taniko leather(タニコレザー)」の工房兼直営店がオープンしました。営むのは厚真町出身の加賀谷 祐美子さん。昨年新築したお洒落な店内には、財布や名刺入れなど一つひとつ丁寧に作られたオリジナルデザインの革製品が並びます。革製品を作り始めた頃は、厚真町に戻る予定も独立も考えていなかったという加賀谷さんが、故郷に戻ってブランドを立ち上げ、店舗を持つようになるまでのお話と、ものづくりに掛ける思いを伺いました。
楽しいと思えることを仕事にしたい
-まずは加賀谷さんが革製品を作るようになったきっかけを教えてください。
加賀谷:以前勤めていた会社の近くに革製品の工芸教室があって、そこに通ったのが革製品づくりを始めたきっかけです。最初は作家として独立するなんて思ってもいなかったですし、何となくおもしろそうだな。と思って通い始めました。
-それまでにものづくりの経験はあったのでしょうか。
加賀谷:昔から工作や美術が好きで、大学は北海道教育大学札幌校の美術コースで木材造形を専攻しました。木工の仕事に就くことも考えましたが、家具を作ったりするよりも彫刻的な木工が好きだったので、それを仕事にして食べていくイメージが湧かず、卒業後は広告代理店に就職しました。それなりに忙しい毎日で、特に仕事に不満があった訳ではないのですが、「何か他にできることはないかな」と模索している自分もいて。そんな時に、たまたま近くに工芸教室があったんです。
-どうして革製品づくりを仕事にしようと思ったのでしょうか。
加賀谷:軽い気持ちで通い始めたんですが、実際にやってみると素直に「楽しいな」と感じました。革製品を作る時にかんなやハンマーなどの道具を使うところや、革を立体的に組み立てていく工程が、どこか木工に似ていて入りやすかったのかもしれません。
教室に1年くらい通って基本的な技術が身についた頃「革製品を作ることが仕事になったら楽しいな」と思うようになりました。早速、赤平市にある革製品メーカーに電話を掛けて「雇ってもらえませんか」と直談判して、採用してもらえることになりました。
-すごい行動力ですね。その会社ではどんな経験を積まれましたか。
加賀谷:大小様々な鞄や財布、小物など豊富な商品を取り扱っている会社で、裁断・縫製・検品といった、一通り制作の工程を経験して、革製品づくりの技術や知識を習得しました。仕事が休みの日は直営店に立って販売のアルバイトをさせてもらいましたので、当時は革の世界にどっぷり浸かってましたね。
制作だけではなく接客もできたのは、とてもいい経験になったと思います。お客様がどんな事を気にしていて、どんな商品を求めているのかを、直接聞けたことが、店舗を持つようになった今、接客はもちろん商品開発にも役立っています。
2014年に厚真町に戻るまで、5年半勤めて最終的には班長になり制作もしながらスケジュール管理なども担当しました。
永く愛用される商品づくりへのこだわりとプライド
-ブランド名「Taniko(タニコ)」の由来を教えてください。
加賀谷:旧姓が三谷でしたので、加賀谷と三谷の名前にちなんで付けました。どちらも「谷」の漢字があるので、谷が2個でタニコです。
-Taniko leatherの革製品にはどんな特徴がありますか。
加賀谷:「シンプルに 使いやすく 愛されるものづくり」をコンセプトにしていて、基本的にシンプルな商品ばかりです。シンプルで形がきれいに見えるものが好きですね。
シンプルと言っても、ありきたりなデザインだと他にも安いものはたくさんあるので、使いやすさも大切にしながらオリジナリティを出すように心がけています。
革は、主にタンニンなめしの牛革を使用しています。手間暇をかけて作られたタンニンなめしの革は、使っていくうちに馴染んでいくので経年変化を楽しむことができます。
-制作に関しては多くの経験を積まれたと思いますが、オリジナルの商品を作る力はどのようにして養ってきたのでしょうか。
加賀谷:前職ではスキルアップのために自主研修ができる会社でしたので、そういった時間を使って、ゼロから自分の作品を創りだす練習をしてきました。
あとは、様々な作家さんの作品を見て勉強しました。昔から芸術に触れるのは好きでしたので、「良いもの」を意識して見るようにしました。参考にするけど真似はせずに、Taniko leatherのブランドに落とし込んでいます。
-製品を作る上で、どんなことにこだわっていますか。
加賀谷:こだわりはたくさんあるんですが・・・そうですね、強いて言えば「手を抜かない事」ですね。当たり前の事なのかもしれませんが、誰も気づかないようなすごく細かいところでも、自分が納得できないものは絶対に販売しません。永く愛用していいただきたいので、誰の目に触れても恥ずかしくないものだけを世に出しています。
店舗を持つことで応えられる要望
-どうして厚真町に戻って独立しようと思ったのでしょうか。
加賀谷:もともと「厚真町に戻りたい」と強く願っていた訳ではありませんでした。生まれ育った町なので厚真は好きですが、戻っても経験を活かせる仕事がないのが現実で・・・。
たまたま夫の希望する仕事が厚真町で見つかって、戻ることになりました。その時に、他の業種に就こうとは考えていなかったので、自然と独立という選択になり、4年前にTaniko leatherが誕生しました。
-厚真町に戻ってきてから店舗を開店するまでの4年間はどのような活動をしてきましたか。
加賀谷:まずはミシンを買って、1年くらいかけてオリジナル商品を作りました。いくつか商品ができてからは、ハンドメイド作家が出店するショッピングサイトで販売を始めました。予想より反響が大きくて、これまでに約500点の商品を販売しました。
他には先輩のお店に商品を置いてもらったり、町のふるさと納税の返礼品として扱っていただきました。知り合いや夫の職場の方が注文してくれることもありましたね。ありがたいことに販売を開始してからは受注に追われる日々でした。
独立前は人口の少ない町で革製品を販売して売れるだろうか、という不安もありましたが、今思えば、場所はあまり関係ないのかな、と感じています。
-これまでは店舗がなくても順調に売れていたんですね。それでも店舗の必要性を感じたのでしょうか。
加賀谷:以前は実家の空き部屋を工房にしていて、お客さまを迎え入れる環境ではなかったので、実際の商品を見せて欲しいというご要望になかなか応えられなかったんです。革製品は質感や色合いなどを見て確かめたい方も多いので、商品を展示できる場所が欲しいと思っていました。
同じ理由で、せっかく取材のお声掛けをいただいたのにお断りすることもあり、活動していても知られる機会が少なかったと思います。
また、せっかく独立するならいつか自分のお店を持ちたいという気持ちもありました。
-これからは店舗での販売が中心になりますか。
加賀谷:ぜひ店舗にお越しいただいて実際の商品をご覧いただきたいです。革の色をお客さまが自分で選んだり、名入れやちょっとしたアレンジができるのは個人経営の強みかもしれませんね。
店舗と並行してショッピングサイトはこれからも続けたいと思っています。遠くにいる会ったことのないお客さまが、喜びのコメントを書いてくれたり、リピートしてくれたりするのは嬉しいですし、作り甲斐もあります。対面の販売とバランスよく継続したいですね。
-厚真町で独立してよかったことはありますか。
加賀谷:町が起業を応援してくれるのはありがたいですね。店舗の開店にあたっては町の起業化支援制度を利用しました。こうした資金面での支援は大きかったです。
制度がなくても独立していたとは思いますが、支援してもらえたので機材を揃える事ができました。
-一度厚真町を離れた加賀谷さんが、改めていい町だなと思うことはありますか。
加賀谷:厚真は特に何もない町ですが、静かで自然に囲まれているのがいいですね。時がゆっくり流れているというか・・・。よく散歩をしますが、住宅街でもすぐ近くに緑があって、桜やコスモスが咲いていて。何てことない景色ですけど、心が和らぎます。
欲を言えば、もう少しお店が増えてくれると嬉しいです。そして、そういった方と横のつながりができればいいですね。堅苦しい会合ではなくて、お知り合いになってつながりたいというか。
-仕事をしていて大変なことや厳しいことはありますか。
加賀谷:一人で商売をすることは責任もありますし、裏方からフロントまで全てをこなす大変さはありますけど、好きなことを仕事にしているので諸々を楽しめていますね。
制作に追われてずっと工房にこもって一人で作業している時は、話し相手が欲しいなと思う事はあります(笑)
-これからの目標や挑戦してみたい事はありますか。
加賀谷:新作も作りながら定番商品を増やしたいです。今は財布や小物がほとんどですが、鞄も定番のラインナップに追加したいですね。商品を定番化させるには、デザインを考えて、試作して、意見を取り入れてブラッシュアップを繰り返すので、もう少し時間がかかりそうです。
昨年は手作り雑貨のイベントなどに数回出店しましたが、そうやって店舗に来てもらうだけではなく、こちらからも出向いて販売する機会も増やしたいです。革製品は周りの雑貨に比べて単価が高いので、マルシェ的なイベントよりも百貨店の催事などの方が手ごたえがあるかもしれないですね。
あとは・・・うーん、やりたいことがたくさんありますね(笑)。
Taniko leatherの商品は、例えば財布のカード入れの向き一つにしても、「革が柔らかくなってもカードが落ちにくい」「縦に収納する事で奥に手を伸ばさずに取り出せる」といった具合に、使う人の事を想って施された工夫や気遣いが随所に感じられます。
男性作家の多い革製品業界で、こういった加賀谷さんの女性ならではの視点が、年齢や性別を問わず支持される理由の一つなのかもしれません。
加賀谷さんは「店舗ができたことで、これまでご縁のなかった方に出会えるのが楽しみです」と話します。お気に入りの一点を探しに、足をのばしてみてはいかがでしょうか。