ローカルベンチャーが集まる西粟倉村で、 “カッコいい”大人たちにまみれて過ごす、想定外の一ヶ月。
Date : 2020.02.26
ローカルベンチャーが集まる村として注目を集める西粟倉村で、自分の立ち上げた事業を軌道に乗せようとがんばっている起業家や、新たな夢に挑戦しようとしている経営者たちと一緒になって働きながら、学生ならではの新鮮な発想と行動力を生かしてさまざまな課題に取り組んでいく。
そんな、今までの企業インターンとはひと味違う、地域インターンシッププログラムがスタートしています。
各社のプロジェクト設計からインターン生の募集、企業と学生とのマッチングはもちろん、インターン期間中もずっと両者に伴走していくのが、コーディネーターの大井健史さんと大谷夏子さん。二人の思いと意気込みを聞きました。
ローカルベンチャーの成長期に立ち会う。
―西粟倉村がインターンシップに取り組むようになった背景は?
大谷:西粟倉村は人口1500人の小さな村で、地域にもっと人を呼び込みたい、新しい価値を創出したいと思っても、そもそも村内に仕事がない、という課題を抱えていました。そこで始まったのが、何らかの想いを持って起業をめざす人たちを支援していくことで、村の中に事業を生み育てる土壌づくりをしていこうという「ローカルベンチャースクール」プログラムです。その取り組みを進めることで、だんだんと村内にローカルベンチャー企業が増えてきました。
大井:今、村には約70の企業がありますが、そのうちの34社がこの10年のうちに立ち上がったローカルベンチャーなんです。ここ最近では規模を拡大したり、新しいことに挑戦しようという段階に入った企業も増えてきており、人手が欲しいという声が聞かれるようになってきました。いきなり移住はせずとも、もっと多くの人が村に関わることができる選択肢を増やすことで、そうした声に応えたい。その一つの手段として、インターンシップに取り組むことを決めました。
―成長期の企業がたくさんあるということですね。
大井:そうですね。去年の3月には、大阪で村内企業合同の「小さな村の仕事フェス」という求人イベントを開催したのですが、9社もの企業が出展してくれました。それだけの数の企業が同じタイミングで採用ニーズがあったということが、今までの取り組みの中での大きな変化だと思っています。イベント参加者も100人近くにのぼり、地域に関わりたい人が増えてきている手応えも感じました。
大谷:そして、まだ人を雇い入れるほどの余裕はないけれど、次の一歩を踏み出したいという企業もたくさんあります。そういう企業がこのインターンシップを通じて、人手が足りなくて実現できなかったことに挑戦していく、ということを目指しています。
「カッコよさ」とは、起業家精神だ。
―西粟倉村ならではの面白さや醍醐味は?
大井:話が変わるのですが11月下旬に、関西の大学生を対象とした西粟倉村ツアーを開催したんです。「人」を通じて西粟倉村を知ってもらうことを意図して、インターン受け入れ先企業の人たちの話を聞いて回ったり、村にIターンした若手起業家たちとの懇親会などを行ったりしたのですが、それが大学生にとっては、「カッコいい大人」に出会って、自分のロールモデルを見つけたり、キャリアを考える機会にもなったとのことでした。
中でも僕が驚いたのは、自分らしい生き方をする大人たちと話すことに対して、学生たちがものすごい熱量を持っている、ということ。懇親会では、若手起業家を学生たちが入れ替わり立ち替わりに取り囲んで、熱心に話を聞いている様子が印象的でした。会場は大いに盛り上がって、2時間があっという間に感じられるほどでした。
一般的には一つの企業にインターンをしても、出会えるのはその企業の中にいる大人だけ。でも、西粟倉ではこの小さな村の中で、“ローカルベンチャー”の名の下に挑戦しようとしている、多様な価値観を持った大人にいっぱい出会えるんです。その密度の高さが、大学生にとってはすごく刺激的なんじゃないかと感じています。
―西粟倉村は何か特別な場所という感じがしますね。
大谷:西粟倉村には、起業家精神を持った人がすごく多いんです。インターン先の人はもちろん、インターンをしていくうちに関わる人たちも、私たちコーディネーターも含めて、みんなが「自分のやりたいことをやっていく」とか「自分の想いを自力で実現してやる」という気持ちを持っている。そんな大人たちに囲まれながらのインターンシップは、すごく特別な経験になると思います。
私も学生のときにいろんな地方に行きましたが、西粟倉ほど起業家精神にあふれた地域はなかなかないので、ぜひ来てくださいって自信を持って言えます。
大井:会社員になるよりも起業という生き方を選ぶとか、会社に入ったとしても起業家精神を持って仕事をするとか、会社員をやりながら自分の事業も持っているとか。さまざまな生き方があって、それでいい。みんなに共通する起業家精神みたいなものがカッコよく映るんだと思いますね。
最近は生き方も働き方も多様になってきたと言われるけれど、実際にはまだまだ就活という枠組みの中で将来を考えている大学生の方が多いような気がします。西粟倉村は、そんな枠にとらわれなくていいということを、感じてもらいやすい場所だと思います。
―では最後に、インターンを考えている人たちへのメッセージを。
大谷:学生の間に、いろんな人に話を聞いて、いろんなことを実際にやって得た“実感値”が、ものすごく大きな糧になると思います。いつ動き出しても早すぎることはないと思うので、今すぐ行動してほしいです。たぶん、みなさんが普通に過ごしている中では、西粟倉にいるような大人たちとはなかなか出会えないと思いますが、村に来てくれたらたくさん巡り合わせますので、ぜひ一度西粟倉へお出でください。
大井:インターンシップでもそれ以外のことでも、この村に来るときは「こうあるべき、こうじゃないといけない」という気持ちから少し離れてほしいと思っています。もちろん、自分自身の考え方はあってもいいと思うけれど、この村でいろんな人に出会って、想定外のことを体験することで、考え方が変わるかもしれないし、新しい自分に気づくかもしれない。そんな変化を楽しんでくれる人に会えたらいいなと思っています。
インターンシップ経験者に話を聞きました!
2019年9月上旬。西粟倉村でエーゼロ株式会社のインターンシッププログラムが実施されました。テーマは、自然資本事業部の新たな挑戦となる、高齢者福祉と農業の連携をめざす「シルバーベンチャー事業」。参加してくれた二人の学生にとっては、かけがえのない体験となったようです。
今後に繋がる出会いがたくさんありました。
京都大学 大学院 菅野伸哉さん
―西粟倉のインターンに参加しようと思った理由は?
大阪で開催されたイベントに参加したときに、西粟倉村のエーゼロという会社が、地域資源を掘り起こす取り組みをされていることを知りました。そのイベントの中で、高齢者福祉と農業の連携をテーマにしたインターンシップの募集をされていて、興味を持ったのが参加のきっかけです。
僕は農学を専攻していて、和歌山県の農家さんの作ったみかんの販売をお手伝いしているのですが、そんな取り組みをしながら僕自身が感じていた課題と共通するものがあったからです。
―インターンではどんな体験をしましたか?
自然資本事業部という部署が取り組んでいる、「森のうなぎ」や「森のジビエ」などの事業の、いろいろな部分を体験させていただきました。たとえば、うなぎを養殖している池から出荷サイズのうなぎを選別して引き上げる作業を手伝ったり、イベントで振る舞う「シカカレー」を一緒に作らせてもらったりしました。また、高齢者の作った野菜を道の駅で販売する活動のために、実際に高齢者宅を回って野菜を集荷したり、ヒアリングをしたりするのにも同行させてもらいました。高齢者農業の活性化などを目指すシルバーベンチャーの会合に出席させていただいたのもいい経験でした。
それらと同時に、今回のインターンの課題として与えられた、村の高齢者農業をビジネスにするために参考になりそうなビジネスモデルや、他地域の事例の収集にも取り組みました。
―インターンの感想や成果を教えてください。
一番の成果は、地域資源の活用は、頭で考えるようにうまくはいかないというのを実感したことです。たとえば「森のうなぎ」は、すでに商品化されていて、とてもおいしいです。でも、ちゃんと育てるためにはたくさんの手間と投資が必要なのだそうです。そんな中で、きちんと利益を出すためにみなさんが努力されているのを見て、資源をお金に変えるのは、本当にむずかしいことなんだなと感じました。
もうひとつは、エーゼロで働いている人たちの仕事の進め方を見て、たとえば「Slack」というツールはこんなふうに使いこなすのかといった、実務的なことを学べたという収穫がありました。今までは実際に会議をして話をしていたことも、ネット上で共有することができるようになるなど、大いに役立っています。
―インターン中の一番の思い出は?
高齢者の農家さんを回って、温かみに触れたことですね。初対面の僕にも気さくに話しかけてくれて、「今の時期はこれがおいしいよ」とか、「ナスの漬物作ってみたから食べてみいや」とか言って食べさせてくれたりしました。また、もう80歳ぐらいになるアスパラ農家さんから、「アスパラは鮮度が大事なので早朝に収穫しなければならないけれど、もう続けるのがしんどい」という生の声を聞いたことも心に残っています。それでも毎朝早起きしてアスパラを収穫されていて、それを集荷しながら、このアスパラを手にとって買う人に、何か伝えられたらいいなと思いました。
―これからインターンシップをする人たちへのメッセージを。
何よりも、思い切り楽しんでください、と言いたいですね。エーゼロの人たちはすごく面倒見がいいし、ほんとにフランクに接してくれるので、遠慮せずどんどん入っていくことをお勧めします。いろんなところに足を運んで、いろんな人と出会ってほしい。ここに来る前には知らなかった西粟倉の魅力ポイントが、いろんなところに散らばっていると思うので、どんどん探し出してください。
ローカルベンチャーになるという夢ができました。
立命館大学 鈴木洋輝さん
―西粟倉のインターンに参加しようと思った理由は?
地方に興味がある学生のコミュニティがあって、みんなで集まって知識を深めたり、地方を盛り上げていくためにはどうすればいいのかを考えるような機会がありました。そこにエーゼロの方が来て、エーゼロと西粟倉村についてプレゼンされたんです。それを聞いて、この企業は面白そうだと直感しました。ちょうど別のインターンに落ちて、他の選択肢がないかと探していたところだったので、すぐインターンに応募しました。
―インターンではどんな体験をしましたか?
まず、自然資本事業部が取り組もうとしている、福祉と農業の連携についての事例を調べ、最後にそれを報告するというのが1週間のインターンの課題でした。
その他にも、ジビエを加工したり、社員の方と一緒に西粟倉のツアーを回ったり、うなぎの養殖を見学したり、いろいろな体験をさせてもらいました。
また、ローカルベンチャー支援室にも少しインターンさせていただいて、ローカルライフラボという西粟倉で起業される方々のブラッシュアップの機会にも立ち会わせていただきました。夢を叶えようとしている人たちの熱い思いを間近で見させていただいて、自分自身の夢も広がったような気分でした。
―インターンの感想や成果を教えてください。
将来は地方で働きたい、何か新しいことを始めたいという思いがあったので、とても実りの多い1週間でした。もともと西粟倉村については、本を読んである程度の知識がありましたが、中に入ってみて、実際にどんなことが行われ、どのような結果を出しているのかを目の当たりにできたのは、すごくよかったと思っています。また、自然資本事業部の方たちと朝から夜までずっと一緒にいて、なぜ西粟倉を選んだのか、なぜここで働いているのかといった本音を直接聞くことができて、人生の選択肢が広がったような気がします。
このインターンをきっかけに、いろんな人に出会うことができたのもうれしかったです。アットホームな雰囲気の中で、自分をさらけ出せたおかげで、人とより深く繋がることができたと感じています。実際に村での暮らしを体験できたことも大きな収穫でしたね。歩いていける範囲にコンビニもスーパーもないような環境も、すごく新鮮で面白かったです。
―西粟倉で過ごした時間はどんな意味があったと思いますか。
エーゼロの人たちって、すごくいきいきと働いているんです。都会の会社で出会う人たちとは表情が違うというか。もちろん、田舎だからこその大変さはあるんですけど、その中で自分をどう生かして、どれだけ楽しんでいけるかを、みんながそれぞれ考えながら仕事をしているように感じました。また、西粟倉村でプレーヤーとして生きている人たちは、目が輝いているし、言葉も輝いていて、本当にカッコいいなと思いました。
僕はもともと公務員になろうとしていたんですけど、その考え方が変わってきて、やっぱり自分自身の生きたい場所で、やりたいことをして生きていきたい、自分が必要とされているところで働きたいと強く思うようになりました。このインターンがひとつのきっかけになって、ローカルベンチャーになるという夢ができました。
―これからインターンシップをする人たちへのメッセージを。
自分のまわりにも、やっぱり大都市に就職したいとか、大企業で働きたいとかいう人が多いんですけど、それだけじゃないということを本当に伝えたいです。西粟倉村でインターシップを経験してみるとそれがわかると思います。逆に、やっぱり大企業で働きたいという思いが強くなるかもしれないけれど、自分の方向性や就職先が明確になっていくと思います。得るものは大きいので、ぜひ勇気を持って挑戦してみてください。
2020年度に実施中のプログラムを紹介!
新規事業を立案したり、商品のすばらしさを伝える方法を考えたり、販路を拡大するしくみをつくったり。経営者の想いや情熱に触れながら、一緒に働き、一緒にこれからの事業を考えていく。ローカルベンチャーが集まる西粟倉村だからこそできる、起業と経営に直結した現場体験です。
mori no oto
西粟倉村の森の木を使って、楽器とおもちゃを作っている事業者。おもちゃづくりを手伝いながら、mori no otoの理念や製品への理解を深めます。そして、mori no otoに共感し製品を購入してくれる組織を探して、どんな見せ方をすれば購入してもらえるのかを考えます。
NPO法人じゅ〜く
facebook:https://www.facebook.com/npohoujin.juuku/
B型就労支援や放課後等デイサービスなどの福祉事業を行う事業者。福祉の現場を体験しながら、じゅ〜くの新規事業を考えます。学生ならではの感性を生かして、福祉業界のイメージにも既存の事業にもとらわれない、じゅ〜くにしかできない事業を提案します。
渋谷カバン
HP:http://www.shibuyakaban.com/
牛、豚、ワニなど、さまざまな生き物の革製品をつくる「渋谷カバン」。鹿の「皮」を「革」にする素材づくりや、一から手でつくる製品づくりなどを体験。オンラインショップを構築し、鹿革やものづくりのストーリーが伝わるような見せ方、売り方に挑戦します。
みたき園
鳥取県の山あいの地域で、集落の伝統文化や伝統料理を守りながら、40年以上にわたって季節の山菜料理を提供している料亭「みたき園」で、若女将の右腕になって働きながら、雪に埋もれて営業ができない冬季に売上を立てる方法を一緒に考えていきます。