岡山県

西粟倉

にしあわくら

信念に、フレル、交わる。その先に。「冬のたけのこ」後編(フレル食堂の四季vol.01)

わたしたち人間が知っている世界は、大きなうねりを持って続く自然の中のほんの一部分にしか過ぎない。今この瞬間の生命の躍動を、自然の鼓動を。巡っていく季節の機微を、わたしたちはどれだけ感じ取ることができているのだろう。ここでしか味わえない「本当の自然の味覚」を、たいせつな人たちとともに頂く時間を過ごすことができる場所。岡山県・西粟倉村にある「フレル食堂」。その四季に触れる連載企画、第一弾は「冬」。
― 生命は、冬にだって確かに息づいている。

>>前編はこちら

ただ「おいしい」ものをつくりたい。そんなシンプルでいて奥の深い、終わりのない目標を追求する小さなお店、「フレル食堂」。「目の前に出される一皿を味わい、頭ではなくその身で感じて「おいしい」と思ってもらえたら」。

そんなこだわりを持つ店主の西原さんが信頼を置く生産者のひとりが、「あつたや」の熱田安武さん。彼はこの日、たけのこを探しに山へと入った。12月中旬の、まだたけのこの芽も見えない冬山に。彼が「野遊び」と出逢った経緯、フレル食堂へと食材を届ける理由 ― 未知の世界に少し、足を踏み入れる。

 

本気で生命と向き合う男が「届けたい」と思う最高の肉

たけのこを掘り出してからお湯を沸かすのでは遅い。自然から頂いた新鮮な食材の価値を落とさないためには、事前の準備や段取りも重要だと熱田さんは言う。この日も、たけのこを掘りに行く前に火を焚いて、帰ったらすぐに茹でられるように準備をしてから竹林に向かっていた。この丁寧さが、熱田さんのもつ自然や生命に対する敬意の払い方でもある。自然物は人間の手に渡ったその瞬間から鮮度を落としていく。どうしたら素材の本質的な価値を維持したまま届けることができるのか、熱田さんは強く意識しているそうだ。

たとえば、山で罠を仕掛ける時。熱田さんは、イノシシやシカがどう動くだろうかと常に想像するという。滑ったり蹄が削れるのを嫌がって、この石は踏まないだろう。ここでは、この倒木を跨いでこの位置に足をついているな。ここは獲れる場所だけれど、岩盤の土地で急傾斜だから獲物が打ち身をして肉が傷む。それに、崖から落ちて宙吊りになり死んでしまう可能性が高い。 ― それでは、たとえ捕まえたとしても意味がないのだという。熱田さんにとっての罠猟はただの捕獲作業ではなく、生命を頂くために最善を尽くす「勝負」の時だ。
 

山の中で、彼は常に時間の向こうにいる生命と対峙する。山の中にある息遣いを感じ取り、丁寧に真剣に、そして何よりも慎重に、生命と向き合っている。ワイヤーに掛かり、敵意を露わにして襲ってくるイノシシ相手に「殺り合う」のと、ただ逃げようと暴れるシカ相手では、仕留める際の力加減も気持ちも異なるという。闘う意思の無いシカを仕留める際には今も一瞬の逡巡がある。それを振り払って、なるべく獲物が苦しまないように、同時に食材としての価値を最大限高く保った状態で仕留められるように、一打を振り下ろす。

「野人」と呼ばれるのも納得できる身体能力や驚異的な観察眼を持ちながら、それでいて繊細さや深い優しさも持ち合わせる熱田さん。山から戻った後、彼にも「フレル食堂」についてのお話を伺った。

– 熱田さんはフレル食堂にイノシシの肉を中心に食材を提供されていると聞きましたが、まずは「野人」と呼ばれる熱田さんのルーツが知りたいです。

熱田:元々は愛知に生まれ育ちました。故郷で父とその仲間が蜂追いをやっていた影響で、4歳の頃から蜂追い(※)を始めました。これがもう、めちゃくちゃ難しくて、怖くて楽しい最高の野遊びで、今でも僕の狩猟採集生活の原点になっています。18歳で高知大学に進学しても野遊びだけはやめられず、27歳で結婚を機に岡山県美作市に引っ越した際に、それまで生活の一部だった罠猟を生業にしました。

住まわせて頂いた地域では、度重なる猪や鹿による被害に多くの方が困っていました。師匠から受け継いでこの腕に培ってきた捕獲技術を活かし、真剣に猟を行うことで獣害が減って地域の皆さんが喜んでくれる。当時、引越しに伴ってスズメバチ事業を新たな場所で一から立て直す必要もあった僕らは、捕獲と精肉販売という生業をつくらなかったら食っていけなかったこともあり、小規模の獣肉処理施設を建てて、本腰いれて猟をやり始め、今に至ります。やっているうちに肌身で覚えたことが自信になり、今では少しずつ納得のいく仕事ができるようになってきました。

「猟でもやっていけそうだ」って見えてきたときに、不思議なもので、「蜂追いをもっと確かな生業にしたい」という、自分の原点である「蜂獲り」をより高めたいという気持ちが出てきたのが去年のことです。

(※蜂追い…蜂の身体に括りつけたリボンを頼りに、山の中にあるオオスズメバチの巣の在り処を探し出す伝統技法。)

– 「あつたや」として、現在は蜂追いと罠猟を主軸事業にされていますよね? 今後は変わる可能性があるということですか。

熱田:罠猟をやめて蜂獲り一本に絞る可能性はあります。罠猟という生業が軌道に乗り始めていようと、蜂獲りだけに集中したいと思ったときには罠猟を季節の営みの一つに戻すかもしれません。その場合は、今の取引先の方たちには頭を下げてまわります。「たくさん獲って誰にでも売って大きく儲けよう」とは全く思わないです。お互いにスタンスを理解し合えて、「どうしても届けたい」と思える方々にこそ、届けたいと思っています。

– その「どうしても届けたい」という存在のひとつがフレル食堂であり、西原さんなんですね。
 

熱田:高知に住んでいるときに、西原さんたちが遊びにきてくれたことがあって。その時に山や海からみんなでとってきた食材を、喜んで食べてくれた笑顔を覚えています。そのときに僕が獲った猪肉も食べてもらって、「これ買いたい」って西原さんが本気で言ってくれたのが、僕が獣肉処理施設の建設にまで至った大きな理由のひとつでした。

西原さんは丁寧に食材を扱ってくれるうえに、素材を活かしたいという獲る側のこころの部分まで汲みとってくれます。それが僕にはとても有難いし、自分が得てきたものをとびっきり美味しく手がけてもらえるのが本当に嬉しくて。この人が必要としてくれるなら、できる限り肉の提供も続けていきたいなって思っています。

– 蜂追いや猟も含めて、自然と常に真剣勝負をしている印象のある熱田さんですが、食材を提供するということについて大切にしていることはありますか?

熱田:猪でいえば、少しでも素材の価値を落とさずにお届けできるように、捕獲場所の立地や運搬方法、精肉技術等、手がける過程にすごく神経をつかっています。獲物を仕留める際、仕留め方も一緒ですね。なるべく獲物を苦しませず、けれど新鮮な状態を保ったままでお届けできるように。自分の肌身の感覚や技術を高めることで肉質をどこまで維持できるか、自分との勝負だと思っています。

猪と向き合うときは、甘い気持ちや身体の状態だとこちらがやられかねない。山のなかでひとりっきり、自分の身体と感覚を駆使して猪と勝負をする。時には死んでしまうかもしれないという恐怖に怯えながらも、仕留めた獲物を持ち帰る。そこまでして手にした猪だから、やっぱり丁寧に扱いたくもなります。

この手で生命を奪い、殺めているからこそ、責任を持って納得できる状態に手掛けたい。そういう信念をわかってくれる人と一緒に仕事をしたいし、そのうえでお互いに忌憚なくものを言い合い、より良いものを届けていけたら嬉しいです。でも、僕が立っているのは「完璧」なんてない野性の世界なので、「大丈夫かな」って臆病な気持ちは常に抱いています。だけど、臆病な気持ちがあるからこそ、より良いものを生み出せるのかもしれません。
 

「フレル食堂」に関係する人たちは、「生産者」と「料理人」という関係を越えて、まるでひとつのチームかのように互いを認め合い、高めあっていく空気を持っている。西原さんも熱田さんも、それぞれが自分の領域で「食べること」や「生きること」に丁寧に向き合っている。それは、広い自然界や巡る季節に対して目を凝らして暮らすという、途方もなく続く循環の中の一部でもあるのかもしれない。ここに居る人たちは、全員が何かに本気で向き合っている。それがひしひしと伝わって、お話を聴きながら一人静かに息を呑んだ。
 

チーム・フレル食堂。全員が本気だと、「ただ単純に面白い」

フレル食堂の「おいしいもの」は、食材や味付けだけでは完成しない。ここまでこだわり抜いて提供される食材や料理をそっと受け止めるのが、木工作家の山田 哲也(やまだ てつや)さんが作る木の食器たち。西原さんの夫でもある山田さんは、フレル食堂を支える一員として自らもカトラリーを作りつつ、同時に「フレル食堂」を見守る存在でもあるという。

– 山田さんから見た西原さん・熱田さんってどのような存在ですか?

山田:良い食材を前にすると、彼女(西原)はそれに真剣に向き合ってもっと良いものを作ろうとします。それに見合う食材を提供してくれるのが熱田さんで、相乗効果でどんどんレベルアップしていくなっていうのを感じる。熱田さんも本気の人だから、肉の品質だってどんどん向上していくし。この半年くらいで、料理も本当にレベルアップしたと思います。

– ご自身もそのような環境に居る中で何か感じることはありますか?
 


山田:そうですね。二人に引っ張られて自分もいいものを作らなくちゃって思えるというか。彼女の料理に見合った食器を作ろうと思うと自然とそうなりますし、まぁカトラリーは嫁さんのOKが出ないと世に出せませんからね(笑)。どんなにフォルムが格好良くても使いづらいとか、そんなのって実は全然格好良くないし美しくないんです。ここ一年くらいでそういうことにも気がつけて、僕も何か少しくらいは変わったんじゃないかなと思えています。

– お二人のこともよく知る山田さんから見る「フレル食堂」の魅力って何でしょう。

山田:僕はただ、自分が見ていて面白いから見守っているっていう感じなんです。嫁さんに関しても、夫婦以前に人としての尊敬があって。何がすごいかを知りたいから、次のステージへ行きたい。もっとやれんのになって思うから、そこを広げる手伝いをしたいというような気持ちです。単純に僕が面白いんですよね、傍で見ていて。

熱田さんに関しても、彼は僕が尊敬する作り手の一人で。年齢とか関係なく、作り手としての僕の理想の形がそこにあって、めちゃくちゃ尊敬してるんです。あの肉の美しさには作り手のエゴが無い。使う人のことを100%考えて作らないとあの美しさは出せないと思うので、見た時は本当に感動しました。僕から見たら、彼も猟師というよりは完全にクリエイター。「フレル食堂」に関わっている人たちはチームというよりはプロの集団で、それぞれが苦労もしてきたからこそ、今のいい距離感が生まれているんだと思います。
 

ひとりひとりがクリエイターであり、プロの集団であり、けれどチームのような距離感でつくられている小さな食堂。食材にも、料理にも、食器にも、それぞれの心が丁寧に重ねられている。

全員が本気で、それぞれの覚悟を持って向き合うべきことに向き合っている空間。お互いを尊敬し、慕い、面白がる。決して依存するような関係性ではないけれど、それでも確かにお互いを拠り所としているような、そんな良い関係性が短い時間でも滲み出るように伝わってきた。

熱田:師匠が言っていたことで印象に残っている「未常識」っていう言葉があって。未だ常識になっていないこと、人間が知らないだけで実は自然界では当たり前だよっていうことが本当にたくさんあるんです。イノシシが食べている冬のたけのこだってそう。僕ら人間が見落としていることって、めちゃくちゃたくさんあるんですよね。

自然の傍で、そこに潜む息遣いを聴き、生きる。「未常識」の冬のたけのこを使って、フレル食堂のこの日のディナーは完成した。
 

「100%相手を想う」――プロフェッショナルの集団がつくる一皿を、味わう

 

・冬のたけのこ、姫皮の胡麻和え、う巻き
・鹿肉のブレザオラと猪のサラミ盛り合わせ
・猪の塩漬けバラ肉と大根の煮物
・はんだ牛蒡と人参のサラダ
・鹿肉のロースト
・白ネギのマリネ
・鹿スネ肉のトマト煮込み
・猪のロースト(バラ/モモ)
・じゃがいもと里芋のオーブン焼き
・蜂の子雑炊

(※メニューは日替わりで変更されます。)

「ジビエのお肉だから食べに来るんじゃなく、ただ美味しいお肉を食べに来てくれればいい。珍しい食材だから美味しいんじゃなく、ただ『おいしいもの』を味わってもらいたい」

そう語る西原さんの作るジビエ料理は、どれもシンプルな味付けながら味わい深く、肩肘を張らずに丁寧に頂きたくなるようなものばかり。よく知っている食材も、あまり食べたことのない食材も、どれもこれもがふだん味わうものとはなぜだか違っていて、「わぁ…!」と感動の溜息と一緒に笑みがこぼれる。
 


「たけのこってこんなに甘くてやわらかいの?」という驚きや、「お肉ってこんなに旨みが滲むものだったのか」という発見。お野菜もお肉も、食べている間は口の中に広がる味につい集中したくなってしまうほど、自然でやわらかく、素朴で幸せな時間をそこに生み出してくれる。塩や醤油といったふだん何気なく使う調味料たちが、食材の本当の姿をぐっと引き出しているということが、ひと噛みするたびに伝わってくる料理たち。

食材の美しさを引き立たせる盛り付けやお皿の温もりも合わさって、ひと噛みひと噛みを大切に噛み締めたくなるようなコースメニュー。その日、その季節にしか味わえない最高の「おいしいもの」を。フレル食堂では、あなたの知らない「未常識」に出逢うきっかけが日々丁寧に紡ぎ出されている。

フレル食堂 (旧影石小学校内 駐車場あり)
営業時間:11:00-17:00(ランチL.O 13:30) 定休日:水、木曜日
電話:090 – 6830 – 2130 (定休日以外の11:00~17:00に受付)
住所:〒707-0503 岡山県英田郡西粟倉村影石895
web:http://www.fureru.com/
mail:info@fureru.com

※定食やディナーは要予約。メニュー等詳細はお問い合わせにてご確認の上お越しください。

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