岡山県

西粟倉

にしあわくら

ほわんと浮かぶ優しい灯りに、祈りを込めて。西粟倉の冬のイベント・雪あかりin大茅に行ってきました

岡山県西粟倉村の最も山奥に、大茅(おおがや)という集落があります。2月、ここ大茅集落で開催されたイベント「雪あかりin大茅」に参加してきました。一番の見所は、それぞれの想いを乗せて空に放つ、スカイランタン。大雪に見舞われる中、果たしてランタンは皆の想いを乗せ飛んでゆけるのでしょうか。気がつくと集落の方と一緒に、飲んで遊んで楽しんで。100人ほどのささやかなイベントながら、あらゆる地域の人を温かく迎えてくれる懐の深さがここにはありました。

 

50年以上ぶりの大雪の中、大茅の歴史を訪ねる

 


2月11日、朝。深く雪を被った家々を見ながら山奥に向かっていくと、大茅集落が姿を現しました。集落にさしかかると同時に、周囲に積もる雪の量が一段と増えたのが感じられます。今年は鳥取と岡山の県境で、寒波による記録的な大雪に見舞われましたが、まさに県境に位置する大茅地区では、この日掻いても掻いてもすぐに白くなるような勢いで雪が降り積もりました。

「雪あかりin大茅」は、始まって4年という、歴史の若いイベント。大茅は昔から新しいことに積極的に取り組む方の多い地域だそうで、このイベントには、集落以外の方に魅力を伝えることはもちろん、昔から集落に住む人にも、もっと大茅の魅力を感じてほしいという想いが込められています。

イベントの最大の見所は、夜。参加者自らの手で火を灯し、祈りを込めて空に上げるスカイランタンです。でも実は、これまで開催された3回のイベントのうち、無事上げられたのは1度だけ。雪や風の影響を強く受けるスカイランタン、歴史的な大雪を目の前に「今年は、上げるのが難しいかもな」という声が朝から聞こえてきます。

そんな中、大茅の山中を散策できるツアーがあると聞き、参加することにしました。大きな草履のようなスノーシューを靴に付けると、雪の上を楽に歩けるようになります。案内してくださったのは、大茅に明治時代から続く家に生まれ育ったという、本イベントの実行委員「夢来人(むらびと)」の1人、井上義徳さんです。
 


井上:この地区の年寄りは、雪のことを大変やばっかり言うて、楽しむことがなかったんよね。若い子が街に出たきり帰ってこんかったりもして。そんな子たちが子どもや友達を連れて帰ってきて、皆が大茅のこといい場所だって誇りに思えるようなイベントにしたかったんですよ。

そういって、スノーシューで一歩一歩雪道を踏みしめながら、雪を被った史跡を1つ1つ説明してくださいます。坂道をのぼり、人家の横を通り、5分ほど歩くと、杉林が目の前に姿を現しました。

「こっからは、鹿の足跡を辿っていくよ。」井上さんの声に連れられて、杉林の中へ。そこではひたすらまっすぐ伸びた木々に、一面の雪景色が出迎えてくれました。全ての音が雪に吸いこまれ静まり返った中、小さな足跡だけを頼りに進んでいると、まるで自分が鹿になったような気分になります。
 


サーっと時折音がする方向を向くと、杉の木からレースのカーテンのように落ちる雪の様子が。「浴びたら、真っ白になるで。」そう笑いながら、井上さんは今度は足跡のない道を切り開いて行き、やがて雪原に抜け出ました。そこは、秋までは一面田んぼだという場所。足下に田んぼがあるとは到底思えないほどの雪原が、目の前に広がっています。

大茅はその寒さから、昔は米ができにくかったそうです。その分、永昌山鉄山という元禄から明治まで製鉄が行われていたタタラ場があったため、当時の人々はこの辺り一帯に生えた雑木を売ることで、生活していたこともあったといいます。「先輩には感謝するよなあ。私らは先輩が作ってくれたものを使わせてもらうだけだから。」大茅での暮らしを育んできてくれた先人たちに、井上さんは感謝の気持ちをにじませました。
 


スノーシューでの探検の後、別の方からは、今回のメインイベント会場の目の前にある氏神様、入江神社のお話も伺うことができました。1000年以上の歴史を持つ入江神社は、平成元年に一度火事で焼失。それでも地域にとって大事な氏神様だからと、大人5人が両手を広げても抱えきれないほどの立派な木を売り、その資金で翌年には再建されたそうです。大茅の暮らしが木によって支えられていることを物語るエピソードの数々を、伺うことができました。
 

大人も子どもも、村人もよそ者もなく

大茅探索から戻ると、イベント会場となる大茅公民館では温かな空間が出迎えてくれました。イベントの実行委員、夢楽人の皆さんを中心に、村に住むお母さん方、岡山大学のボランティアの皆さんなどにより着々と準備が整い、イベントがスタート。お母さん方特製の、甘味のある「猪カレー」や、おにぎりやお団子などさまざまな料理が振る舞われます。
 


最初は、地域おこし協力隊として3年前に西粟倉に移住してきた、木の楽器・おもちゃ作家mori-no-otoの石川さんらによるライブ。ここで使われた楽器は、全て西粟倉産のひのきで出来た手作りのものだといいます。会場の皆さんの手にも渡り、子どもも大人もリズムを奏でます。楽しげな雰囲気につられてか、始めは20、30人ほどだった人数が、徐々に増えていきます。

続いては、縁あって西粟倉にこられた島根の歌姫、夢実さんによるライブ。夜には、その歌声を聞きながら、西粟倉に日本酒専門店を構える酒うららさん監修のお燗をいただける、贅沢な大人のひとときもあります。

この間にふと、すっかりこの場に馴染んでいる自分に気づきました。大茅の人間でないと分かられつつも、自然に受け入れられている感じがするのです。たまたまお隣にいらした、大茅に移住して4年ほどというご夫婦は「大茅って不思議とそういうところなんですよ」と魅力を語ってくれました。

移住者:このイベントの運営にもちょっと関わらせてもらってるんですが、実行委員の地元の皆さんは、他から来た人の意見も聞かせてほしいって積極的に言われるんですよ。会議に来れるときだけでいいから来てみいって。村って、もっと閉鎖的な場所かと思っていたけれど、この地区はよそから来た人でもとりあえず受け入れてしまうような、懐の深さがあるなと思いますね。
 


一方、ずっと大茅地区に住む方も、人が集ってくれることや、このイベントのよさを感じているといいます。

地元の方:(このイベントをどう思いますか?という質問に対して)いいなって思います。このあたりに他にどういう人が住んでるかって、普通に生活してると意外に知らないので。知るきっかけになりますよね。あと大茅だけじゃなくて、西粟倉の他の地区とか地域とか、人がいろんな所から来てくれるのも、面白いですよね。

この日出会った方の中には、大茅に住む知人を訪ねてきたと、横浜や茨城、さらには海外からきた方の姿もありました。わずか100人ほどの、地域のささやかなイベントとは思えない広がりを感じます。

一方、降りしきる雪にも負けず、外でイベントを楽しむ人々もいました。屋台担当にもちつき担当、雪のすべり台作りを子どもたちから任命されたお兄さん方の姿もあります。数人がかりで作ったすべり台は、大人2人分ほどの高さからカーブを描いてすべる大作に。「お兄さん、次は私!」次々せがむ子どもたちの中に、あれれ、見ているだけでは我慢できなかったらしい大人の姿も混じっています。
 


大人も子どもも身内も他人も一緒になって、無意識に皆が巻き込まれ、楽しいイベントを作り上げていく。そんな空気も、大茅ならではなのかも知れません。
 


降りしきる雪に、スカイランタンの打ち上げが中止になるかと、緊張した面持ちの人もいる中でも、全力で楽しむのが大茅流。1m以上の深さはあろうかという雪原を目の前に、我慢できなかった若手5人衆がまず、お約束のダイブを開始。おなじみの「押すなよ、押すなよ!」のくだりから、自ら飛び込む人、友達同士で押し合う人が、次々に新雪に人型を作っていきます。
もしやこれは私もやる流れか…?と思っていたら案の定、雪原に勢いよく導かれ、すっかり埋まってしまいました。予想以上の深さに一瞬息が止まるほどでしたが、見ている参加者の方も私も大爆笑。この感覚、なんだか懐かしい。

ふかふかに積もった雪と、大茅という場所の雰囲気には、人を童心に帰らせてくれる力があるようです。
 

「お願い、上がって!」スカイランタンに祈りを込めて

 


気づくとあたりは暗くなり、いよいよスカイランタンを上げる時間となりました。会場まで案内してくれるのは、道の両側に灯りを灯した小径。小さなかまくらたちが導いてくれるかのようです。日頃親しんでいる電子機器のそれとは違った、温かみのある光に、なんだかほっとします。

スカイランタンは、薄紙でできた小さな気球の形をしています。底部にある燃料部分に火を灯し、中の空気が温まるまで、ゆっくりゆっくり待ちます。頃合いを見計らって手を放すと、ふわふわと上空に飛んでいくのです。

しかし、スカイランタンの時間になっても雪は容赦なく降り続けました。雪が強く降れば重みで沈んでしまい、風が強く吹けば火があおられて燃えてしまう。いくつかのランタンに火をつけてみるも、上手く飛んで行ってくれません。今年も上げられないか…会場が諦めムードになり、帰ろうとする人も出始めた、そのときでした。

雪がぴたりとやんだのです。そして、1つのランタンがゆっくりと空へ舞い上がりました。

皆、「上がった、上がった!」と大歓声。今がチャンスと、次々にランタンに火を点していきます。白、黄、橙、ピンク、青、緑。ぽつりぽつりと、空を彩っていきます。
 


スカイランタンというと、大勢の人が同時にゆっくり手を放し、空一面が灯りで覆われる幻想的な景色を想像する人も多いと思います。でも今回の雪あかりでは、皆が1つ1つのランタンの行く末を見つめるような雰囲気になりました。あるものは、ゆっくりゆっくり時間をかけて、まっすぐに。あるものは低空飛行して、もうだめかと思わせた後、山ぞいに一気に上昇していきます。意図したところと別方向に飛んでいくランタンに「○○に似て、へそ曲がりだー」と笑いが起こる場面もありました。
 


私のランタンはというと、上げる前から雪に濡れた上に、焦げて穴があいてしまう有様に。頼む、飛んでくれ。そっと手を離したランタンは、低空飛行を続けましたが、最後は地元の方の手によってゆっくりと空へ飛んでいくことができました。いろいろな人の手を借りながら飛んでいくランタンに、何となく自分の姿を重ね合わせたのでした。

参加した皆さんは、それぞれどんな祈りをランタンに込めたのでしょうか。ともすると慌ただしい日々を送ってしまう現代に、これだけゆっくり、そっと、真剣に祈りを込められるひとときは、かけがえのないものに感じられました。一斉に、きれいに空を舞うスカイランタンもきれいだと思いますが、こんな風に皆で1つ1つ見送って行くのも、またいいものです。

無事スカイランタンを旅立たせた後、雪あかりイベントの実行委員長である岡田昌俊さんに、お話を伺うことができました。
 


岡田:今年も多くの人にきていただいて、おかげさまで去年よりも人が増えてね。今年はいろいろとバージョンアップしたんで、結構喜んでもらえましたよ。何とかスカイランタンも飛ばせたしね。これからも、地域の人と上手く連携しながら、大茅を盛り上がっていけたらええな思うね。

冬、より大規模に、きらびやかなイルミネーションを点灯するところは、全国各地にたくさんあると思います。でもここ大茅の雪あかりは、スカイランタンの灯りのようにほんのりと、素朴で温かな気持ちになれる場所でした。来年以降も雪あかりというイベントを基点に、ほんのりゆるやかに人々がつながって、心温まるひとときを過ごしてほしい。そんな風に思います。

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