山口県

周防大島

すおうおおしま

地域の価値を見出し、田舎でしかできない事業を作る。(後編)

山口県の周防大島にあるジャム専門店「瀬戸内ジャムズガーデン」。後編は、代表の松嶋さんに、これまでの歩みの中で得てきた気づきや、これからの未来についてお話をお聞きしました。
前編:この島だからできる文化を。小さなジャム専門店が生み出した島の未来。

 

3年くらいのスパンで、少しずつ始めていく

2003年からジャム屋を始めた初期の3年間は、まだ松嶋さんは会社勤めをし、奥様が周防大島に通いながらホテルや道の駅に卸し、島が一番賑わう夏休みシーズンには夏季限定でshopをオープンして販売しました。

「一番はじめは完熟して売れ残ったいちじくを使って作った、いちじくジャムを道の駅で販売しました。手応えを感じ4年後の2007年6月に会社を退職して、翌月から完全移住し通年営業をス タート。いきなり事業をおこすのはハードルが高いですから、4年という実験期間を設けたことは大事なことでしたね」と振り返ります。

 

店舗ではジャムを使ったスイーツやピザ、ドリンクも味わえる

「移住も3年くらいのスパンがあると良いのではないでしょうか。住まいも仕事もいきなり全て動かすのは大変なことです。私たちもこの期間があったからこそ、試せて、失敗も経験につなげられました」

 

失敗の機会にこそ、アイデアが生まれる

本格スタートした年の冬、お客さんがほとんど来ない日が続きました。 「冬の時期、お客さんが来なくなってしまったんです。この時期が一番辛かったですね。随分悩んだのですが、お客さんが来ないならその時間を新商品の開発に充てようと発想を転換して、 全面的に見直しました。その中で生まれたのが『焼きジャム』です。さつまいもでジャムを作っても冷めると美味しくない。それならパンと一緒にジャムを塗って焼いて、冬場に食べたくなる新ジャンルのジャムにしようと。その後、2008年2月に、テレビの情報番組で「焼きジャム」が取り上げられると、電話が鳴り止まなくなって。忘れらない出来事 です」

 

工房の様子は見学もできる。旬の柑橘を加工するスタッフ

さらにもう一つの変化は、生産者さんとの取引でした。「地元の農家さんは低価格で価値がないと認識していた加工用の果物を、フェアトレードの取引に転換したんです。高齢化の農家さんが多いこの島で、適正な価格で取引することで周防大島の農業を持続させ、原材料が確保できると考えました。この提案をきっかけに『どんな果物を作ってもらいたいか』『栽培方法を変えたらもっとおいしくなる』と農家さんが積極的になっていったんです。関係が大きく変わっていきました。」

 

美味しそうな柑橘が常に工房に届く

また、松嶋さんが島の農家さんと取引をできたのも、奥様のお宅がお寺だったので、地域とのつながりも強く、それが大きかったと言います。さらに、お寺ではお供え物を「腐らせるのはもったいない」と古くからジャムを作る風習がありました。 「自分にとってのきっかけは新婚旅行でしたけど、ジャムを作るためのつながりや要素が、この島にも家族にもすごくあったんです。なんだか導かれたような、不思議な巡り合わせですね。」

 

その土地にしかできない価値を作る

松嶋さんがジャムを作り続ける中で大事だと感じるのは、その地域でしかできない価値を作ることです。
「私たちは、土地と作り手の魂が感じられるジャム作りを目指しています。今この時代に求められているのは、地域の価値に気づいて、その地域に根ざした活動を展開することじゃないかと思います。田舎では田舎でしかできない事業を行う。さらに、ただものを作るのではなくて、売り先を考えて商品を作ることも大切です。地方こそ、経営者目線を持って事業を作ることが、高齢者の雇用や若者の移住につながっていきますから」

 

7年前からは、ブルーベリーや安納芋の自社生産もしている

また、松嶋さんが暮らしの中で感じてきた田舎ならでの関係性。その経験から移住者の都 会的な視点と地域資源を結びつける「島くらす」というUIターン者を応援する会を島の仲間と続けています。

「地域の価値に気付き、地域資源で産業をつくり、雇用を生み、地域を誇りに思えること が地方創生の目指すところ。一つの会社だけが大きくなるのではなく、みんなが一緒に延びていくことがこれからやっていきたいことなんです」。 定期的に勉強会を開いてきた他、島くらすの場を通して、コミュニティが作られていく。今も年に数回、集う機会を作っています。

 

事業を起こすことで、新しい文化を作る

「新規事業を起こすことは、新しい文化を作ることと同じだと思います。自分が思い描く文化を具現化する作業は大変だけど、やはり非常に面白いですね。この島にも、もっともっと面白い会社が増えて行ってほしいです」。
2012年には周防大島町観光協会副会長に就任、島外で島を丸ごと移動したようなイベン トも実施して、地域の団結力を発信しています。「経済は小さいですが、チャレンジする人が多いということは、地域が面白いという証拠です」と胸を張る松嶋さん。

 

島の風が心地よく流れる店内

「もう一つ、教育に力を入れて行きたいんです。今、周防大島では、小中高一貫で起業家教育を行っています。生徒がテーマを設けてリサーチし、実際の商品化・販売まで手がける。そのプロセスを通じて、自分の生きる島の魅力を肌で感じること、それが先々、大学卒業後や、島外で就職した後にも、「島で事業をしたい」「島で生きたい」と想う原体験になると思っています。」
実践型なキャリア教育事業も進め、周防大島への愛着や生き方を学ぶ機会を地域の事業者 と作る松嶋さん。県内一とんがっていると評判の周防大島で、次世代に向けたあらたな文化が、今日もうまれていきます。

瀬戸内ジャムズガーデン

http://www.jams-garden.com/

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