山口県

周防大島

すおうおおしま

この島だからできる文化を。小さなジャム専門店が生み出した島の未来。(前編)

瀬戸内海国立公園に浮かぶ山口県の島、周防大島。かつて20年間に渡り全国一高齢化率の進んだ自治体もあった小さな島に、全国から注目を集める小さなジャム専門店があります。運命に導かれ、この島ならではの価値を丁寧に作り続けてきた「瀬戸内ジャムズガーデン」代表の松嶋さんにお話をお伺いしました。

 

みかんの島にある、瀬戸内ジャムズガーデン

鳥がさえずり爽やかな風が吹き渡る周防大島。温暖な気候から柑橘類の栽培が盛んで、みかんの生産量は山口県内の8割を誇り「みかんの島」としても知れています。かつて7万人が暮らしていた島の人口は現在約1万7千人、過疎高齢化が進む小さな島にジャム専門店「瀬戸内ジャムズガーデン」はあります。

代表の松嶋さんは、島にあたらしい文化を生み出し、農業・加工・サービス業を連携させた事業展開、地域を巻き込んだ6次産業化を実践するキーパーソンです。

「周防大島の柑橘類を中心に、添加物を加えない製法で種類の豊富なジャムを生産しています。目の前の瀬戸内海を見渡しながら、ジャムを使用したスイーツを味わえるカフェとジャム作りの工程が見学できる工房、販売店を併設しています。ありがたいことに、全国各地からお客さんが足を運んでくれています」

 

穏やかな瀬戸内海が目の前に広がる瀬戸内ジャムズガーデン

穏やかな瀬戸内海が目の前に広がる瀬戸内ジャムズガーデン

 

個性を活かした持続可能なジャム作り

瀬戸内ジャムズガーデンのジャムに驚かされるのは、その品揃えの多さとはっとする味わいです。「せとみとレモンのマーマレード」「バニラビーンズの香るねっとり安納芋の焼きジャム」「島いよかんの地中海サングリア風マーマレード」など、想像力を掻き立てられる個性的なジャムが並びます。

 

常時20種類ものジャムの味見もできる

常時20種類ものジャムの味見もできる

「周防大島では、ジャムの原料となる柑橘類が、季節ごと豊富な種類収穫できるんです。例えば、9月末〜12月前後はライム、ゆず、かぼす、真冬はいよかん、はっさく、春は酸味がおいしい小夏みかんや、きよみオレンジなど。現在は58軒の生産者と契約をしていて、そのうち9割が周防大島の農家さんです」

ジャム作りでは、大鍋を使わずに短時間で果実本来の風味を生かす小ロットの製法。果物本来の味を生かすため糖度は日本の最低基準の40度。出来るかぎり原材料をシンプルにし、添加物を使用しません。

 

工房では旬の梅の良い香りが漂う

工房では旬の梅の良い香りが漂う

「大量生産し味を均一にしようとすると、添加物が必要になりますが、生産者や収穫した畑によって味が変わるのは当然なんです。この農家さんの作るはっさくは苦みがあるので、苦みに合うチョコレートを入れたバージョン、北斜面で採れた酸味のあるはっさくはレモンティをイメージして紅茶で煮込むなど、原材料の個性に合わせて少量多品種のジャムを作り分けています」。

個性を活かした少量多品種のジャム作りづくりだからこそ、持続可能な生産・加工が可能になる。自然そのものの美味しさを味わうことができます。

 

信頼を減らさない努力。丁寧な関係値づくり

瀬戸内ジャムズガーデンのジャムは、パンの有名店から都内の百貨店、各地のセレクトショップまで、全国約100箇所近い店舗で取り扱いされています。
「特に新規営業はしてないんです。私たちのスタイルは、卸先を増やすより減らさない努力をしています。ご縁があってうちの商品を仕入れてくださったので、丁寧に情報をお伝えして、関係を作ることを大切にしています。その方が信頼も高まり、良い形でお客さんに届けてくれるんです」

毎年、ジャムの生産量とスタッフは増え続け、現在では、ジャム生産瓶数は年間15万本、スタッフは30人になります。
「スタッフも島で暮らす主婦の方が多いです。子育てや家のこともありますから、決まった曜日時間ではなく働ける時間でシフトを作っています。主婦の皆さんは、気づきも早くて周りに目を配ってくれますし、頼りになる存在です。移住したスタッフも8人いて、住まいの提供などをサポートしています」

 

和気あいあいとした、松嶋さんとスタッフ

和気あいあいとした、松嶋さんとスタッフ

 

突然訪れた、ジャム作りとの出会い

ジャムズガーデンを松嶋さんが始めるきっかけは、2001年新婚旅行で訪れたパリでした。
「妻から、アクセサリーが見たいので隣の店で時間をつぶしてと言われ、ふらりと入ったのがコンフィチュール専門店でした。壁一面にずらりと並ぶ色とりどりのジャムに目を奪われ、気づけば友人へのおみやげ用に30種類ものジャムを買っていました。」

帰国後、友人によく分からないまま手渡してはと、フランス語の商品名を辞書で調べ始めました。
「興味がわいて結局全部の蓋を開けて、試食してしまったんです(笑)。知っていたジャムとは原材料も仕上げ方も別ものでした。パリではコンフィチュールをデザートの一品として親しんでいる食文化もある。ヨーロッパのジャムの糖度の基準は60%以上で甘すぎる。日本人好みで原材料にこだわったジャムはどんな風に作れるだろうかと考えていったんです」。

 

物腰の柔らかい、優しい人柄が印象的な松嶋さん

物腰の柔らかい、優しい人柄が印象的な松嶋さん

 

当時、電力会社の新規事業部で働き、都内のベンチャー企業に出向していた松嶋さんは「自分だったらこんなジャム屋がしたい」と事業計画書を作りはじめました。
「家族の人生計画書と併せて、新婚旅行から戻って1週間足らずで妻に提案しました。もちろん妻は大反対。当然ですよね。笑。その後、妻は事業計画書を実家に送ったんです」
奥様の実家は、周防大島で約460年以上続く浄土真宗本願寺派荘厳寺。住職のお義父様から大目玉を食らうと覚悟をしていた松嶋さんに返ってきたのは「門徒の農家さんが手伝えると言われているが、どうするか」という連絡でした。
「日本でジャム屋をやるとしたらこんなカタチかなという程度の軽い感覚でしたから、逆に驚きましたね(笑)」

次第に、本格的に考え始めた松嶋さんは、当初、拠点について
「初めは、生まれ育った京都の古い町並みがパリに似ている気がして京都で物件を探しました。でも添加物を使わないこだわりのジャムが作りたい。その土地で採れたものをその土地にしかないジャムにしていくにはどうしたらよいか。色々考えた結果、自分たちの居場所はやはり周防大島しかないという結論になったんです。」

松嶋さんはこうも振り返ります。

「タイミングもちょうど良かったと思います。2000年インターネットの利用が注目され始める時期でしたから。こだわった商品づくりをすれば、どんなに地方であっても情報発信できるなと思ったんです」。

その後、地域の生産者やスタッフとの関係を構築し、他にはないジャム専門店を築いて行きます。後編に続きます。

瀬戸内ジャムズガーデン

http://www.jams-garden.com/

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