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牧 大介のローカルベンチャー論。「周囲を元気にする『苗人』が、地域経済を動かす」

「ローカルベンチャー」って、何だろう?
聞いたことはあるけれど、よく分からない。そう思っている人も多いかもしれません。
そもそもこの「ローカルベンチャー」という言葉、岡山県・西粟倉村にある『西粟倉・森の学校』『エーゼロ』と、その子会社で北海道・厚真町にある『エーゼロ厚真』の代表である牧大介さんが提唱した言葉です。

牧さんが2018年7月に出版した著書『ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている』(木楽舎)の編集担当である小久保よしのは、2019年3月、久しぶりに牧さんの講演を聞きました。
ブレずに変わらないことを言い続けている牧さんですが、本にはない言葉を聞くことができました。
「ローカルベンチャー」をまちでどのように増やしていけるか、どういう価値があるのか、新たに聞けた言葉とともにもう一度編集してみました。

 

「ローカルベンチャー」って、何?

牧さんが行うさまざまな事業の一つが「ローカルベンチャー」にまつわる事業です。地域で何かを立ち上げ新しいチャレンジをする人の応援や、そういう人を増やしていく取り組みを行っています。なぜそれを始めたのでしょうか。

牧:私は以前コンサルタントとして、地域における新規事業の開発やプロデュースをやらせていただいていました。そのなかで、私は度々同じ状況に陥っていました。それは、「どんなに計画を立てても、それらしい報告書をつくっても、地域で何かにチャレンジするプレイヤーがいなければ、結局何も動かない」という状況です。

一方で、立派な計画や見栄えのする調査報告書がなくても、「これがやりたいんだ!」という強い気持ちを持った人が一人でもいれば、どんどん物事が動いていくのを目の当たりにしました。

そこで思ったのです。「地域にはそういうプレイヤーが必要だ!」と。そんな思いをこめて、「ローカルベンチャー」という言葉をつくり出しました。2009年ごろのことです。地域の宝物を自分なりの視点で見つけ、地域でビジネスを起こす。それが「ローカルベンチャー」です。

よく聞かれるのは、「ローカルベンチャーは地域を変える力になるのか?」ということです。私は、最終的には力になると思っていますが、短期的に地域を変えたり地域の役に立つことを求めるとうまくいかないと考えています。

今あるものを変えるのは容易ではないし、そもそも変える必要のあることがそんなにあるのかと。連綿といろいろな人たちが努力を重ね、想いをつなぎながら、地域の仕組みや価値観、事業、商品が存在するわけです。必然性のあるものしか残ってないことが大半でしょう。

ごく一部、これは変えないといけない、変えたほうがいいということはあるでしょうけれど、大方はそんなに変える必要がないもので溢れているのが地域だと思います。

「ローカルベンチャー」は地域にある何かを奪って競合するのではありません。地域は過疎化・高齢化が進んでいますが、見方を変えれば、それは「余白が増えている」状態。何かやろうと思ったとき、やれる場所がいっぱいあるということなのです。だから「ローカルベンチャー」はその余白に入り込めば、新しい可能性にチャレンジしていけます。

「減っていく」ことが問題だと言われている過疎地で、何か新しいものを生み出して「足していく」んです。その積み重ねを地道にやり続けたとき、地域にもっとおもしろい未来が開けていくんじゃないでしょうか。放っておくと減っていきそうなものを引き継いでいくことも、この中に含めていいと思います。

2019年3月、本講演の翌日に開催された「厚真町ローカルベンチャースクール」の会場にて。

苗木を植えるように、地域に「人を植えて」いく

では、「ローカルベンチャー」をどうやって増やしていけばいいのでしょうか。牧さんの著書『ローカルベンチャー』では、牧さんが西粟倉村で起業したストーリーや起業哲学のほか、村の歴史や取り組み、さまざまな人のチャレンジなどを紹介しています。本講演では、著書には掲載しなかったある言葉を使って牧さんが解説しました。

牧:「ローカルベンチャー」という言葉を使う前に私が使っていたのは、「植人」という造語でした。もともと私の専門は林業で、大学で森林生態学を学んでいました。いろいろな生きものがどんな風に関係し合って“生きものの集団としての森”が成り立っていくのかを研究していたんです。

林業では、まず1本1本苗木を植えて、それを大事に育てて人工林をつくっていきます。地域は過疎化が進んで人が減っていますから、苗木になるような人を見つけてきて、1本1本「人を植えて」いく。そういう気持ちでやっていかないと、放っていても人は増えません。

大事なのは、苗木がその土地に根を張り、ある意味で勝手に成長すること。手をかけすぎないといけない苗木では、周りの人たちが手を取られたり、気持ちが沈んだりしてしまいます。だからむしろ勝手に元気に成長し、その姿を周りに見せてくれる苗木がいいのです。

「こう元気に育っていく木があるなら俺も頑張りたいな」とか「一緒に何かやりたいな」と思えるような苗木というか、「苗人」をなんとか探し出してくる。それを、なんとか根を張ってもらって活着して、勝手に育っていくプロセスにいろいろな人が関わりながら、より成長していく。そういう「植人」や「苗人」の事業がどんどん増えていくと、さまざま人の気持ちもつながっていきます。

西粟倉村と厚真町では、とにかく勝手に育ちそうな「苗人」を探してくる「ローカルベンチャースクール」という起業支援プログラムを実施しています。加えて、苗床をつくるところからやれないかという試みで、ナリワイづくりのための研究から始める「ローカルライフラボ」も実施しました。

2018年度の「厚真町ローカルベンチャースクール」の最終選考会。3名が採択され、2019年4月から新たなスタートを切ることに。

西粟倉村には、現在30社ぐらいの「ローカルベンチャー」があります。2017年度の実績で、売上の合計は約15億円ぐらいです。2018年度だと20億円に届いているのではないでしょうか。雇用は、パートタイマーも入れると180人ぐらいほど生まれています。

「ローカルベンチャースクール」では、地域の先輩起業家たちがメンターになって、新しく迎え入れる挑戦者、「苗人」をサポートしていくことができるようになり、地域ぐるみで新しい挑戦者を育てていくところまでいけるといいなと願っています。

「木」を三つ書いた「森」という字のように、「人」を三つ書いた漢字「众」があるそうです。この字は、中国では大衆の「衆」という意味合いがあると、中国人の留学生から教えてもらいました。森づくりと人づくり。どちらも時間がかかります。1本1本の「苗人」が育つのにも、集団として育っていくのにもとても時間がかかるんですけれど、森を50年100年かけて育てていくような気持ちで、人の集団をつくっていくつもりです。

我々の『エーゼロ』という社名は、森の土壌の「A0層」から名付けました。腐葉土の溜まっている落ち葉の層のことを生態学で「A0」と言うんです。いろいろな草木を育てる土壌です。そういう地域としての土づくりをしっかりやっていける会社にしたいと考えています。

牧さんが18歳から多くの時間を過ごし、森林生態学を学んだ、京都大学の芦生研究林。

「行き当たりばっちり」にするための編集と公式化

森のA0層のように人を育てる土壌をつくり、地域経済を“醸す”ことを目指す『エーゼロ』。しかし、地域にはビジネスの可能性があふれているものの、「ただ起業すればいいのではない」と牧さんは語ります。

牧:「どれくらいその事業をやりたいのか、本気なのか」が大切です。地域おこし協力隊などの自治体からのお金がなくても、借金やクラウドファンディングをしてでもなんとか資金調達をして、「とにかくこの事業をやり遂げたいんだ!」という覚悟と本気があるかどうか。

例えば、「あなたには投資しません」と誰かに言われても、あなたはその事業をやりますか? ということです。「投資しない」と聞いて「じゃぁ起業しません」という人に、投資しようという気持ちにはなかなかなりません。

それほど本気になるためには、自分が心から好きでワクワクするようなことでないと、力が湧きませんし、継続もできない。「地域のために」起業するというのは、地域からの評価を求めやすいので、私は危険だと考えています。

牧さんが心から好きで始めた事業の一つ、「森のうなぎ」。

では、地域ではどのようなプロセスで「ローカルベンチャー」が増えていくのでしょうか。そこにも、牧さんの持論があります。

まずは、とにかく元気に生き生きとチャレンジをしているプレイヤーを増やします。その存在だけでも意味がありますし、周りに対して良い影響を与えていくので、ランダムにいろいろなチャレンジが生まれていきます。それが地域で発生している状況が大前提になるわけです。

そうすると、つながりができてきて連鎖して、パッと一つのプロジェクトや戦略が浮かび上がってくることがあります。これを「創発的」なプロセス、と呼んでいます。

計画した戦略を実行していくよりも、実はこのように結果として戦略が浮かび上がってきて実行されていくほうが、実行される度合いは高いんですね。計画された戦略と実現されていく戦略は違うわけなんです。

もうちょっと平たく言うと、「行き当たりばっちり」。行き当たりばったりでいろいろな人が好き勝手やるんだけれども、そこに「ばっちり」にしてくための工夫や知恵はあると思っています。

それは、現実をどう編集し何をどうつなげていくのか、という編集作業です。「どういう未来をつくっていきたいのか」というイメージをもとに、ランダムに発生しているチャレンジのうち、「このチャレンジは育てていくととても良い流れを生み出しそうだ」というものを見極めるのです。

トークイベントや講演会などで全国を回る牧さん。中高生が興味を持って参加することも。

例えば西粟倉村では、國里哲也さんという人が、森林組合を辞めて会社『株式会社木の里工房 木薫(もっくん)』を2006年に立ち上げて、森からお客さままでを一気通貫でつなぐビジネスを始めました。その國里さんのチャレンジに、「未来にこうつながるチャレンジだ」という意味づけをして、その意味づけを明確にすることでさらに仲間を集めていったんです。より大きな構想として進めていく。そういう、一種の意味づけをしながらつなげていくという編集作業です。

さらに役場や町長さんなどから「このまちはこれでやるんだ」「たまたま出てきたけどこれを戦略として柱に据えよう」ということを何らかの形で公式化され、後づけで「勝手にやっている話ではない」という公式的な位置づけが与えられていくと、ぐっと加速していきます。

すぐに結果を出そうと思うと、なかなか難しい。でも、地道に毎年何人かでも地域に活力と良い影響を与えていくような「苗人」が増え、それが10年20年30年続けられたら、地域はどうなっていくんだろう——。そう思うと、希望が持てるところがあると私は思っています。

 

地域の未来のために、今できることを地道に、確実に行う。牧さんの言葉からは、そんな決意が感じられます。「10年前にイメージしていたことが、やっと現実になった。だから今イメージしていることも、10年くらいかかるんですよ」。そう話す牧さん。全国各地に「苗」として根づき、育ち、自走していく「ローカルベンチャー」があふれる未来を、牧さんと共に見つめていきましょう。

エーゼロ株式会社
住所:
〒707-0503 岡山県英田郡西粟倉村大字影石895(旧・影石小学校)

株式会社エーゼロ厚真
住所:
〒059-1741 北海道勇払郡厚真町上厚真18-1

ホームページ:
https://www.a-zero.co.jp/

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