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ありがとう、元気だよ。地域のみなさんに想いを伝える、上厚真小学校「感謝の日」

開校から数えて今年で120年となる厚真町立上厚真小学校で、9月19日に催しが行われました。

いわゆる記念式典とは違い、この日の主役は子どもたちです。

「上小 感謝の日」と名付けられた小学校独自の取り組みは、どのようにして生まれたのでしょうか?

開催にいたる先生方の想いに迫ります。

 

地域で行った活動を子どもたちが発表する場

9月19日、体育館に子どもたちの元気な声が響き渡りました。

発表されたのは、地域で体験した活動の数々です。

1年生は「みんなに げんきを ぷれぜんと だいさくせん」と題し、地元のデイサービスに通う高齢者の前で歌を披露した活動について語りました。

また、2年生は郵便局、3年生は交番、消防など地域を支える人たちを訪ねたことを、4年生は学校のアプローチにハスカップを植樹したことを、5年生は稲作の体験をしたことを発表していきました。

そして、6年生は特産品について調べたことを語り、さらには地域でつくられた花を校内に活け、手づくりハスカップクッキーを出席者全員に配るという活動も行いました。

「昨年は震災も起こりましたし、実は120年の記念行事を行うのは難しいかなと思っていたんですが、学校までたくさんのボランティアの方々が足を運んでくれましたし、道内外から励ましの言葉を寄せて頂いて、前へと進もうという気持ちが湧いてきたんですね」。

 

この催しを企画した井内宏磨校長先生は、笑顔でそんなふうに語ってくれました。

2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震により、厚真町には甚大な被害がありました。

震災当初、避難所から学校へ通う子どもがいて、大きな揺れに不安を隠せない子どももいたそうです。

しかし同時に震災は、学校が地域とともにあることを改めて見つめる機会となりました。

「みなさんに支えられて今ここにあるということ、その感謝の気持ちを表したい。また、子どもたちは元気でやっていますよと伝えたい。そう思って震災から1年という時期に合わせて、活動を行うことにしました。」。

 

企画のキーワードは「ふるさと」。そして「主体性」です。

 

「子どもたちは、主体的に動けていたのかな?と思ったんですね。避難所でスリッパをキチンと並べられたかなとか。じいちゃんばあちゃんに気をつかいながら生活できたかなとか。たまには手伝いもできたかなと。」。

 

震災という極限状況の中に身を置いて、井内校長先生が切実に感じたことがありました。

それは、子どもたちに「生きる力」を身につけてほしいということ。

そのために「上小 感謝の日」が、子どもたちが地域のことを深く知って、自ら考え、一歩を踏み出すような機会となればと思ったそうです。

6年生は特産品を調べる活動を行い、花農家を訪ねた。

 

子どもたちのアイデアから生まれたクッキー

井内校長先生の想いを受けて、各学年で春から準備が始まりました。

6年生の担任・大宮貴子先生は、以前から子どもたちと一緒に地域の特産品について調べていたこともあり、そこからどんな活動をしていくのかをつくりあげていきました。

厚真の特産品としてよく知られているのはハスカップというフルーツです。

栽培面積は厚真が日本一ですが、上厚真の周辺には果樹園が少ないこともあって、子どもたちにはあまり身近でなかったそうです。

そんな子どもたちから、上がった意見がありました。

 

「ハスカップを使った気軽に買えるお土産がほしい」

 

ジャムなどの加工品はすでにショップで販売されていますが、その場で買ってすぐに食べられるようなクッキーがあったら良いのではないかというアイデアが生まれたそう。

そこで、子どもたちは実際にハスカップ農家を訪ね、この果樹の特徴や生産の苦労を知り、クッキーの試作を行っていきました。

農園を訪ねハスカップの収穫体験。木によって味わいが違うことを実感。

クッキーは、ハスカップをフリーズドライしたもの、ジャムにしたもの、シロップにしたものと3種類を試作。

3グループにわかれ、生地の食感や形にもそれぞれ工夫を凝らしていきました。

 

「試作段階では、フリーズドライにしたハスカップは、味が感じられなかったり、こげてしまったりしたこともありました。砕き方を細かくしたり量を増やしたりして、だんだん形になってきました」。

大宮先生によると、子どもたちがもっとも苦労したのは、催しの前日に150人分のクッキーをつくることでした。

全校生徒88名のうち6年生は9名。

人数は少ないですが、クラス替えもなくずっと一緒に過ごしてきた家族のような間柄で、チームワークは抜群。

得意な作業をそれぞれが率先してやったことで、たくさんの量のクッキーづくりも無事に成し遂げたそうです。

出席者に配ったところ「プロ顔負けのできばえ」と評判も上々。

催し終了後には、卒業生からこんなお手紙を受け取りました。

 

「クッキーをいただいてから、60年前の昔話に花が咲きました。いまは存在しない、柾屋さんや鉄工所、馬の蹄鉄屋など、また、春と秋のお祭り、小中学校合同の運動会、地域の青年団の演芸会等々、更には、竹馬の友や担任の先生の顔もよみがえりました。『上小 感謝の日』に出席して、とてもハッピーな一日を過ごすことができました。ほんとうにありがとうございました」。

色、形、味わいの異なる3種類のクッキーが完成。写真は、ハスカップシロップを使ったもので、色も鮮やか。

地域と学校が対等な関係になってくれたら

大宮先生は地震発生後、自宅のライフラインが途絶え、約1カ月間、避難所暮らしを体験しました。

このとき近所の中学・高校生が自主的に掃除をする姿を見て「こういうことができる子どもたちになってくれたら」と思ったと言います。

大宮先生もまた震災を通じて、子どもたちの「生きる力」の必要性を感じるようになったそうです。

 

「今回の活動すべてが、生きた勉強になったと思います。こうした経験を中学校でも生かしていってほしいですね」。

 

2017年にむかわ町の学校からやってきた大宮先生は、4年生から3年間、ずっと9名の担任として子どもたちを見てきました。

子どもたちが巣立っていくのもあとわずかですが、今後も子どもたちの成長を見守っていきたいと笑顔を見せてくれました。

 

「これまでは卒業したら、その後の様子がわからなくなってしまうこともありましたが、厚真町では小中一貫教育が導入されて、小学校から中学校まで9年間を通じたカリキュラムが見通せるようになりました。例えばハスカップクッキーにしても、中学生になったら今度は商品にするというアイデアを授業で考えることもできると思います。そうやって可能性が広がっていくことが、いまから楽しみなんですよ」。

「上小 感謝の日」で、花農家での体験を発表した6年生。

学校教育法などの改正によって2016年度からスタートした「小中一貫教育」は、全国で始まっている取り組みです。

厚真町でも、小学校、中学校での連携も始まりました。

また、地域全体で子どもたちが育っていく環境を考え、協力体制を築いていこうと「学校運営協議会」も立ち上がっています。

学校や保護者代表だけでなく、地域の場づくりに関わる人や学識経験者など、さまざまな専門性をもった人が分野を超えて集まって、定期的に話し合いの機会がもたれるようになりました。

 

「学校だけでは子どもは育てられません。地域と連携してこそ、社会で生きられる力がつくと考えています。協議会のみなさんは、地域を愛して、子どものことを真剣に考えて、自ら汗を流しています。話し合いが盛り上がって、熱量がすごいんですよ。みなさんのこうした想いが積み重なって、学校というものができていくんだと思います」。

 

そう語る井内校長先生にとって、地域との連携とは、学校が地域に何かをしてもらうだけに留まらない対等な関係です。

「上小 感謝の日」でも、子どもたちが住民とふれあうことで「地域に活力が生まれたら」と考えたと言います。

「上小 感謝の日」で出席者にクッキーを配る子どもたち。

「催しでは、みなさんへの感謝の気持ちとともに、実は子どもたちへも『ありがとう』と言ってもらえる日にしようと考えました。たったひと言『ありがとう』と言ってもらえたら、その体験はずっと忘れずに心に残るんじゃないか。次の行動へとつながるんじゃないかと思ったんですね」。

 

地域の人々と子どもたちをつなぐ試みは、日々積み重ねられています。

例えば、学校運営協議会の事業として「あいさつの日」をもうけ、玄関先や交差点に大人たちに顔を出してもらい、子どもたちと声をかけあう活動も行っているそうです。

 

「名前は知らないけれど、顔は知っている、声をかけ合える。朝、『おはよう』と挨拶し合えたら、それだけでうれしいですよね。助け合う地域、あったかい地域になったら、楽しいと思いませんか?」

 

井内校長先生は、インタビューの最後を「想いは必ず伝わるはず」と締めくくってくれました。

「おはよう」や「ありがとう」は、とても基本的なことで、全国の学校で、その重要性を教えていることでしょう。

ただ、今回お話をうかがって感じたのは、教える側がどれだけその大切さを実感できているか、つまりどれだけ想いを持っているかが重要ではないか?ということでした。

日々想いを込めて、子どもと向き合う先生たちの真摯な姿に、インタビューをしたこちらも胸が熱くなる、そんな取材となりました。

上厚真小学校

http://www.town.atsuma.lg.jp/school/kamiatsuma/

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