岡山県

西粟倉村

にしあわくら

「銀行マンから土建屋へ―出たとこ勝負のMr. Iターン」〜困りごと解決事業に取り組む、協力隊森本さんの3年間〜

地域おこし協力隊」という制度。みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。隊員として地域に移住した人の数は、平成29年度には4,830人にも上ったそうです。これだけの人が3年間という期間の中で、地域の可能性を信じ、地域の中で自分が為すべきことを模索しています。

森本真志さんも協力隊(企業研修型)の一人として、西粟倉村に移住してきました。研修先は“ 地域の頼れる土建屋さん”・有限会社小松組。高齢者の方の困りごとを解決する新規事業に従事し、既存の土建事業の技能実習にも励んでいます。

移住してから3年弱にも関わらず、今では村の方から「森本くんは地元の人間じゃろ?(笑)」と言ってもらえるほど地域に馴染んでいるそう。“ Mr.Iターン ”の呼び声も高い森本さんが、なぜ地域に飛び込み、どのように地域と関わっていったのか。2019年に入って西粟倉にやってきたエーゼロ株式会社の大井が、これから地域との関わり方を模索する立場の一人としてお話を伺いました。

 

出たとこ勝負で、地域に飛び込む

― 元銀行マンの森本真志さんが飛び込んだのは、岡山県西粟倉村にある土建屋さん・小松組。出身地である奈良県明日香村に帰りたいという想いを心に秘めながら、「ゆかりのない地域、未経験の職業」という選択をされました。

森本:大学生のころ就活していた際には、正直どんな仕事が世の中にあるのかもわからなかったんです。まずはいろんな業界のことを知りたいと思って、受けたのは銀行でした。あとはビールが好きなので、ビール会社も一応(笑)。最終的には銀行に入ることに決めたのですが、7年も勤めると大体の業界でどんな仕事をしているのかはわかるようになりましたし、素敵な同僚・お客さんにも恵まれました。

― 満足されていた前職を、なぜ離れようと思ったのですか。

森本:僕は奈良県の明日香村という地域の出身で、就職した時から「将来は奈良で何かやりたいな」と思っていました。この想いが前職を離れようと考えた、最初のきっかけです。

明日香村は観光業が盛んで、古代文化を目当てに往来する人の数がとても多い地域です。最近では実家の畑の裏にある古墳が、調査によって「天皇のお墓じゃないか?」と明らかになり、畑が全部国有地になったという出来事もありました(笑)。それだけインパクトのある村だと、何か仕掛けなきゃいけないというほど追い込まれていない。この地域で一から何かやるのは時間がかかるし、ハードルも高いと感じたんです。

森本さんの実家の畑

「まずは他の地域で経験を積もう」と思ってからは、いろんな地域を探しはじめました。その中で偶然参加したのが「地域仕掛け人市」(都市部の若手人材をターゲットに地域とのマッチングを行うイベント/ 主催:NPO法人ETIC.)というイベント。ここでエーゼロの牧さんと出会ったのが、西粟倉を知り、西粟倉に決めたきっかけでした。

― さまざまな地域を探す中で、「こんな地域で経験を積みたい」といったイメージはあったんでしょうか。

森本:しっかり仕事を作って地域おこしをするという、至極当たり前のことを実践しているところです。その結果、人が多く集まってきているところ。とりあえずゆるキャラ作ろう、といったその場しのぎではない地域をイメージしていました。さすがに今そんな地域はないかもしれませんが(笑)。

地域仕掛け人市でよく話を聞いてみると、西粟倉は林業という一本の大きな軸を据え、ストーリーテリングまでしっかりできている。さらには仕事もあり、移住者も多くきている。

まさに「求めていたのはこれだ!」って思いましたね。すっかり西粟倉に心を惹かれていると、牧さんから「そういえば、土建屋のにいちゃんが人を募集してるよ」と言われたんです。その後求人募集のページも読みましたが、最後は自分の勘を頼って勢いで応募しました。人生出たとこ勝負だなって思って(笑)。

― 自分を信じて、ゆかりのない地域、未経験の職業に飛び込まれた決断に心から尊敬します。

森本:もちろん地元の土建屋さんまで立ち上がろうとしていることに、西粟倉の取り組みの凄さをひしひしと感じました。かといって、「とりあえず求人書きました」という印象も受けなかったんです。代表小松の「地元企業がチャレンジすることで、移住者との垣根を越えられるんだ」という想いに共感したことが最後の決め手になりました。

元々田舎に住んでたのもあって、田舎の人間関係はそんなに綺麗なものじゃないと知っていたことも、前向きに決断できた理由かもしれません。よくあるような、「そこに行けば違う自分に変われるんじゃないか」という変な期待はなかったので(笑)。

 

地域のためでなく、自分の成長のために

― 2016年4月から小松組で、地域おこし協力隊として研修をすることになった森本さん。ちょうどその頃社長の小松さんは、小松組における公共工事7割・個人のお客様3割という仕事の比率を逆転させていこうと、新規事業である「困りごと解決事業」を立ち上げます。

森本:僕が見た求人も、「新規事業を一緒に頑張ってくれる仲間募集」というものだったんです。高齢者の方のちょっとしたままならないことも解決できるような土建屋さんになるために、入社当時から代表の小松と新規事業の立ち上げに取り組んで来ました。2018年の7月に災害があってからは公共工事の現場仕事も多くなりましたが、今でもメインは困りごと解決事業の担当をしています。

左は有限会社小松組 代表取締役 小松隆人さん

― 困りごとというと、具体的にはどんなご要望が多いのでしょうか。

森本:基本的には、身の回りで困っていることすべてです(笑)。トイレの詰まりや、寒い時には水道管の凍結の対応からはじめたりします。他には、家の基礎工事、庭の手入れ、畑仕事、草刈り、雪かきに雪下ろし・・と相談内容は多岐に渡ります。

 

― 下の写真は、困りごと解決の現場に同席させていただいた時のもの。写真のおばあさんから、住んでいる敷地の草刈りを依頼を受けたそう。

「小松組に仕事をお願いしたらね、たまたま森本さんが来てくれたんです。うちの敷地は広いんですが、田んぼから水路のへりまで、ようそこまでやるなあというくらいきれいに、きれいに草を刈ってくれたんです。さらに、地面に散らかった草の掃除までていねいに、ていねいにやってくれました。」

「まあていねいに、きれいにする人だと感心しましたね。この前小松組の奥さんにも、『森本さんっていう人、本当によう仕事する人ですね』って話していたんですよ。次も森本さんに仕事をお願いしようと思っています。」

森本さんが、3年間じっくり積み上げてきた仕事ぶりが伺えた瞬間でした。

― 新規事業に取り組み続ける中で、感じ取ることのできた変化はありましたか。

森本:村という小さなコミュニティで個人の方を相手にするので、幅広い業種や年代の人と接することができるのは前職からの大きな変化かもしれません。さまざまな方とお話する中で、村の情報がたくさん自分のもとに集まってくるようになりました。「今日は良い天気ですね」だけじゃなくて、一つ新しい情報をもとにお話するだけで可愛がってもらえるんです(笑)。

周囲でも「小松組はそういうことやってるんだね」って思ってくれる人は増えてきたかな。少しずつですが、村の中での認知度が広がってきた実感はあります。仲良しのお客さんはありがたいことに、何かあったら声をかけてくださるようになりました。

― 3年という短い月日の中で、地域の人からも信頼を集めていらっしゃることが凄いと思います。何か特別に、意識していたことはあったのでしょうか。

森本:協力隊の立場で地域に関わっていましたが、「地域のため」に仕事をしないようにしていました。矛盾している発言かもしれませんが(笑)。でも地域のために、とキレイゴトを言っても結局続かなくなるのがオチだと思うんです。僕は「自分の成長のため」にさまざまな仕事に取り組んでますし、今やっていることが将来的には絶対にプラスになるぞと思っています。それが結果的に、周りの人や地域のためになってたらいいかな、と。

協力隊の任期が終わってそのあとも西粟倉に残っている人たちがいますが、自分がやりたいことを、自分のためにやっている人が多い気がします。西粟倉のために残っている、という人はいないんじゃないでしょうか。

 

西粟倉と奈良県、二拠点の活動を目指して

― 2019年の3月末で協力隊の任期が終わり、4月からも引き続き小松組の一員として働く森本さん。困りごと解決事業をメインに仕事を続ける中で、新しいチャレンジにも取り組んでいこうとしています。

森本:3年間西粟倉で活動してる中で、地方部、特に過疎地ではバックオフィスが弱いことに気づけたのは大きな成果でした。西粟倉の協力隊は個人事業主にあたるのですが、確定申告の時期に苦戦する人が多いんです(笑)。元銀行マンで財務のことをわかるというのが、地域では強みになるかもしれない。 そこで決算書の見方や確定申告の方法などの勉強会を開催したところ、少しですが手応えを感じました。それを機に最近ではご縁もあって、遠方の自治体の協力隊の方に対してもオンラインで同様の勉強会を行ったりもしています。

他にも、土木の解体工事は村内企業で組合を作って取り組んでいるのですが、決算関係は全部僕がやらせていただいているんです。財務の知識は持っていればアップデートさえしていけば、すぐに活かすことができる場がいっぱいあると気づくことができました。

そう考えると困っている地域は、西粟倉だけに留まらない。3年間西粟倉で経験をしたからこそ、今後は西粟倉に軸足は置きつつも、地元の奈良でもチャレンジを増やしていければいいですね。

― 小松組では森本さんとともに、困りごと解決事業に取り組む人を採用するとお聞きしています。

森本:小松組では、僕は4月からも困りごと解決事業をメインに担当していきます。3年間やり続けてきた中で、事業について知っている人は増えてきた反面、数値化できるような成果は残せなかったんです。これからは困りごと解決事業でしっかりマネタイズできるよう、事業化を目指していくフェーズにあると思っています。

西粟倉の中での仕事はやりつつも、近隣の市町村まで拡大していくのが良いのかもしれないし、はたまた違うやり方があるのかもしれません。これからの動き方を、ともに模索してくれる仲間が来てくれたら嬉しいです。とりわけこれから概ね2年程度は、災害復興のための公共工事の仕事が多くある状況。将来を見据えてこの2年の間に、個人のお客様からお仕事をいただける基盤をどこまで作れるかは、やりがいのあるチャレンジだと思います。

小松組 2019年春 採用特設ページ

― 新しく来てくれる人に、求めることはあったりしますでしょうか。

森本:困りごと解決事業はこれから答えを見つけていこうとするタイミングなので、「こんなこと思うんですけど、どうですか?」って壁打ちしながら進めていける人だと一緒にやっていて楽しいかな。もちろんマネタイズを目指すという意味では、「ガツガツ稼ぎたいです」という子も面白いかも(笑)。ただ、こういう人にきて欲しいという明確なものはないんです。少しでも興味のある人には来てほしいなと思っています。

西粟倉には入り方の選択肢がたくさんある地域。「こうしなければならない」とかは、役場含めほとんどありません。いろんな人が積極的に助けもしないし、押し付けもしない。自由な風土があるんだと思うんです。何かやりたいんだという意志がある人は、自分から動くことができればどこまでもいけるし、のびのび暮らしたい人は窮屈さを感じないで生活していける。あくまで僕はサポート役として、その人らしい暮らしを応援したいですね。

― 目の前の仕事には真摯に取り組みながらも、原動力は自分の成長にあったという森本さん。キレイごとではなく等身大の自分でいるからこそ長続きする。結果として、周りの人や地域の人のためになる。「地域のために」と肩肘を張らないことが、地域で活動するときに大切な心得なのかもしれません。

「あまりイケてない先輩にはなりたくないんですよね」と最後に笑顔で語ってくれました。部下となる人を持つのは初めてなんですと言いながらも、新しい人が来ることを楽しみにしている様子。まずは森本さんと話してみたいな、という動機からでいいと思います。ぜひ小松組をたずねてみてください。

有限会社小松組 ホームページ
http://komatsugumi.jp/

有限会社小松組 2019年春 採用特設ページ
http://komatsugumi.jp/saiyo/2019saiyo/

メールマガジン

いきるが、ひろがる。Through Me Magazine をお届けします。