岡山県

西粟倉

にしあわくら

「村のお母さんたちが背中を押してくれた」2児の母親であり、にしあわくらモンテッソーリ子どもの家を営む岡野真由子さんの、起業ストーリー。

ローカルベンチャーとは、大きな企業を目指して地域で起業することだけを指すのではありません。自分らしい視点で、自分らしいビジネスを地域で起こすことこそが、ローカルベンチャーなのです。2017年に西粟倉村へ移住し、「西粟倉ローカルベンチャースクール」に参加して、翌年、子どものための教室「にしあわくらモンテッソーリ子どもの家」を立ち上げた岡野真由子さんもその一人。2児の母でありながら、ビジネスも思いきり楽しんでいます。岡野さんの起業ストーリーをお聞きしました。

 

「自ら選び、やりとげる」幼児教育を

— 整理整頓されていて、子どもの興味を引きそうなものがたくさん置いてありますね。

岡野:子どもって全部見ていて、細かいことが気になるんですね。自宅の一部で行っているので、教室をするときは日常の生活感を消して「ここにあるものには全部触っていいですよ」という環境になるよう切り替えています。

にしあわくらモンテッソーリ子どもの家にある様々な教具

— 「にしあわくらモンテッソーリ子どもの家」は、2018年4月からスタートしたんですよね。現在何名くらいの子どもたちが通っているんですか?

岡野:今、2歳半から6歳の計13人が、基本的に週に1回通っています。村内の子どもが中心ですが、鳥取県や兵庫県から通っている子もいますよ。少ない人数に感じられるかもしれませんが、これでも村の幼稚園生の4人に1人以上が通ってくださっているんです。

— 教室ではどんなことを行うんですか?

岡野:子ども達が教室で過ごす2時間のうち、最初の約1時間半は個人選択の時間としています。日常生活・感覚教育・算数・言語・アートや文化の棚から、心に一番響くものを子ども達が自分で選び、好きなだけ繰り返します。私は、一人ひとりの様子を注意深く観察しながら、子どもの自立度を高めたり、発展的な内容に導いていくお手伝いをします。毎回の教室日の最後には、コミュニティの時間として車座になり、みんなで英語絵本の読み聞かせや歌・踊りなども楽しみます。

自分で選んだ活動だから、子ども達の背中はいつも真剣そのもの

— 自主性こそが、ここの特徴なのでしょうか。

岡野:はい。イタリア初の女性医師として知られるマリア・モンテッソーリによって考案されたモンテッソーリ教育を軸に、「自ら選び、やりとげること」を大切にしています。0歳から6歳までの乳幼児期は、人の一生のうちで最も大切な、土台づくりの期間にあたります。この時期に自発的な育ちを尊重された子どもは、大人になってからも、その子らしい生き方を実現していくことができる、という考え方で子どもたちに接しています。

 

子どもに直接教え、伸ばす喜びを実感

— 岡野さんが子どもの教育に興味をもったのは、いつ頃ですか?

岡野:最初に考えたきっかけは、中学3年生のときに阪神淡路大震災を経験したことです。私の祖父母の家が全壊になったり、クラスメイトが一人亡くなったり、両親が亡くなったような生徒もいたり……、そういうことが身近でありました。

そんななか、震災があった翌々日に突然、前にテレビで見た海外の映像がパッと思い浮かんだんです。「こんなに豊かな国で、大地震によって大人が右往左往してめちゃくちゃになっている。貧しい国や、内戦があるような状況の子どもたちはどうしているんだろう……」って、ふと思ったんですよね。それが強く印象に残っていて、高校1年生のときユニセフで働く人のお話を聞いたことで「将来は国連で働こう!」と考えました。

大学卒業後は、まず経験を積むため、国内の教育関連の企業で教材をつくる編集者の仕事をしました。何万人という全国の子どもたちを対象にした大きなお仕事でしたが、あるとき「私は一度も子どもに教えたことがない。現場をやろう」と思ったんですね。英会話学校に転職して、英語を教える仕事を始めました。

— 震災の体験から国連、教育教材、そして教育現場へと興味が。

岡野:その英会話学校のレッスンでは、教師が一度に最大で8名の子どもをグループで教えていました。何万人から、目の前の8名の子どもたちに対象が変わって、直接教えられる喜びが大きくて、本当に楽しかったんですね。みるみる子どもたちが変わっていくのもおもしろくて!

その後、全員が同じ教材ではなく、その子にとってやれるところから始められ、伸ばしていけるKUMON(日本公文教育研究会)に転職しました。KUMONは「可能性の追求」を理念に掲げているので、年齢にとらわれずいくらでも子どもを伸ばしていいんですね。これがまたもう、本当におもしろかったんです。

 

アメリカでモンテッソーリ教育を学ぶ

— とても楽しそうに話してくださるので、当時の様子が伝わってきます(笑)。でもその後、渡米されますね。

岡野:夫の海外赴任が決まったんです。仕事が楽しかったので迷ったんですけど、一緒に行くことになり、「アメリカに行くんだったら、何かの勉強か仕事がしたいな」と思って調べたら、モンテッソーリ教育の教師をトレーニングする施設があると分かったんですね。私は乳幼児についてちゃんと勉強したことがなかったから、「いいかもしれない」と思ったんです。

アメリカのオハイオ州シンシナティ郊外に移住して、教員養成校に行ってみました。そこにはまさにモンテッソーリ教育の環境が用意されていて、それを見てびっくりしたんです。例えば、一般的な保育園や幼稚園には置かれていないような、ガラスの水差しがあって子どもが水を注げるようになっていたり、子どもが床を汚したら自分で拭けるようになっていたり……、「小さな子どもにはできない」と一般的に考えられているようなことが、すべてできるように整えられていました。

普通はガラスのものなんて子どもは持たせてもらえません。でも、子どもは持ちたいんですよね。当時は既に長女を育てていて、子どもが「本物のものを触りたい」という欲求を強く持っているのを知っていたので、「この環境はきっといいはずだ!」と思いました。

米国時代の教室に通う年長の子ども達。みんな木登りはおてのもの

— そこに2年通って、米国モンテッソーリ協会認定のモンテッソーリ教員資格を取ったんですね。

岡野:はい、1年は座学で学び、もう1年はある園に毎日通って教員実習をするプログラムでした。その実習をさせていただいた学校がすばらしく、私の人生が変わりました。雨や雪でもちゃんと用意をして毎日森で2時間遊んだり、2歳の子でも自分でご飯をよそって陶器で食べたり。スパゲッティだと、こぼしてテーブルや床がすごいことになるんですけど(笑)、こぼしたものも自分でちゃんと掃除させるからこそ、上手に食べられるようになるんです。

あとは、芸術をすごく大事にしている学校でした。教師みんなが、俳優やダンサー、ミュージシャンなど、アーティストでもあるんです。大人も子どもも多様で、理屈抜きに輝いていて、衝撃的でした。「これが本当に豊かな教育かもしれない。人の命とはこんなにも輝くものか」と。

年長児の卒業式にて。米国でも珍しいくらいの多様性を有する教師と子ども達

その後、私が第2子を妊娠中、予定日の一ヶ月前に出血し、体内の90%の血液を失ってしまって、死にかけたことがありました。夫は、私がもう助からないと言い渡されていたそうです。母子ともに無事だったのですが、夫にはその経験がとても大きかったようで「命には限りがある。自分の思うような生き方をしなければいけない」と転職を考え始めました。その後、私費留学などを経て、夫は西粟倉村へ移住して就職することになったんです。みんなで帰国し、西粟倉村へやってきました。

 

西粟倉村のお母さんたちに背中を押されて

— 西粟倉へ、初めていらしたのはいつですか?

岡野:2017年7月22日です。アメリカから直接この村に来たんです。みなさんがすごく親切にしてくださって、野菜もくださったりして、心がほどけましたね。「こういう距離感で人と交われるところが、日本にもまだあったんだ」と感激しました。

モンテッソーリ教育を西粟倉村でやろうなんて、はじめは考えていなかったんですけど、下の子が当時1歳でしたので、そういう環境に我が子を通わせたいとは思っていました。でも、いくら検索しても見つからない。だから、どこかで「ないなら私がやるしかないな」っていう気持ちはあったんです。背中を押してくれたのは、この村のお母さんたちでした。みなさんがモンテッソーリ教育をよく知っていて、「やってください」っておっしゃったんですね。

その頃、たまたま聞いたのが「ローカルベンチャースクール」の存在でした。同じく移住者で、ご自身も起業家である方から「どうせやるんだったら、応募したほうがいろんな人の意見も聞けるし、応援者も増えるだろうから」と言われ、参加することにしたんです。

西粟倉ローカルベンチャースクール2017での様子

— スクールでは、どのようなプランを発表されたんですか?

岡野:私のプランは、「基本的には自宅で、自分の子どものためにやって、そこにお裾分けとして地域の方にも来ていただく」というものでした。土地が必要とか、初期費用が何百万円も要るといったプランではなく、あるもので始められる内容です。教具だけは買いましたけれど。

「ローカルベンチャースクール」のスタンスとして、実際にその人がやれるか・やれないかよりも、その人が本当は何をしたいのかを探って、情熱があるかどうかを軸に審査しているところに感動しました。モンテッソーリ教育もその子が本当にやりたいことを選んで切り拓く教育哲学なので、「ローカルベンチャースクール」がやろうとしていることも同じだ、と。

とてもいい機会をいただきましたし、そのおかげで村内のみなさんに私の活動を知っていただくことになったので、参加して本当に良かったです。

 

これからも“自分のお役目”をするだけ

— いろいろなお仕事を経て事業を始められて、今どう感じていますか。

岡野:今まで約10年、いろいろな立場でたくさんの子どもを相手にしてきましたけれど、根源的に子どもを変えられるインパクトを感じたのは、実は今回が初めてです。この村は、子どもが他に習い事をすることがむずかしい地域なんですね。だからこそその影響の度合いが大きく、「この子が変わった!」「あ、今この子は人生が変わるような大きな経験をしたな」と思える瞬間に、何度も遭遇しています。

保護者の方に「お子さんがこういう風に変わった」とお伝えすると、家族全員で喜んでくださるところもうれしいです。「子どもが良い状態になって満たされて帰って来る」と喜んでいただき、その価値をちゃんと分かってくださる。それがとてもありがたく、喜びが大きいですね。

地域のお母さん(左)が作った教室のロゴ(右は岡野さんの娘のひまわりさん)

今、この「子どもの家」をしているのは、ごく自然な流れでできたことです。いついかなる時も自らの情熱に従い、誠実に努力を積み重ねれば、必ずや自分だけのお役目が与えられる、必要なところに置いてもらえる気がしています。これからもこのお役目を精一杯、西粟倉村でさせていただこうと思っています。

にしあわくらモンテッソーリ子どもの家

住所

707-0504 岡山県英田郡西粟倉村大字長尾1571-2

 

教室実施日

月曜16時-18時クラス
水曜16時-18時クラス
土曜9時-11時クラス
土曜13時-15時クラス

ホームページ

https://www.nishiawakuramontessori.org/
https://www.facebook.com/nishiawakuramontessori/

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